2016年7月、” 和のおもてなし ” を体感することができる、こだわりの「日本旅館」が東京に誕生します。世界中のお客様を温かく迎え入れるのは、星野リゾートが新たに手がける「星のや東京」。徹底的に「和」にこだわった、サービスと佇まい。オープン前からすでに大きな注目を集めている、同社の「新たな試み」です。
東京駅・大手町駅からも程近いオフィス街という立地。しかし、ひとたび足を踏み入れると” 旅館 “ 特有の、あの懐かしく心地よいくつろぎの空間を楽しめるのだそうです。
今回は、現在開業に向け準備をすすめている名取 菜穂(なとり なほ)さんにお話を伺ってきました。「星のや東京」のお話はもちろん、 “ もてなす “ というホテルの仕事そのものにかける名取さんの思いをじっくりと伺ったインタビューです。
「星のや東京」準備室
”「日本旅館」に泊まるというのは、宿の提案する、その土地、そのときどきの風土や、季節を楽しむために宿を訪ねるという宿泊スタイル ” 。 そんな体験と最高の「おもてなし」を提供するため、名取さんは開業に向け「星のや東京」にふさわしいサービスやオペレーションの設計をされています。
「入社してすぐに、『星のや東京』の開業準備室に配属になりました。フロントまわりのオペレーション設計など、基本的な環境準備を担当しています。具体的には、どのようにお客様にチェックインをしてもらうか、スムーズにご案内することができるか、ということを我々スタッフの裏側の動きも含めて、必要なものを洗い出しながら、設計しているという感じですね」
旅館の「顔」となるフロント。重要で責任ある任務を任されている名取さんですが、株式会社星野リゾートに入社されたのは、なんと2016 年 3 月のこと。
「まだ、入社して 1 ヶ月ちょっとの新人なんですが、いろいろと任せてもらえるので非常に楽しいですね。同僚たちには、よく『ドーンと構えてるね』なんて言われるんですが (笑) 自分自身、実はパニックになっているときもたくさんあるんですよ」
そう笑う名取さんですが、実に堂々とした印象にこちらも安心感を覚えます。そんな彼女の「適応力」と「度胸」を鍛えたのは、これまでの数々の体験・経験なのかもしれません。
東京からスイス、そしてドバイへ
- 宿泊するお客様対応の「設計」となると、専門知識や知見がかなり必要になるお仕事なのではないかと思うんですが、すでにたくさんのご経験があるんですか?
「大学卒業後 4 年間の社会人生活を経て、スイスに渡りました。ホテルマネージメントスクールに通うためです。期間は 1 年半で、その後は学校のプログラムを修了する条件にもなっている『実際のホテルでインターン』をドバイで半年間やりました。日本へは去年の 7 月に戻ってきたんです」
ホテル業務について基礎からしっかりと学び、実務ももちろん経験済。帰国後はホテル開発のコンサル業務もやられていたそう。
-就職後にスイスの学校へ入学しようと一念発起されたきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。
「もともとホテルの業務にすごく興味があって、実は中学生のころからの夢でした。大学卒業時もホテルへの就職は検討しましたが、自分のやりたいことやキャリアのことを考えると、スイスのホテルマネジメントスクールでホテル経営を学びたいと思い、その資金稼ぎのために東京の法律事務所で 4 年間働きました。 はじめの1 年間は、弁護士秘書として。残りの3年間は広報に異動して、外国メディアの対応やwebサイトの運営を担当していましたね」
法律関連の知識はまったく持ち合わせていなかったという名取さん。しかし、弁護士を事務的にサポートするという業務にも面白みを見出し、ただの「資金稼ぎ」どころか非常に楽しんで取り組んでいたと言います。また「法律事務所で学んだことは、ホテル業務にもすべて役立っているんですよ」と教えてくれました。今は開業準備の書類仕事にもとても活きているそうです。
そんな4年間を経て、名取さんはスイスへ渡ります。
「行きたい国も学校も決まっていましたが、法律事務所の仕事も含め、安定した生活がそこにあったので留学は勇気も必要でしたね。周りの友人がだんだん結婚しはじめたのものあり、少し焦りもありました(笑) でも、ここで行動しないと後悔するなと思いましたし、母親が『 人生1 度しかないんだし、勇気を持って行きなさい』と応援してくれたことも励みになって決断することができたんです」
かくして、名取さんのスイス生活が始まりました。
心を “ 決めて “ 入学したスクール
「在学中の睡眠時間は、 3 時間とか 4 時間とかでしたね」
と名取さん。そのスイスの学校には、世界中約 90 カ国から生徒が集まっていると言います。
「ホテル業界に特化したビジネススクールなので、座学ではHRやマーケティング・会計・ファイナンスの勉強も行いました。ワインの授業もあるんですよ」
ホテル経営に必要なことはすべてカリキュラムに含まれている同スクールでは、座学・実務ともに学ぶことができます。中でも、特徴的なのは学内に「フレンチレストラン」があること。
「学校に実習用のフレンチレストランがあって、実際のシェフたちが調理の講師でした。生徒が順に調理業務とサービス業務をおこなって。レストランに来るお客様もすべて生徒なんです。客としてランチとディナーに訪れるんですよ。レストラン運営に必要なフードコストからすべて勉強するので、シェフ業も体験して一連の流れをきちんと理解しなければいけないんです」
濃密なカリキュラムの中でテストと課題に追われる日々。それでも、その内容について語ってくれる名取さんの顔は非常にいきいきとしています。
- ずっと憧れていたホテルのお仕事ですが、実際にスクールに入ってみてギャップはなかったですか?
「予想してはいましたが、想像以上に肉体的にハードであったと思います。それでも、ようやく学びはじめることができたわけですし、まわりの友人にすごく恵まれていたこともあって、とても楽しく過ごしていたので『眠い』ということ以外に苦はなかったですね (笑) やりたいことを、もう “ 決めて “ きていたので、すごく充実した生活でした」
基礎から学び実習を経て、「憧れ」だったホテルの仕事を少しずつ自分のものへと変えていった名取さん。「ホテルの仕事は面白い!」、学校生活を終えて身を移したインターン先のドバイでは、さらにその気持ちが強くなったと言います。
ドバイは、どこか東京に似ている
「自分の国に帰国する生徒もいるんですが、私はドバイのホテルを選択しました。英語が共通語として使われているところでトレーニングしたかったということもありますし、これまで中東文化にはあまり触れてきてこなかったので、そこを理解しておきたかったんです。何よりも、将来きっと日本に帰るだろうということは頭の中にあったので、そのときに活かせる体験にしておきたかったということがありますね。ドバイがもっている人の流れの激しさや街の変化の速さは、東京にもすごく似ていると思いますし」
- 学校から実際のホテルに出てみていかがでしたか?
「フロント関係のことは机の上でしか学んでいなかったので、想定してなかったことはたくさんありましたね。フロントはホテルの顔。思わぬ事態が発生し、ワタワタしてしまったことは何度もあります。シフトに入った途端に、お客様の怒り爆発を受けてしまう一幕もありました。ホテル側のミスで、長い時間待たせてしまっていた日本人のお客様で、日本語が話せる私にぶつけてこられたんですね。当然こちらのミスなのでお詫びはもちろん、お部屋にお詫びのお手紙とちょっとした贈り物をさせていただいたり、とにかく必死で対応して。すると、お帰りになったあとのアンケートでは『最初は嫌な思いをしたけれど、気にかけてもらえてすごくうれしかった』と書かれていて、勉強になりましたし、リカバリーができたことが本当に嬉しかったですね」
実際の現場でおこなうお客様対応やトラブル対応。ドバイでの日々のフロント業務は、現在のフロント設計にもやはり非常に活きているのだそうです。
「経験としては、 6 ヶ月とすごく短いので、星野リゾートに入社するときは役に立てるのかと多少不安だったのですが、今回の『星のや東京』はリゾート地ではなく、はじめての『都市の旅館』。この部分では、私のドバイ(=都市)でのインターン経験もチームの知見として活かすことができると思っています。振り返ると、あの 6 ヶ月間はとても勉強になりましたし、本当に行って良かったですね」
東京の法律事務所、スイスのスクール、ドバイのホテル。「すべての経験が今に繋がっていて、すべてがとても役に立っているんです」と名取さんは言い切ります。その考え方には、大きな目標に向かい、あらゆる体験を後々活きる「糧」へと変えていくパワフルさが表れていました。
そして半年間のインターン勤務を経て、日本へと帰国した名取さん。「一時帰国」のつもりが、星野リゾートに「入社」してしまったという経緯には、ある新たな「発見」があったのでした。
「ホテルの仕事がしたい」- 夢に向かい、勉強と経験を着実に重ねてきた名取さん。後編では、そんな名取さんの「ホテルで働く」という夢の起点と、「星野リゾート」を選択した理由ともなる「和のおもてなし」への思いに迫ります。
後編▶日本の魅力に気づき「星野リゾート」へ。入社1ヶ月の新人が語る「働きやすく、燃えやすい職場」の理由とは