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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

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衝動的に絵を描き、太宰の小説を書き写した日々…社会との接点を模索し見つけた「理想の仕事」とは

インフォグラフィックス・エディター櫻田潤のルーツに迫る

株式会社ニューズピックス

2017/08/10

ソーシャル機能を兼ね備えた、経済ニュースプラットフォーム「NewsPicks」の編集部でインフォグラフィックス・エディターとして働く櫻田 潤(さくらだ じゅん)さんにお話を伺っています。

前編では、櫻田さんがインフォグラフィックス*という概念に出会い、発信し、現在のインフォグラフィックス・エディターという働き方を見出すまでの経緯をご紹介しました。

▶︎前編:インフォグラフィックス・エディター櫻田 潤に訊く、スキルと経験を組み合わせて「新たな職種を作る」という選択

後編では、櫻田さんが持つ独自の観点、そしてアーティスト気質な一面に注目し、よりパーソナルな部分を伺っていきます。

*インフォグラフィックス:情報やデータ、知識を視覚的に表現する手法のこと。普段何気なく目にする、電車の路線図や「男子トイレ/女子トイレ」を示す絵文字(ピクトグラム)などもそのひとつ。

問題意識や内面をビジュアルに落とし込むというルーツ

前編では、「興味を持ったものがあるとすぐにドメインを取って発信をし始めてしまう」という、櫻田さんならではのエピソードが飛び出しました。聞けば、「発信する」という軸はプライベートにも通じるものだと言います。

−『VISUAL THINKING』の運営以外に続けていることがあれば教えてください。

「ライフワークとして、絵を描いてPinterest(好きな写真や画像をコレクションできるSNSサービス)にアップしています」

プライベート作品を紹介する櫻田さん

−本格的ですね! 絵は習われていたんですか?

「独学です。熱量のあるときにパッと始めたいので、なんでも習わずにやるのが好きなんです。

こういった絵を初めて描いたのは2002年くらいなのですが、そのときは前年にアメリカの同時多発テロがあって、自分の中でもやもやして14枚の連作を描いたんですよね。その後も衝動があるといろいろ描いていたのですが仕事にはならないので(笑)、趣味としてやっています。今もライブに行って影響を受けると、わーっと描いたりしますね」

−仕事に生かす意図で描いているわけではないのですね。

「小さい頃から画家に興味があったのですが、仕事に生かしたいというよりは、こういうことを一生やり続けたいなという感覚です。漫画家にもなりたくて、好きな漫画やアニメがあると、その続きのストーリーを考えたりしていました。ほかにも、高校から大学にかけては小説家がいいなと思って、芥川や太宰の小説を書き写していたことも」

−独創的ですね!

「でもやはり仕事に通じる部分もありますね。たとえば芥川龍之介の文章は、短くて装飾がなくスマートなんですが、そういう作風には仕事上も影響を受けていると思います。インフォグラフィックスでも、余分なものを取り除いて、いかに端的にわかりやすく伝えるかが重要なので。

それから、スマートフォンに最適化した縦型のインフォグラフィックは、従来のインフォグラフィックよりも文字が多めなのですが、そのバランス感は漫画を意識しています」

−なるほど。今はスマホ上では縦スクロールで読める漫画が多いですよね。ところで、櫻田さんの興味の対象は幅広いのですが、それらに共通点はあるのでしょうか?

「考えや思想をビジュアルに落とし込みたいという部分ですね。たとえば、音楽も大好きなのですが、表現の方法として選ぼうとは思わないんです。やっぱり視覚的なものがいいなと。

あとは変化を好む傾向にあります。ビートルズやレディオヘッドも、どんどん作風が変わっていくじゃないですか。クリエイティブなものというのは、その時々の感じ方や発想次第で、作風がどんどん変わっていくものだと思っているんです。

インフォグラフィックスを作るときも、まずはストーリーを考えるのですが、そのときに聴いていた音楽によってアウトプットが変わったりするんですよ」

−Pinterestを拝見しても、櫻田さんの絵がどんどん変化していってるのがわかります。

Pinterestに公開されている櫻田さんのアート作品

「以前は、ものは作りたくないという思いがあったのですが、今はアナログブームがきています。絵画もそうですが、近い将来、ある程度のことは人工知能が解決してしまうと思っていて、この先どこで機械に勝てるだろうと考えたときに、やっぱりオリジナリティだなと思っていますね。」

創作と社会の接点を探して

−ところで、櫻田さんはアーティストとしての感性をもちながらも、「好きなことを仕事とどう結びつけるか」という意識を強くお持ちですよね。

「そうですね。どうしてか、社会性というのがコアにあって。幼少期に大好きだった手塚治虫の作品が社会や宇宙と関わるストーリーだったので、それに影響を受けたのかもしれません。火の鳥なんか、まさにそうですよね。そういう意味では、アンディ・ウォーホルには憧れます。アーティストでありながら、商業的にも成功を収めているので。ビートルズも、世界中で聴かれているというところに魅力を感じますね」

−今の仕事は、好きなことが仕事に結びついた例だと思いますが、ご自身にとって “ベストな仕事” でしょうか。

「ベストな仕事の定義は、『組織の価値と自己実現がイコール』だと考えているのですが、今は実現できていると思います。組織にとっても良いし、自分にとっても良いことなので、どんな仕事でもその状態を作るべきだと。以前同僚に、『良いサッカーチームとは、チームの目的と選手の目的が一致しているチームだ』と聞いたのですが、まさに同じことだと思いました」

−逆に社会との接点を持つことで、個人的なアウトプットは減ったりしていませんか。

「逆に表現が増えましたね。よりパーソナルなテーマで創作ができるようになりましたし、まだ試作段階でビジネスにまで落とし込めないものを、個人的にやってみたりしています」

軸を持ちながら変わっていく幅を持つ

−職種を転々としていたときも含めて、仕事をする上で譲れない要素というのはありますか?

「2つのテーマがあって、ひとつは『ビジュアルで解決する』ということ。もうひとつは『考える』ということですね。今思えばマーケティングをやっていたころは『ビジュアル』という要素がなかったですし、デザインを受託すると企画から入って『考える』ケースがほとんどなかったために、それぞれがしっくりこなかったのかもしれません。

あとは、やりたいことしかやらないということ。私は飲み会が嫌いなので、大学の新歓などに誘われても絶対行かないようにしていました(笑)。徹底的に、自分のやりたいことだけをやれる環境を作るのが修行だと思っていて」

−自分をしっかりと持っているんですね。

「自分の意見はかなり大事にしています。たとえば映画のレビューなども、自分が鑑賞するまでは絶対に読みません。NewsPicksも、本文を読むまでコメントは絶対に読まないんですよ。自分の意見が第一。映画に関しては、予告編も見たくないですね」

−見たい映画はどうやって選ぶんですか?

「そこなんですよね…(笑)。監督を決めて見たりとか、あとは予告編も、映画館で見る予告編は自分の中ではセーフということにしています。合意の上で見ているということで」

−こだわりがあるんですね!

「でも、相手の意見は聞きますよ。最初の意見は持っておきたいというだけで。あくまで思考のスタート地点を大事にしているんです」

−なるほど。他にも「櫻田さんルール」があれば伺いたいです。

「時によって、自分の中でいろいろなブームが起こります。今までで一番激しかったのは絵を描いていた時期の『朝活ブーム』で、4時起きして1時間絵描いて1時間ブログ書いて…という生活をしていました。インプットもすごく増えて良かったのですが、やはり夜に打ち合わせが入ったりすると崩れてしまって、1年ほどでやめました。

最近も朝型を意識していて、午前中から出社しています。というのも、昨年末は世の中的にも働き方改革が話題に上がることが多かったですよね。それに影響を受けて、自分も朝型になって生産性を上げよう…! という気持ちになったんです」

−結果はどうでしたか?

「実際、かなり上がりました。同じ作業量を、2時間くらい短縮できるように感じます。

と言っても、集中力が高まっているということなので、短縮できた2時間にほかの仕事ができるわけではなくて。その時間はそれこそ映画館に行ったり、自分のことをしたり、インプットの時間に当てられるようになりました」

−習慣をフレキシブルに変えていく柔軟性があるんですね。

「ブームは変わっていくんですよ。会社でも、フリーアドレス制が導入されるとき、はじめはすごくいやで大反対していたのですが、その後なぜか『やっぱりいいかもな』とすんなり受け入れられたので(笑)」

今後の櫻田潤

−変化を好まれる櫻田さんなのですが、数年後も「インフォグラフィックス・エディター」として働かれているイメージはありますか?

「すでに変えたいです(笑)」

−すでに!(笑)

「NewsPicksに入社し、インフォグラフィックス・エディターという職種を作った、その『新しい職種を作る』という行為がこれまでの『ドメインを取る』という行為に似ているんです。入社から2年ほどが経ちましたし、タイミングとしてはそろそろ次の段階へ行く頃かなと。

というのも、この2年間いろいろな取材を受けてきましたが、『インフォグラフィックスが目新しかった時期が終わった今、自分は “新しいもの” を提供できているのだろうか』と疑問がでてきているんです。見ている人も、『櫻田がこういうのを作ったらこういう感じになるだろう』って予測できてしまうと思うんですよね」

−どんどん次のフェーズに行くべきだと。まさにパイオニアですね。さきほど、インフォグラフィックスを作るときは漫画を参考にしているとおっしゃっていましたが、次はもしかして…?

「漫画はやりたいですね(笑)。元々実写映画を作ることに興味があったのですが、かなり大掛かりなので難しいなあと思って。そういう意味でも漫画は紙とペンでできますから。それから漫画の表現方法についていえば、現在作っているインフォグラフィックは海外のものに比べ文字情報が多いんです。絵と文字の組み合わせのほうが日本人に伝わりやすいという面は、漫画を読み慣れているところからきているかもしれませんね」

−NewsPicksの米国進出に合わせて、クールジャパンということでウケそうですが! 漫画を描いたことはあるのですか?

「ないですが、描けそうな気がします(笑)」

−心強い!(笑)

お仕事やライフワークについて生き生きとお話される櫻田さん。自然体で受け答えされる中にもユーモアがあり、和やかな笑いが起きるシーンが幾度となくありました。また、印象的だったのは、物腰の柔らかさと対照的にご自身の確固たるこだわりがある点。しっかりと「自分」という根をおろしながらも、時代や環境にしなやかに順応していく様は、さながら葦のようだと思いました。

次にお会いするときには、漫画家・櫻田潤さんとしてお会いすることになるかも…?そんなことを考え、わくわくする気持ちになりました。

Interviewee Profiles

櫻田 潤
NewsPicks編集部 インフォグラフィックス・エディター
大学卒業後、プログラマ、システムエンジニア、Webデザイナーを経て2010年よりVisual Thinkingを運営。数多くのピクトグラム、図解、インフォグラフィックを制作。2013年5月『たのしいインフォグラフィック入門』(BNN新社)出版。2014年12月NewsPicks編集部にインフォグラフィックス・エディターとして加入し、スマートフォンに最適化したインフォグラフィックの編集・デザインとデザイン関連の記事執筆をおこなう。著書に、『シンプル・ビジュアル・プレゼンテーション』や『たのしいインフォグラフィック入門』など。

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