『JINS SCREEN』や『Air frame』といったヒット商品を次々と生み出す『JINS』。そこで新商品の開発をおこなう、株式会社ジェイアイエヌの塩谷俊介(しおや しゅんすけ)さんにお話を伺っています。
JINS では、頭の中にあるアイディアをどんどん形にできる土壌があるーー前編では生き生きとした笑顔を見せてそう語った塩谷さん。「自分らしく働ける環境」についても、伺っていきます。
▶前編:メガネはまだ枯れていない。R&D 室マネージャーが挑戦する「世の中にないものを創る」仕事とは?
JINS社員が持つのは “攻めるDNA”
ーJINS で働く方々は、どのようなタイプの方が多いのでしょう。
「社員の人物像は本当に多様です。ですが、やはりポジティブな人が多いですね。『攻めていく』というDNAが社内全体にあり、社長の田中をはじめ社員全員がその意識を持っています。
それから、JINS には、変化を恐れず挑戦する『Progressive』、人々を巻き込み良い刺激を与える『Inspiring』、妥協せず誠実であれという『Honest』という 3 つのポリシーがあります。JINS の考え方に共感して新しいことにチャレンジしたいという気概の人が入社してくるので、同業界からの転職者は意外と少ないのです」
JINS のブランドビジョン『Magnify Life』(人々の人生を拡大し豊かにする)を支えているのが、この3つの考え方。この意識が、常にチャレンジしていくという JINS の志を実現しています。
「もちろんみんな仕事熱心ですが、ワークライフバランスもうまくとっています。残業をできるだけしないようにするという取り組みがあるので、基本的には終業後30分以内に帰りますし。オフもアクティブに過ごす社員もいる一方で、意外と本を読んで家から出ないという社員もいたり、さまざまです(笑)」
ーメガネを仕事にしている方ならではの「職業病」はあるのでしょうか?
「職業病といえるかわかりませんが、電車に乗っていたりすると、メガネをかけている人は見てしまいますね。どんな形のものを使っているかとか、使い方にも個性があるのです。頭の上に乗せていたり胸元にさしたり…。汚れていると、拭きたくなってしまう(笑)。
あとは、日頃から常にアンテナを張っているので、日常生活からさまざまなインスピレーションを得ることも多いです。メガネ屋はもちろん行きますけど、あえて家電量販店などにも立ち寄るようにしています。私自身が『モノ』が好きなのもありますが、どんな新商品が出ているのかチェックしたり、ディスプレイ方法などもつい見てしまいますね」
オフのときも無意識に「新しいモノ」への関心を寄せているという塩谷さん。モノづくりへの愛情があるからこそ、本気でメガネの未来も考えることができます。
メガネの「新しい当たり前」をつくりだす
これまでも革新的な取り組みをおこなってきた JINS ですが、現在目指しているビジョンや課題にはどのようなものがあるのでしょうか。
「JINS MEME に関して言えば、10 年後には JINS MEME をメガネの『新しい当たり前』にすることが目標です。そのためには、世の中にメガネの新常識を意識付けしていかなくてはなりませんし、やはり『新しいメガネ』を創っているわけなので、正確に商品情報を伝える必要性は大きいです。
例えば JINS SCREEN には、遮光度によって3種類のタイプがあるのですが、それぞれの製品特徴や用途の違いをまだまだ伝えきれていない現状もあります。この一番レンズの色が濃いものは、ファッション性において使いづらいというご意見があるのですが、本当は安眠対策用のメガネで他の 2 つとは少々用途が違うのです。ブルーライトというのは、その刺激で睡眠を司るメラトニンというホルモンの分泌を抑制します。逆を言うと、昼間にブルーライトを遮断しすぎると意に反して眠くなってしまう恐れがある。なので、この色の濃いタイプは就寝前に使っていただくことを推奨している商品です。もちろん、店頭に来てくださったお客様に直接ご説明することは可能です。ですが、そうではないお客様に、正確な情報をどう分かりやすく伝えていくかというのが課題ですね」
ライバルは同業他社とは限らない
JINS のミッションは、「世界中、すべての人に、アイウエアで豊かな人生を届ける」というもの。よって、ライバルとして見ているのはメガネ業界にとどまらないと言います。
「競合はどこかというと、普通に考えたら同業他社もありますが、そうではないとも思っています。JINSは世界一のメガネ屋になれるし、それができる会社だと思っていて。今までにないものを作ろうとしているので、具体的な競合はないと感じていますね」
最近は iPhone や PC 自体にブルーライトをカットする機能が搭載されるようになるなど、追い風だったものが向かい風になることも。
「まさに一寸先はわからない。今は新しいと言われている商品も、いつ追われる立場になるかわからないですし、JINS SCREEN が好調だからといってこの分野に固執していても時代の変化にはついていけません。次の挑戦を継続的にしていくということが大切だと思っています」
10 年、20 年という長いスパンの取り組みは、結果がすぐに目に見えてこない点でもチャレンジングですが、不安に駆られることはないのでしょうか。そう聞くと、塩谷さんは「ないです」と即答しました。
「失敗したらすぐに修正すれば良いと思うようにしています。当社の良いところは、失敗は自分への投資という考えが浸透しているところ。もちろん計画は綿密に立てますが、新しい技術への投資もしているのでリスクもあります。しかし、そういうチャレンジングな点は他社にはないところであり、強みだと思います」
会社の頭脳ともいえる R&D 室のマネージャー。そんな肩書きを背負った塩谷さんの思い描く未来のメガネとはどのようなものなのでしょうか。
「メガネの会社で働いていて、こういうことを言うのはどうかとも思うのですが、最近思うのは、もしかしたら将来メガネの形がなくなっているかもしれないなと。一定数かけ続ける人はもちろんいると思いますが…違う形に進化しているかもしれないなとも考えています。もしかしたらドローンがメガネになっているかもしれない。突拍子もない話に聞こえるかもしれませんが、仮にそういうものだとしても開発していけるのが JINS なのです」
私たちが「眼の周りをマッサージしてくれるメガネが欲しい!」「ペット用のメガネが欲しい!」とリクエストをすると、塩谷さんは笑顔で「新しい意見は大歓迎です」と言ってくれました。
最後に、塩谷さんにとっての「仕事」とは何でしょうか?
「社会人になってから一貫して、『モノ』を通じて世の中にインパクトを与えたいというのが自分の軸。そこはぶらさずにやってきましたし、これからもそうありたいです。なので、使命感というよりは自己実現のほうが大きいかもしれません。まだまだやりたいことがたくさんあるので。それから、チームとかそういうものを大切にしたいのです。やはり仕事は楽しくないと。仕事って人生の 3 分の 2 くらいを占めているものですからね」
ーお仕事をされているなかで、特に印象的だったことはありますか?
「…そうですね。うーん。毎日が印象的ですね。本当に(笑)。ただ、JINS MEME が出たときは感慨深かったです。とはいえ、JINS MEME は自分が入社したときには既に走り出していた商品だったというのもあって、自分はまだ本当の意味で、世の中へのインパクトは与えられていないと思っています。何百年も先に残るようなものを創りたいので、今はそれを追い求めているところですね」
非常に知的で落ち着いた雰囲気をお持ちの塩谷さんですが、新商品開発のプロセスについて伺うと目を輝かせてとても楽しげにお答えいただいたのが印象的でした。「モノづくり」への熱い情熱と、それを育てられる環境。この 2 つが見事に化学反応を起こして、イノベーティブな仕事を生み出してきたのですね。
「世の中にインパクトを与えたい」と、繰り返し語った塩谷さん。世間をアッと驚かせるようなメガネの誕生は、そう遠くないかもしれません。