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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

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家電とパンケーキをつなぐもの。それは 「喉から手が出るほど欲しい」を生み出す企画者としての挑戦

自らを「機械音痴」と語る、家電ブランド CEO・中澤優子さんのプロダクト企画とは

2016/08/29

家電ブランド「UPQ(アップ・キュー)」のプロダクト企画から売り場づくりまで、代表取締役として手腕を振るう中澤優子さんにお話を伺っています。

前編▶ハードの時代は終わらない。家電ブランド「UPQ」のプロダクトは、削ぎ落として生まれる「新しさ」がアクセントになる

家電ブランドを経営する傍ら、パンケーキの人気カフェも経営する中澤さん。その活躍の幅には驚かされますが、家電の企画もカフェのメニュー考案も、すべては「同じ考え方」で取り組んでいるものなのだと言います。

すべてに通ずる、その「考え方」とはどのようなものでしょうか。0 から生み出す企画者としての極意とこだわりについてお話しいただきました。

UPQ ではターゲットをセグメントしない

次々と生まれる「UPQ」の新商品。個性的な家電商品の多さから、その誕生の裏側である、中澤さんの「発想方法」について深く知りたくなってしまいますが、「特別なことは何もないんですよ」と話してくれます。

「家電を考えるときも、カフェをオープンするときも、メニューを変えるときも、イベントを考えるときも、全部いっしょなんですよね。かつてカシオで携帯電話の企画者として働いていたときに教えてもらったことが現在も活きていて、『特に新しい考え方でやっているわけではない』というのが、私の伝えたいことですね。新しいことやるには、何かを思いついたり古い考え方を捨てて変わらなきゃいけない、なんてことはないと思うんです。考え方のエッセンスは、ずっと変わらないんですよね」

新卒で入社したカシオの時代から変わらないこと。その 1 つに、「ターゲット選定」に関する考え方があるそうです。

「誰かに『そうしろ』と言われたわけではないんですけど、『F1 層のこんな人に向けたサービス』だとか『誰かに向けたプロダクト』として企画を立てることだけはしないようにしています。ターゲットを切らないんです。『UPQ は、女性向けのブランドですよね』と言われることもありますが、そんなつもりでは作っていないんですよ。実は、UPQ の製品にいちばん反応を示してくれるのは、私の生い立ちもありメーカーの中にいるようなおじさんだったりもします (笑)反面、売り場のひとつである PARCO では女の子たちがデザインだけを見て買ってくれることもある。とても幅広いんですよね」

「カシオ時代、私たちが一生懸命キャリアさんからのお題だった『10 代後半から 20 代の女性が持つ携帯』の企画書を立ててコンペをしている間に『iPhone』が出てきて、若い女の子もおじいちゃんもおばあちゃんもガジェッターも、みんなが iPhone を持ちはじめました。そのときに、たとえ iPhone に比べれば数が少ない 30 万台分のスマホのターゲットでさえも細かく切ったところで仕方ない、と身に染みて感じましたね。年代×性別で分けたり、趣味嗜好の参考として『女性誌で言うと◯◯系を読む女性』なんて考え方もありますが、雑誌を買うのと家電を買うのは別の話。ギャル系の雑誌をターゲットに据えて『こういう子にウケるようなデザインにしよう』と言ったって、ギャルだって構わず iPhone を買うわけですから」

過去の経験も踏まえたどり着いた、中澤さんの企画者としての「考え」は UPQ のコンセプトにもつながっています。

「UPQ が世に出したものに対して『こういうの好きな人いる?』と問いかけて、手を挙げてくれる人がターゲット。日本に限らず海外も含め、UPQ のプロダクトを見て『いいな』と思ってくれる人は国籍・年代・性別問わず幅広くいると思っているので。もちろん『結果、こんなふうに琴線に触れるはずだ』『こんな想いに刺さるはずだ』といったターゲットとなる感情の想定はしていますが、主役はあくまでプロダクト。『こういうものが好きな人たち』に向けてプロダクトを押し出すことを「UPQ らしさ」として守っていきたいと考えています」


機械音痴でも「携帯電話のことなら語れる」

ー 現在の考え方のルーツとなったカシオ社の携帯電話部門でのお仕事ですが、最初の入社先として選んだのはどうしてですか?

「大学入学時点では、自分は何がしたいのかもわからない学生でした。いわゆる自分探しと就活をするために大学生活の大半の時間を割き、「何をしたいのか」を探しはじめたんですよ。たくさんの業種、企業を見た結果、どうやら私は物体・実体のあるハードをつくっているメーカーの人たちと話すと気持ちが上がるらしい、といことに気づいたんです。とは言え、私は機械にめちゃくちゃ弱いタイプ。DVD への録画さえ充分にできなくて、パソコンもフリーズするとなす術無く電源を抜くことしかできない。メーカーには興味があるものの『なんだったら、できるんだろう』と考えて、たどり着いたのが携帯電話でした。1997 年の中学校入学と同時に持ち始め、当時からヘビーユーザーだったんですよ。初期のカタカナ 1 行表示の時代から使っていて、E メール、i モードの登場、カメラ付きケータイと、中学生から高校・大学までの 10 年間とにかく使い込んでいました。それに機械音痴のせいなのか壊すこともすごく多くて(笑)大学卒業までに 40 台〜 50 台ぐらいは使ったんじゃないでしょうか。そんな経験もあって『携帯電話のことなら語れる』と思ったんです」

その 10 年で驚くほどの進化を遂げた携帯電話ですが、その最中に訪れていたのは就職氷河期。中澤さんには仮説がありました。

「携帯電話メーカーで仕事をしたい、と決めた後、携帯の販売店でバイトをはじめたんです。店先でお客さんがどういうものを求めているかという生の声を聞いてみたかったんですよね。お客さんの声って、メーカーには届きづらいんですよ。商流としては、メーカー→キャリア→商社→販売店店頭→お客さんとなるので、この流れだと声は届きづらいし、逆にメーカーの人は販売店にさえアプローチできません。つまり、私は携帯電話をコミュニケーション世代の学生として 10 年近く使い続けているヘビーユーザーでもあり、他のお客さんの声も聞けているという強みを持って携帯電話を生み出すメーカーに入ろう、と考えたんです。この 2 つの強み、メーカーにとって、すごく大事なのにスコッと抜けている人材では?と思ったんです」

「だから面接でも入社後も、ケータイ世代のヘビーユーザーとしての経験と販売経験って『この知識ってメーカーにこそ必要ですよね ? 』『絶対プラスになりますよ!』って言い続けていましたね。もちろん『若い女子向けケータイだから、ピンクやハートがウケるというのも間違ってますよ』ということも含めて」

そのころを振り返り、中澤さんは言います。

「実は『もの作り』というものに触れたのも、就活が初めてだったんですよ。あの時期に、なにがやりたいかということを真剣に探していなかったら、今ごろなにをやっていたかは分かりません」

人生を左右する、最初の仕事選び。枠に囚われず誰よりも早く真剣に向き合った結果が、今の仕事につながっているのでした。

「パンケーキカフェ」のはじまりは企画者としての挑戦

カシオに入社し「メーカーの中の人」としての道を歩みはじめた中澤さんに、当時の営業部長が語った話は非常に興味深いものでした。

「その人に『生半可な能力じゃ商品企画ってできないんだよ。だいたい世の中にいる企画者は半人前。企画ができるやつって言うのは、自分が欲しいものじゃなくて、自分が興味を持っていないものでも、喉から手が出るほど欲しい、とちゃんと思わせることができる人だ。どんなものが欲しい ? ってお客さんに聞いてみても、そんな答えは出てこない。だけど、それをパッと目の前に出したら “ なにこれ、欲しい ! “ と言わせることができる人が一人前の企画なんだ。まずは半人前でもいいから、自分が欲しい、自分が金を払って買える、と思えるものをまずは考え出して作りなさい』と言われたんです。今でもすごく頭に残ってますね」

最も興味のある携帯電話の次に中澤さんが手がけた「パンケーキ」は、まさにその挑戦でした。

「私、実は生クリーム嫌いなんですよ(笑)パンケーキもすごく苦手で、すすんで食べようとは思わないんです。だけど、世の中にはパンケーキが大好きで大行列に並んでまで食べたいという人たちがいる。その人たちに『好きだ』と『ここに並んでみたい』と思わせることは、企画者冥利に尽きるわけですよね。そういった理由から、パンケーキをカフェメニューにラインアップしてみました。わからないなりに、常に仮説を一生懸命考えて。たとえば『みんな、食べる前に絶対パンケーキの写真を撮りたいんだ』ということに目をつけて観察していると、パンケーキをバコッと真ん中で割って湯気が出たところを四方から写真で撮っていました。それからシロップを垂らす姿を撮る。『なるほど。中を割って、クリームチーズがとろーっと出てきたら絶対に撮りたくなるだろうな』と、新しいメニューを考えて、写真に撮ってサイトに up したりしてみました。結果、今では、絶えずたくさんのファンの方が『次はどんなメニューなんだろう』と楽しみにしてくれていています。もちろん撮るだけの楽しみだけではなく、食べてみたら想像を上回っているというのも心がけていますよ。試行錯誤はしましたが、今はそういうものを作れたという感覚がありますね。このカフェの経営を通しても、どうやら人の心を掴むというのはこういうことなんだな、と学べました。ただ、パンケーキだとやはり少し偏ってはいますから、ノーターゲットでセグメントを切らずに、そして家電の領域で、真っ向勝負をしよう ! と思ってはじめたのが UPQ です。その当時の思いは今も変わっていないですね」

ルーツは「ボス猿」のようなプロマネ力

企画者としての挑戦を続ける中澤さんですが、その片鱗は「まるでなかった」と子供時代を振り返ります。

「今はメーカーとしてものづくりに携わっていますが、子供のころから絵も下手くそでしたし、美術の成績も常に悪かったと思います。文章能力があるかっていうとそうでもないですし、飽きっぽくてクリエイティビティのかけらもなかったです」

ー では、ご家族や友人は今の中澤さんのお仕事を見て驚いてますか?

「そういったセンスはなかったですが、『ボス猿精神』と言いますか、ガキ大将に近いところは昔からあったんですよね。今でも、いちばん得意なのはプロジェクトをまとめるために、どんどん判断して進めていく、プロジェクト・マネージメント的なところなので。そこは昔から変わっていないんでしょうね。たとえばクラスを一丸にして、『合唱コンクールに出て勝つぞ』みたいなときに活躍するタイプです(笑)みんなに一目おかれる学級委員とは程遠くて、嫌われてもいいから目標達成しよう、という考えですすめますね。短期的なイベントだとより一層燃えるので、体育祭実行委員だとか文化祭実行委員では積極的に名乗り出ていました。バスケ部でもキャプテン。未開発でプラス α で知恵を絞らないとゴールできないような目標だと俄然張り切れるんですよ。難しい課題に対して頭を使いながらゴールを目指すのが好きなんでしょうね。その延長線上で今を楽しめているのかもしれません」

消費者のジャンプを助ける、UPQ のプロダクト

「UPQ」という会社はもちろん、業界全体をも「番長」として新たなステージへと率いていく中澤さんには、「消費者を置き去りにしたくない」という思いがあります。

「時代はどんどん進みます。たとえば、UPQ は家電メーカーといわれていますが、商品の中で『バイク』や『椅子』は、みんなが想像する『家電』のカテゴリからは外れていると思うんです。ただ、この次の世代の人たちにしてみれば『車も充電しているし、携帯電話と何が違うの ? 車が昔は人力で動いてたとか、ガソリンで動いてたなんて知らないし関係ないよ。いつの時代の話ししてんの ? 』というようなタイミングがすぐに訪れると思うんですよね。スピード感ある中で価値観もいろいろな定義も刷新されていくはずです。ただ、あまりにも高くジャンプしすぎちゃうとみんな着いて来れなくなっちゃう。便利になることで置いてかれる人がいると面白くないんですよ。UPQ は短いスパンでものが作れるので、みんながジャンプしやすいように、置いていかれないように、1 個ずつ階段を作ってその間を埋めていってあげるということをやろうと思っています。私たちのようなメーカーの人たちが、少しずつその人の生活を便利にするために、間に商品や定義を挟んでいって段階を踏ませてあげる。それを『楽しい』『面白い』と思ってもらえるように、価値のあるものを作り続けるってのもありなんじゃないかなと思っています」

経営者として企画者として、新しいものを生み続け時代を統率していく覚悟を語ってくれた中澤さん。今後も「UPQ」のオリジナルな商品は、私たちを楽しませながら一歩先へと連れて行ってくれそうです。

Interviewee Profiles

中澤優子
1984年生まれ。中央大学経済学部卒業後、カシオ計算機株式会社にて、携帯電話・スマートフォン商品企画に従事。「830CA」「CA007」「EXLIMケータイ」などの企画開発に携わる。 退職後の2013年4月には、秋葉原にカフェを開業。オリジナルケーキやパンケーキ等の商品企画から、製造・経営まで、すべてに携わる。 2014年10月、食をテーマにしたハッカソンに参加し、IoT弁当箱「XBen(エックス・べン)」を企画・開発。同年12月には、経産省フロンティアメイカーズ育成事業に採択される。 2015年7月、株式会社UPQ代表取締役に就任。2ヶ月で17種類24製品を取り揃え「UPQ」ブランドを立ち上げる。 2016年2月、「UPQ」ブランド第2弾となる製品群をリリース。日々ものづくりに没頭している。

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