ロボットの開発からデザインと製作までを行う株式会社ロボ・ガレージの代表を務める高橋智隆さん。ロボット宇宙飛行士「KIROBO」、長もち実証ロボット「エボルタ」など現在までに40種類以上の人型ロボットを作ってきました。
「適当に働いて、適当に稼いで、自分の好きなことは5時以降にできればいい」。
そんなことを漠然とイメージしていた高橋さんも、就職活動で第一志望の企業に落ちたことが転機となり、幼い頃から好きだったものづくりの仕事に就きたいと決意するように。
▶【前編】第一志望に落ち「就職したくない」という想いが導いた、世界的ロボットクリエイターの仕事と生き方。
後編では、5月26日にリリースされたばかりのモバイル型ロボット電話「RoBoHoN(以下、ロボホン)」を開発するまでの経緯、人型ロボットがこの先私たちの暮らしをどのように変えていくのか、その可能性について話を聞きました。
企業というピラミッドの外にいるからこそできること
「ロボットを作りたい」という企業の依頼からはじまり、企業と共同開発というかたちで製作を進めることも多いという高橋さん。
お互いの技術を持ち寄り、ディスカッションを重ね、より精度の高いものへと近づけていきます。驚いたのは、ロボットが完成した後のプロモーションに至るまで、自分の目を行き届かせるというこだわりの強さ。企業というピラミッドの中に属していないからこそ、できることがあると言います。
「社内だけでプロジェクトを進めると、課長がこの方が売れる口を挟みい、部長がこうしろと言い出し、専務がいややっぱりこうだろ、果ては社長の奥さんがこっちの方が可愛いんじゃないか、みたいに次々に上司の意見で方向転換させられてプロジェクトが迷走するわけです。でも、僕は外部の人間なので、社長とも現場のエンジニアとも対等に話をします。こうして決定の指針を外に出すことで、ブレれずに芯が通るんですね。それってものづくりにおいてとても大事なことだと思うんです。だから、パンフレットやキャッチコピーに至るまで、自分でチェックして意見を伝えるようにしています。良いものを作るために言いたいことがあるのに、社内の関係を優先しなければという場合なんかは、『僕のせいにしてもらってもいいですよ』と、自身の立場を皆にうまく使ってもらっています」
ロボホンも同様に、たくさんのスタッフの手により完成しました。
現在普及しているスマートフォンに搭載されている機能と同じく、電話やメール、写真を撮ることができ、専用アプリをインストールすれば、タクシーの予約やレストランの検索もできるんです。
こんなふうにWikipediaでの調べ物をしてもらうことも。
高橋さん:「Wikipediaで調べて」
ロボホン:「オッケー。検索したい言葉を言ってね」
高橋さん:「人工知能」
ロボホン:「人工知能だね。ちょっと待ってね。Wikipediaによると、人工知能とは人工的に…(略)続きは背中の画面で確認してね」
「笑顔や動物も認識できるので、『かわいい犬だね』と言ったりもします。この前まで、なぜか中年男性を犬だと勘違いすることがありまして。「昨日目黒区で撮った犬だね」とか(笑)。何故か偉い人に限って犬と認識してしまったりするので『これはよくない』ということでせっせと直してました」
高橋さんが作るロボットは、かわいらしいデザインのものが多いですが、年齢設定にこだわりはあるんですか?
「幼く、子供っぽくします。ロボットといっても、まだまだ至らない点が多いので、大人型を作ると残念なものになってしまうんです。大きいと、ただそれだけで、一人前の賢さや働きを期待されますよね。小さくてかわいければ期待値も低いので何かができるだけで『すごい』と加点法で評価してもらえる」
ロボホンは身長約19.5センチ、重さは390g。実際に持ってみると、想像していたよりもずいぶんと軽い。スマホと比べると大きいけれど、ポケットに入れて持ち運ぶこともできるサイズです。
「正直なこと言うと、もっと小さくしたいんです。でも中に部品を入れるとどうしてもこの大きさになってしまう。何人かが倒れそうになるまで突き詰めてやっとここまで来ました。
iPhoneも最初のモデルから最新のモデルの間で進化したように、今回のはロボホンの最初のモデルだと思っていただけたら。ここから徐々にブラッシュアップして、さらに小さく、応答速度も速くできれば、一般の方が1人1台持つところまでもっていけると思っています。ただ、そうやって進化させていくにも最初のモデルが十分に成功することが必要なんですけどね」
人型ロボットの要は「賢さ」より「生きもの感」
1人1台ロボホンを持つ世の中というのは、いつ頃を想定していますか?
「2020年には。実現するチャンスは十分にあると思っています。薄型テレビもPCも電化製品の場合、悲しいかな完成してしまうと売れなくなってしまいますよね。そして正にスマホもそうなってしまった。でも、完璧に見える今のスマホにはひとつだけ欠点があると思っています。Siriなどの音声認識が使われていないという点です。
どうして我々が音声認識を使わないか。それは音声認識が賢くないからではないんです。賢いのに使わないんです。一方で犬や猫、金魚には話し掛けたりしますよね?音声認識を使うか否かの決め手になるのは、生きていると感じること。四角い箱なのがいけないのであって、人のカタチを与えれば話し掛けるはずなんです。話し掛けられるようになると日常の様々な情報や個人についての理解が深まり、それを反映させるというサイクルが生まれます。そうなれば、『意外と俺のことわかってるやん』という信頼が生まれる。iPhoneは、ジョブズが思っていたほど音声認識が使われなくて、そこでつまづいているという印象を持っています。スマホの次のカタチは人型しかないんじゃないか、消去法的にそう言ってるんです」
リリース前などは、寝食も忘れてひたすらプログラミングする日々も少なくなく、休みは無いといっていいくらい多忙な日々を送っています。
これまでに仕事を辞めたいと思ったことはありますか?
「ないですね。それはやっぱり理想のロボットが完成していない、到達していないと思うからですね。つい先週くらいもそうでしたけど、何千何万行というプログラムを書いていると嫌になることはあります。ただ世の中にないもの、人が見たことのないものを作っているし、野望通りにいけばみんなが1人1台ロボホンを持つという面白いことが実現できるはずなので、そう思えば、多少の苦労はね。ものができあがっていくのが一番の喜びだし。
そうそう、最近で嬉しかったことがあったんです。人生ゲームにロボットクリエイターという職業が加わったんですよ。この肩書きは15年前、私が勝手に考えた職業です。収入ランキングはどのあたりなんやろと気になっていたのですが、1位が人間国宝、次がノーベル賞化学者、三番目がロボットクリエイターで、なかなかいい仕事だったんですよ。それこそ昔は自己紹介すると女の子に笑われてたのにね」
ジョブズが描いた未来を超えて
これからロボットクリエイターをめざす人に伝えたいことはありますか?
「この10年、20年はコンピューターの時代。コンピューターの中だけでできることは飽和をしてしまったので、次はバーチャル世界で起きたことをいかに現実世界に引っ張り出せるかというところに需要があると思います。ロボットクリエイターがどうかはわからないですが、あるピークを迎えた、その時代の花形の職業に就くのは絶対によくなくて、例えば昔なら造船や鉄鋼がそうだったわけです。期待して入社しても、その後、売り上げが落ちていくばかり。だから先生や親に就職先を相談すべきじゃないと思っています。父ちゃんに聞けば自動車業界に行け、じいちゃんに聞けば鉄鋼・造船と自分の時代の花形をすすめるわけなので。その時代のリアルタイムの判断をすべき。これからはコレが来るだろうという自分の肌感覚で選ばないといけませんよね」
自分の嗅覚を信じて人生を懸けないといけないのは、勇気がいりますね。それでも、これから社会に出る学生や子供にはそういうふうに生きていってほしいということですよね?
「失敗したらまたどこかにベット(bet)したらいいわけですよね。そこで死ぬわけやないんで。僕は何となく成り行きでこうなっているので言える立場じゃないんですけど、周りには何度も失敗しながら成功している人もいるんです。そういう人を見てると、なんていうんですかね、良くも悪くも図々しいんですよ(笑)。会社を潰して迷惑をかけても、また会社を作ったり。でも、そうやって何回かやってるうちに成功したり、また潰れたり。そんなものなのかなと。図太さや鈍感力って大事なのかなと思います」
最後に、高橋さんがロボットを通して挑戦したいことを教えてください。
「いつも自分の感性を頼りにしているので、『人の役に立つ仕事をしたい』という想いはないんですよね。なんて言えばいいのかな。僕の場合、もともと善行をという心がないだけなのかもしれませんが、誰かのためにと考えはじめると、絶対にブレてしまう。おじいさんに喜んでもらえるものを作ろう、女子高生にバカ売れするものを作ろうと思っても、僕はおじいさんでも女子高生でもないので絶対に失敗します。自分の感性で自分の好きなものを作る。それが、自分と同じ価値観をもった人に支持されるというのが僕のやり方です。
最近のITベンチャーに対し、『スマホ画面の中だけで完結するちょっとした遊びのようなものがイノベーションなのか?空飛ぶ車や、火星旅行をイノベーションと呼ぶんじゃないの?』というような議論が起こっています。どこまでいってもジョブズが10年も前に考えたことの中で遊んでいるに過ぎないと思うと、なんだかつまらない気もします。だから、スマホに取って代わるものを生み出したい。自分が考案した未来が、皆の生活の一部になっている、なんて本当に面白い。だから、賭けてみたいんです」