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「社会に驚きと感動を」自動運転技術に惚れ込んだ男が思い描くのは、誰でも自由に移動できる豊かな生活

初めて自動運転車での長距離移動を体験したとき、彼は「自動運転技術があれば本当に社会を変えられる!」と確信した。人の生活を変える、素晴らしい技術だと。

彼――石坂賢太郎は、株式会社本田技術研究所で自動運転開発を担う研究員だ。安全運転支援システム Honda SENSINGの開発経験を活かし、現在は自動運転システム全般の開発を担当している。

自動運転を世に出すことに情熱を燃やす石坂だが、乗り越えなくてはならない壁も多い。技術的な壁はもちろんだが、それ以外にも――。

自動運転車で未来はどう変わるのか。そしてその未来を実現するにはどのような課題があるのだろうか。

自動運転技術があれば「行動を制限されない」社会を実現できる

石坂賢太郎 統合制御開発室 ADブロック 研究員 2007年新卒入社

――現在はどのようなものを開発されているのでしょうか?

石坂:現在の業務を一言で言うと「自動運転開発何でも屋(自称)」です。HondaSENSINGの開発で培った知見と人脈をフル活用し、自動運転の認識、行動計画、車両制御のコンポーネント開発から、コンセプト、システム全体設計まで幅広くやらせてもらっています。

――自動運転の面白さはどのようなところにありますか?

石坂:自動運転車という移動手段があることで活動エリアが広がり、色んな経験ができるようになる。それによって活き活きする人が増える。そういう未来を実現できることに面白さを感じています。最前線で開発をしていると、本当に思うんです。「自動運転技術は、社会を変えられる」と。

高齢で運転が不安、小さい子どもがいて電車や飛行機での移動は難しい、そういった理由で行動範囲が制限されてしまうことってありますよね。でも自動運転車があれば、おじいちゃんおばあちゃんは車で好きなところに行けるし、子ども連れでの旅行はもっと楽になります。

例えば、Hondaの研究所がある栃木から東京まで車で行くとなった場合、一般道から高速道路まで様々な道を長時間走りますから、決して楽ではないですよね。でも、自動運転だと「あれ、もう着いたの?」という感じで、驚くほど移動における疲労感がない。そうなると、移動へのハードルが限りなく下がります。自動運転が普及したら「ちょっと長野まで信州そば食べに行こう」「ついでに富山まで海鮮丼食べに行っちゃおう!」とかを簡単にできちゃうわけです。

自動運転は人の生活を豊かに変えていけるすごい技術です。その開発ができていることにやりがいを感じています。

自動運転は魔法ではないというリアルを伝えていかなければいけない

――自動運転車が社会に広がっていく中での「課題」はなんだと思いますか?

石坂:「社会から見た自動運転」と「技術視点から見た自動運転」の認識にギャップがあることだと思います。今は「自動」という言葉が「万能なもの」だと過信され、正しく使えばドライバーを助けてくれる自動運転にまつわる機能が、逆にドライバーの慢心や不注意を招くものになってしまう可能性も捨てきれません。

現段階の自動運転はまだまだ完璧ではなく、あくまで安全運転を支援し、ドライバーを助けるというもの。

しかしながら、完璧な自動運転車ができるまで販売ができなければ、人々のより豊かな生活を実現するのも遠い未来になってしまいます。

技術を発展させていきつつ社会に正しく認識してもらえるよう努力していくことで、自動運転というすばらしい技術を、より早い段階で多くの人に使ってもらえるんじゃないでしょうか。

実際に、広告などで「自動運転」や「自動ブレーキ」という言葉を使うことに規制をかける動きがあります。テレビCMや販売店も、いい部分だけではなく、リスクや危険性も含めて「こういう使い方が一番価値を享受できるよ」という伝え方ができないといけませんよね。

▲Honda SENSING特設ページより。完全な「自動運転」ではなく、「なにができるのか」を正確に伝えるよう表現が工夫されている

石坂:私自身も、社内の有志を集めて「自動運転の価値を正しく伝える」ためのプロジェクトを進めています。「あなたの生活を変えるインパクトがある技術なんだよ」というのを、もっと伝えていきたいなと。

「お客様にとっての価値はなにか」という視点がないとそもそも技術開発できませんし、それをどう伝えるかもとても大事だと考えています。

例えば、いわゆる「モノからコトへ」じゃないですが、移動手段や道具としてだけじゃなく、より価値の高い体験を提供することで、自動運転への理解を深めてもらえるんじゃないかなと。具体的にはまだ言えませんが、様々なアイデアを出し、仕込んでいる段階です。

技術だけを突き詰めたいわけじゃない。その先にある「幸せな体験」までつくりたい

――開発者の方が「お客様への価値の伝え方」まで考えるって少し意外です。

石坂:そうなんですかね?(笑)。そのための幅広い業務提案を認めて自由にやらせてくれる会社や上司には感謝です。

私には、「自分が自動運転を体験したときの感動を多くの人に味わってほしい」という思いがあるので、価値をどう伝えるかという課題解決にも興味がありました。

上司の対応も私の思いも、Hondaフィロソフィーの人間尊重や三現主義ってやつが活きいてる実例ですね。

最近でこそ「ぶつからない車」とか「自動で走る車」は誰でも買えるレベルになってきましたが、初めて自動運転車に乗ったときの、アクセルもブレーキも踏まずに自動で走って止まっていく、あの不思議な体験は忘れられません。過去に味わったことがない経験をした瞬間に、ゾクッとするあの感じ。

実験段階(※)だと、「本当に大丈夫か?」と最初は怖いんですが、結局は「おお!成功した!すごい!」と鳥肌が立って。「この運転、自分よりうまいんじゃないか?」と。

恐らく、この感動は書面や映像で見てもわからないと思いますし、VRでも伝わらないはず。なので、現実世界で体験する人を増やしたいです。


――いま研究している技術で、何を実現したいですか?

石坂:やはり「世界をアッと驚かそう!」「生活をより良く変えていこう」というところです。あとはとにかく、事故がない社会をつくり、車での移動を幸せな体験にしたいですね。

――石坂さんがエンジニアとして仕事をする上で気をつけていることを教えてください。

石坂:私が大事にしているのは「私と関わる人全員を幸せにする」こと。そのために、自分が潤滑油となって一人ひとりの個性を引き出し、みんなが自分の持ち味を発揮して楽しく働けるようにしたいんです。

思うように仕事を進められていない人がいたら、「こういうことは好き?じゃあ一緒にやろうよ」と声をかけ、潜在的な思いを引き出してあげたいなと思っています。

そんな環境と雰囲気がいい商品につながっていくと信じています。

――なぜ「全員を幸せにしたい」「楽しんで働けるようにしてあげたい」と思うんですか?

石坂:自分も相手も完璧である必要はなく、お互いに補い合うことでより楽しく働けると思っているからかもしれません。適材適所に配置して潤滑油を注げば、みんなが力を発揮できると。

実は過去に、やりたいことが多すぎてかなり深く思い悩んだ時期がありました。「あれもこれもやりたい」と思っているところに責任が降ってきて、「やらなきゃいけない」となり、そこから「自分の力不足で、全然できていない……」と悩み、体調を崩してしまったんです。でもそのときの上司たちが本当に温かく、ものすごく忙しいのに心配して家に来てくれ、まともに働けない私を受け入れてくれました。本当に感謝してもしきれません。

この経験を通して「自分は完璧じゃなくていいんだ」と気付きました。それまでは、どこかで「完璧でいなければ」と思っていたので。

そこから、失敗をしても「次、またがんばろう!」と思えるようになりましたし、自分が苦手な業務を得意とする人がいたら「任せた!」と言えるようになりました。挫折を経て成長でき、実際自分を軸にチームとしての業務成果が前より出せていると思います。

Hondaの人たちはみんな成長意欲が高く、より価値のある技術を開発するために学び、努力している人ばかりです。しかしその過程でつまずいたり、空回りしてしまうこともあるでしょう。もしそんな人がいたら、当時の上司が私にしてくれたように、次は私がその人の「ありのまま」を受け入れてあげたいんです。全員と楽しく仕事をして、全員で幸せになる。そして、全員で「誰もが車で自由に移動ができる豊かな社会」をつくりたいですね。

※実験は規定に基づいたライセンスとルールの元に安全に行っています。

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