私達、UEIが力を入れているのは「ゲーム」
といっても、普通の人が遊ぶゲームではありません。
AIが遊ぶためのゲームです。
深層学習を契機とする第三次人工知能ブームを象徴する出来事として、AlphaGoの成功があります。
深層学習と強化学習を組合せ、ブロック崩しの自動攻略に成功したDeepMind社(Google傘下)が、深層学習をモンテカルロ探索木と組み合わせることで囲碁の攻略に世界で初めて成功し、人間のチャンピオンを次々下した"事件"は、関係者を驚かせました。
私自身も10年以上前に囲碁ゲームの企画開発に関わっていたので、囲碁のプログラミングがいかに難しいか知っているつもりでした。
しかしAlphaGoは、極めて複雑な囲碁というテーマを、驚くほどシンプルな方法で攻略することに成功しています。
さらにAlphaGoをより一般化させたAlphaZeroが開発され、囲碁だけでなく、将棋やチェスといった決定論的ゲームも、ルールを人為的に教えることなく学び、しかも既存のどのアルゴリズムにも打ち勝つことが出来ると証明されました。
しかも驚くべきことに、AlphaZeroは汎用化したぶん複雑になるのではなく、むしろシンプルな構造を持つことで汎用性を獲得してしまいました。あるAlphaZeroクローンのソースコードはわずかホワイトボード一枚に収まってしまいます。
現実の問題に置き換えてみましょう。
時系列予測や分析、状況把握と判断など、現実の問題のいくつかは数理モデルで近似することが可能です。
この数理モデル化を「ゲーム化」と呼びます。
数理モデル化に必要なのは、現実の世界が抱えている問題を適切に分解し、「ゲーム」として設計することです。
「ゲーム化」が適切であれば、これまで人間の直感に頼っていた仕事の大部分で、AIの判断力が上回ることになります。
AIを武器として持つ組織と、そうでない組織では、大きな戦力差が生まれるでしょう。
もちろん今のAIは決して万能ではありません。
しかし、人間の判断力を超える判断力を持てるようになる潜在力は十分持っていると言えます。
ところで、AIを開発するには高い数学的センスが必要だという誤解があります。
しかしそれは誤りで、むしろ必要なのは人間が織りなす社会に対する観察力のほうがより重要だと私達は考えています。
なぜならば、それだけが今のところ人間にしかできない最大の仕事だからです。AIと人間社会のインターフェースを作ることがなによりも大事なのです。
数学的センスという点では、我々はどちらにせよ機械には勝つことができません。
四桁の数を2つ掛け合わせるだけでも、人間が暗算するのは至難の業です。ソロバンの有段者でも数秒かかります。しかしGoogleHomeに聞けば一瞬です。
それ以外のどんな数式でも、機械が解くほうが速いことはもはや疑うべくもありません。
その他のプログラミングに比べると、AI、特に深層学習で用いられる数学は極めてシンプルなものばかりです。ですから、数学が苦手、という人でも深層学習を仕事にできるチャンスは大いにあります。
実際、(人間が遊ぶゲームを設計する)ゲームデザイナーは数学が得意であることはめったにありません。
数学的センスよりもむしろ「このパラメータとこのパラメータの関係はたぶんこうなっている」という直感、いわば人間的センスの方が重要だからです。
相手が人間でなくAIになったとしても、それが重要であることは変わりません。
なぜならば、AIが解決すべき問題は机上の空論ではなく、血の通った人間が生きる社会や現場のなかにこそあるからです。しかしAIはそれ自身では人間の気持ちを想像することはできません。
そのために数理モデル化し、AIがそれを解けるようなアルゴリズムを開発するプログラマーが必要なのです。