- 『月刊石垣』(日本商工会議所のビジネス情報誌) 7月号 P24・25掲載
企画から製造までをワンストップで提供できる強みを生かし、飛沫感染予防アクリル板や高速自動検温システムなどを開発・製造販売。新型コロナウイルスの影響による経営危機からの業績をV字回復させた取り組みが取り上げられました。
以下 記事同文
世の中にニーズに素早く対応してコロナ禍でも売り上げ150%増
特集1 逆境に強くなる!着眼点と技術力で業績を伸ばす
屋内外の看板からデジタルサイネージまで、時代に合わせた情報発信ツールを幅広く手掛けるタテイシ広美社。企画から製造までをワンストップで提供できる強みを生かして、飛沫感染予防アクリル板や高速自動検温システムをいち早く世に出し、新型コロナウイルスの影響による経営危機から業績をV字回復させた。
売り上げ大幅ダウンの経営危機でいち早く新商品を開発
タテイシ広美社は、1977年にまちの看板屋として創業した。バブル崩壊後、時代のニーズに合わせてLEDを使用したり電光掲示板やデジタルサイネージの製造にも乗り出し、「情報伝達企業」として事業を拡大する。近年では、防災情報表示システムが東京都港区に採用されるなど実績を積み上げ、東京オリンピック・パラリンピック会場の看板や誘導サインなどを数多く受注した。ところが、昨年3月24日、新型コロナウイルスの感染拡大により同大会の延期が決まり、アクリル板の在庫を大量に抱える羽目になってしまう。その上、ほかの看板広告の注文もキャンセルされて、同月の売り上げがほぼゼロになり、たちまち経営危機に陥った。
「何か新しいことをやらないとまずいと思っていたさなか、県の産業振興機構から『ウイルスの飛沫感染を防止するものができないか?』と打診されました。アクリルなら材料も加工ノウハウもあるし、製造設備もそろっているので、早速やってみることにしました」と同社会長の立石克昭さんは振り返る。
当時、アクリルパーテーションはまだ普及しておらず、見本となるものがない中、企画、デザイン、設計、製造までをワンストップでできる強みを生かして、わずか1週間で生産ラインを構築。3月末には「飛沫感染予防アクリル板」を完成させ、販売を開始した。
「販売に当たっては府中商工会議所の協力を得て、プレスリリースを打ったり、SNSを活用したりしてPRしました。すると、全国のクリニックから注文のメールや電話が殺到。その評判が拡散して、他の業種からも注文が舞い込むようになりました」
さらに、地元の飲食店などが県の補助金を活用して購入してくれたことも追い風となり、業績は急速に回復していった。
社員との協業姿勢により短期間で商品化
間を置かずに、同社は次なる新型コロナウイルス対策商品づくりに乗り出す。世の中が求めていて、自社の技術が生かせるものという観点から、各部署の社員を交えてアイディアをピックアップしていき、「扉開閉用足ハンドル」と「高速自動検温システム」の開発に着手した。前者は、「不特定多数が触る扉の取っ手になるべく触れたくない」とう人々の心理をくみ、足で扉を開け閉めできる装置だ。後者は、体温測定やマスクチェックを自動で行う商品。0.5秒以下の高速で測定でき、体表面温度を知らせるシステムである。
「早く製品化することを最優先しました。特に検温器については、市場にある既存品を徹底的に調べて、値段が手ごろな部材選定をしました。その基本機能をベースに、システムを当社のプログラマーがカスタマイズしていきました」
こうして検温とマスクの有無を検知するスタンダードタイプと、AI顔認証によって、平熱でないとドアが開かない仕組みや勤怠管理システムを搭載したハイエンドタイプの2種類を短期間で商品化する。スペックと価格設定をあえてシンプルにして、購入者が選びやすいように配慮した。
「つくる以上に大変だったのは納期です。もともと数を売る会社ではないので、短納期の仕組みがありません。そこで、在庫を持っていつでも発送できるようにしました。さらにパート社員をたくさん雇って受付業務を強化し、マニュアルも作成して、商品を3日で納めルールを社内に徹底させました」
一連の商品は世間のニーズをつかんだだけでなく、スピーディーな納品がお客様の満足度を高め、コロナ禍前と比べ1.5倍の売り上げを確保した。
多様な働き方を提供して社員の能力を引き出したい
同社には、業績回復のほかにも嬉しい誤算があった。一時的な採用のつもりだったパート社員に、予想以上に優秀な人が多かったことだ。商品を的確に説明したり、クレームの問合せに柔軟に対応したりする様子を見るうちに、既存の仕事も十分こなせると考えた。そうした人材を本人の希望に沿って正社員や常勤パートに登用し、今では大事な戦力になっているという。
また、コロナ禍を機に働き方にも変化が起きている。ものづくりの会社なので社員はフル出勤が基本だが、子育てしながら働く者もいることから、フレキシブルな時差出勤も可能にするなど、多様な働き方が提供できるように体制を整えているところだそうだ。「こんなときだからこそ社員が能力を発揮しやすり環境づくりを進めつつ、社内のノウハウやインフラを活用して時代が求めているものを生み出していきたい」と立石さんは言う。具体的に今、自然エネルギーを活用したデジタルサイネージの可能性を模索している。
「まだコロナは収束しておらず、先行きは不透明です。しかし、世の中で起こっていることには、乾電池のようにプラスとマイナスがあります。今はマイナスばかりがクローズアップされがちですが、反対側には必ずプラスがあるので、いかに両極をつなげてエネルギーを生み出すかを考えることが、経営者の務めだと思っています。」