インタビュー第一弾!「中高大学生向けにグローバル教育プログラムを提供している」という一文には収まらないタクトピアの事業について、代表である長井さん自ら語ってもらいました。
タクトピアは、もともとハバタクの一事業として行なっていた学校向け・学生向けのグローバル教育コンテンツを日本全体、さらにアジアその他の海外へとより広い範囲に対して届けるために立ち上げました。そのミッションとして「グローカル・リーダーの輩出」を掲げています。
“グローカル”は、グローバル+ローカルの造語です。タクトピアが考えるグローカルを説明すると、まずはグローバルな視野をもち、人間関係や考え方や知識などについて広い視点を自分の中に持っておくことは重要だと考えています。「世界どこででも活躍できるグローバル人材になれ」というメッセージをよく聞くと思うのですが、それは英語がよく話せて、ビジネスの何かに精通することではあるけれど、同時に世界どこでもクビになりうるということも意味する。
そこで足りないものは「ローカル」なんです。例えば「この場面では長井のキャラクターが必要だから」、「日本人の知見が必要だから」と頼りにしてもらえること。個人やその人がいる地域がもつ根源的な価値という意味でのローカル性とグローバル性と同時に持つ、つまりグローカルという姿勢やマインドが大切だと思っています。僕たちは教育事業者としてさまざまなプログラムをデザインし、その中で気づきや力を得てもらう、ということを行なっています。
ボストンにて。日本と各国の高校生がアントレプレナーシップを学ぶプログラムを開催しています。
今の教育でこれが足りない!と感じられることがたくさんあると思うのですが、タクトピアとしての一番の危機意識としてはどのようなところですか?
さきほどの話の続きになってしまいますが、いまの日本の教育にはグローカルな要素が圧倒的に足りません。いまの子どもたちの今後の人生を想定したときに、日本人が日本の市場のためだけに働く時代は終わっていきますよね。外国から今以上に人が入ってきますし、逆に外国に出て行く仕事も増えるでしょうから、国と地域がどんどん入り混じるところに今の学生さんたちは仕事をしにいくことになるわけです。そのような時代に向けての準備を、今の教育はできていない。
グローバルな力の育成という文脈で言えば語学力ももちろんその一部です。ただ、一番重要なテーマはマインド面、とくに多様性の理解・受容だと僕は思っています。外見、ふるまい、生活様式などの違いがあることを理解して、「お互いに違うこと」を受容する力をもつことはグローバル社会において非常に重要です。「だから外国人はわかってない」みたいな態度では、日本はもう世界から相手にされなくなってしまう。
またローカル性を養ううえでは「自分をどう認識して意見を発信していくか」が大切ですが、それもいまの教育の現場には少ないと認識しています。「手を挙げない方がいい」「授業は静かに先生の話を聞く」という指導や、生徒が素朴な疑問を口にしたときに先生がカチンとくる、楯突いたと解されるといった話をいまだに耳にしますが、これはいままでの教育が情報の非対称性を利用していたから起こっていたことです。
「先生は知っている人、生徒は知らない人、だから教えてやる」という図式ですね。しかし今はもはやGoogleのほうが知っている時代。Educatorとしての先生の役割とは何なのかを考えるときなのですが、日本の教育はシステムが強固すぎてなかなか変わらない。そのシステムに外部から黒船的に乗り込んで、学習のモードを変えていきたいと思っています。
ハバタクで実践されていた頃から、強固なシステムに対しての提案においてはいろいろと工夫されてきたと思うのですが、今、タクトピアという「黒船」はどのような工夫をしているんですか?
誤解を恐れずにいうと、僕達にとっては「グローバル教育」も手段なんですね。重要なのは前述のような「探究と共創」の精神を育成することであり、そのために「グローバル」は21世紀において必須の学びの環境だと考えている、という順番です。
今や「グローバル」というワードは学校教育の大きな潮流になっていて、特に高校では必須の目標とされているので、「タクトピアならお手伝いできますよ」と言ってお話を聞いてもらっています。学校の先生方にも教育変革に熱意のある方々がたくさんいらっしゃって、ビジョンレベルで意気投合して「やりましょう!」と始まることが多いですね。
とはいえ、さきほどお話したとおり日本の教育システムはとても強固にできています。たとえば進学や就職の実績を目指すことが求められる学校現場が急に実績を捨てるわけにはいきません。そこで、「海外研修とその事前研修」など、現場にとって「グローバル教育の一環のアクション」が取りやすいような治外法権的なエリアをつくってもらってプログラムを実施しています。これが当たり前になってくれば、出島の機能が開国と同時に日本全体に及んでいったように、指導要領の範囲内で実施する、あるいはより一緒に作っていくことができるようになると思います。そこへ至るプロセスは2020年までに完成させることが目標ですね。
2020年にタクトピアが目指しているありたい姿とはどのようなものですか?
まず、タクトピアが目指したい方向性は社名に込めています。タクトピア(TAKTOPIA)という社名は、タクト(TAKT = 人生の指針)を持つ人々が集うユートピア(UTOPIA = 理想郷)という意味の造語です。つまり、この複雑で変化の速い21世紀を生きる人々が、自ら学び人生を切り拓いていくための生態系(エコシステム)をつくる、というビジョンを示しています。現在のタクトピアは、言ってみれば「研修屋さん」ですが、僕達はそこだけに留まるつもりはありません。
2020年は東京オリンピックがあり、大学入試や指導要領が変わる、教育界にとって節目の年です。このときまでに、僕達が目指すエコシステムの片鱗を世界に見せていきたい、というのが大きな目標です。
たとえばグローバル教育プログラムがより普及してきた段階では、コネクションやプログラムデザインの知見やマーケティング効果の測定ニーズが出てくるはずなので、タクトピアがコンサルティングやマッチングの機能を拡張していくことができます。今は個別のプロジェクトとして対応しているものがもっとハブ化できて、法人—学校—個人や、国内−海外といったボーダーを超えた需要と供給の仕組み、ひとつのエコシステムをプロデュースするような感じです。
また、プログラム参加者の学びの体験を一過性で終わらせず、さらなる成長のための学びの機会を提案しつづけられるようにもなっていきたいと思っています。一度タクトピアのプログラムに参加してくれたら、タクトピア市民として他の学習者と繋がったりプロジェクトを組んだりできるような環境ですね。
現在のタクトピアは日本の学校とのプロジェクトが圧倒的多数を占めていますが、この点も拡大していく予定です。MITをナレッジパートナーとして展開しはじめたFutureHACKのサマーキャンプでは世界各国から参加者を募っていますし、アジア圏の学校さんからのお声がけも増えてきました。それこそエコシステムが日本だけに限定されてしまってはビジョンの達成には程遠いですから、引き続き注力していきます。
これからタクトピアにコンタクトしてみようと思っている方にタクトピアのアピールポイントを聞かせてください。
まずはタクトピアが非常に重要視しているのは、教育的なビジョンはもちろんですが、企業としてビジネス感覚のあるプレイヤーであることです。今、いろいろなプレイヤーが21世紀型の教育を作っていこうとしていますが、ビジネス面と内容面の両方の価値を生み出して展開していくことは容易ではありません。タクトピアはその両立を目指します。
また、タクトピアの強みとしては、世界中の大学や起業家ネットワークや最先端の知見とつながっていて、その環境をダイレクトに教育現場に持ち込んでいる点ですね。実際に今いるメンバーが一番喜んでくれているのもそこで、自分たちが業界のフロンティアに立っていて、これから自分たちがスタンダードを現場で作っていこうとしているという感覚を持ってくれていると思います。
こんな人にタクトピアにジョインしてもらいたい、という人物像があれば聞かせてください。
僕たちのビジョンに共感してくれる人はもちろんですが、重要なのがそこにつながる原体験があるかどうかですね。それは子どもの頃の思い出かもしれないし、大人になるまでの過程で味わった思いかもしれないですが、必ず何かがあるはずです。いくら表面的に仕事ができても、根っこが合わないとうまくいかないので、原体験のストーリーは大事にしています。
それから、いろんな国や地域の人々と付き合うことが好きで楽しんで働ける人。未来の教育のスタンダードを作っていく、ベンチャー企業ならではの多少カオスなフェーズに、自分自身も冒険者としてわくわくしながら取り組んでくれる人。職種もあまり細かくは決まっていないので、場合によっては営業から運営までの流れの中で複数のフェーズにかかわる必要が出てきます。そのときにこれしかやりたくないという姿勢ではなく、いろんなステージの仕事を楽しんでもらえたらと思います。