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音楽だけの人生から一転、デザインの力で世界と自国の教育をリードしたい

本当に優れたデザインは主張しない、と言います。
単に綺麗に整えられたもの、という主張ではなく、ともすれば意識すらしないくらいの自然な在り方が、価値ある教育サービスを築いていく。
そうした表面的ではないデザインの力を信じ、
教育業界に風穴を開けようとするデザイナーが、Quipperにはいます。

生きてく手段が、仕事に変わった

バンド活動をするなら、音楽活動で生計を立てていくしかない。
そう思っていた、静岡県生まれの青年、鳥居。
自分の夢を叶えるべく上京し、年間120本という超過密なライブスケジュールをこなすため全国をハイエースで走り回り夢を追い続けた結果、25歳で多額の借金を背負うことになります。

鳥居大(とりい・だい)
Quipper Ltd. Vice President of Design

鳥居:当時は本気で売れると思っていて(笑)。バンドにしかアイデンティティがなかったんです。バンド活動が人生の最優先事項だった時期は、バイトもあまりできずとにかく貧乏でした。だから結構な額を借金してまして(苦笑)。振り返ると、あの頃は本当に驚くくらい悲惨な生活でした。

いよいよ首が回らなくなった時、時給の良いWebデザイナーのアルバイト求人が彼の目に留まりました。

鳥居:バンドを運営するにあたって、自分の趣味レベルでフライヤーやウェブサイトを作っていたので、正直その延長程度の気持ちでした。今思えば、当時作っていたものはとてもじゃないですけどデザインと呼べるものではなかったですね。技術的にも採用条件を満たしていなかったのですが、「できます!」と無理やり背伸びをして、ECの会社に採用していただきました(笑)。僕のデザイナー人生はここが出発点。ここではファッション系の商品ページやバナーを作っていました。制作経験がゼロでもバナーは作れば作るほど上達するものでしたし、コーディングも、同僚や先輩書いたコードを見て、見よう見まねでなんとか学んだんです。

生活をどうにか工面するために始めたアルバイトは、思いがけずその後の人生設計に影響する分岐点になります。

鳥居:次第に、ちゃんとデザインスキルを身につけたいと思うようになっていって。30歳手前ぐらいに、人生で初めてとなる正社員としてウェブ制作会社に入社し、バンド活動も自然と控えめになっていきました、ただ、いまだにバンドはこじんまりと続けていますが(笑)。で、そこは社長含めて2人というかなり小さい会社だったので、デザイン業務からディレクションはもちろん、営業活動や総務も全部自分の仕事。2年半ほどでしたが、この経験から多くのことを学べたと思っています。。ただやはり、制作会社という立場では、クライアント以上にユーザーに近くなるのは難しかった。結局、僕にとってのユーザーはクライアントになってしまい、そこに違和感を感じてはいました。

ユーザーにとって価値のあるプロダクトを、もっと近くで作りたい。そんな気持ちを抱え、転職を決意。何社か検討したうち、今まで自分と関わることがなかった経歴の人材が多く在籍する、事業会社に転職を決めます。

鳥居:自社サービスのデザイナーとして入社しましたが、もともと新しいサービスやガジェットが好きだったので、社内でなにか新しいことが立ち上がると聞けばアサインもされていないのに勝手に首を突っ込んだり、デザイン案を提出したりしていたんです(笑)。そうこうしてるうちに、社長直轄で新規事業部署を立ち上げるから鳥居さんどう?と。そこでビーコンを絡めたO2Oサービスや官民連携型のアプリ開発、新卒紹介系のマッチングサービス等々大小様々な案件を新規事業責任者として手がけました。

数々の新規事業を立ち上げるなか、とある市場調査をきっかけに、将来の日本の労働環境や人材について考えるようになります。

鳥居:ここから50年で日本の労働人口は減少していく一方で、IT領域では需要がさらに高まっていく。単に減るだけでは消費も落ち込むし、生産も落ちていけば経済がまわらなくなる。じゃあこれを解決していくために、外国人人材のニーズがさらに高まるよね、と考えました。そうなると、自分自身がグローバルな環境で働く準備の必要性と、国の成長を支える根源にある教育の必要性を感じたんです。とはいえ教育を事業として推進していくには相応の体力が必要。事業展開するのは難しいだろうと考えていた矢先、Quipperのことを耳にしました。リクルートに買収されたことも知っていたので、大手企業の買収自体に納得感と安心感もあったんですね。資金力、投資ができる体力が整っている、ということですから。

業界の課題は、ITとの噛み合わせにあり

個人のキャリアパス形成と、教育事業への期待と不安を持ってQuipperに入社した鳥居は、教育現場の現状を目の当たりにし、あらためて、自分がこれから携わるサービスの意義を考えることになります。

鳥居:教育業界に足を踏み入れてみて、想像以上に大変な世界だと気づかされました。関わる人物が多いんですよね。学校や先生はもちろん国や地方自治体、ユーザーが子供のことも多いので、当然親の関わり方もこれまで僕が関わってきたサービスの比ではありません。それぞれが教育に対しての価値観も違えば、今まで受けてきた教育のあり方も違っていて。解くべき課題が大きいだけにもちろんやりがいはありますが、これまでの経験則だけではなかなか難しいと感じました。ただ、年度末になるとユーザーから「サプリのおかげで○○大学に受かりました!」のような声をいただいていて。改めて人の人生や生活を変えうるサービスに関わっているんだなという誇らしさと同時に、教育サービスを提供する責任も感じています。


鳥居:また、世界に目を向けてみると、たとえばインドネシアではデジタルサービスの需要が非常に高いですし、本質的に可能性を広げる機会をそこに感じます。平均的に高くはない収入の中から、高価なスマートフォンの購入費を捻出するくらいですから。現地に行ってみるとわかるのですが、交通インフラが日本ほど整っておらず、頻繁に起こる渋滞や交通の便の悪さで、塾や学校に通うことも本当に大変。そのような状況なので、映像授業のニーズは日本よりも高いのではと感じますね。もちろん教育という分野での課題感は少なからずありますが、世界規模で見ても、ユーザーが求めているプロダクトをちゃんと届けられているのだと実感します。

本質を見失わない、ゴールへの引導役

鳥居:良いプロダクトを作るために必要なのは、プレイヤー全員が同じようにユーザーの方を向き、かつそれがビジネスとして成り立つかを考え続けることだと思っています。弊社事業にはグローバル部門もありますし、事業をつくる目線ではマーケターから営業、PMやエンジニアやデザイナーなど、あらゆるポジションの人間が関わっています。ともすれば、開発中はついポジショントークになってしまうことも少なくありません。。でもビジネスとプロダクトは対立するのではなく目線を合わせ寄り添うもの。その橋渡しをするのが僕の役割だと認識しています。

今年4月から新設されたVPoD(Vice President of Design)は、デザインの視点でユーザーに価値のある一貫したプロダクトを届けていくためのポジション。中長期的にブランドや事業の戦略を検討した際に、その必要性が浮き彫りになりました。

鳥居:これまでの体制ではマーケティング部門、プロダクト部門、スタディサプリ ENGLISH部門と、部署をまたいでデザインに関わる組織が分割されていました。ユーザーから見ればひとつのブランドであるのにも関わらず、購買決定プロセスやサービス単位での情報分断のようになっている状態。。まずはこれらをひとつのチームとして機能させ、足並みや目線を揃えるべきですし、全体を通してプロダクトに一貫性を持たせようという考えから、VPoDという役職が生まれたと思うんです。

これから着手するのは、サービスのステートメントをクリアにすること。ビジネスとプロダクトの間で向いている方向にズレが生まれた時、サービスの本質に立ち返る基本概念をしっかりと掲げ、ゴールに向かってぶれることなくプロダクトを導くことが、鳥居のミッションです。

鳥居:経営判断として、少なからずデザインの価値を認めていただいた結果、VP of Dのポジションが設けられたのだと思っています。デザインは、デザイン領域以外の人からもその意義を認めてもらわないと意味がないですから。デザインといっても、見た目の話だけではなく、見た目が決まるまでのプロセスや考え方、コミュニケーションまでを含めた広義なデザインのことです。今後、自分も含め在籍するデザイナーが自分の守備範囲を広げて、プロダクトや事業ドメインに関わる知識を一通り身につけられるような組織構築を考えています。ビジネスやマーケティング、そしてエンドユーザーの実態まで、という意味ですね。それぞれの分野の知識がないと共通言語が持てないですし、実りあるコミュニケーションも生まれません。そこまで徹底した組織づくりを目標に、実現に向けて動いています。

Quipperが掲げる「ファイブバリュー」のひとつ、「ユーザーファースト」。
ユーザーにより良い価値のプロダクトを提供できるよう組織の改変から始めるなど、プロダクトのための抜本的な組織改革さえも厭いません。

未来の教育を変えるため、まずは自分たちから変わる。
そして、デザインが持つ力で教育の可能性をさらに拓いていく。
いつの日かそんな未来が当たり前になることが、教育におけるデザインの使命なのかもしれません。

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