みなさん、こんにちは。スペースデータ採用担当です。
スペースデータで活躍するメンバーがどんな経験を持ち、日々どのような仕事に取り組んでいるのか、その一端をお伝えするために、社員インタビューや対談インタビューをお届けしています。
今回は、スペースデータで、SSOSと呼ばれる次世代の宇宙ステーションOS(https://spacestationos.com/)を手掛けている加藤裕基さんへのインタビューです。
SSOSの考案者でありつつ、現在JAXAでは火星衛星探査ロボットの研究開発も進める加藤さん。親しみやすい人柄でありながら、頭の中に壮大なスケールを描く賢才である加藤さんにお話を聞きました。
【プロフィール】
執行役員 OS戦略担当
加藤裕基(かとう ひろき)さん
カーネギー・メロン大学大学院修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科博士課程終了。2007年から宇宙航空研究開発機構(JAXA)において宇宙ロボティクスの研究開発および戦略立案を牽引。国際宇宙ステーションでのロボット実験の開発を担当した後、2015年以来、火星衛星探査計画(MMX)のフォボスの砂を自律的に採取するサンプリングロボット開発を主導。2020年以来、国際宇宙ステーションで荷物管理を行うロボットシステムの技術開発に取り組み、プロジェクト化。ロボット用のソフトウェアプラットフォームの宇宙利用を見据えた活動を先導。2024年に当社に参画。
https://github.com/jaxa/racs2_bridge
── 本日はよろしくお願いいたします。現在JAXAにて宇宙ロボティクスの研究開発をされている加藤さんですが、具体的な内容を教えていただけますか。
JAXAではロボット専門家のポジションとして研究開発を進めています。開発の方では「はやぶさ2」(小惑星探査機)の次のサンプルリターンミッションの「MMX」(火星の衛星を探査するミッション)ではフォボス上でサンプル採取するロボットを作っています。また、国際宇宙ステーション(ISS)上で荷物を受け入れるロボットの開発にも従事しています。
同時に研究サイドの活動としては、宇宙ロボット向けのOSの研究もしています。地上のデファクトスタンダードなロボットOSである「ROS2」と、類似だけど小規模な宇宙向けの開発プラットフォームである「cFS」をつなげる「RACS2」というシステムを開発しました。そして手始めにこれを「Space ROS」という宇宙ロボット向けのOSの一部に取り込もうとしています。この活動がきっかけでスペースデータの佐藤さんと坂本さんから声をかけてもらい、気付いたら巻き込まれていた形です。あ、もちろん自分が好きなことなので、巻き込まれて内心嬉しいと思っています(笑)。
世界初で火星のサンプルを持ち帰ってくるミッション
── JAXAで加藤さんが注力されている「MMX」は、世界初の火星圏からサンプルリターンするミッションとのことですが。
そうです。理学的価値は先週兵頭さんが話してくれています。ぜひそちらを見てください。
要するに、火星衛星のフォボスで砂を採取したら、そこに火星の砂も入っている、それは世界初で、それを日本がやる、ということです。
皆様もNASAが火星へローバー(火星探査ロボット)をいくつか送っているのはニュース等でご存知だと思います。でも、実はあまり認識されていないかもしれませんが、NASAが火星で運用しているローバーは、すべて一方通行です。
つまり、探査機を送り出し、火星に行っても何も戻ってきてないんです。
それは、火星の重力が地球の3分の1程度で、そこから重力に逆らって何かを再打ち上げすることはやはり難しいからです。
その点、フォボスは重力が非常に小さく、地球の2000分の1程度です。なので、そこから離陸しサンプルを持ち帰るミッションが可能です。
そのため、火星の砂もそうですが、そういう場所は将来の有人拠点としても非常に有望だと思っています。そういう未来を見据えて、日々のめり込んで開発を続けています。
技術者にとって
”研究”は加点法、”開発”は減点法
── 「MMX」は今年打ち上げが予定されていたのですよね。
はい、でも昨年末に2年の延期が決まってしまいました…。かなり意気消沈していたのですが、そのタイミングで佐藤さんと繋がる機会があったんです。
話を伺ってなるほどいい話と思い、「宇宙ステーションOS(SSOS)」というソフトウェアプラットフォームという構想を提案したところ、すごく評価していただき、今では本格的に開発を進めています。
── 加藤さんにとって、“研究”と“開発”では、違いがあると。
そうですね、”研究”は、言ってみると加点法。何かが突出した要素があれば良くて、前進さえしていれば自由度も高く、過程も楽しむことも可能です。
一方で、”開発”は減点法です。どんなに素晴らしい突出した要素があってもどこかで隙やらミスがあったらアウトです。ワンミスをしたら○千万、○億円飛んでいく、〇週間、〇カ月修理で遅延します、といった世界ですから、とてもストレスが大きいですね。ミッション成功の最良の瞬間のためだけにやっているようなものです。開発はしんどいですから、世のため人のためになるんだと信じられるミッションじゃないと私はやってられないです。
「SSOS」も作りましょうということになり、開発の域に入りましたけど、全く同じです。
自分にとって”がちんこ勝負”な
スペースデータでの挑戦
── そんなストレスを抱えながらも、さらに前進を続けているのですね。
「SSOS」は必ず宇宙開発に役立つと信じていますし、何よりもスペースデータが掲げる”宇宙の民主化”に私もすごく共感しています。
実は宇宙機のソフトウェアは例外なくすごく昔ながらのソフトウェアを積み重ねる形で原始的なソフトウェアを使っているんです。
世界で初めてという難しいミッションや、リスクを抑えたい事業者にとって、新しいソフトウェアを入れるというのは色々な面でリスクが高いからというのが理由なんですけど、そういう環境だとなかなかロボットの機能性能を追求出来ず、フラストレーションも溜まるんですよね。
だからこそ、がちんこ勝負で挑めるスペースデータでの開発は自分にとってすごくチャレンジでもあるんです。現段階ではほぼ一人で作っているのでなかなか大変ですけど(笑)、これからもっと仲間を見つけていけると思っています。
後ろ向きな姿勢でいても仕方がない。
前向きに生きるために目指すは宇宙!
── 宇宙事業に辿り着いた経緯を教えていただけますか。
私はもともと、自給自足の生活にずっと憧れていて、高校卒業してから、バックパッカーの旅に出たんです。
本でそういう生活があると読み、クック諸島(南太平洋に浮かぶポリネシアン諸島)に行きました、色々と偶然で幸運な出会いもあり、現地の人のお宅で暮らす機会を得ることができました。
1ヶ月くらいしたある日、滞在先の子供に誘われて島の長の家に遊びに行ったのですが、子どもたちたくさんが集まっているのです。なんだなんだと人波の中心を覗いたところ、なんとそこでみんなでファミコンをしていたんです。
自給自足して穏やかに人々が過ごしているこの場所で?と、かなり衝撃を受けました。
それをきっかけに島の人たちの生活をよくよく聞くと、住民の半分の人たちが外に出稼ぎに行っていると知ったんです。
自給自足に憧れていた私ですが、文明が発達している世の中で、後ろ向きな生き方だけ目指しても仕方がないと痛感しました。
その後、中国やインドなど、他の国も1年半ほど旅をしたのですが、「どうせ前向きに生きるなら、目指すは宇宙だ!」という結論に至りました。
── え、”自給自足”から”宇宙”ですか!?
そうですね、なんか脈略なくてすみません(笑)。でも本当にそういう突発的な思いつきだったんです。
そして、宇宙といえばやっぱりNASAだな、と。
で、NASAを目指して、アメリカの大学に行くことにしたんです。
アメリカでは、当時、月にホテルを作る!と思い込んでいて、それだけの理由で建築学を専攻しました。
在学中に、NASAに突撃インタビューに行く機会があり、研究者と話すことができたのですが、私の描く月面ホテルの話をしたら、
「ホテルを作るのはまだ早い。まず建物よりロボットが必要だ」と言われて。
あ、そうか、ロボットか!と納得して、それで方向転換して、ロボットの勉強を始めました。そうして現在のロボット研究開発に至るんです。
── もはや”天才”という言葉しか見つかりませんが。
いやー、そうなりませんよね?あるのは自由な人だね、楽しんでるね、自分、っていう自覚くらいですよ(笑)。運はとにかく味方してくれていると思っていますけど。
若い頃に、星空に感動したから、とか、宇宙飛行士の話を聞いて感動したから、今この目標に向かってがんばっています、みたいな技術者が周りには多いのですが、そういう人はすごく羨ましいと思ってしまう感じです。
私にあるのは世のため人のため、の心くらいです。今はロボットの研究者、開発者ですが、色々な業種の人と話すなかで、今の世の中、本当にどこも人手不足だという声を聞くので、ロボットがその人手不足の解消に繋げたいです。ゆくゆくはそういうことで世の中に還元していけたらなと思っています。
スペースデータの事業は
自分のエンジンになっている
── スペースデータと関わってみて、どんな感想をお持ちですか。
ひと言で言うと、自分のエンジンになっている、という感じです。
技術者は”包丁一本“みたいなところがあるので、リュックひとつで新しいことにチャレンジしていくところは、私が経験したバックパッカーにも似ていると思っていて。
バックパッカーの場合は、この場所いいなと思っても、することがみつからずなかなかそこに居続けるのは大変だったりするのですが、今の自分にはやるべきことがあり、集中できる環境があるから、すごく有機的に過ごしていますね。
スペースデータでSSOSを作る自分は、そういう意味では居心地がいいです。
あとは人のネットワークがとにかくすごいので、非常にいい体験をしていると思っています。
実は大の読書家。
余白時間はとにかく読書
── スペースデータとJAXAの活動で、とにかくお忙しい印象の加藤さんですが、仕事以外の時間は何をされているんですか。
私は読書が大好きです。実は高校時代は物書きになりたかったくらいなんです。今はとにかく忙しいのですが、できればずっと本を読んでいたいくらいです(笑)
雑食で色々なジャンルを読みますが、最近ハマったのは、養老孟司さん(医学博士)の本ですね。
私の人生の中でもっと早くに読んでいたかったと思えるくらい、人間や日本のことがすごくよく俯瞰でき、好きになれる本です。養老先生は都会と田舎の「参勤交代」を20年以上も提唱しているのですが、現在の都会から田舎への移住ブームを見ていると、これも自然の流れだと思えます。
読書の魅力ですか?改めて問われると余りにも近い存在なので難しいのですが、私の人生の中で勢いというか気持ちが落ち込んでいた時期には、常に読書の時間が不足していたように感じます。
結局、技術プロジェクトも経営も突き詰めれば「人」が考えることであり、それを左右し成否を決めるのは「人の心」一つです。私の場合、当事者として没入しがちですが、読書をしリフレッシュというかリセットを挟んで改めて人の心を持って課題に当たるように心がけています。
スキルより意外性を持っている
プロブレムソルバー
── 宇宙OSを考えるような人ってどんな方なのかと思っていたのですが、人間味が深い方なのですね。
人間味がある人だからこそこういうことを考えるのではないですか(笑)。
常に頭の中に宇宙に対するアイディアが下から積もっているというわけではなくて、ゴールを見たときに突然その道筋が湧いてくるタイプ。
佐藤さんや坂本さんと話している最中に、突然思いついて大きな提案をすることもあります。
解決すべき課題があると、とにかくそれに寄り添って解決策を考えるのが好きなので、”プロブレムソルバー“ではあるかもですね。いわゆる”問題解決者”です。
課題があったときに、論理を組み立てて構想し、ズバッと提案するのが好きというのはありますね。
”宇宙の民主化”プロジェクトは
世のため、人のため──
── 今後”宇宙の民主化”が叶ったら、どんな未来が待っていると思いますか。
もちろん、もっと身近に宇宙を感じるようになると思います。
例えば、リモートワークで「月に行こう」とか、「小惑星で仕事しよう」という未来も夢ではないですね。
人間というのも、赤ちゃんから大人に色々な知恵をつけながら成長しますよね。
それと同じで、マクロの世界では人類も文明もどんどん発達していますし、なんなら宇宙も成長しています。ミクロの世界では自分の中の数多の細胞も成長して自分を大きく成長してくれていると思います。
そして、こういうプロジェクトは”世の中のため人のため”になると思って取り組んでいるので、新しいプロジェクトが続いていけばたくさんの人に喜んでもらえますし、未来を担う子供たちにも興味を持ってもらいたいなと思っているんです。
一緒に”宇宙の民主化”を進めてくれる方、ぜひ私達の事業に興味を持っていただけると嬉しいです。
最後までお読みいただきありがとうございました!次回のインタビューもお楽しみに。
スペースデータでは、様々なポジションで募集を行っております。詳細は求人票にてご確認ください。皆様のご応募を心よりお待ちしております。