ビジョン浸透プロセスを構築する前に ~企業事例から、ビジョンが浸透しない原因と効果的なプロセスを学ぶ~
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企業が自社のビジョンにもとづいて事業を展開し、社内が一体となってビジョンの実現を目指すためには、まず、ビジョンが社内に浸透していることが前提条件となります。しかし、組織内でビジョン浸透活動を担う経営企画部門、社内広報部門などコーポレート部門のご担当者の中には、「ビジョン浸透がうまくいかない」「浸透しているかと言われれば、不安が残る……」と課題を感じている方も少なくないのではないでしょうか。
ビジョンは、ただ掲げさえすれば簡単に社内へ浸透していくようなものではありません。そこで、この記事では「なぜ社内にビジョンが浸透しないのか」「どうしたら効果的に浸透させることができるのか」という点について、私自身の体験と具体的な事例をもとに解説します。
ビジョンが社員に浸透しない理由
ソフィアでは、ビジョンが社員に浸透しない主な理由は次の5つであると考えています。
1ビジョン浸透のゴールが明確になっていない
2施策の目的が「ビジョンの文言を憶えさせる」ことに留まっている
3社員の現状が把握できていない
4ターゲット像が描けておらず、全員に同じ施策を行っている
5施策にかけられるコストや人員が十分でない
以下、一つずつ確認していきましょう。
ビジョン浸透のゴールが明確になっていない
「ビジョン浸透がうまくいかない」という漠然とした相談から話を深く掘り下げていくと「自社にビジョンが浸透している状態」とはどういった状態なのか、企業が目指すゴールを担当者自身も明確にできていない場合があります。たとえ担当者が「目指しているのは、社員がビジョンを理解し、自分事として行動している状態」と認識していても、「では、御社において自分事として行動している状態とはどういう状態ですか?」と質問するとうまく答えられなかったり、同じ企業の担当者同士でもゴールに対する認識に相違があったりするケースも少なくありません。
中には、「変わらなきゃいけない」「今のままじゃだめなんです」「〇〇のタイミングまでには結果を出さないと」など、“ゴールは不明瞭でも期日は決まっている”というケースも散見されます。しかし、行き先が決まっていない状態では、どんなに急いだってゴールに辿り着くことはできないのです。
施策の目的が「ビジョンの文言を憶えさせる」事に留まっている
前項の「ゴールが明確になっていない」こととも関連しますが、“ビジョンを浸透させることでどのような状態を目指すか”が見えていないと、施策の目的が「社員がビジョンの文言を知る、憶える」ということに留まってしまいがちです。よく見かけるのは、社内資料において、ビジョンの文言があちこちでむやみやたらに使われ、ビジョンとはかけ離れた文脈の中で、上層部に話を通すための材料のように使われている状況です。結局、文言だけが独り歩きし、ビジョンの内容に対する社内の理解が進まないままに、社内では「はいはい、ビジョンね」というおなじみの存在になり、社員には「ビジョンの文言は知っている」「内容もたぶん理解している」という認識が拡がってしまうのです。
社員の現状が把握できていない
目指すゴールと同様に、「ビジョン浸透が現在どのような状況で、今後の施策でそれをどう変えていきたいのか」も明確にならないと、適切な施策を行って効果測定することができず、当てずっぽうになってしまいます。ビジョンの浸透を目指すためには、そこへ向かうプロセスも非常に重要です。
現状を把握しないまま不適切な施策を講じてしまうと、良かれと思ってやったことが逆に社員を白けさせてしまうなど、ビジョン浸透施策自体が社員にとって小さな不安・不満を呼び起こす原因にもなりかねません。まずは自社のビジョンが社員の間でどのように認識され、どのような位置づけにあるのか、という現状把握から始めることが重要です。
ターゲット像が描けておらず、全員に同じ施策を行っている
こちらも前項と関連しますが、「全社向けの施策しか展開できていない」ということもビジョン浸透が進まない理由として考えられます。同じ企業の社員であっても状況や意識・行動は十人十色です。これらの違いを把握・考慮できずに会社規模の施策しか講じていないのであれば、課題の解決に向けた有効打とはなり得ません。
全員に対して一瞬でビジョンを浸透できる方法はありません。社内報やポスターで「ビジョンビジョン」と唱え続けていれば、ある日社員が共感して納得して、行動が変わる、なんてことはあり得ないのです。なぜなら、ビジョンがなくても日々の仕事は回るからです。
社内向けのコミュニケーションではなくマーケティングの場面に置き換えて考えてみましょう。例えば、「マイホームを建てよう。マイホームは全員の憧れ」とテレビCMを大量投下したら、あらゆる人がマイホームを求めるようになるでしょうか。欲しくてもお金が足りなかったり、そもそもマンションが良いと考える人、賃貸が気軽で良いと思う人もいますし、テレビを見ない人もいます。価値観や行動様式、その人が置かれている状況によって、メッセージの受け取り方も違えば、その後持つ感情も異なるのです。
施策にかけられるコストや人員が十分でない
ビジョン浸透が進まない最後の理由として、「経営層の理解が得られず、施策にかけられるコストや人員が十分でない」ということも考えられます。担当者の中には、実は以下のような思いを抱いている方もいらっしゃるかもしれません。
- 過去にもビジョン浸透の取り組みがうまく進まなかったり、施策を打っても成果を出せなかったことがあるから過去と同じようなことにはしたくない。でもコストはあまりかけられない。なぜなら、ボードメンバーの中にはこうした取り組みに前向きではなく、「社員なら、ビジョンを理解して当然、会社からの指示があれば行動を変えて当然」と思っている人もいて、ビジョン浸透の取り組みにコストをかけてはいけないと言われるから——。
なぜビジョン浸透が必要なのか。ビジョンが浸透したらどのような状態になるのか。そのためにはどのような施策が必要で、現状の社内はどのような状態なのか。そういった点が明確になっていなければ、経営層がビジョン浸透に前向きになれないのも無理はありません。経営層を説得するには、まずビジョン浸透のゴールとプロセス、そしてありたい姿と現状のギャップを明確にする必要があるのです。
効果的なビジョン浸透プロセスを構築するヒント「ビジョン浸透のゴールを明確にする」
それではここからは、実際にビジョンを浸透させていくプロセスをどのように練ればよいか、詳しくみていきましょう。
ここまで、ビジョン浸透が進まない理由を述べてきましたが、ビジョン浸透施策を練る際にもっとも重要になるのは「ビジョン浸透のゴールを明確にする」ことです。
ビジョン浸透のゴールを具体化し、そこへ向けたプロセスを明確にすることが大切
「ビジョン浸透とは、ビジョンを理解して、自分ごととして行動すること」とはよく言いますが、「ビジョンを理解して、自分ごととして行動する」ということが自社でいうと具体的にどのようなことなのか説明できる人はどれだけいるでしょうか?
たとえばビジョンの中に、「社会と向き合って新しい価値を創出し続ける」というようなワードがあれば、社員に期待することは主に、「お客様、エンドユーザーはもちろんのこと、自分の周囲の人たち、接点のある人たちの行動を観察して、どんな行動をしていて、その背景にどんな考えや無意識の判断があるのかを見つけ出し、それをもとに対話をして、発見したことを社内のメンバーと持ち寄って共有し、ディスカッションして新しい価値のヒントを探し出して、共有したり、形にしてみたり、トライアンドエラーを繰り返す」というようなことではないでしょうか。
ビジョンの文言では「社会と向き合って新しい価値を創出し続ける」という一言のみに集約されていても、その視点をさまざまな部門や職種に向けて具体化してみることが大切です。言葉に具体性を持たせないことには、ビジョンに対関してメンバーと議論をすることすら叶いません。
ビジョン浸透が進まない企業の特徴
ソフィアの経験上、ビジョン浸透が進まない企業の特徴として「社員がビジョンをまったく理解していない」ということもあるのはあるのですが、それ以上に、
- 業務を推進する中で、ビジョンとは真反対な意思決定がされている
- 「ビジョンなんか置いておいて、目の前のことをやれ」と上司から指示される
- ビジョン実現に向けて過去にいろいろとトライしたが、組織内は壁だらけで取り組みが前進しなかったためビジョンなんて何の役にも立たないと思ってしまっている
- ビジョンの存在をよく知らないけれど、「ビジョンがあれば会社は変わるはず」とビジョンを過大視している
といったケースがよくみられます。これらの例を見れば、ビジョンを浸透するためにまず考えるべきことが「社員にビジョンを認知させる方法」ではない、ということは一目瞭然です。まずは経営との対話などからビジョン浸透によって目指す自社の姿(ゴール)を描き、社員に対する調査・ヒアリングなどから現状を把握し、ゴールと現状とのギャップを埋めるためのプロセスを描く必要があります。
社員の体験(エンプロイージャーニー)に着目して、ビジョン浸透プロセスを見直そう
自社のゴールを描き、社員の現状を把握し、ゴールと現状とのギャップを埋めるためのプロセスを描くためには、「エンプロイージャーニー(社員の体験)に着目することがポイントです。
エンプロイージャーニーとは、企業の従業員が社内で遭遇するあらゆる体験・経験を指し、それらを1つの図に落としこんで「見える化」したものをエンプロイージャーニーマップと呼びます。
たとえば、お客様やエンドユーザーに対してコミュニケーションする時のことを思い出してみましょう。コミュニケーションする相手を全部を十把一絡げに考えたり、「とりあえず新聞広告・テレビ広告」、など適当に予算を投下するようなことはしないはずです。それよりも、
- どこでコミュニケーションすれば
潜在顧客の耳に入りやすいか・目に止まりやすいか - どういう情報を記載すれば
商品やサービスへの理解が進みやすいか・共感しやすいか - どういう仕掛けをすれば買っていただけるか・足を運んでいただけるか
など、カスタマージャーニーを念頭に置いて施策を考えるのではないでしょうか。ソフィアでは、社員に対しての考え方も同じで然るべきだと考えています。
ただし、ワンタイムでものを買ってもらうお客様とは違って、社員には何年も何十年も、たくさんの時間と力を貸してもらうという前提があります。そして、質の高い時間と価値を提供してもらうためには、それ相応の丁寧なコミュニケーションが必要です。「社員なのだから、給与を払っているのだから、わかって当然、やって当然」ではないのです。
伝えたい情報を社員の目や耳に届くメディアを使って伝達するだけでなく、社員がそれについて考えたり話したりすることができる機会と時間を提供することが必要です。それによって、伝えた情報を一人ひとりの社員がしっかりと咀嚼できるようにし、もしビジョンに納得して自ら「行動したいと」思う人がいれば会社が背中を押す、というような流れに持って行くことが理想的なプロセスと言えるでしょう。
しかし、考えて話す機会があったからといって、全員の納得感が深まるとは限りません。ビジョンに沿って行動せざるを得ない状態になった結果、あらためてその意味を振り返り、ビジョンと自分の行動を紐づけて考え、ビジョンへの納得感が深まる、ということも大いにあります。それぞれの社員のビジョンに対する意識・行動や、ビジョンの浸透度合いによってプロセスを検討し、ビジョンに関連するさまざまな仕組みを設けながら柔軟に対応していくことが大切です。
ビジョン浸透プロセスの事例紹介
それでは、実際の企業事例からビジョン浸透に関する効果的なプロセスを学んでいきましょう。
ある企業では、ビジョンを浸透させるための取り組みとして、ビジョンについて職場の中で具体的に考え、ビジョンの考え方や業務での活かし方についてディスカッションする機会を年に1回設けています。そのディスカッションのインプットとしては社内報や動画を活用し、ビジョンに関する様々な情報を発信しています。
職場でディスカッションした内容を簡単なワークシートに記入して事務局に提出すると、ビジョン実践表彰にノミネートされます。そして、ノミネートされたチームの中から、部門横断ワークショップへの参加者が選定されます。ワークショップでは異なる部門から集まった社員がチームを組んで、ビジョンに基づいた新しい取り組みを考案し、最終的に経営への提言を行います。
ここまでが取り組みの一連の流れですが、これら各プロセスの実践状況は、すべて社内報で随時発信されます。それと同時に、「ビジョンを実践している取り組みを褒めるツール」を用意しており、職場内で相互に認め合い、称賛しあうことで、ビジョンに対して前向きな印象と姿勢を保ち続ける工夫がなされています。
こうした綿密な取り組みをおこなっているからこそ、同社では新たな事業が生まれ、組織間のコミュニケーションが活性化し、エンゲージメントも高まっているのです。
こちらの記事で、これ以外の企業事例もご紹介しています。ぜひご覧ください。
まとめ
この記事を通して、ビジョンを浸透させること、あるいはそのプロセスを適切に設計することの大切さを理解していただけたかと思います。
繰り返しになりますが、ビジョンを繰り返し伝達するだけでは、浸透していくことはありません。まずは浸透を推進する側が具体的なゴール像を明確化し、そのうえで社員の現状を把握してエンプロイージャーニーマップを描くことが重要です。この記事を参考にぜひ貴社のビジョン浸透プロセスを見直してみてください。
自社に適したビジョン浸透の取り組みにお困りの際は、ぜひソフィアの無料相談をご利用ください。組織内での一貫したコミュニケーションを通して、よりよい社員体験をつくり出すことを目標としているソフィアが、貴社を全力でサポートいたします。