こんにちは!店舗・オフィスの内装プラットフォーム「SHELFY」の鈴木(@shokosuzuki1991)です。
前回の記事『投資額が5年で5倍!シリコンバレーの著名VCが続々投資する建設×ITスタートアップまとめ』が予想以上の反響がありびっくりしたと同時に、「日本の建設業界におけるスタートアップ・ベンチャーはどういう会社があるの?」と聞かれることが増えました。そこで今回は日本における建設×ITのスタートアップ=Construction-Tech(以下:Con-Tech)について書きたいと思います!
具体的なサービス・会社の紹介に入る前にいつも通りマクロなお話から。グローバルで共通している要素については前回記事に詳しく書いたので、ここでは”日本ならでは"の市場特性や商習慣についてご説明します。今回も「すでにある程度知っているよ!」という方は読み飛ばしていただいて構いません。
<注>
※1 本記事に掲載の全ての情報は2017年8月現在に確認できる各社ホームページやSMS含むメディアでの発言、アンオフィシャルな場での関係者からのインタビューを元に作成しています。当事者の方々から訂正要望箇所があれば反映しますので、遠慮無くご指摘くださいm(_ _)m
※2 調達金額や資本金を公表していない会社も多かったので、今回は共通指標として採用できる数字がほとんどありませんがご容赦くださいorz
※3 ここに掲載したもの以外にも、数の関係で泣く泣く紹介を断念したスタートアップも多くあります。もっと知りたいという方はお気軽にコンタクトしてください^^
市場規模
建設業の市場規模は約52兆円(2016年度)。建設経済研究所によると2017年度は公共工事の増加および民間企業の設備投資の活発化により1.3%増の53兆円になるだろうと予測されています。建設市場はすでに自動車産業に次いで日本で2番目に大きい市場であり、その後に医療、不動産、生命保険と続きます。
(市場規模マップより)
市場額の内訳は下記の通りで、特徴としては、
①建築(建物を建てる工事)と土木(道路やダムなどの工事)は建築がほんのすこし上回る
②建築:ほとんどの発注者は民間
③土木:ほとんどの発注者は政府(いわゆる公共工事)
の3つがあげられます。
日本の建設業ならではの4つの特徴
1."ゼネコン"という特殊な存在
ゼネコンという呼び方は英語の"Genral Contractor"からですが、欧米における"General Contractor"は日本でいうゼネコンよりも比較的小規模で、「特定の工事に特化せず様々な工事を請け負う建設業者」という意味で使われます。
ゼネコンのように設計・施工・技術開発の全てを1つの会社が請け負うのは日本独特の仕組みであり、欧米では設計、施工はそれぞれ別の会社が担うのが一般的です。では日本のゼネコンは全てのフローを自社で行っているのか?というとそうではなく、実際の業務は下請企業に発注し、最終品質と納期に元請けであるゼネコンが責任を持ちます。そのため「上位50社のゼネコンが市場の約20%を持つ」=「少数の大企業と圧倒的多数の中小企業」という特殊な市場構図になっています。
2.法的紛争が少ない
建設工事は着工してみないとわからないことが多いため、欧米の建設工事では、受注前にあらゆるトラブルが起きた場合を想定した分厚い契約書を作成したり、支払い形態を設計者のチェックによる出来高制にしたりします。そのためリーガルフィー(法務顧問料等)が高額になり、利益を圧迫するという課題を抱えています。
それに比べ日本では義理と人情を大切にする文化があるからか、基本的に受発注は信頼関係で成り立っています。高額な工事であれば細かく契約書を作成することもありますが、少額工事であればあるほど法的な取り決めや文書は少なくなります。揉めた場合も裁判になることはほとんどありません。
一方で、こういった商習慣は日本の建設企業が海外進出する際の弱みにもなっており、契約やリスク管理、発注者との交渉が苦手ゆえに過去に巨額な損失を出したことが何度もあります。それゆえ現在も大手ゼネコンの海外売上比率は平均15%と低いままになっています。
3.職人のパワーが強い
日本の国土は山が多く、地震や台風などの気象条件も厳しいため、ゼネコンをはじめとする日本の建設会社は耐震、トンネル、橋梁等において非常に高い技術を持っています。そういった難易度の高い現場を支えているのが日本の職人であり、彼らの技術力や納期の遵守などは世界でも高い評価を得ています。
上記に加えて高齢化による人手不足が進んでいるため、たとえ下請けであっても職人たちのパワーバランスは大変強くなっています。例えば発注者であるゼネコンがSaaSやiPadの導入をしようとしても、自社の若い現場監督は使ってくれるが、職人たちは未だにFAXやメールしか使ってくれないという声も多く聞かれます。
4.建設スタートアップの設立ラッシュは2015年前後に集中
ここ数ヶ月Con-Techスタートアップの資金調達や提携をはじめとしたニュースが続いてましたが、こういった会社の設立年度は2015年前後が多く、アメリカのCon-Tech企業が2010年前後に設立が集中しているのと比べると数年遅れで波が来ていると言えます。
最近のCon-Techスタートアップ・ニュース
・『建設業のデジタル化にHoloLens―、小柳建設と日本マイクロソフトが連携を発表』(2017.04.20)
・『建設業の写真管理アプリ「Photoruction」を運営するコンコアーズが1億円を調達』(2017.07.04)
・『VRソフト開発のDVERSEが凸版印刷と資本業務提携、100万ドルを調達』(2017.07.10)
・『建設業界マッチングの「ツクリンク」8500万円調達』(2017.07.26)
日本におけるCon-Tech5分野と主なプレイヤー
それでは本題の日本における建設×ITスタートアップをご紹介していきます。Con-Techのプレイヤーは主に下記5つの領域に分類することができます。海外版とほぼ同じカテゴリですが、日本ならではとも言える"職人コミュニティ"を新しく追加しました。
・マッチングプラットフォーム:発注者と受注者(設計会社や工事会社)を引き合わせる
・マーケットプレイス:建機や工具の売り買い&貸し借り
・職人コミュニティ:職人同士の情報交換の場を提供
・プロジェクトマネジメント:工事過程を見える化し、関係者のコミュニケーションを円滑にする
・測量・設計:設計図と他の情報をつなげ、関係者が簡単にやりとりできようにする
1. マッチングプラットフォーム
工事は単価が高い(数百万円〜数億円)にもかかわらず「完成してみないと質がわからない」ので、ユーザーにとって信頼できる依頼先を探すのは容易ではありません。ここではtoBとtoCに分け、2つのサービスを紹介します。
・SHELFY:店舗・オフィス内装のマッチング
・設立:2014年6月
・ターゲット: 店舗出店者、オフィス改装希望者および内装会社
・コアバリュー:発注者と下請企業を直接つなぐこと
・ビジネスモデル:内装会社からの月額課金
・主要な数字:流通総額120億円(2017/04時点)
住宅領域では「じっくり納得いくまで依頼先を選びたい」というニーズが強いのに対し、SHELFYの対象となる商業領域では「必ずオープン日に間に合わせたい」「出来る限りコストを落としたい」というニーズが強くなります。そのためSHELFYでは「発注者→元請け→下請け」という依頼構造を「発注者」と「下請け企業」を直接つなぐことで、発注者は質を落とさずにコストを下げることができ、内装会社は利益率を上げられるという価値を提供しています。
・SuMiKa:家づくりの専門家とのマッチング
・設立:2013年6月
・ターゲット: 消費者および設計者、工務店、不動産
・コアバリュー:家づくりに関するあらゆる専門業者の紹介
・ビジネスモデル:システム利用料+成約課金(上限50万円)
・主要な数字:非公開
まだまだ新築信仰が強い日本ではリフォームやリノベーションよりも、注文住宅の依頼先を見つけたいというニーズが強くあります。SuMiKaはタマホームとカヤックが共同設立してはじまったサービスで、消費者(施主)は「プロジェクトの依頼」ではなく、「専門家への相談」からはじめられる点が特徴です。サービス開始当初は新築の注文住宅にフォーカスをしていましたが、最近では家具製作などの小規模な案件にも対応したり、小屋の販売や半オーダーメイド住宅を提供するなどサービス領域を広げています。
2.マーケットプレイス
建機や工具は長い間「メーカー→卸→小売」というフローでしか手に入らず、ユーザーは「納期が分からない」「価格が不透明」といった課題を抱えていました。そこにAmazonおよびヤフオクモデルを持ち込んだのが下記の2社です。
・モノタロウ:工具EC
・設立:2000年
・ターゲット:製造業者、建設業者、自動車整備業者
・コアバリュー:納期、価格が不明であった間接資材の透明化
・ビジネスモデル:販売手数料
・主要な数字:年間売上約700億
もはやスタートアップなのか?という突っ込みは置いておいて笑、インターネットのレガシー産業への浸透はECからはじまるという法則どおり、日本のCon-Techにおける老舗といえば間違いなくモノタロウです。それまで価格や納期が不透明であった間接資材(工具やネジ、軍手など)の流通を透明化し、最近ではPB商品等も強化することで、2011年から5年間で売上高が約3倍、営業利益が約5倍という恐ろしいスピードで成長しています。
・ALLSTOCKER (SORABITO):中古建機のオークションサイト
・設立:2014年5月
・ターゲット:日本の建機リース会社、海外の建設業者など
・コアバリュー:納期、価格が不明であった間接資材の透明化
・ビジネスモデル:取引手数料(成約金額の5%)
・主要な数字:非公開
アメリカにおけるIronPlanetの日本版(アジア版)です。日本の建機はアジア新興国で非常に人気があり、同じコマツ製の建機でも日本製と中国製では日本製の方が高く売れるそうです。それまで海外の業者が日本の中古建機を買うためには国内で開催されるオークション会場にわざわざ足を運ぶ必要がありましたが、ALLSTOCKERは決済・物流・鑑定をWEB上で一括提供することで、これまでマッチングが起こりづらかった建機流通の効率化を目指しています。
3.職人コミュニティ
職人と呼ばれる人たちは基本的に一人親方(個人事業主)として働いているか、多くても従業員数名で仕事をしている方々が多く、工事のタイミングによってはリソースのコントロールが難しい(人手が余ったり、足りなかったりする)という課題がありました。その解説を目指すのがこういったコミュニティ型のサービスで、マッチングプラットフォームに少し似ているところもあるのですが、ユーザー同士が勝手にやりとりして進んでいく掲示板型であり、アメリカにおけるCraigslistに近い形態をとっています。
ツクリンク(ハンズシェア):案件情報の交換に特化した掲示板
・設立: 2012年7月
・ターゲット: 専門業者・一人親方
・コアバリュー:無料で仕事や協力会社を探せる
・ビジネスモデル:今のところ全て無料
・主要な数字:登録企業数15,000社
ユーザーは「この仕事に人手が足りない」「この時期にリソースが空いている」「社員を募集している」等の情報を投稿し、見た人が連絡をしてやりとりを開始するという流れです。こういった情報はこれまで知り合い同士の電話やFAXでやりとりされていましたが、ツクリンクを見ているとWEB上でも非常に活発にやりとりが行われていることが分かります。まずは無料でユーザーを集める戦略をとっていることもあり、これからどのようなマネタイズ戦略をとるのかも注目です。
職人さんドットコム:職人のあらゆる仕事をサポート
・設立: 2012年7月
・ターゲット:専門業者・職人
・コアバリュー:職人が必要とするあらゆる情報をまとめる
・ビジネスモデル:基本的に無料
・主要な数字:ユーザー登録数 16000
仕事情報の交換に加え、資格ごとの掲示板や現場でネジや部品が足りなくなったときに買えるお店や現場近くの駐車場を探せたり、高価な工具を防犯登録できたりなど「職人の痒いところに手が届く」をモットーに様々なサービスが提供されています。事実、私も職人の方々から「駐車場やホームセンターを探すのが大変」という声は何度も聞いたことがあり、非常に現場に寄り添ったサービスだと思います。
4. プロジェクトマネジメント
IT業界の方には信じられないかもしれませんが、建設業界ではまだまだ電話とFAXが主流なコミュニケーション手段になっており、関わる人数が多い工事では確認や調整に膨大な時間がかかっています。BtoBのSaaSは独占的なシェアをとるのが難しいと言われており、あのSalesforceでさえCRM領域のシェアは約20%ほどしかありません。そのためこの領域も1社の独占というよりは複数プロダクトの乱立になると予想されています。
ANDPAD (オクト):住宅リフォームの施工管理アプリ
・設立:2012年9月
・ターゲット: 住宅リフォーム・リノベーション業者
・コアバリュー:営業進捗、工事過程、メンテナンス管理を全て一元化
・ビジネスモデル:初期費用10万円+社員数に応じて1社ごとの月額課金(1.8万円/3.6万円/6.0万円)
・主要な数字:契約者数350社
住宅リフォーム工事は工期が短く単価が低いため必然的に1社あたりが抱える件数が多くなります。そこで複雑になりがちな社内および社外での情報管理(誰が何を把握していて何を伝える必要があるのか)をシンプル・簡単にするサービスです。代表を含め建設業界出身のメンバーがほぼいないにも関わらず、徹底的に現場の声を聞いて寄り添うことによって、ここまで現場を理解したプロダクト出せるのはすごいことだと思います。
DandoLi Works:工事進捗管理アプリ
・設立:2013年5月
・ターゲット: リフォーム業者
・コアバリュー: 工事進捗の管理に特化
・ビジネスモデル:初期費用80万円+社員数に応じて1社ごとの月額課金(2万円~7万円)+オプション
・主要な数字:非公開
ANDPADがセルフサーブ型だとしたら、ダンドリワークスは人力営業型な点が最も大きな違いです。導入コンサルや手厚いカスタマーサポートがあるため初期費用を高くとる価格設定になっています。逆に機能面はANDPADの方が多く、ダンドリワークスはあくまで「工事の進捗管理」のみに限定されており、チャット機能等はありません。またITのバックグラウンドを持つ代表が率いるANDPADに対し、ダンドリワークスは長年自社でリフォームを手掛けてきた会社である点など、多くの点で対照的な2社のこれからに注目が集まっています。
5. 測量・設計
この分野は政府が推進しているi-Constructionと重なる部分も多く、人手不足が深刻化する建設業界では官民一体となってドローンやVRといった最新技術を活用して省力化しようという動きが強まっています。
テラドローン:人を必要としない測量サービス
・設立:2016年3月
・ターゲット:ゼネコン、土木工事業者、測量業者など
・コアバリュー:測量・保守点検における
・ビジネスモデル:販売価格非公開(一部レンタルあり)
・主要な数字:非公開
ご存知テラモーターズの子会社として2016年に設立され、多くの大企業とコラボレーションしながらドローンの普及を進めています。土木工事における測量やダムやビルの保守・点検は足場を組んでの目視での確認や高所作業車を利用しての作業など、危険を伴うことも多く、安全確保の意味でもドローンが注目されています。アメリカにはすでにSkycatchという先行サービスがあり、日本からはコマツが出資しています。
SYMMENTRY(DVERSE):VRによる図面の3D化
・設立:2014年10月
・ターゲット: 設計会社、デザイナー
・コアバリュー: Sketchupで書かれた図面をすぐに3D化できる
・ビジネスモデル: 今のところ全て無料(VR機器の購入費をのぞく)
・主要な数字:非公開
SketchUpという数多くの設計者・デザイナーに使われているソフトウェアで作成された図面であれば、クリック一つで3D化→VRで確認することができるというプロダクトです。これまで発注者がデザインの提案を受けるときは、パースと呼ばれる立体的に描かれた図面から仕上がりを想像するしかありませんでしたが、SYMMENTRYを利用すれば完成形がそのまま伝わるため、コミュニケーションの行き違いがなくなります。また創業初期からグローバル展開を見据えて、登記をアメリカで行っているなど今後の広がりが楽しみなサービスです。
さいごに:建設市場におけるITスタートアップの役割とは
こうして見ると多様なサービスが展開されていることがわかりますが、52兆円という市場規模を考えるとまだまだIT関連のプレイヤーは少ないと言えるでしょう。その背景には独特の商習慣による参入障壁の高さや高齢化、ITリテラシーがあまり高くないこと等が挙げられますが、スマホ化・クラウド化の波は建設業界にも必ずやってきます。これから数年の間にもまだまだ新しいサービスが出てくるはずです。
そして、この記事を書いている途中でこんな悲しいニュースが入ってきました。
「五輪・新国立競技場の工事で時間外労働212時間 新卒23歳が失踪、過労自殺」
国交省や日建連、スーパーゼネコンの方々とお話をしてると、どこも週休2日をはじめとした「働き方改革」にかなり力を入れられています。にも関わらず、現場の人手不足は日々深刻化しており、現在のところ業務量が減る兆候はありません。「人手を増やす」ことは簡単にはできませんが、「業務量を減らす=時間を増やす」という意味でITができることはまだまだいっぱいあると考えています。
この52兆円という巨大市場がもつ課題を解決するにはSHELFYというサービスもまだまだ小さい存在ですが、ここで紹介したような他の建設×ITスタートアップとともに、「建設業界で働いている人が幸せになるための解」を考え、生み出し続けたいと改めて思います。
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