成長するスタートアップ・ベンチャーにつきもののオフィス移転。「カッコよく」オフィスをつくったことに自信のある会社は数え切れないほどあるが、「賢く」作ったことに自信のある会社はほとんどいないのではないだろうか。
本日2/24(金)にお披露目となる”シェアリングエコノミー”を体現したガイアックス社の新オフィス "Nagatacho GRID"も当初は見積金額が予算から大幅にオーバーしていた中で、依頼内容を細かく分けて発注先を見直し、約5000万円の費用削減に成功した。
5000万円といえば創業初期のベンチャーの調達額に値する額であり、経営に大きなインパクトを与えることは間違いない。なぜ内装に関する費用はここまで価格が変動するのか?その背景を紐解きながら、ガイアックス社の事例を通してベンチャーが”賢く”オフィスをつくるためのコツを2人に語ってもらった。
■プロフィール
株式会社ガイアックス 代表執行役社長 上田 祐司
同志社大学経済学部卒業。起業を志し、ベンチャー支援会社に入社。1999年3月、24歳の時に有限会社ガイアックス(現・株式会社ガイアックス)を設立。代表執行役社長に就任し、30歳で上場を果たす。2016年1月、一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事、2016年6月一般社団法人日本ブロックチェーン協会理事に就任。
シェルフィー株式会社 代表取締役社長 呂 俊輝
中央大学在学中に漫画の翻訳・アプリ化を手がける株式会社JapanMangaを創業。その後経営企画室リーダーとしてピクスタ株式会社に入社。2014年6月に店舗・オフィスづくりのマッチング・評価サイトを手がけるシェルフィー株式会社を創業。
出社が必須でないのに、オフィスを作った理由
ロイ:まずは今回完成した「Nagatacho GRID」について聞かせてください。地下1階〜7階の屋上まで1棟丸々工事、期間も7ヶ月という壮大なプロジェクトでしたが、どういう経緯で始まったのですか?
上田:ガイアックスは「Empowering People to Connect」とVISIONに掲げている通り、シェアリングエコノミーに注力しているので、働くスペースもシェアやオープンをであることを当たり前にしたいと思ったのがそもそものきっかけです。よって"Nagatacho GRID"は自社のためだけのオフィスではなく、会議室はもちろん、駐車場、自転車、カフェスペースなあらゆるスペースがシェアすることを前提に作られており、多くの企業が入居しています。
シェアするためのオフィスと言っても、余った会議室を誰かに貸すというようなレベルではなく、社内も社外も区別なく全員がくつろぎ、仕事し、交流する空間をつくろうと思いました。イメージとしてはT-SITEが近いですね。カフェも本屋も旅行代理店も境目がなく、シームレスに繋がっている感じです。
ロイ:同じ経営者の立場としてはなかなか思い切った投資判断だなと思ったのですが、オープンなオフィスにすることで会社にとってはどういうメリットがあるのですか?
上田:まずガイアックスは基本的に社員を出勤時間で拘束していません。またクラウドソーシングも積極的に採用しているため、もともと社内外の区別が曖昧です。よって今回のGRIDのコンセプトを考えるうえでは、「なぜ会社に来るのか?」を突き詰めて考えました。そこでたどり着いた結論が、「新たなコミュニケーションが生まれることがオフィスへ出社する価値である」ということです。そこで自然発生的にコミュニケーションが生まれるオフィスにしようと思いました。
コミュニケーションを活性化するのに、ピカピカの設備はいらない
ロイ:毎日社員全員が出社するわけではないのに、決して安くない投資をしてオフィスをつくるという判断は個人的にとても興味があります。実際リモートワークに関しては賛否両論あると思うのですが、ガイアックスではどういった考えの下で運用されているのでしょうか?
上田:たとえば1週間のうち1割だけオフィス、9割をリモートで働くというのは現実問題として非効率だと思います。ただ5割出社、5割リモートくらいであれば、評価とアウトプットががっちり紐付いていれば、そこまでアグレッシブな施策ではないと思いますよ。
ロイ:評価制度への納得度が高ければ問題ないということでしょうか?
上田:評価制度どうこうではなく、「個人と会社の間でアウトプットに対する共通認識がとれているかどうか」が全てだと思います。「このクオーターではここまでやります」ということがお互いにクリアなのであれば、その社員が旅行に行く期間を会社がわざわざ把握する必要はありません。「この会議は電話で参加します」で何の問題もないですよね。
ロイ:時間で社員を拘束することで「雇用されている感」が生まれ、自立心を削いでしまうということですね。独立する人が多いガイアックスらしい方針ですね。
上田:たとえば1人の社員が1年間ほとんど仕事をしなかったとして、会社にとっては痛いとはいえ、所詮は、100人社員がいるとしたら、1/100に過ぎません。ところが、個人のキャリアという軸で考えれば、その個人にとって1年を失うのは致命傷です。独立する・しないに関わらず、「自分はこのままでいいのか」と自主的に考えられる主体性を社員全員に持ってほしいと思っています。
ロイ:そんな風に元から先鋭的な働き方をされていたと思うのですが、GRIDに移転してから新たな変化はありますか?
上田:これまでは打ち合わせといえば会議室で行われることが普通でしたが、社外の人とでもカフェで話すような打ち合わせ形態が増えてきましたね。社内でも給与交渉といったナイーブな話はこれまで閉じられた会議室で行われてきましたが、別に周りも聞いているわけではないし、オープンなスペースで行われるようになってきました。
ロイ:それはすごいですね!ちなみに今回のそういったコミュニケーション重視のオフィスをつくるうえで参考にした場所ってあったんですか?
上田:GRIDをつくる前に、今回のプロジェクトのパートナーであるみどり荘と一緒にポートランドに視察に行ったんです。現地を見て感じたのが、徹底的に自然で、オープンで、フリーで、フラットだということ。コミュニケーションを活性化するのに、ピカピカの最新の設備は必要なくて、居心地のよいソファー、美味しいコーヒー、音楽の3つさえあれば自然とコミュニケーションは生まれるんだと思いました。
ロイ:GRIDではすでに社内外とのコラボレーションも生まれつつあるのでしょうか?
上田:立ち話から「そういえば〜」とコラボレーションが生まれることはめちゃくちゃ多いです。よく社長は社内を歩き回るとよいといわれますが、それがこのGRIDでは会社の垣根を越えて起きます。たとえばちょうど昨日も、コワーキングオフィスのポータルサイトをやっている人がいて、パートナーであるみどり荘を紹介してすぐに仕事が決まったりしていました。
経営にとっての魔物、"デザイン"の費用対効果
ロイ:最近は内装にお金をかけるベンチャーが増えてきましたが、内装にお金をかけたからといって売上が伸びるわけではありません。そのあたり上田さんは費用対効果をどう判断されましたか?
上田:まずオフィス移転をするうえで、もっともわかりやすいコストは賃料です。GRIDの場合は立地に依存するプロジェクトでもないので、まずは家賃が安いのを第一条件に物件を探しました。この物件は永田町駅から歩いてすぐにも関わらず、トイレや廊下抜きで坪1.9万円と破格だったので即決しました。
次にくつろぎやすい空間や、感度の高い人が集まるデザインを考えるわけですが、このデザインやコンセプトといったものが経営者にとっては一番の魔物です。3倍払えば3倍いいデザインになるなら簡単ですが、費用対効果が最も読めない。当社も一番苦労したところです。
ロイ:具体的にどういった点で苦労されたのですか?
上田:デザインは知り合い経由などで4~5社とお話させていただいて、最終的に1社に決めることができました。ただ実施設計や工事といったプロジェクトの全てをその1社に依頼するとどうしても高くなってしまい、困りました。
予算1億円に対して1.8億円の見積...
ロイ:その辺りはプロジェクトのリーダーだった佐別当さんがやりくりされたんですよね?見積り時点ではどれくらいの金額が出てきたんですか?
佐別当:予算1億円に対して、こちらの要望を全て実現するには1.8億円ほどかかると言われてしまいました。そこでやりたかったことをいくつか諦め、様々な調整をして4ヶ月目に出てきた見積金額も1.5億円でした。その時点でスケジュールもギリギリで、すぐに意思決定をしなければならず、どんな奇跡がおきても予算内での完成は無理だと思い、絶望しました。
ロイ:それを伝えたとき上田さんをはじめとした経営陣の反応はどうでしたか?
佐別当:予算を増やさなければいけないという相談をしたところ、スケジュールの延期で対応しようということになりました。ただ、スケジュールを延期したとしても毎月の家賃だけで1400万円以上のコストが発生するので、私としてはどちらの選択肢もないなと。当時仕事が忙しかったのもあって、「オフィスのプロジェクトメンバーから外してほしい」という話をしたのですが、「責任を持って最後までやれ」と言われ、困り果てました。笑
ロイ:そこからどうやって金額を調整していったんですか?
上田:私たちは内装に関しては素人なので、見積金額の総額が安い・高いはわかっても、見積の中身については全くわかりません。ただ総予算が1億円を超えるという大規模なプロジェクトの中で、一般的な相場とかけ離れた価格だった場合は取り返しがつかないという思いがありました。
そこで内装のコストに詳しい人は世の中に絶対いると思って探し始めたのですが、なかなか見つかりませんでした。そのタイミングで元々知り合いだったロイさんがやってるシェルフィーを思い出し、第三者としてプロジェクトを見てもらえる会社を紹介してもらいました。
ロイ:上田さんから依頼が来たときはどの会社を紹介すべきか、実は社内でもかなり議論しました。プロジェクトに第三者を入れるというやり方は欧米では一般的ですが、日本では経験者があまりいないんです。経験とスキルセット、過去に仕事をしたクライアントからの評判なども加味して、1社だけ最適な会社があったのでご紹介させてもらいました。
"第三者"が入って生まれた変化
上田:話を聞いて、予算の1%を支払って第三者にプロジェクトに入ってもらうことで、見積の中身を診断・調整してもらえるのであれば妥当だと判断しました。
佐別当には「会社におけるコーポレート・ガバナンスみたいなものだから、このプロジェクトにおける社外取締役だと思って入れろ」と伝え、そこからプロジェクト全体を見てもらい始めました。
ロイ:プロジェクトに第三者を入れることを社外取締役に例えるのは面白いですね。確かに役割は似ているかもしれません。現場を管轄していた佐別当さんから見ても第三者が入って変わりましたか?
佐別当:当初はプロジェクトにガバナンスを効かせる目的で入ってもらいましたが、プロジェクトの進行自体が行き詰まっている状況を説明したところ、「予算もスケジュールもギリギリだけどまだ間に合う」という提言を受け、PM業務もその会社にお願いすることにしました。「毎日でも現場にくるので、その代わり10月中に全ての意思決定をしましょう」ということになり、発注内容と依頼先、家具の仕入れ方法などをあらゆる点を見直した結果、そこからは嘘のように一気にプロジェクトが前に進みました。
プロジェクトのメンバーも相談できる人ができたことで、コミュニケーション量が圧倒的に増え、追加要望した箇所を除けば最終的に金額も予算内に収めることができました。当社のブランディング・ディレクターのナターシャも「私の思い描いていた夢が全て実現できる!」と体制変更した後の提案書を見て、涙を流して喜んでましたね。
オフィス移転を考えるベンチャー企業に知ってほしいこと
ロイ:内装会社は得意・不得意がはっきり分かれていて、得意分野の仕事かどうかで価格が大きく変わるんです。一番良いのはそれぞれの会社の得意不得意を把握したうえで、作業ごとに分離発注することです。しかしそれを素人の方がやるのは不可能に近いので、今回そういった意味でお役に立ててよかったです!
上田:内装においては「リーズナブルでおいしい投資」ってなかなか難しいですよね。その中でこのGRIDは家具と内装合わせても坪単価が18万円切っているんです。費用対効果という意味ではとても高いものができたなと感じています。
ロイ:それはめちゃくちゃ賢くつくられましたね!通常内装をほとんどいじらないオフィスで、それくらいの相場です。お金かけているベンチャーのオフィスだと坪単価80万円以上なんてこともあります。
上田:一時期はこのプロジェクトもそれくらいになる覚悟をしていました。経営会議でも参加者全員が予算を大幅にオーバーすると思っていましたし、最悪の場合はお金を出せばなんとか着地するだろうという目で見ていました。その予想をいい意味で裏切って、スケジュールも間に合い、良心的な価格でここまでのクオリティのものができて満足しています。
ロイ:それはプロジェクトチームの納得感にも繋がりますよね。もちろん最悪の場合はお金で解決することもできますが、関わった人たちがモヤモヤして終わってしまう会社も多いので。
佐別当:PMの方にファシリテーションしてもらいながら、関係者みんなでどうやったら安くなるかを話し合ったので、チームの納得度はとても高かったです。500~1000万円かかると言われた屋上の工事も、そうして議論することで最終的には300万円まで落ちました。
竣工後、私はインフルエンザにかかってしまってなかなか見られなかったんですが、2週間後にはじめて来たら、もう完璧にオフィスとして機能していて感動しました!
ロイ:オフィスの内装は「内容×会社」の組み合わせが大事なんです。同じ工事会社に依頼しても、使う素材やデザインといった内容によって価格はかなり変動するんですよね。
ベンチャーが内装にお金をかける流れは加速しているので、せっかくお金を使うなら”賢く”つくってほしいし、弊社もそのお手伝いをしていきたいなと思います。
上田:GRIDもシェアオフィスとして、入居者の皆さんにはお金を”賢く”使ってもらいたいという同じような思想があります。今時のベンチャー企業はPCさえあれば基本的には仕事ができるはずなのに、3人が10人になったらなぜかオフィス移転をして内装もやり直さなくてはいけません。それがGRIDなら、サイズの違う30個近い個室があるので、10人に増える時に隣の部屋へ移るだけで済みます。敷金礼金も一切かかりませんし、原状復帰も、住所変更も一切必要ありません。そもそもGRIDにおけるガイアックスの専有面積は2〜3割くらいしかなく、いくつかのチームも前のオフィスに残っており、そもそも本社移転と言えるのかさえ微妙です。笑
それでも投資をして7〜8割は社外の人というビルをつくったのは、あらゆるリソースをシェアして、周りとコラボレーションしながら仕事したいという人に集まって欲しいからです。
ロイ:ガイアックスのシェアリングエコノミーへの気概を感じますね!ベンチャーのオフィス移転は隠れた課題がたくさんあるので、貴重なお金を”賢く”つかうノウハウが広まるといいですね。
■Nagatacho GRID:https://grid.tokyo.jp/
■SHELFY:https://shelfy.jp/
オフィス内装でお困りの方はこちらからいつでもご相談ください:https://shelfy.jp/lp/client