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【インタビュー|大西 倫加】社会に循環をもたらす縁と信頼貯金を積み立てていく『五縁経営』

今回さくら前線では、大西が考える経営についての考え方などを五縁(ご縁)の考え方に基づき聞いてみました

代表取締役社長 大西 倫加(おおにし のりか)

マーケティング会社を経て、2003 年さくら事務所参画。広報室を立ち上げ、マーケティング PR 全般を行い、2013 年 1 月に代表取締役就任。神社めぐり、神代・古代史、オラクルカードが趣味で活字中毒。

当時持っていた経営視点の転換

代表取締役社長である大西は、創業者である長嶋から経営者をバトンタッチされたのちは、それまで持っていたリーダー像や経営視点はさくら事務所での経営では意味を為さないことに気づきます。

それまで大西が前職時代から持っていた経営視点は、優秀さを極めたプレイヤーがリーダーになるような視点でした。さくら事務所の創業者である長嶋も同じようなタイプのリーダーだったこともあり、大西自身も「自分が業績を牽引したり、圧倒的に成果を出せるプレーヤーであることへのこだわりが昔は強くあった」と言います。

しかし、「今は全くそれはありません」と大西はスッパリ言い切ります。もちろん大西はさくら事務所を束ねる経営者なので、最終的には会社で起こる全てのことに責任を負っています。

そのうえで大西が経営者として責任を持つべき点として挙げるのは2つの持続可能性です。

◯ご依頼者に対して持続可能にサービスを提供し続けられる状態を作ること。
◯さくら事務所で一緒に働く仲間にも、持続可能に働き成長を楽しむことができる状況を作ること。

これら2点を達成するために、大西は「自分が圧倒的に優秀で成果を上げられるプレーヤーでなければならない」というかつての考えを捨てました。

なぜ、今までの考え方を捨てたのか。大西はあることに気づいたと言います。

それは自分が優秀なプレイヤーであることに固執すると、自分以上に優秀な人材を育てられないことでした。現在のように優秀な才能を見つけ、その才能が発芽しやすく主役になれる環境を構築するには、今までの考え方を変える必要がありました。

ドラスティックに考え方や自分の価値観を変え、自分にはない才能やスキル、働く仲間がスキルを発芽しやすい環境と機会について考えるようになったそうです。大西自身、最前線よりも後ろから俯瞰するような視点に変えることで、視点の大きな変化につながりました。

例えばスポーツの世界の場合、優秀な選手がマネジメント側(監督)でも機能する場合もありますが、まったく機能しない場合もあります。逆にまったく選手経験がない人が名監督になるケースも最近は多く存在します。

大西はプレイヤーのときとは違うマインドセットに切り替わり経営に向き合っています。他にもテレビ東京から独立した佐久間宣之さんみたいに、自分はプレイヤーでいたいからと会社を辞めるケースもあります。もしかしたら大西も社長ではなく、ずっとプレイヤーでいたいと望んだ展開もあったかもしれません。

大西はそこに対して「正解・不正解はありません。人や業態によっても向き不向きがある」と言います。

この場合、自ら唸るほど売っていた人が中心プレイヤーのまま社長になり数人の社員を抱えるケース。社長自らから売ることはないが、社員に何かあれば社長も一緒に同席して契約を決めるスタイル。 “不動産仲介の業界”では、これがある意味で最もストレスがかからず、早く軌道にのせ楽しく仕事ができる業態です。

この規模よりも大きい規模での会社経営を望む場合、社長は率先するよりも引いた立ち位置になる必要があると大西は語ります。ただ引く立場にシフトすることで、一時的に業績も下がりストレスもかかる場合があります。もちろん育てた人たちが大成するとも限らず、そのまま会社に残るとは限りません。

プレイヤー型経営の場合はサイズ的な限界がありますが、ストレスはかからず、いろんな景況の波にも左右されづらいため、結果的に生き残れます。ただ自分の器以上に何かを広げていくこと、なにより自分がいない状態で自分の想定以上に継続することは難しくなります。


ハードな日々で吹っ切れた経営視点の変化

大西はさくら事務所でマーケティングとPR部門のトッププレイヤーだったため、社長を引き受けてからも、その部門の権限移譲にはそれなりに時間を要しました。

そもそも不動産・建築業界出身でない大西はさくら事務所のメイン業態であるインスペクションや管理コンサルティングのプレイヤーではなく、中心になって活躍してくれる人に仕事を任せていくスタイルをとっています。そのため仕事を任せる人たちに何があれば1番やりやすいか、さくら事務所の業績向上や働き方の最適な形は何か、あるいは才能がどうすれば伸びやすいのかを考え、構築・支える側に回りやすい立場でした。

実は大西がさくら事務所の社長を引き受けると決めた当時、今とは別の方向性も選択肢としてありました。大西曰く「社長を引き受けたのは、まだ年齢的に40歳手前だった。不動産・建築業界も10年間研鑽を積んだ後だったので、自分も何らかのライセンスを取り、コンサルタントをやりながら会社を経営をする選択肢も年齢的にはギリギリまであったから迷っていた」と言います。

ただ現在の方向へ判断したのは、もともとの社長交代の経緯もあり、これまでと同じトップダウンのスタイルでは、業界経験の浅い若い女性経営者が一流然としてトップダウンの形を取ったとしても、反発が大きくなるだけと判断した結果でした。

その点について大西は「当時の組織の状況を考えると、それまでの完全な逆張りに振ったほうが、一定の成功確率がまだあるだろう」と考えていたそうです。

現在の経営スタイルになったもうひとつの要因は、当時のさくら事務所のスタイルにも大きく関係します。当時も今もさくら事務所は業態的に専門家がたくさんいます。専門家が専門領域をやっていれば、当然専門家以外のゼネラリストと呼ばれる人たちでカバーするべき領域は広範囲になります。そのためそのカバーすべき広い領域を、最初は大西があるとあらゆる領域、要はバックオフィスが置けない領域を全てカバーするほうが効率が良かったのです

さらに大西が社長を引き受けた当時、まだ社内ではマイノリティだった女性社員たちの比率を高めるため、ライフスタイルの変化があっても継続できるように働き方の転換を勧める必要がありました。1日数時間だったり週4日の働き方など、多様な働き方について許可を出していった結果、その転換で生まれる足りなくなる部分はすべて大西がカバーしました。つまり社員にやさしい職場になる一方、大西自身はハードワークに陥ったことも、これまでの経営に対する考え方を転換するには十分過ぎる経験でした。

大西自身「もし過去にもう1回戻ったとしても、同じように動くだろう」と当時を回想します。しかし、当時は物理的なキャパシティを越え、本当に無理だと思いきらないと今の経営スタイルはなかったと言います。それが大西自身の「もっと手放せるようになった」きっかけになりました。


五縁経営とは―そもそも縁をどう捉えるか

さくら事務所を体現する言葉に「五方よし」があります。大西がさくら事務所に合流したころ、まださくら事務所は理念だけありました。ちなみに現在の理念「人と不動産のより幸せな関係を追求し、豊かで美しい社会を次世代に手渡すこと」は、大西の役員就任後にもともとの理念を進化させたものです。「五方よし」の概念は、理念を具体的な行動指針に落とし込めるような規範として作られました。

「五方よし」はひとつひとつの仕事が自分や会社だけだと一見良さそうに見えるものを、ご依頼者だけではなく、五方(自分・依頼者・会社・業界・社会全体)すべてのバランスがしっかり取れている必要があります。

大西が会社を経営するうえで大事にしてきたもの、それはいわゆる因縁です。大西曰く「この世には不思議で説明のつかないご縁があり、私たち自身がそのご縁に生かされている」という中で、さくら事務所はいろんな方面、五方でのご縁<五縁>に恵まれてきたこの20年だったと言います。

日本ではまったく馴染みがなかったサービス(ホームインスペクション)を、創業者である長嶋修が理念1つで始めたとき、業界の中にはあまた敵視する人たちがいました。さくら事務所は数多くの嫌がらせを受けながらも、それ以上に実は業界の中には、さくら事務所の仲間にはならなくても「応援します」とか「共感します」、「いつか日本にも必ずホームインスペクションが大事になるときが来る」と言ってくださったり、メディアでさくら事務所の活動を取り上げてくださるようなステークホルダーの方々がいました。

これらも全て五縁に恵まれた結果だと大西は言います。いろんな形で見えない応援、信頼という資産をいただき、それを担保に事業をしてきたようなものであるとも。


どうにも説明がつかないようなご縁に支えられてきている

大西は「目の前でお金になる、取引になるだけじゃない、見えない形での信頼を裏切らないこと。もらった期待や応援をそれ以上の形でできるだけ還元したり、誰かに手渡していくことで、長く20年以上も事業をそれなりにコツコツと続けられた」と振り返ります。

さくら事務所が手掛けるコンサルティングは、基本的に”今目の前で”買うか買わないか、いつ買うかに関わらず実施します。その結果としてコンサルティング自体、”今は必要がない”可能性もあります。

しかし、今目の前でコンサルティングが必要ではないご依頼者の相談に対して丁寧に応対することで、”目の前の瞬間”だけでは会社にとって大した収益にならない関係でも、そこからのご縁で、応対したご依頼者自身が、さくら事務所を信頼できる、いろんな意味で親身になってくれる場所だと感じてくれたら、ご依頼者の周囲にさくら事務所の話題が拡がります。

そうすると結果的に、噂を聞いた人たちがご依頼者として来てくださる可能性があります。それは”目の前の瞬間”で掛けたコスト以上に、周囲にも感動を味わってもらえると言えます。

仕事や事業の時間軸だけで目の前の相手を対象としてフォーカスすると、そこでは一見損が込んでいるかもしれません。しかし実際はわらしべ長者みたいに、後へ続く時間軸もあり、その”目の前の相手”とは違う方向から、何らかの応援やその原資がもたらされることがあります。大西曰く「さくら事務所は他生の縁で何かしら結ばれていたと思うような不思議なご縁」に導かれてきました。

縁に恵まれる秘訣としては特別なことはありません。目の前のご縁1つ1つに対して、どれぐらい50/50なのか、Win-Winなのかも考えず、 ただ目の前のその縁を大切にすることが、結果的ににわらしべ長者のようになるその過程を大事にしたほうがいいわけです。

ただこの良縁を紡ぐスタンスも、頭では理解していたとしても、実際にすべて同じような行動を取れるかと言えば、そうではないケースもあり、特に年齢が若いときは難しいことが多いのではないでしょうか。

その問いに対して大西は「若いときにそれを自覚的に思えていたかどうかは別として、目の前のごく短期的な損得や因果関係にこだわらずにいる。自分自身がずっと、どうにも説明がつかないようなご縁に支えられ助けられてきたから」と言います。

「明らかに私にそこまで親切にする義理も何もない縁の人たちに機会やチャンスをもらい、稼いだ時給以上の自分がその当時飢えていた愛や居場所を与えてもらった。自分がこの道で行くと食べていけるんだって才能や能力の発芽だったり、あるいは成長や楽しみを見出せたりと」と。

つまり目の前で向き合ってる人との取引で、50/50であろうとか、損得を取り返すような考えはしません。既にこの世界でもう自分は通りすがり含めいろんな人から恩恵を受けている前提でいれば、あらかじめ受けた計り知れない恩恵はもう直接は返せません。だから恩恵の起点がどこなのかを考えるよりも、これは循環・巡りの話と捉え、厳密に1つ1つの因果関係の中に閉じなくていいと、大西は巡る縁の在り方について捉えています。


利他とは究極の利己

ここまでの話、文字にすると「利他」の精神に通じますが、大西は「利他」とは究極の「利己」だと言います。

なぜ「利他」が究極の「利己」なのか。大西は何か見返りを求めるためにやっていないと前置きをしつつ、それでも結果的にどう考えても説明がつかないほどの恩恵を受けてきたと言います。恩を返せば返すほど、どこかで全然知らない誰かから、必ずそれ以上に返ってくるそうです。

大西曰く「人生の最初に返すべき借金があると思うぐらいそれは元々もう与えられている」と。つまり「利他」とはそれを返していくので、結局自分のためになると。詰まるところ、もはや誰かのためというわけではなく、究極的には自分がしたいから(利己的に)やっているんじゃないか。

大西がこれを利己的だと定義するのは、その行為自体、自分がやりたいことを勝手にやっているが、結果的に周囲のために作用していればいいと考えているからです。

大西のスタンスは、すでに受けた恩恵をすべて受けた相手に返せるわけではない分、自分がやりたいように振る舞った結果、自分の行動で誰かに返せているものがあったり、同じように恩義を感じる人が生まれ、それが循環するような契機になれば幸せなんじゃないか、という一貫性があります。


いかに信頼貯金を積み立てていけるか

「若いうちは何でも抱え込みがち」ではという問いに対して大西は、自分もまったくそうと同意しつつ、月日を経てどう考えても自分の努力だけでここまでにはならなかったと実感できたり、人のご縁、神とのご縁、目に見えないもので、自分自身が見えない貯金をしているような感覚に気づいたと言います

そのいわゆる信頼貯金は、例えば目の前のたまたま巡り合えた人に、 無条件かつ無私でできる限りのことをします。そうすると目の前の人との因果関係は物理的な金額や労力でいくとマイナスかもしれません。でもそれが大きければ大きいほど、見えない額の貯金が積み上がっています。

その貯金通帳は目の前の人との間にあるものではなくて、自分と自分を取り巻く社会全体の信頼貯金の通帳です。

大西が経営でずっと意識していることは、ありとあらゆるステークホルダーと、あらゆる方面の五縁に対して、いかに目先の因果の損得ではなく、見えない貯金をじりじりといつまでも積み上げられるかだと言います。そして積み上げるだけじゃなく、必要なときにその蔵を惜しみなく解放し必要なところへ手渡すことも。

もちろん経営者としては見える部分のキャッシュフローにも最大限気を配り、見える分での分配もすることで社員たちも豊かにします。「心だけ豊かだね、見えない貯金が積み上がったよ」では分かりづらいと大西は言います。

その上で「毎年見えない貯金が必ず増えてる状況を作り、1期終えられているかを意識しているかな」と。

大西「私が最後、次の世代にまた手渡していけるものがあるとしたら、信頼貯金の通帳ごとごっそり置いていくことぐらいしかできない」


一緒に働く人たちに持っていてほしい「尊敬」

大西はまず一緒に働く人たちへのリスペクトの重要性を説きます。そして仲間を「好きになれ!」ではなく、互いにプロフェッショナルであるという誇りとリスペクトがあれば、別にお互い好きではなくても仕事は出来る」と言い切ります。

好きではなくても尊敬はでき、みんな誰も敵わないような素晴らしい部分を、人は必ず1つは持っています。ただここで言いたいのは、人は自分の中にある世界でしか外側は見出せません。

例えば美しい花を見た時に美しいと感じるのは、”その花が美しいから”ではなくて、自分が花を見て美しいと思えるほどの感性があるからだと大西は言います。それはつまり、自分が尊敬できるものを相手に持っていない限り、一緒にやっていく仲間を尊敬して仕事をすることが出来ないわけです。

大西は仲間と分かち合う最も大事なものについて、自分が知っている範疇の外側へ出ることで、一緒に大事なプロジェクトをやっていこうと思う仲間たちに対して、何かしら尊敬に値する部分を見出せること=それが自分の中にもあることを理解することだと言います。

大西『私がよく言ってるのは「世の中に自分よりすごいやつはいない」と言う人は、 残念だけどその人の中にまだ、他者に素晴らしい美しさを見出す部分がないだけかもしれない、ということ』


尊敬してもらえる居場所感の重要性

最後に大西は「まず人のことを尊敬してほしいし、人の尊敬できる部分を見つけることが出来る自分の目と心の美しさを誇ってほしい」と言葉を締めくくりました。

「あの人はここが美しい」「この人のこの才能が素晴らしい」「この人はこんないいところがある」と、他者の素晴らしい才能を見つけられるということは、同じものが自分の中にもあるとイコールなんです。だから仲間を見て心から尊敬できるポイントをいくつも見出せるような自分自身を、自分で誇ってほしいと願っています。

そういうチームだとお互いに称え合いながら、お互いの美しいところを羨ましがり、認め合いながら、さらに自分の中の人を見て美しいと思う部分を拡大することが可能です。すると自分自身がさらに豊かになり、周りにいる仲間から、 あの人はいつも仲間の素晴らしいところを見出すから一緒にいて楽しい、美しいと賛辞されるようになります。

誰かから尊敬されている居場所感があればあるほど、自分の潜在能力をより一層、開化させられます。半年後、さらに1年後にはその時の自分が想像している以上の地点に立っているはずです。だから加速度的に仲間と自分を進化させていける環境を、自分自身で作っていけるはずです。

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