わたしは33年間、自分を一度も疑ったことはなかった。いや、正確に言えば、疑う必要さえなかったのだ。
いま振り返ってみれば、それはすごく幸せなことだったのかもしれない。自分と似たような考えの人に囲まれ、自分の見ている世界の小ささに気がづくことさえなかったのだから。
1on1ミーティング
わたしが所属するさくら事務所は、半期ごとに1on1をする。普段からメンバー全員が忙しく動き回っている中で、しっかり時間を取って半期を振り返り、次の半期をどうしていきたいかの話をする時間はとても大切だ。
1on1のメンターは社長や役員が担当している。今回、わたしのメンターは社長の大西さんが担当するようだ。大西さんと話をする時間はすごく楽しい。
大西さんはサブカル好きなので、いま読んでいる漫画の話ですごく盛り上がれる。最近はキングダムや鬼滅ネタが多く、大西さんの口からはここ半年で「全集中」というワードがよく出るようになった。今度の1on1ではどの漫画で盛り上がろうか、ワクワクしていた。
社長からの質問
そんなこんなで楽しみにしていた1on1。場所は会社近くのちょっとシャレたお好み焼き店。大西さんが肉好きなことは知っていたが、わたしの好みを優先して勝手にお好み焼き屋を予約しておいた。粉もの最高!
コースを頼んでいたので、こちらから頼む必要はない。前菜や副菜がどんどん運ばれてくる。
1on1ではどの漫画の話で盛りあがったのかすっかり忘れたが、「たむはこの先どんな人になるのが理想なの?」と聞かれ「いまはあえて理想を抱かないようにして、自分の感情に素直に生きたいと思っています」と答えたのは覚えている。我ながらクールでキマった回答である。
こんな感じで、いつも大西さんとの1on1は、自分の中の言葉になっていないモヤモヤ、本心を引き出してもらえるからとても楽しい。
そしてお好み焼き
順調に1on1がすすみ、次の半年、自分がどんな役割となりチームメンバーとなにをやっていくのか、みたいな話をすすめていたころ、店員さんからメインメニューを選んでほしいと声がかかった。
ここはお好み焼き屋、当然メインメニューはお好み焼きである。広島や岡山で育ったわたしは小さい頃から近所にお好み焼き屋さんがあったし、母がよくお好み焼きを作ってくれたこともあり、自分が理想とするお好み焼き像がくっきりある。ここのお好み焼きはパーフェクトとは言えないものの、十分満足できる味だ。
と、その時、わたしは信じられない言葉を耳にする。
「お好み焼き、マヨネーズ抜きで」
お好み焼きの歴史
ウィキペディアによると、お好み焼きの存在を裏付ける最古の記録は以下の通りである。
1931年-1932年(昭和6-7年)ごろ - 銀座裏のお好み焼き屋が風俗上の理由で摘発される。「お好み焼き」および「お好み焼き屋」の存在を裏付ける最古の証言。
当時のお好み焼き屋は飲食屋さんではあったが、その本質は男女に出会いの場を提供するちょっとイカガワシイ場だったのだ。
一説によると「「お好み焼き」は当時の東京の花街において、座敷にしつらえた鉄板で客が自分の「好み」に焼く風流な遊戯料理として誕生した」らしい。
まて、完全に女性社長とランチに行く場所ではなかったのではないか…!?
その後のお好み焼きはみなさまご存知の通り、東京から関西や広島に伝わり(諸説ある)、庶民の味として親しまれるようになっていった。
と、ここまで書いておいて、わたしはいま困っている。
何に困っているかって、「この話の落としどころを失った」ことを、たったいまウィキペディアで知ったからだ。
書き始めた当初は、「お好み焼きにマヨネーズをかけないなんて信じられない」ことを強調し、お好み焼きにマヨネーズがいかに常識であるかを語り、社長がいかに変な人なのかを語るつもりでいたのだ。
だがしかし、ウィキペディアにはこうあった。
マヨネーズ
最初に使用したのは大阪市の「ぼてぢゅう」で、昭和28年のことである[38]。昭和40年代から大阪を中心に普及し、後に全国的に広く使われるようになった。
マジかよ!!お好み焼きって、もとはマヨネーズかけてなかったのかよ!知らんかったよ!!!
うちの社長はやはりすごい。メンバーとお好み焼きを食う、ただそれだけなのに「自分の知見だけで物事を判断しないこと」「お好み焼きのダイバーシティ」「人をディスらずありのままを受け入れる」ことの大切さを気づかせてくれた。お好み焼きを食っただけなのに。
社長の大西とマヨネーズ抜きのお好み焼きを食べてみたい方は、ぜひさくら事務所のメンバーになりましょう。新たな気づきを得られることをお約束します。