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ブレストより沈潜(ちんせん)。

スタートアップスタジオquantumのクリエイティブ担当役員、川下です。
新規事業開発を成功へと導くために「未来の物語」を書く事業作家として働く中で考えていることを、このnoteに書き留めています。


前回まで、新規事業開発において「未来の物語」を書く上では広告の創造技法を応用することができるが、広告制作と新規事業開発においては求められる「未来を想像する力」の種類が異なる、ということについて書いてきました。

広告制作においては、短期間なインパクトを生み出す「発想」が重要ですが、新規事業開発においては、その事業がどのように利用され、どうすれば成長していくか、といった長期的な視点も含む「妄想」が重要、というのがわたしの考えです。


そこで、今回は未来の「妄想」をふくらませていく上で、その種となるアイデアを生み出す方法について書きたいと思います。

よく知られたアイデアの生み出し方に、「ブレイン・ストーミング」略して、「ブレスト」というものがあります。「三人寄れば文殊の知恵」という言葉があるように、複数の参加者が集まって自由にディスカッションを行い、アイデアをどんどん出していくことで新しい考え方や解決策を見つける手法で、実際に仕事で活用されている方も多いのではないでしょうか。

広告会社時代から現在に到るまで、わたしもこれまで数えきれないほどブレストに参加してきました。しかし、実を言うと、わたしはブレストの効果に対して懐疑的です。正確に言えば、ブレストによって多角的なものの見方や意見を取り入れることができる点は有益だと思っています。しかし、わたし個人の経験を振り返ると、ブレストを通して誰もがうなるようなブレイクスルーが生まれた経験がないのです。

では、どんなときに周りがあっと驚くようなアイデアが生まれたのか。それは、いつもたったひとりで沈潜(ちんせん)している時間でした。企画の仕事をするようになって間もない頃は、「アイデアが降ってくる」という言葉があるように、よいアイデアにたどり着くためには偶然のひらめきをしぼり出すしかないと思っていました。ところが、長年企画の仕事をしていると、何となくアイデアのブレイクスルーが起きる感覚がわかるようになってきたのです。

それは、脳内にシャーレ(培養実験で用いられるガラス皿)があって、ある要素と別の要素が融合して、これまでになかったものが生まれるような感覚です。ブレストのように複数の人が次々にアイデアを出すのを聞くことや、その場に自分のアイデアを出すことに意識を注いでいる中では生まれにくく、ひとり時間に深く潜ることで生まれる感覚であるというのが、わたしの持論です。

かつて中国・北宋の文人、欧陽修(おうようしゅう)は、その著書『帰田録』に「余、平生作る所の文章、多くは三上に在り。 乃ち馬上・枕上・厠上なり」と記しました。つまり、文章を考えるのに最も都合がよいのは三つの場面である。それは、馬に乗っているとき、寝床に入っているとき、トイレに入っているときだというわけです。なるほど、わたしの場合もズバ抜けた(と自分でも思えるような)アイデアが出るのは、ひとりで歩いているときや、ひとりで入浴しているときがほとんどであるように思います。

新規事業開発の世界でも、「ブレスト」や「ワークショップ」という手法は非常に一般的で、先に書いた通り有益な点もあるとは思いますが、ブレイクスルーしうる圧倒的なアイデアを出し、そのアイデアをもとに未来の物語をふくらませるためには、とことんひとり時間にもぐって「妄想」をふくらませることが鍵を握るとわたしは考えています。

とはいえ、単に時間だけ使ってひとり頭をひねっても、いいアイデアなんて出てこない、と思われている方もいらっしゃるかもしれません。

ということで、次回はアイデアを生み出す方法について、さらに具体的に紹介していきたいと思います。

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