こんばんは。学習塾STRUXで塾長をしている橋本です。
STRUX大学受験マガジンというウェブサイトを運営しているのですが、そちらで書いているコラムから定期的に記事を持ってきて、コメントを付け加えて行こうというコーナーを隔週くらいでやっています。
今回はタイムリーな「共通テスト記述式試験」について。
先週からぽつぽつ「延期にしようかな」的な話が漏れ聞こえていたので、先週の記事で少し扱っています。
その記事を引っ張りつつ、「何が起こっているのか?」というところを「そんなに情報キャッチアップできてない!」という人向けに書いていければと思います。
記述式見直しまでの経緯
もともと先週の記事で、こういったのが出ていました。
大学入学共通テストに導入される記述式問題について、文部科学省は、現状では、採点に関する課題の解消が難しいなどとして、再来年1月の実施を見送る方向で調整に入りました。
……
現状では、採点に関する課題の解消が難しいなどとして、再来年1月の実施を見送る方向で調整に入り、来週にも萩生田文部科学大臣が、方針を明らかにする見通しです。
12月12日のこの記事ですね。
11月に「大学入試英語成績提供システム」、いわゆる民間試験の一括導入が見送られたばかりでしたが、もう一つの目玉である「記述式問題」についても、近々見送りの方針(そうでなくても何かしらの再検討)がされる、とまとめていました。
一方、問題の難易度を大幅に下げるなどして採点基準を明確化することや、記述的要素を残すような問題構成についても、検討しているという。
共通テスト記述式導入見送りへ 文科省が最終調整 来週発表(2019年12月12日付)の記事は産経からですが、問題の難易度が変わろうが採点が大変であることに変わりはないですし、基準が明確になるほど難易度を下げた記述式問題なんてほんとに「記述式」である意味があるのか謎なわけですから、基本的には見送りの方向で動くものと思っていました。
さっさと決めてくれって感じで静観していたのですが、思ったより早く発表が出ました。
記事によれば
今後、共通テストに記述式を導入するかは「期限を区切った延期ではない。まっさらな状態で対応したい」と説明。導入断念も含めて再検討する方針だ。
20年度の実施を見送る理由では採点ミス解消の難しさなどを挙げ、「安心して受験できる体制を早急に整えることは現時点では困難」と述べた。
ということ。無期限の延期というところで、そもそも諸問題の解決の見通しが立たなくなってしまったというところは大きいんでしょう。
諸問題というのは、
萩生田氏は「採点ミスの完全な解消」「自己採点と実際の採点の不一致の改善」「質の高い採点体制の明示」の3点について、現時点では困難との報告が大学入試センターからあったと説明。「課題を解消できる時期を示すのは現時点では難しい」ため、無期限で導入を見送るとした。
の部分ですね。
「採点ミスの完全な解消」
まあこれは人間がやる以上どう頑張っても「完全な解消」にはなりえないとは思います。最大限の配慮をすることはできても、採点するのは一般人。国立の2次試験のように大学教授やある程度の学力を担保した人に質を揃えることができないため、なかなかこの規模でやるのは難しいのではないでしょうか。
採点ミスの「完全な解消」は無理な話にしても、改善に持っていくのであれば「納得の行く採点体制にもっていく」ことが必要なはず。そこもできなかったという点のほうが大きそうですね(3つめの問題)。
「自己採点と実際の採点の不一致の改善」
ここも正直、ある程度仕方のない部分はあるとは思います。ただ、あの手の記述式問題で、そこまで採点項目が細分化されていないかんたんな問題ではあるわけなので、単純に要素を満たしているかどうかでならだいたいの自己採点はできるはずなんですね。
そうなるとやはりこれも、「採点において表記の揺れがどの程度得点に影響するのか」「いくつか表現を挙げているが、この表現だとどうなのか」といったたくさんのパターンに対応しきれないという採点側の問題に収束しそうな気がします。
「質の高い採点体制の明示」
ここが一番問題だと個人的には思っているところです。
共通テストの「採点」については、これまでも様々な問題が指摘されてきました。
そもそもベネッセの子会社が落札している時点でどこまでその信頼性が保たれるのか?というところだったり(そのベネッセが「共通テスト採点業者です」を謳って自社商品売ろうとしてたんだから最悪です)、今までものすごく厳重に大学入試センターで囲ってきた問題・採点についての守秘義務をどこまで守れるのか・情報漏えいが起きないかが心配されていたり、採点はバイトでどういう人がどういう基準で選ばれて採点をするのか不明瞭だったり。
このように規模を拡大するような改革をする以上運営の一部を民間企業に委ねるのが仕方ないにしても、ほとんどすべての大学受験生が利用する入試制度に対して利益を第一に追求する民間企業がメインで入り込み、質が低下してしまうことは問題です。
先程もちらっとお伝えしたように、採点ミスが起こってしまったり、採点基準にゆれがでてしまったりすることは(極力抑えることはできるにしても)完全になくせないと考えています。だからこそ、納得できる形での採点体制が整えられなかったことは大きな課題ではないかと考えています。
仮にも2〜3年間、考える猶予はあったわけですから、そのなかでどうすれば公平かつ機密性の高い採点体制を明示できるのか探り、決定することはできたはずです。
記述がなくなってもいいの?代替案は?
さて、結局「民間試験」も「記述式」もなくなり、改革の大きな柱を失ってしまったわけですが、共通テストの問題自体は今までのセンター試験とはそれでも多少違っているわけです。
先述の記事でも触れているのですが、より実用を意識した問題が増えており、ちょっと解きにくくなっている印象です。英語の試験も「筆記」から「リーディング」になり、時間がシビアになっています。
肝心の記述式の箇所ですが、そもそも国語においては「200点とは別」の点数としてカウントする形なのでそこが消えただけです。そもそも記述で出そうとしていたものも、文章をそのまま抜き出せるような状態になっていたり、字数制限がガバガバだったりと、国公立向けの対策をしている人からしたら「なんじゃこりゃ」というような問題が多かったわけです。
本文
出典:平成30年度試行調査
正直この程度の難易度であれば、そこまで文章も長くないわけですし、問題文には「文章IIの内容をもとに」とあるわけですから、ただ単に「根拠の場所を探」して、「空欄を埋めるのに必要な論理関係を掴む」ことが大事になるわけです。
「穴埋め」という作業は記述ならではですが、「根拠の場所を探す」「本文の論理関係を掴む」についてはこれまでのセンター試験でも十分問われてきているわけですし、事実ただ選択肢を比較して消去法で解くような解き方では高得点が狙えないような設問になっています。
となると、もはや記述によって変わるのは「ヒント無しでその根拠を探せるかが問われるようになる」のと「単純に問題形式が変わる」というだけでしかないんですね。
もっと難易度が高い文章や、設問がシンプルなものであれば記述式のメリットがより増えてくる(より精密に本文の論理構造を理解する必要があるなど)のですが、これだけヒントが出されていると、正直選択肢式のときと対して変わらない、ただ記述を入れたいから入れたような問題になってしまいます。
まあ、採点基準を決めたいとか、なるべく答案がぶれないようにしたいとか、問題に対して文句が出ないようにしたいとなると、どうしてもそのレベルに落ち着いてしまう感じですかね。
せっかく記述式問題にしているのに、その利点をあまり活かせない状態では、ただ記述式を導入してコストだけがかさむような制度になってしまいます。
事実、ほとんどの国公立大では記述式問題が出題されているわけですし、私大にも記述式を取り入れようとしているところは増えてきているわけです。「共通テスト」はあくまで基本的な情報処理力と知識が身についているかどうかを確かめるためのものにとどめ、各大学が記述式や多様な入試形態(学校推薦型・総合型選抜)を取り入れやすいような仕組みづくりをしていくほうが建設的であるように思えます。そもそも「各大学が求める人材を獲る」ための入試制度ですから、「思考力・表現力」などまとめて測って指標にするのが難しいものに関しては、各大学の制度に委ねるのが自然でもあるわけです。
で、表現力やら思考力は、入試で問いたければ各大学が問えばいいし、そうでなくて国としてすすめるなら高校教育・大学教育のカリキュラム部分にこそメスをいれるべきで、【学習を測る部分を変えることで身につける能力を変えようとするのは都合が良すぎる】と考えるべきなのではないでしょうか。
「何かを変えたい」になってしまうのは霞が関の性としてあるようですが(結果が出る前に異動が入ってしまうなど)、それだけで受験生が転がされるのはたまったものではないです。
つらつらと書きましたが、逆に言えばこれで受験生は「基本的には今まで通りの勉強を続ける」方針がベストになってきそうです。もちろんリスニングの配点が高くなったり、詩歌が出題されたりというところで相応の対策が多少増えることはありますが、それは「傾向に合わせる」話であって、基本的に身につけるべき能力は変わっていないということは頭に入れておいてほしいです(本当は今まで以上に「表現力」「思考力」を問いたいのが入試改革の原点であるのですが、問題を見る限りそれは難しそうです)。
……とまあこんな感じで書いていきましたが、これでだいぶ入試については確定事項も増え落ち着いてきたのではないでしょうか。今後書籍やメディアの中でもこれらの情報更新を含めて記事制作・内容精査に入っていきます。
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