競合ブランドがひしめく市場において、いかにしてターゲットに商品・サービスを手に取らせ、購入してもらうかは、企業の課題となっている。ブランドコミュニケーション部長の吉田健一は「ブランド構築への適切なアプローチこそが、有効な解決策」と言う。どのようなアプローチがどのような効果に結びつくのか、前後編でお届けする。
――まず、ビジネスにおいて「ブランド」とはどのようなものと考えるべきですか。
吉田 日本の企業経営では、1990年代に「ブランド」の概念が本格的に重視され始め、すでに四半世紀が経とうとしていますが、いまだ外来語としてのカタカナ語「ブランド」が使われています。これを一言で表す的確な日本語訳がないことから、現在においても、本当の意味では浸透しきれていないのではないかと思います。人によって、それが何を示しているかも、ずれているかもしれません。
「ブランド」とは、ヒト、モノ、カネ、情報に次ぐ、企業と、顧客をはじめとしたステークホルダーをつなげる第5の経営資源であり、企業に競争優位と高収益性をもたらすものです。言いかえれば「同じ値段なら選んでもらえる。少し高くても買ってもらえる」ことがブランドです。そのためには、企業や商品・サービスが「○○だったら間違いない」と思われることがBtoBでもBtoCでも大切です。BtoCでは消費者自身の個性が投影され、「○○を持っている私は自分らしい」と感じられることも重要ですね。
「ブランドのありたい姿」と「ターゲットがどう見るか」のギャップを埋める
――ブランドづくり(ブランディング)は、最初に何から始めるべきでしょうか。
吉田 ブランドづくりにおいて最も重要なのは、ブランドの「ありたい姿」や「ターゲットにこう見られたい」という理想形を規定することです。その表明は「ブランド・アイデンティティ」や「ブランド・プロミス」と呼ばれます。「ブランド」の根本は「他のものと区別できること」という概念ですが、競合と名前が違うだけでは意味がありません。その企業や商品・サービスならではの、利用すると心や生活が豊かになる、周りに喜ばれるといった感情がプラスに働く要因が得られて、はじめてターゲットに「これはブランドだ」と認識されるのです。
ただ、ブランド・アイデンティティを自社で見出すことは、独りよがりになりがちでなかなか難しい。自分の長所は、一歩引いた客観的な視点があってはじめて、正しく理解できるように、組織の中だけでは気づかないことも多々あるからです。たとえば、ベンチマークや競合との比較、ブランドイメージや認知度の調査で長所と短所の見える化など、客観的な分析を行って、ブランド・アイデンティティを導き出すことが必要です。それに「経営陣から多種多様な意見が出るので、中立的なまとめ役をしてほしい」といった要望もよくいただきますね。私たちコンサルタントの役割はこうした手助けをすることです。
――そうして導き出したブランド・アイデンティティは、どうすれば「ブランド」として確立できるのですか。
吉田 そこが肝心です。いくら企業が「私たちはこんなブランドだ」と表明しても、その良し悪しを決めるのは、あくまでターゲットと、ターゲットに含まれる実際に購入してくれた顧客です。忘れてならないのは、この「ターゲットがどう見るか」がブランドを決定づけるということです。
要するにブランドづくりの本質は、「ターゲットがどう見るか」と「ありたい姿」とのギャップを埋めることに尽きると言えます。もっと言えば、ターゲットがもつブランドイメージを、いかに「ありたい姿」へと引き寄せるか。そのため、いま企業に求められているのは、ターゲットの視点に立った親身のコミュニケーションになってくるわけです。
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出典:日経BPコンサルティングSTAFF ROOM