想いをもった作り手と消費者をつなぐECサイト「CRAFT STORE」などを手掛ける「ニューワールド」。陶器や漆器といったものづくりの若き作り手が、活動の幅を広げられるように伴走しています。
連綿と受け継いできた伝統や文化をどう守り、新しい風をどう取り入れるのか。その解を求めて、デジタルマーケティングの領域で挑戦をし続けているのです。大手新聞記者として2,000人以上へ取材経験を持つ西雄大が、井手康博社長に3回にわたり、今後の戦略やビジョンを描いているのか話を聞きます。
最終回はニューワールドが有するノウハウをいかに作り手と共有するかがテーマ。新型コロナウイルス感染拡大により作り手は未来を模索するなか、どう取り組もうとしているのか。作り手と伴走する井手社長に未来像を聞きました。
スタートアップの手法を、作り手の世界へ
西:少し角度を変えた質問です。そもそも作り手は顧客の声をどのように拾っていたのでしょうか。
井手:ほぼ拾えていなかったと思います。作り手と消費者の間には問屋が2〜3社を介して店頭に並びます。作り手は自分達の商品がどこで売られているのかがびっくりするぐらい分かりようがありません。私が東京出張の際に百貨店へ足を運び、陳列された商品を撮って作り手に送ったら「ありがとう。ここで扱われているんですね」という話になったくらいです。それぐらい自分達の商品がどこにあるのか分からいない。消費者からの声はなかなか遠かったと思います。
消費者の声ありきで成長を続ける「eni」シリーズ
西:消費者の声を反映した具体的な商品はなんでしょうか。
井手:11月22日(いい夫婦の日)に発売した、私達のプライベートブランド「eni」です。末広りの八角形と円満の円という縁起のいいメッセージを込めたモチーフにしています。
例えば箸と箸置きのセットだとお箸は八角形、箸置きは円といった具合です。これは消費者の声に耳を傾けてできました。
「eni」は「縁」が由来です。プレートは長崎県波佐見、マグカップは岐阜県多治見。お箸は新潟県三条、箸置きは富山県高岡。
あえて産地をばらばらにして、私達がご縁ある色々な産地を「eni」ブランドで繋ぎたかったのです。生産量が増えると、産地の複数のメーカーが携わることになればいいなと思っています。
西:どのあたりに消費者の声が反映されているのですか。
井手:当初、インフルエンサーとD2C(メーカーやブランドが、自社で企画・生産した商品を、流通業者を介することなく自社ECサイトで直接消費者に販売する手法)ではじめました。
第1段階としてプレート1枚を2枚組にし、ギフトボックスに入れて売り出しました。色もサイズも1種類のみのシンプルな構成です。
すると消費者から「1枚だけ欲しい」「違うカラーバリエーションが欲しい」「大きめのサイズも揃えたい」といった声が、サイトからの問い合わせをはじめ、Instagramなど様々なルートから集まるようになりました。
その声を聞いてから、次のラインアップを動かすのです。まずスモールスタートが肝心で、トライアルを出してみることです。そして大風呂敷を広げず、初日はLINEのお友達限定の先行発売日するなど、話題になる仕掛けを作っています。
西:話題の作り方こそノウハウですね。
井手:はい。意識しているのは、リーンものづくりです。トヨタ生産方式が考えのもとにある製造のあり方で、名だたる海外企業のほか、スタートアップにも広がりを見せているものです。
この考えを私たちのビジネスに置き換えると「最小単位を市場に送り出し、その後の展開は顧客の声次第」となります。
作り手に企画を出しながら、まずは最小限でやってみる。どれだけお客様に刺さっていくのかの検証し、ラインナップを広げていく。「eni」もその考えで作ってきました。
作り手にとっても負担のないものづくりを
西:作り手の皆さんはリスクを取りたくないし、初期投資もあまり出せない。そういった中で小さく始められるのが、大きなポイントとなりますね。
井手:そうですね。私達スタートアップと一緒です。ものづくりも同じアプローチができます。リスクが軽減されれば、新しくチャレンジする方も増えるのではないかと思います。新しいものが生まれていかないことには、流通も変わらない。
今まであり得なかったとされるやり方も通用する時代に
西:一般的に、全部はじめにそろえようとするのがものづくりの在り方ですよね。
井手:これまで基本的にプレート1枚で展開を始めることはありません。10〜30の商品を揃えていくのがこれまでのやり方でした。
具体的にはマグカップやお箸、箸置きすべてを同じ作り手で揃えようとします。となると1年半〜2年かかる大掛かりなプロジェクトになってしまいますよね。
私は同じ時間をかけるなら、その期間で何回も試行錯誤するのが重要だと考えます。
チャレンジの回数やお客様のヒアリングができればできるほどブランド力が高まると考えるからです。
消費者と直接つながることで得られるメリット
西:成功する確率を高めるためには、やはり打席に立つ数を増やしたい?
井手:はい。
西:マーケットに正解がない以上、たくさんやってみるしかない。
井手:そうだと思います。
西:今までの業界の構造上、できなかったという側面もありますか。
井手:はい。これまではあると思います。やはり百貨店をはじめとした店頭で扱って頂く場合に、1商品だけを並べることは難しいです。
棚を作らなければならず、それなりのシリーズを作らないといけないことに縛られるのです。インターネットを介して消費者と直接つながることで、リーンものづくり方式が生きると考えます。
海外で挑戦するためにまず始めるべきこと
西:リーンものづくりの考え方を取り入れることで、既存の商流ではできなかったことをやっていく。それは海外もですか。
井手:そうですね。海外こそ活きてきます。文化や生活習慣の違いがあるなかで、どういった商品が受けられるのか勝ちパターンはありません。
そこでクラウンドファンディングで最小構成を展開し、海外の方がどう反応するのかを知りながら広げていくのです。
西:海外で日本の商品が受け入れられるポイントはどのあたりになりますか。
井手:ジャパンブランドの流通をどう広げるかは「体験」しかないと思います。日本産のお茶や食べ物をどのような器で楽しむのかという視点です。器だけでなく食も巻き込んで体験をパッケージ化して魅せないとと勝てません。
具体的には包丁を売るだけでなく、どのような料理ができるのか。さらにはどう手入れするのかまで我々が情報発信し、提案できることこそが重要となるのです。
商品は簡単に真似られますが、しっかりとコンテンツ化すればハードルはグッとあがります。
西:そういう意味で言うと、日本でやっているリーンものづくりの方程式はそのまま使えそうですね。
井手:同じだと思います。「Indiegogo」や「Kickstarter」など世界におけるクラウンドファンディングの主要サイトを活用し進めていきます。
なぜ海外市場を目指すのか。みらいのためにできること
西:今ずっと一気通貫でやって来られた強みを持つ御社が、次に狙っていくこと・実現したい大きなビジョン・目指す世界について、井手さんはどういうお考えをお持ちですか。
井手:まず、私達が目指す世界として「日本ブランドを世界No.1にする」というビジョンを掲げています。
日本ブランドがグローバルで評価され、またそれが世界中の方々の生活に馴染んでいく、入っていくこと。これに尽きると思っています。
第1ステップはオンラインの越境ECです。5年で100ヵ国(地域)にお届けしたいです。「Kickstarter」と「Indiegogo」を活用し展開していきます。
西:その時には日本のものづくりはどうなっていますか。
井手:この30〜35年間で5,000億円から1,000億円規模にまで縮小しています。私達が作り手と一緒にものを作り、グローバルに流通させていくことに貢献したい。
販路拡大により市場規模もV字回復を目指していきます。私の大きな目標としては2040年に、1兆円の流通額を目指していきたい。我々が作り手の皆さんと一緒に大きな目標に向かって取り組みたいですね。
取材・文:西雄大
構成:木山美波