連綿と受け継いできた伝統や文化をどう守り、新しい風をどう取り入れるのか。その解を求めて、デジタルマーケティングの領域で挑戦をし続けているのです。大手新聞記者として2,000人以上へ取材経験を持つ西雄大が、井手康博社長に3回にわたり、今後の戦略やビジョンを描いているのか話を聞きます。
第2回目はニューワールドと作り手が目指す伝統工芸産業の未来について。作り手を取り巻く環境が大きく変化した2020年。持続可能な産業とするために、作り手とどのようなことに取り組むべきなのかを井手社長に聞きました。
次世代へつなぐために、作り手と僕らがやるべきこと
西:ニューワールドと作り手はどのような関係が理想ですか。
井手:私自身はこの事業を通して作り手の皆さんを応援したいという想いが強いです。産業全体でみると輸入におされ、商品単価が落ちているなかで、作り手の収入も決して高くありません。ぜひ収入を増やし優秀な若者が作り手になってもらえることに貢献したいのです。
そのためにも一緒に商品や文化を作っていくことに踏み込んでいけるかが、我々の存在価値を見いだすために必要だと思っています。取引先という枠を超え、共に成長するために伴走役になる流れですね。
西:ニューワールドの考えに共感する作り手の年齢層に特徴はありますか。
井手: 40〜50代の社長が多いですね。
西:それでも若手なんですよね。
井手:はい。2代目、3代目の跡継ぎが大半ですね。彼らは中長期の視点で自社の経営を考えています。時間をかけて、彼らと取り組みたいのがシステム化やフォーマット化ですね。
高齢化する作り手の技術をただ継承するのではなく、デジタル化し新しいかたちで保存していくのです。「天候や湿度がどれくらいだったら、釜の温度はこれくらいでないと不良が出るよ」というようなことは職人の頭の中に感覚的にあります。ただ気温や湿度は数値化できます。きちんと蓄積していくことによって、誰がやっても仕事ができるように変えていく。
すべては無理だとしても生産工程のデータベースを構築していくことは、今後更に重要になってきますね。
西:これも産地のDX(デジタル・トランスフォーメーション)ですね。
井手:はい。DXの副産物として、人材育成があります。感覚を習得するための時間が短縮できるのです。少なくとも一人前になるのに10年はかかると言われていますが、5年ほどにしたいです。25歳で作り手として修行を始めたら、30歳代はどっぷり創作活動をやっていけるとなれば優秀な人材は集まります。
職人として自立できるまでの時間が短くなることで、ものづくりをしたい若者はたくさんいると思うのです。データベース化でノウハウがシェアされると、仕事しながらでも勉強ができます。実はIT業界では当たり前の話で、大体ノウハウは検索をすれば学べます。この動きがものづくりにも広げていきたいですね。
安心してバトンを渡せるように
西:次に事業承継の話題に移りたいと思います。実際作り手の皆さんが幸せになるために、技術を絶え間なくするために課題となっていることは何ですか。
井手:事業環境が厳しく、子どもたちに継がせたくないと言っている方がいます。家族で引き継げなければ、外部から人材を招いて経営を引き継がなければなりません。これがなかなか一筋縄にはいかず、外部登用に寛容な業界ではないのです。
家族で継承できなければ廃業してしまうケースも少なくありません。とてももったいないことです。
海外も視野に入れて。ともにシナリオを描く
西:同業他社との違いについて伺います。ニューワールドだからこそできること、他社とはここが違うという点を教えてください。
井手:私達の強みは、生産地から海外のお客様まで一気通貫に事業シナリオを組めることですね。30〜40歳代に対し訴求や見せ方が得意な会社です。
下請け企業ながらたしかな技術力がある企業の良さを引き出すために、我々は商品そのもののデザインだけでなく、パッケージを含めた商品価値全体のコンセプトを提供していきます。
クラウドファンディングに取り組んだり、完成した商品を私達にECサイトに卸してもらったりすることで売り上げにつなげています。こうした機能を作り手に提供することで収益機会を増やし、伝統を受け継げる環境づくりに貢献していきたいです。
取材・文:西雄大
構成:木山美波