メルカリでつくり続けてきた「共通ID」の先に、メルペイがあったんですーー。
メルカリが新会社であるメルペイ設立を発表したのは、2017年12月4日。ですが、その前身とも言える「プラットフォーム構想」は2016年1月にスタートしていました。
プラットフォーム構想とは、メルカリなどで作成したIDデータをメルカリ アッテやカウルなどでも共有で使えるようにして「新たにログインする際に個人情報を入れ直す手間がない」「これまでの評価情報がそのまま価値になる」といった体験を最大化するために掲げたビジョンです。
では、プラットフォーム構想はどのようにメルペイにつながっていったのでしょうか。そこで今回は、メルペイの前身であり、メルカリが描くプラットフォーム構想の核でもある「共通ID」などを手がけてきた山本久智さんに、開発の裏側やこれからのメルペイについてインタビューしました。
山本久智(Hisatomo Yamamoto)
東京大学大学院在学中、創業時のメルカリにインターンとして入社。1年間Androidエンジニアとして勤務した後、プロデューサーとして正式入社。WEB版の立ち上げ、らくらくメルカリ便の立ち上げを行った後、2016年2月に最年少でマネージャーに就任。金融事業立ち上げメンバーとしてメルペイに携わる。
メルペイの礎となったプロジェクトは2年前からはじまっていた
ーメルカリでは当初、CtoCサービス「メルカリ」をベースとしたプラットフォーム構想がありました。山本さんはそのプラットフォームづくりにずっと関わり続けてきましたが、具体的にはどのように動いていたのでしょうか?
山本:「プラットフォーム構想」がスタートしたのは、メルカリ アッテ(以下、アッテ)ができる前の2016年1月頃でした。僕は、その第一弾プロダクトとなる「共通ID」の開発チームにいたんです。そして最初にリリースされたのが、ワンタップログインでした。
ワンタップログインは、メルカリIDがアッテなどの別アプリに紐付いているというものです。そのため、メルカリIDさえあれば自動的にユーザー情報や評価情報などが連動するので、最初からワンタップで別アプリへログインができます。
今となってはメゾンズやカウルなどでも当たり前に使われている共通IDですが、これがメルペイにつながっていくという話は社内でもあまりしていませんでした。社内でも脚光を浴びるようなプロジェクトではないけれど、中長期的なメルカリの未来を一番見据えているプロジェクトだったんです。
しかし、目立たないからこそ採用面では苦労しました(笑)。なので、ようやく情報解禁でき、採用でも大きく一歩を踏み出せたのはよかったと思っています。
ー山本さんにとって、メルペイの発表は突然のことだったのでしょうか?
山本:そうですね。「メルペイをつくる」という話自体はありましたが、発表のタイミングは、僕も含めて社内でも驚いたメンバーは多かったのではないかと思います。しかし、青柳(直樹)さんを代表に迎え入れるというのは、会社としての本気の現れです。そこは強く感じました。
ーメルペイにはすでに「メルカリ」「プラットフォーム構想」「共通ID」という下地がありましたが、こういったものがある上でスタートを切るというのはやはり大きなメリットですか?
山本:この領域ですでに下地があるというのは、ほかではなかなかないことです。
一方で、これは弱みでもあります。下地と言える既存システムがあるから、普通だとスピードを出しにくいんです。今あるものにまったく違う機能をつけたり、使いみちを考えたりすることは、0→1の何倍も難しいこと。しかし、開発スタイルやアーキテクチャ面でも大きなチャレンジを最初期から志向し実行しています。Move FastはソウゾウのValueの一つですが、その意志を引き継ぎつつ、安心安全に使っていただけるプロダクトを必ず生み出します。
「いかにわかりやすくするか」がメルペイの肝
ーメルペイはお客さまにとって新しい体験や価値を提供するプロダクト、サービスになってくと思います。
山本:そうですね。
そもそもメルカリの価値は「いかにお客さまが使いたくなるものをつくるか」に向き合い続けてきたことです。メルペイとしても、それは変わりません。
その中で大胆な変化を生み出す存在になるべきであれば、それを目指しますし、しなくていいのであればやりません。基本的にメルカリ・メルペイは開かれたプラットフォーマーを志向しています。不必要なディスラプターを目指すより、いかにお客さまが使いたくなるようなものを提供するかを考え続けることで、結果が出るんじゃないかと思っているんです。
これは技術選択でも同じです。メルペイはFinTechの括りの中に入りますが、高度な技術を使ってわざわざ難しいことをするというよりは、お客さまの使いやすさを優先する上で最適な技術選択をしていくことになりますね。
ーそこにもメルカリらしい「お客さまにとっての使いやすさ」があるんですね。
山本:そうですね。メルペイの事業上でも「いかにわかりやすくするか」が肝になると思っています。事業を進めていく中では、法律的なしがらみも当然あります。これは、単純にやろうとすると難しくなります。
メルカリは「わかりやすかった」から、多くの人に使ってもらえました。メルペイも金融サービスとして、難しいものをいかに簡単に見せるかという大きなチャレンジをすることになると思います。
ーメルペイは決済サービスのみを提供するわけではないと思います。どれくらい先を見越しながらやっていこうと?
山本:どのタイミングでどうあるべきかは、常に変化していくと思います。ただ5年や10年くらいは考えなきゃいけないと思っていますね。中国では1年くらいのハイスピードで普及したものがありますが、今の日本は既存システムなどさまざまある関係で、そこまで短い期間で叶えるのは難しいはず。
あと間違いなく、私たちは大きな壁にぶち当たり、何度も異なる失敗を繰り返すと思います。考えれば考えるほど、プラットフォーム事業や金融事業はやすやすと手を出すものではないんですよね(笑)。でもやる。やると決めてやりきる。これがメルペイの強さのコアにしていきたいです。
青柳、曾川、横田以上に強い組み合わせはない
ー山本さんはメルカリ初期からフルコミットしていてJP版、US版の立ち上げに携わり、ソウゾウを経て、現在のメルペイに至ります。山本さんにとってもこれから大きな挑戦をしていくことになりますよね?
山本:僕は今のメンバーの中で一番メルカリにいた時間が長いので、金融の知識だけでなく、システムの知識もあります。なので「ここが大変になる」といった勘所もわかっているつもりです。
メルカリにはメルカリの、ソウゾウにはソウゾウの物事の進め方があります。僕はその両方にいたので「この人はこういう人」がわかるし、関係性があります。だからこそ、うまく橋渡しができる。それが僕の強みです。
メルペイには優秀なプロダクトマネージャーが集まっています。その中で僕は率先して進めるより、チームの方向性や足並みを揃えるように最速で立ち回り、プロジェクトの成果を最大化するようにしたいですね。
そもそもメルカリには元起業家が多く、大胆な意思決定ができるところがありました。それはメルペイでも同じです。そして、メルペイ経営陣である青柳さんや曾川(景介)さん、横田(淳)さんの組み合わせ以上に強いものはないんじゃないかと思っています。わからないことがあっても、誰かに聞けばすぐに解決できるんですよね。
だからこそ今のメルペイには、プロダクトづくりに集中できる環境があります。金融サービスとして将来をちゃんと見つつ、足元はどうあるべきかなど考えながら設計できるのは魅力だと思いますね。
メルペイの成功は、メルカリ以上に多くのお客さまに支持された時
ー山本さんにとってメルペイが「うまくいった」と言えるのはどういった状態になったときでしょうか?
山本:やはり、メルカリ以上に多くのお客さまから支持された状態じゃないといけないと思っています。
メルカリは社会的な影響力があり、人々の活動に大きな変化を与えられる存在になっていると言っていだけるまでになっています。「メルカリで売れそうだから買う」といった消費行動が代表的なものですよね。そういった存在になることを目指して頑張り続けてきた姿を、僕はメルカリがサービスとして存在していなかったころから現場で見ていました。
メルカリでやるからこそ、メルペイは今まで以上に大きな変化を起こせる存在にならなければいけない。そのためには、当然ですがメルカリ以上の努力が必要です。そこはなんとしても頑張りたいですね。