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先祖の家業をベンチャーで−北前船10代目が動き出す−


かつて加賀を経由地として、モノだけでなく、人や文化を交易させてきた北前船。つい先日日本遺産に登録されたばかりなので、耳にしたことのある人も多いのではないだろうか。その北前船を、現代のテクノロジーや商慣習を取り込んで再興させる取り組みが、加賀で始まろうとしている。Next Commons Lab加賀の「現代版北前船」プロジェクトだ。現在全国から募集しているラボメンバー(起業家)とともに事業を立ち上げるのはNext Commons Lab加賀事務局のxLeap。共同代表の田中美紗斗さんは北前船主の末裔だ。彼らはなにを目指しているのだろうか。まずはその歴史から話を聞いてみた。


荒波を越えた動く総合商社

「奈良時代から江戸時代の始めまでは、加賀の米を税として都に納めるため、海路と陸路が利用されていました。馬での米の運搬や琵琶湖での船への荷積みなど、その行程には多くのリスクとコストが払われていたと聞きます。そこで加賀藩の前田利常が下関を通って瀬戸内海に入るルートを確立し、米を船で大阪まで届けることに成功しました。この航路と北海道までの航路を行き来し、動く総合商社として物資の運搬と交易を担ったのが、かつての北前船です。私の先祖も、その一人ですね」田中さんは続ける。

彼らは各港でその土地の名産品を売買し商売を行ったそうです。大阪の塩昆布や京都のニシンそばも、この交易で北海道から運ばれた産品によって生まれた文化の一つですね。

かつての船乗りたちは、1年のほとんどを移動に費やしていたとのことです。早春2月末から3月頃にかけて加賀の地を出発し、大阪に陸路で向かいます。その後大阪で船の準備を行い、3月下旬から4月には出発。加賀の橋立に毎年5月頃に到着し、その後北海道へと向かい7月から8月頃には出帆。11月には瀬戸内海を通って再び大阪に着いたと言われています。年末には船囲いをし、歩いて故郷へ帰ったそうです」

1年のほとんどを移動しながら過ごしたとのことだ。現在のような通信手段もないなか、様々な困難に晒されていたのだろう。リスクはなかったのだろうか?


橋立には町の至る所に北前船の歴史が残っている

             橋立には町の至る所に北前船の歴史が残っている


「当然大きなリスクと隣り合わせの商売でした。江戸時代には2000艘近い船が難破、遭難する年もあったとのことです。実際私の先祖も数人、海難事故にあっています。こういったリスクに対処するため、明治29年には北前船主たちが中心となって「日本海上保険」を立ち上げたそうです。これが単なる物流ではなく「総合商社」と言われる所以ですね」

リスクを目の前に勇敢に立ち向かい、多くの産品や文化の運び手となった北前船。その子孫である田中さんは、xLeapという船を用い、新たな北前船をプロジェクトを通して再興しようとしている。その思いを聞いた。

価値を見出す

「一見価値がないようなものも、実は見方を変えることで大きな価値を見いだせるものがあると思うんです。例えば観光というキーワードで考えると、昨今のインバウンドツーリズムの流れもあり、多様な文化が観光資源として見直されています。豪雪地帯における「雪かき」や「雪駄での雪上ツアー」など、まさにその典型じゃないでしょうか。元来その土地に存在し、土地に根付いているからこそ、その価値に気づかないケースって、実は多いのかな、と。近年健康法として行われている「ヨガ」なんかもそうですよね。加賀にも長い歴史の中で培われた様々な文化が、地域産品や行動様式として生活に根付いていると思うんです。こういったものを発掘し、見出し、そして新たな価値として市場への流れを作り出すことが、このプロジェクトの核だと思っています」

同様に、xLeapの篠崎さんも語る。

人・モノ・情報を行き交わせる

「かつての北前船は、モノだけでなく、人や文化を運ぶ媒介にもなっていたそうです。このプロジェクトも同様です。単にモノを横流しするだけではなく、その背景にある文化や生き方、様式を流通させて、地域を結ぶ船になることで、新たな交流のきっかけや、コミュニケーションに繋がると思うんです。例えば僕の住んでいる山中温泉では山中漆器が有名ですが、そこでは、木地師という技術や文化が育まれ、継承されてきました。その文化を一つの資源と見立て、違う土地で講座を開いてみるとか。利用者や関心の裾野を広げることも、文化を広げるという意味で、価値になると思うんです。丁寧に今まで継承されてきた技術や価値観、文化を学びつつ、それを活用して、新たな交流やビジネスを生んでいくことも、現代版北前船の機能の一つでしょう」

「現代版北前船」が進みたい方向性は明確だ。しかし格段に発達した物流網があり、総合商社や広告代理店といった大きなプレイヤーが既に市場の大半を占めているしている現代において、「現代版北前船」が一企業としてでできることが、果たしてどれくらいあるのだろうか。




小回りを利かせる個人総合商社

「実は地域では、現代の商流に合わないが故になかなかその価値を見出されない商品も多くあります。供給量の少なさや、安定供給ができないことで、結果として商流から外れているような場合です。人間は工業化を経て規格化された製品を大量に生産し、効率的に交易する術を発展させてきました。勿論これにより得た恩恵は大きいですが、現代では新たなテクノロジーが発達し、その前提自体が崩れつつあるようにも見えるんです。世の中にはWebが張り巡らされ、情報交換や発信のコストは格段に低下しました。多様な製品を低コストで社会に流通させることは、もはや難しい選択肢ではなく、大きなプレイヤーでなくともできるのではないかと考えています。小回りの効いた個人商社が社会の資源を循環させる未来は、決して遠くはないのではないでしょうか。」

「現代版北前船」と他のプロジェクト

現在版北前船は、今回加賀で実施される他のプロジェクト全てに携わることにもなろう。各プロジェクトの販売ルートを担うことになるためだ。これからさまざまな資産や価値がプロジェクトを通して生まれるが、それを外界と繋げ、新たな価値をもたらす機能は、この「現代版北前船」にかかっている。売り方や繋げ方は様々で、例えばITを用いたECサイトの構築、情報提供と顧客のマッチングを行うプラットフォームの構築なども考えられる。Next Commons Lab加賀のその他のプロジェクトから生まれたものや、加賀に昔から存在していた産品に価値を見出し、新たな価値創造を行うことがミッションだ。xLeapと共に外部資源の価値を見極め、適切な交換をすることのできる物流マネージャーを募集する。

       「現代版北前船」プロジェクトについて


<東京と大阪で説明会も開催予定!>

第4回 : 2017年6月18日(日)14:00〜16:00 (東京) 

FabCafe MTRL (ファブカフェマテリアル)東京都渋谷区道玄坂1-22-7 道玄坂ピア2F

第5回 : 2017年6月19日(月)19:30〜21:30 (大阪) 

ハローライフ大阪 大阪府大阪市西区靭本町1-16-14


お申し込みはこちらから

http://nextcommonslab.jp/archives/ncl-kaga-briefing2/

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