こんにちは。ランサーズの曽根です。前半戦が終わり、しばらく番外編・総集編と続きましたが、本日より、全20回の後半戦を書き始めていきます。
前半戦はキャリア編・ノウハウ編ということで書かせていただきましたが、後半戦は事業編・組織編の順で書いていきたいと思います。前半戦に比べてより踏み込んだ難しい話が多くなると思いますが、、、何卒ご容赦ください。
事業編の最初は「戦略」について書きます。「問題解決」とならび、ぼくにとってのビッグワードでもあります。最近、社内の教育委員会の活動で全12回(!)の戦略ケーススタディというのを始めたのですが、やっぱり戦略は奥深くて面白いなー、と。
そんな奥深さを表現するのは難しいのですが、僕なりの考えを、これまでに影響を受けた著作や事例、先人の言葉をベースにつらつら書いていきたいと思います。
経営戦略史:ポジションニングとケイパビリティの争いからイノベーションの時代へ
まず戦略といったときに、定義がいろいろとあって話が広がりがちなので、まどろっこしいですが、僕なりの用語の分類・整理と、一般的な「経営戦略」の歴史についてまとめておきたいと思います。
まずは、「戦略」といったときの用語の分類・整理について。
基本は、ミッション・ビジョンを実現するための経営戦略があって、経営戦略が事業戦略と組織戦略の両輪によって成り立つ、という構造だと思っています。
組織の話はこのブログの最後のパート(組織編)でまた書かせていただきますので、ここでは、経営戦略と事業戦略について語っていきたいと思います。
本題に入る前に、少し前(2014年ころ)に話題になった三谷宏治の『経営戦略全史』をベースに、経営戦略の歴史をたどっておきたいと思います。
ベースとなる古典的(とあえてここでは呼びます)な戦略論においては、特に1980年代以降、下記のポジショニング派とケイパビリティ派の仁義なき争いが大きかったといえます。
- ポジショニング派=外部環境が大事。儲かる市場で儲かる立場を占めれば勝てる。トレードオフがカギ
- ケイパビリティ派=内部環境が大事。自社の強みがあるところで戦えれば勝てる。模倣の困難性がカギ
こうした論争を経て、1990-2000年代には「どっちが先というわけでもないのでは?」「状況に応じて組み合わせればよいのでは?」という議論が出てきます。
2000年代以降は、こうした議論そのものを無効化するようなかつてないスピードでの環境変化を前にして、イノベーション(いかにイノベーションを起こすか)や進化論的アプローチ(いかにリーンに事業を立ち上げ実験できるか)が戦略論の主題になっています。
こうした歴史をふまえて、現代における戦略のあり方について、僕なりの考えを書いていきたいと思います。
「戦略とは4次元チェスである」―VUCA時代の戦略ではシナリオメイキングが重要
まずは、どちらかというと経営戦略(Corporate Strategy)をメインの対象に、少し前にBCGが最近発表した『戦略にこそ「戦略」が必要だ』という(またこれややこしいタイトルの)著作を紹介したいと思います。
この著作で言われているのは、市場の予測可能性や市場に対する自社の影響力などによって、とるべき戦略アプローチが異なる、ということ。
現代はVUCA(V=Volatility:変動性、U=Uncertainty:不確実性、C=Complexity:複雑性、A=Ambiguity:曖昧性)の時代と言われますが、こうしたVUCAの時代では、上記の中でも、アダプティブ(適応型)戦略のアプローチの比重が高まってきているように思います。
特に、インターネットが世界を席巻し始めた2000年以降の変化は目覚ましいですよね。今や世界の時価総額トップ5(Apple, Google, Microsoft, Amazon, Facebook)はすべてテクノロジー企業。ここにさらにAlibabaやTencentといった中国企業も続くわけです。
市場の予測可能性が低く、大きな技術的パラダイムシフトが短いサイクルで起こる現代においては、「昨日の敵は今日の味方。今日の味方は明日の敵」となったり、業界の覇者がいとも簡単にそのポジションから短期間で滑り落ちたりすることがおおいにあります。
たとえば、今はガチ競合になっているAppleとGoogleだって当初はパートナーでしたし(Google会長のエリック・シュミットは2009年までAppleの社外取締役だった)、SNSの覇者であるFacebookだって、HTML 5でいちどは大きな戦略の過ち(モバイルシフトにおけるシナリオの読みちがえを2012年に公言)をしています。
ぼくが個人的に印象的な言葉のひとつは、楽天に在籍していた時分、三木谷さんの自宅で戦略議論をさせていただいた際に、三木谷さんがおっしゃっていた「戦略は四次元チェスみたいなもんだからな」というものです。
2014年当時のことですが、外的・内的変化の圧力がとても大きく、(詳細は語れないですが・・・)楽天にとっての環境を大きく揺るがしうるようなシナリオもいくつかありました。
そんな中で、敵にも味方にもなりうる関連業界のテクノロジー企業をたくさん並べて、相関関係図的にプレーヤーマップをつくり、未来のシナリオについて議論していた時に出てきたのが、この言葉でした。
楠木健の『ストーリーとしての競争戦略』でも、戦略とはサイエンス・テンプレ的なアナリシス(分析)ではなく、アート・シナリオ的なシンセシス(統合)であり、「一見して非合理なものが持続的な競争優位の源泉になる」とおっしゃっていますが、まさにその通りだと思っています。
今や、SWOT(Strength=強み、Weakness=弱み、Opportunities=機会、Threat=脅威)分析すれば戦略が策定できる、なんてほぼありません。
ロジカルに事業ポートフォリオを分析することに意味がないとは思いませんが、特にインターネット企業に7年近く身をおいてきた実感値としても、加速度的に変化の波が大きくなってきている中で、シナリオの重要性は増していくばかりだと思っています。
戦略の失敗は戦術では補えない―勝利につながる指標を選び、骨太な仮説をたてる
つづいては、事業戦略(Business Strategy)についてメインに書いていきます。
唐突ですが、野中郁次郎らの著した『失敗の本質』という本を読んだことがある方もいるかと思います。鈴木博毅然の『「超」入門―失敗の本質』でその簡単なダイジェストがまとまっているので、その内容を紹介しておきたいと思います。
この本で言われていることの中で特に重要だと思うのが、「戦略の失敗は戦術では補えない」「勝利につながる指標をいかに選ぶか」という点です。
ちなみに、本の中ではインテルの例が挙げられています。
PCのマイクロプロセッサ市場での競争において、日本の電機メーカーが機能的な「処理速度」を追っていたのに対して、インテルはより本質的な「活用しやすさ」を追っていた、というもの。
表面的に大事そうに見える指標(例:売上にもっとも直接的につながる指標)を追いすぎて失敗した例は、ぼく個人の経験としてもたくさんあります。
事業の本質がわかっていないときにこれをやりがちですし、そういうケースでは、手遅れになってから気づくことがとても多い。
局地的な戦術ではなく大局的な戦略を見定め、勝利=目的の達成につながる本質的な指標を見極めることができれば、おのずと勝ちが見えてくる。
グローバルに成功しているインターネット企業の多くは、この本質的な指標を見極め、そしてさらに、その指標をのばすための骨太な仮説をもっているケースが多いと思います。いくつか例を挙げます。
初期のFacebookがエンゲージメントを重要指標とおいて、ユーザーによる友人の写真タグ付けがそこにもっともきくという仮説のもとで、タグづけが促進されるようにプロダクトをつくりこんだという例。
初期のAirbnbがコンバージョンを重要指標とおいて、ホストの部屋の写真の質がそこに大きく影響するという仮説のもと、運営チーム自らフォトグラファーを送り込んで写真をとったという例。
初期のNetflixがチャーン=離脱率を重要指標とおいて、レコメンデーションの質がこれに大きく影響を及ぼすという仮説のもと、登録時にお気に入りのジャンルなどユーザーの嗜好性がわかる情報をより深くとるようにしたという例。
本質的な指標をのばすための骨太な仮説がなぜ重要か。
それは、本当に勝つために、戦略の「実行」が大事だから。つまり、戦略を実行するうえで、戦略的目標に到達するための仮説=方針を現場がいかに簡単に理解できるか、ということ。
前の節で言っていた「4次元チェス」という戦略の複雑性と、ここで言っている「骨太な仮説」は、相容れないように聞こえるかもしれません。
もちろん、前者が経営戦略(Corporate Strategy)よりの観点なのに対して、後者が事業戦略(Business Strategy)よりの視点である、という違いはあります。
が、もっと端的にいって、複雑怪奇になりがちな「戦略」を、社内外のステークホルダーに伝わるコンセプトやストーリーに落とし込んで話していくのは、ただただ楽しいものです。
ぜひみなさんも、目的の達成につながる本質的な指標と、指標をのばす骨太な仮説を意識して事業戦略を練っていただければと思います。
今回のポイント
というわけで今回のまとめです。
- 経営戦略史:ポジションニングとケイパビリティの争いからイノベーションの時代へ
- 「戦略とは4次元チェスである」 ―VUCA時代の戦略ではシナリオメイキングが重要
- 戦略の失敗は戦術では補えない ―勝利につながる指標を選び、骨太な仮説をたてる
ランサーズでも、4月に発表した「オープンタレントプラットフォーム」構想をベースとして、いくつかつづいた新サービス(pook, Lancers topなど)や直近で発表した資本業務提携にいたる流れの中で、戦略についてあらためて色々と考えさせられました。
楠木さんの論ではないですが、「優れた戦略はストーリーとして魅力的である」というのは僕も同感で、やっぱりハッとするような気づきや奥深さのある戦略ってなかなかないし、そういう戦略を見つけた・つくることができた瞬間ってワクワクするな、と思っています。
次回は、今回の戦略論をベースにしつつ、直近の経験もふまえて、新規事業についてアツく書きちらしたいと思います。難しく感じる回が続くかもしれませんが、ぜひ引き続きご笑覧ください!
これまでのバックナンバー
【キャリア編】
・ 第1回:キャリアを「えらぶ」のではなく「つくる」方法―キャリアの「タグ化」のすすめ
・ 第2回:市場価値の磨き方―ステージ×役割でとらえるキャリア論
・ 第3回(前編):1億総デザイン社会の未来―モデルなき時代に、働き方をハックする
・ 第3回(後編):1億総デザイン社会の未来―働き方は、よりフリーに、スマートに、クリエイティブに
・ 第4回:成長は失敗を糧に―非連続な成長は、アンラーニングと意識の変革から
・ 第5回:「乾けない世代」と「好き嫌い経営」―働く「個人的大義」を大切にせよ
【ノウハウ編】
・ 第6回:「ネクタイ事件」で学んだ、本当の問題解決―ポジティブ思考でいこう
・ 第7回:「伝わる」プレゼン―聞き手が「自分ごと化」できるストーリーをつくる
・ 第8回:ブレストはアイデアをひきだす脳内スパーク―「ブレスト筋」を鍛えよう
・ 第9回:SMARTなゴール設定と早めのトレードオフ決断でプロマネを成功させる
・ 第10回:知的生産性の上げ方―時間の使い方を設計し、会議をプロデュースする
【事業編】
・ 第11回:「4次元チェス」的戦略―不確実な未来のシナリオに、骨太な仮説をそえて
・ 第12回:『新規事業のつくり方―アセットを活用するか、リーンに立ち上げるか』
・ 第13回:予算計画のつくり方―楽観と悲観、経営と現場を反復横跳びする
・ 第14回:本質的なKPIをモニタリングし、計画と予測の「ギャップを埋める」
・ 第15回:M&A、それは究極の意思決定。PMI、なんて深淵な人間ドラマ
【経営/組織編】
・第16回:ユーザーに学び、社会に訴えかけ、組織を動かすミッション・ビジョン
・第17回:強い言葉で行動指針をつくり、模倣困難なカルチャーづくりに投資する
・第18回:安心感×成長実感でエンゲージメント・ドリブンな組織をつくる
・第19回:マネジメントに必要なのは、矛盾に向き合い、乗り越えるための真摯さ
・第20回:「開き直り」の境地で51/49の意思決定し、自らの人生の主権を握る
【番外・総集編】
・ 番外編①:エン・ジャパン主催の「ワーク&プライベート・シナジー勉強会」での登壇
・ 番外編②:ランサーズ勉強会(L-Academy)の「戦略ケーススタディ」のレポート
・ 総集編(前半):「一億総デザイン社会」を生きるためのキャリアと仕事の考え方
・ 総集編(後半):「VUCA時代」を勝ち抜くための事業と組織の考え方