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初めて明かされる、M&Aの舞台裏。

2021年3月23日、カケハシは在庫薬品の売買サービスを手がけるPharmarket(ファルマーケット)グループ会社化を発表しました。「薬局が抱える課題をトータルに解決していきたい」という両社の想いが一致。

2社がいかに出会い、手を組むことになったのか。カケハシ・代表取締役CEOの中川貴史とPharmarket・代表取締役の髙山仁が、経緯、そしてこれからの展望を語ります。

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目次

  1. 「廃棄された薬をなんとかしたい」という想いが重なる
  2. お互いに必要だと確信した、奇跡の出会い
  3. 上場企業の戦い方から、スタートアップの戦い方へ
  4. これからのカケハシグループに必要なこと

「廃棄された薬をなんとかしたい」という想いが重なる

— Pharmarket誕生のきっかけから教えてください。

髙山:きっかけは、年1回セプテーニグループで開催されているビジネスコンテストです。優勝すると新規事業として挑戦できるので、当時入社10年目の僕は「やりたい!」と手を挙げました。ただ、ビジネスのネタが決まらない……。そんなとき、薬剤師として働く家族がよく口にしていた“悩み”が頭に浮かびました。

「患者さんとのコミュニケーションは楽しいけれど、薬局の業務には矛盾が多い」

詳しく話を聞くなかで「不動在庫」の問題を知りました。

たとえば、処方せんに記載がある医薬品の在庫が薬局になかったとしても、患者さんから処方せんを受け付けてしまうと、薬局側から断ることは基本的にできないんです。「ちょっと待っていてください」と近隣の薬局に電話で在庫を確認して、自転車に乗って買いに行く。でも、戻ってきたら、待ちくたびれた患者さんが帰ってしまい、患者さん宅まで届けに行った……。ということが起きているんです。

そこで、不動在庫を売買するサービスを考えました。マネタイズというよりも「薬局の大変さ」「人知れず苦労している薬剤師」にスポットを当てたい気持ちのほうが強かったです。

— コンテストで優勝し、2014年にセプテーニホールディングスのグループ会社として創業。在庫薬品販売買取サイト「Pharmarket」を開始し、不動在庫の課題と向き合い続けてきたわけですね。一方、カケハシでも在庫薬品に課題を感じるようになっていたと?

中川:カケハシでは、薬局における発注や在庫管理を効率化する「AI在庫システム」の開発に着手していたのですが、薬局へのヒアリングを通じて「発注や在庫を管理しても売れ残る薬品が出てくるので、それをなんとかしたい」という声が想像以上に多いことを知りました。

突然患者さんが来局しなくなったり、必要な数は20錠ほどであっても、発注は100錠単位でなくてはいけなかったり、理由はいろいろあるんですが……。せっかく仕入れた薬品も、使用期限を過ぎれば廃棄しなければならず、在庫管理システムの延長線上に「廃棄されてしまう薬を解決したい」と考えていたところでした。

— Pharmarketはどういうフェーズでしたか?

髙山薬局のネットワークが広がり、7,000店舗と取引するようになって「次の一手に打って出よう」と。もともと二次流通だけではなく、「患者さんと薬剤師のコミュニケーション」をテーマにした事業をやりたい気持ちがあったので、不動在庫のビジネスで培った顧客基盤を活用し、お薬相談チャットアプリのようなツールを検討し始めました。

ところが、コロナ禍で医療業界の構造はガラッと変わりました。オンライン医療の規制緩和が始まり、僕らがやろうとしていたビジネスチャンスも減っていって……。オンライン医療の領域にリソースを振っていくつもりで準備を進めていたので、「どうしよう?」という状況に陥ってしまいました。


お互いに必要だと確信した、奇跡の出会い

— カケハシと出会った経緯は?

髙山:今後の会社の成長についてセプテーニHDと話していたときM&Aの話になり、名前が挙がったのがカケハシです。「先進的な取り組みをしている会社だから、ダメもとで声をかけてみよう!」と。すると「ちょうど在庫管理システムを開発する予定がある」と話が進みました。

— カケハシとしては何が決め手になったんですか?

中川:決め手は3つです。

1つ目は、目指しているミッションやビジョンが似ていたこと。「患者さんのためになることをしたい」という想いでサービスをつくっていた話が、すごく心に響いて。「こういう人たちと一緒に仕事をしていけることは、幸せだろうな」と思えました。

2つ目は、すごく真面目に事業を構築されていたこと。国のルールをきっちりと守って対応していることはもちろん、品質管理もしっかりしていて高潔な印象が強く、安心感を覚えました。「今後何か課題に直面したとき、同じ土俵に立って議論していける」と強く感じましたね。

3つ目は、事業が一緒になったら、お互いに好影響を与えられる関係性を築けるイメージを抱けたこと。事業としてはもちろん、メンバー同士も。お互い幸せになれるイメージしかありませんでした。

加えて、Pharmarketが培ってきたノウハウにも期待しました。成功体験だけではなく、失敗体験も積んできている。でも、失敗体験があるから、落とし穴への嗅覚が働くわけです。同じサービスを開発して、Pharmarketのレベルにまで育てていこうとしたら半年〜1年では到底かないません。「在庫管理」という新たなビジネスを打ち立てたいと思っていたところだったので、まさに“渡りに船”でした。

— 奇跡みたいな話ですね! 価値観の近い2社の想いが一致したという。

髙山:僕はカケハシや「Musubi」のことはもちろん知っていて、コンセプトが好きだったんですよね。僕らも似たような考え方でサービスをつくっていたので、ビジョンにもすごく共感できて。「カケハシと一緒ならうまくいくかもしれない」という前向きな気持ちも芽生えてきました。

中川:本当におっしゃる通り! しかも、ビジョンだけではなくメンバーのキャラクターや会社のカルチャーまですごく似ているんですよね。Pharmarketのメンバーたちとミーティングをしていても、昔からカケハシにいる人たちと話している感覚に近い。会社としてのカルチャーや価値観が合っているという意味でも、本当に奇跡のような出会いでしたね。


上場企業の戦い方から、スタートアップの戦い方へ

— グループ会社化を進めていくにあたり工夫した点は?

中川:「Pharmarketのメンバーたちが、不安なくワクワクした気持ちでカケハシの一員になるためにはどうすればいいか」ですね。たとえば、M&A後のプロセスから給与・評価制度みたいな話も含めて、熟考を重ねました。

カケハシの社内に対しても、対外発表直後に全社ミーティングを設定して「一緒に医療を変えていく仲間を全力で温かく迎えましょう!」と強いメッセージを打ち出しました。

発表後は、Pharmarketとカケハシの各チームがランチを設定してお互いを知り合う場を意識的につくり、今後の展望をPharmarketのミッションやビジョンに照らし合わせながら話したり、給与や条件面も髙山さんと相談しながら、メンバーの1on1で今までより良い形になるように調整したり。「カケハシに入ってよかった」と心の底から思ってもらえるように、工夫と調整を重ねました。

— Pharmarketメンバーの反応はいかがでしたか?

髙山:手厚く対応いただき、メンバー全員大喜びでした! 「M&Aってこんなに素敵なの?」と。セプテーニHDに話すと「かなり丁寧だから、これが普通だと思わないでくださいね」と言われましたが(笑)。

グループが変わることへのネガティブな意見もなかったですね。僕はセプテーニグループに新卒入社した人間ですが、他のメンバーは全員Pharmarketで採用していて、事業にコミットしているので。薬剤師やエンジニアのメンバーは「自分より経験値やスキルのある先輩たちと一緒に働ける!」と喜んでいたほどです。「セプテーニを離れるのかぁ……」とセンチメンタルになっていたのは、僕だけだったかもしれません(笑)。

— 他にも良い意味で驚いたことがあったら教えてください。

髙山:できることが圧倒的に増えましたね。今までは上場企業のグループ会社ということで、制約も少なくありませんでした。カケハシは薬局向けの様々なソリューションを持ってますし、一緒になることで挑戦できる機会が増えました。

メンバーも「カケハシのココと組み合わせればできるかもしれない」というポジティブな議論が増え、モチベーションも高くなったように思います。

医療業界のスタートアップって難しいんですよ。昔ながらの市場で、既存のプレイヤーがまだまだ強い業界なので、スタートアップは腹を括った投資をしていかないと太刀打ちできないわけです。そんな環境のなかで、カケハシは思い切った挑戦を後押ししてくれます。

中川:限られた予算内で黒字で回してきた歴史こそが、Pharmarketの真面目たる所以ですよね(笑)。きちんと事業を育ててきている。とはいえ、今後事業の進め方を大きく変えていくことが求められるため、メンバーとしては戸惑いを感じることもあるかもしれない。そこで、髙山さんらが企画してくれたのが「未来ワークショップ」です。

「大きな未来をつくっていくためにはどうすればいいのか」を語るワークショップをPharmarketのメンバーが開催していて、カスタマージャーニーごとに陥る課題をマッピングし、より良いサービスを提供する方法を議論しています。すごく盛り上がっていますよ!


これからのカケハシグループに必要なこと

— 今後の展望を教えてください。

中川:せっかく仲間になったので、Pharmarketのビジネス自体をカケハシの在庫管理サービスと組み合わせて、薬剤師の方々が喜んで使ってくださるものに進化させたいですね。

薬局の在庫管理ってすごく大変なんですよ。売れ残ったものを売ろうとしても手間がかかるし、「売れ残る可能性が高い薬がどれか」を予測するのも難しい。気付いたときには手遅れになっていることも多くあります。使用期限が長くなければ、買い取ってもらうこともできません。

そういうときに在庫管理の仕組みと組み合わせて「この薬は売れ残りそうだからPharmarketに出品しよう」と教えてくれて、ボタンを押したら後は全自動……みたいな。そうするとカケハシのユーザーだけではなく、Pharmarketのユーザーもすごく便利になるんですよね。医薬品という社会資源を活用するという意味でもすごくポジティブですし。システム面・事業面で、シナジーをつくっていきたいです。

— どういった人材が必要になるのでしょうか?

中川:なんといってもエンジニアですね。特に在庫管理サービスは、今後ものすごく面白くなると思います。たとえばインフルエンザの薬は季節によって流通する量が変動するのに対し、糖尿病の薬は1年中飲み続けることになります。今まさに、薬の種類ごとに需要予測を出すようなデータサイエンスを活用した在庫発注システムをつくっているのですが、すごく面白い仕掛けになっているので、ぜひ一緒に携わっていただきたいですね!

ちなみに、一緒に働いているメンバーのなかには「Kaggle」というデータサイエンスの世界で有名なコンペティションで優勝し、関連書籍の執筆経験もあるエンジニアもいるので、刺激にもなると思います。

髙山:Reactを使いたいフロント系のエンジニアの方などにも活躍のチャンスはあると思うので、社会課題を解消できるものに対してモチベーションが高い方にぜひお越しいただきたいです。それから、マーケットのニーズを把握するためにも、薬剤師メンバーはもっと増やしたいですね。

— 薬剤師の方たちがカケハシグループで働くメリットは?

髙山:薬局に立って働くことはもちろん大事ですが、医療の仕組みやシステムを変えるチャンスに携われることは、すごくやり甲斐があると思います。Pharmarketで働く薬剤師も、そのあたりがモチベーションになっているようですし、「仕事観が変わった!」と話すメンバーもいるほどです。

中川:薬局で働くことで、毎月数百人の患者さんを救うことはできるかもしれません。でも、カケハシやPharmarketで働くと、もしかしたら100万人、さらには1,000万人規模の患者さんを救うことができるかもしれないわけです。業界そのものの課題と、向き合うスケーラビリティに魅力を感じている薬剤師が多いように思います。

— カケハシグループで職種を問わず活躍するために必要な考え方とは?

中川:すごくシンプルですが、「テクノロジーを活用して社会を良くしたい」と素直に思えることです。そういうメンバーに集まってほしいと思って、バリューには「高潔」を掲げています。極端な話、医療に直接的に興味がなくてもいいんです。「社会を良くすることに自分の技術を役立てたい」や「『自分がやっていることは良いことだ』と確信を持ちながら働きたい」といった気持ちを持っている人が、医療と出会う場になればと思っていて。仕事のベクトルが個人ではなく、社会に向いている人と一緒に働けたら嬉しいですね。

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