<JOLiC>発達障害支援機関向けソーシャルスキルトレーニングVRプログラム「emou」プロデューサー青木雄志(後編):VRのリアリティとワクワク感が障害を助ける
VRを活用した発達障害支援機関向けのソーシャルスキル(※1)トレーニング(SST) のサービス「emou(エモウ)」の開発担当者である青木雄志さん。現在二人三脚で事業開発を行っている竹内恭平さんにも途中インタビューに加わっていただき、これまでの苦労や実際の体験者の声や「emou」のこれからについてお話いただきました。
※1:ソーシャルスキル:対人関係や集団行動を上手に営んでいくための技能(スキル)のこと
ビジネスを走らせながらつくっていけたのも、貴重な経験に
編集:
「emou」のサービスにあたっての苦労は?
青木:
会社として十分な人数がいるわけではないので、ほとんど一人でやっていて大変でしたが、その一方でやりがいも感じられました。ビジネスの仕組みを考えるところから始まり、VRの映像のシナリオや販促物の制作、事業開発までひと通り行い、ゼロからつくる楽しさが味わえました。
編集:
本当に何から何まで担当しているんですね(笑)。
青木:
スタートアップ企業というのもあり、いい意味でビジネスを走らせながらつくっていけたのも貴重な経験です。ビジネスモデルが確立してないとサービス開発できないという企業だったら、絶対にできない体験でした。
編集:
現在のチーム体制は?
青木:
僕はプロデューサーという立場になり、竹内と2人で日本全国の発達障害支援機関を回っています。
編集:
ここから竹内さんにも入っていただきます。実際に支援機関を回ってみていかがですか?
竹内恭平(以下、竹内):
サービスが立ち上がって間もないですが、すでに200件前後の支援施設を回っています。
青木:
地道な活動が実を結んで、北海道と鹿児島の施設に導入が決まりました。
編集:
訪問する先を見つけるのも大変そうですね。
竹内:
ホームページを見て直接問い合わせいただく場合もありますし、行政から紹介していただいて伺ったり、飛び込みでの訪問などいろいろです。
青木:
飛び込み訪問の場合、2人の方が心強いですね。施設の方も1人の時より警戒心が薄まり、「VRを持ってる人たちが来た、なんだろう?」と興味を持ってくれる感じがします(笑)。
編集:
訪問時に心がけていることは?
竹内:
首都圏と違って、地方ではVRを知らない場合もあるので、まず特性やVRでSSTを行う意義を説明し、体験していただくようにしています。
編集:
体験することが一番ですね。
竹内:
施設スタッフの方々からは、「今までのアナログなトレーニング方法と違って、リアルな体験ができる」と好評です。飛び込み訪問というと、商品を売りに行くイメージになりがちですが、僕たちは体験してもらい、現場の声をいただくのが大きな目的でもあるんです。
emouを活用すれば、経験の浅いスタッフも良質な指導ができる
編集:
現場の声で多かったものは?
竹内:
トレーニングのクオリティが保てるという声です。
青木:
たとえば、ある児童が、教室で体調が悪くなったにもかかわらず、そのことを先生や周囲に言いづらいという事例があるとします。従来のSSTでは、「授業が始まりそう」とか「『おなかが痛い』と悪ふざけをしている友達がいる」などの状況を、スタッフさんが図や言葉で説明して、受講者の皆さんに想像して理解してもらわなければなりませんでした。
編集:
でも、スタッフさんによって説明のスキルや知見は異なりますよね。
青木:
そうなんです。もし完璧に伝えられたとしても、受け手によって理解が食い違う場合もあったと言います。でも、VRなら、その場面を体験してもらうことで、その児童がおかれているリアルな状況を、簡単に共有することができるんです。
竹内:
SSTはコミュニケーションのトレーニングで、利用者が生活の不便さを解消することが目的のため、成果が見えづらい。だからこそ指導者の経験や力量が試されるんです。しかしemouを導入することによって、経験の浅いスタッフでも簡単にクオリティの高い指導が可能になります。
編集:
施設スタッフさんにとっても、嬉しいプログラムですね。
竹内:
トレーニングだけでなく、利用者さんの理解につながったという声もありました。VRで体験することで、利用者さんの本音や特性を引き出すことができたそうです。
編集:
VRによる効果は大きいですね。
青木:
現在、発達障害の研究が進み細分化されたことで、発達障害の方の数は今後かなり増えると言われています。今まで発達障害は目に見えない障害だったので理解されにくく、変わった人、空気が読めない人と思われてしまうことも。それが本人の問題ではなく、脳の特性ということが分かり、診断によって適切なトレーニング方法も見つけることができます。
編集:
そのぶん、支援施設に求められるものがさらに大きくなりますね。
青木:
支援施設のニーズが高まると同時に、適切な教育が提供できるかということが課題に。そういう問題を「emou」で解決していきたいですね。
「emou」なら、普段トレーニングを嫌がるお子さんも楽しみながら積極的に取り組める
編集:
支援施設で「emou」の体験会を実施されていますが、その反応は?
青木:
利用者や保護者の方からは、「何度でも繰り返し見られるのがいい」という意見をいただいています。VRはリアルな体験に近いので、経験や学習につながっているようです。
竹内:
一つのことに集中するのが苦手なお子さんもいるんですが、VRの没入感のおかげで、楽しんで学習できるという声もありました。
編集:
専門家の方からの評価はいかがですか?
青木:
監修してくださった宮尾益知先生は、「空間で見られるのがいい」と言ってくださいました。
編集:
“空間で見られる”とは?
青木:
発達障害の方は物の見え方も独特で、たとえば指で方向を示しても、指の指す方向ではなく、指そのものを見ているなど、全体を認識するのが苦手という場合が多いんです。イラストでは見える場面や範囲が限られてしまいますが、VRでは広く空間で見られるので、全体を見て判断や行動ができるようになるということでした。
編集:
VRでのトレーニングを怖がるお子さんもいそうですが。¥
青木:
それが全くそんなことはなく、VRのSSTプログラムを前向きに取り組んでくださる方が多いですね。ワークシートだと「勉強しなくちゃ」という意識からか、嫌々取り組んでいたりもするようなのですが、VRだと「やるやる!」と、とても前向きでした。
編集:
やる気の面でも効果がありそうです(笑)。
青木:
お子さんたちは、スマホネイティブならぬ、テクノロジーネイティブ。VR未体験であっても知識のあるお子さんが多く、VRゴーグルをつけることに抵抗もなく、楽しそうにトレーニングしています。
編集:
「emou」の今後の展望を教えてください。
竹内:
まだできたばかりのサービスなので、赤ちゃんを育てている感覚です。ですから、一人でも多くの人に体験していただき、その声をもとにコンテンツやサービスの充実を図って、成長させていきたいですね。
青木:
一般的にVRは、エンターテインメント性の強いテクノロジーという印象ですが、ジョリーグッドでは人の成長に役立つテクノロジーサービスとして「emou」を生み出しました。今はまだ支援施設を対象に展開していますが、いつかは発達障害の方に直接届けられるようなサービスをつくれたらと考えています。
編集:
将来性のあるサービスですね。
竹内:
もっと多くの方に「emou」を体験していただくために、ジョリーグッドのオフィスで体験会を行っていますのでご参加ください。
青木:
施設ごとの体験会にも対応しています。全国各地VRを持って伺いますので、まずはお問い合せください!
青木雄志 Yuji Aoki
テレビ番組の制作、動画制作などを経て、2018年4月に株式会社ジョリーグッドに入社。発達障害支援機関向けのサービス、ソーシャルスキルトレーニングVR「emou」のビジネス立案から制作、事業開発まで幅広く携わる。現在は経営戦略局クリエイティブ事業部のシニアプロデューサーとして活躍。
竹内恭平 Kyohei Takeuchi
通信商社でのマネージャー経験を経て、新卒で楽天に入社。ビッグデータを活用した広告事業を行う部署にて、主に官公庁、自動車、不動産領域の営業業務を担当。その後シリーズA期のスタートアップに参画し、CtoCサービスやオウンドメディアの事業開発に従事。
2018年にジョリーグッドに入社。
現在は経営戦略局クリエイティブ事業部のビジネスプロデューサーとして活躍。
Photo:Jiro Fukasawa