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世界初の中和抗体で、線維症患者の命を救う。【採択企業紹介/Hiroshima Global Connection】

貿易・投資促進と開発途上国研究を通じ、日本の経済・社会の更なる発展に貢献することを目指している「JETRO」。70カ所を超える海外事務所のほか、東京本部を始めとする国内50の事務所が設置されています。そのネットワークをフルに活用し、対日投資の促進や農林水産物の輸出、中堅・中小企業等の海外展開支援や調査・研究を通じて日本の企業活動や通商政策に貢献しています。ジェトロ広島では広島県内でイノベーションエコシステムを創出するため、海外展開を目指すスタートアップに向けて、成果の創出や事業の発展を目的とした支援プログラム「Hiroshima Global Connection」を県と協力のうえ実施しています

今回は「Hiroshima Global Connection」採択企業である「抗体医学研究所」にインタビューを行いました。企業の事業内容や海外展開への取り組みについてお聞きしています。

抗体医学研究所
肺線維症や肝硬変、がんの治療に有効な独自開発の中和抗体を用いた医薬品を開発する広島大学発スタートアップ。間質性肺炎(肺線維症)の進行を止める世界初の医薬を開発しており、研究のため20年にわたり作製してきた中和抗体を医薬として社会実装することを目的に設立された。抗体は患部の細胞表面レーダー(インテグリン)を攻撃し、肺線維症や肝硬変として知られる線維症に効力を発揮する。作製した抗体はいずれも世界初で、世界特許の登録も果たしている。

<会社概要>
本社:広島県広島市佐伯区海老園1−5−44−801
設立:2022年5月 
資本金:1000万円

横崎 恭之(よこさき やすゆき)
広島県出身。広島大学医学部で博士号を取得後、産業医科大学(北九州市)、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、国立療養所広島病院(現:東広島医療センター)で呼吸器系の研究や臨床経験を積み、2003年に広島大学へ。間質性肺炎や肝硬変などの「線維症」に効果のある抗体医薬の開発を進めている。支援者を集める目的で2022年に会社を設立し、翌年には大学から離籍し創薬に打ち込む。

一人の医者が線維症の薬を作るまで

ーーまずは事業概要について教えて下さい。

横崎さん:

傷ができたときに表面ではかさぶたができると思いますが、深いところで傷を治しているのが線維芽細胞と呼ばれるものです。線維芽細胞は交番にいる警察官のイメージに近く、組織障害の修復係として全身に少しずつ点在し普段はおとなしくパトロールしているのですが、何かあれば出動してくれます。ところが、再生が盛んな臓器は線維芽細胞が働き始めると止まらなくなることがあるんです。それを止めるための薬を開発し取り扱っているのが抗体医学研究所です。

ーー線維症は日本人に多い病気なのでしょうか?

横崎さん:

日本だけではなく、世界にも同じように線維症で苦しんでいる患者さんがおられます。そのため線維症の薬へのニーズは日本も世界も一緒で、海外には日本よりもさらに大きな市場が既にできあがっています。そこで私たちは、日本の市場と海外の市場を視野に入れたグローバル開発を念頭に活動をしています。

ーーそもそも線維症の薬を開発しようと思われたきっかけはどんなものだったのでしょうか?

横崎さん:

病院の医師をしていた20年ほど前に線維症の方を担当していたのですが、当時はまだ線維症の薬がなかったので「息が苦しい、苦しい」と言われるのに対して、酸素吸入の量を増やしたり、難病の申請書を書いて医療費を助けてあげたりしかできなかったんです。その方が亡くなられたときに「一体おれは何なんだ、このままでいいのだろうか」と思うようになりました。そのまま病院で臨床を続けても本気になれないような気がしましたし、自分には留学中の経験から線維症の薬を作れる可能性があると思い、開発に取り組むようになりました。

ーー将来は製薬会社を作られる予定ですか。

横崎さん:

もちろん大きな製薬会社ができればいいですけど、それは現実的ではないと思ってます。IT系のテック企業のように成功したら大きなお金が入るわけでもないし、なにより時間がかかります。早く患者さんの元へ届けるためには大きなグローバル製薬企業と協業・協力することが一番だと考えています。

ーー日本だけではなく海外にも目を向けていらっしゃるんですね。

横崎さん:

日本は創薬に関して少し遅れていて、国内トップの企業でも世界で見れば売上はトップ10前後です。欧米で活動する創薬のグローバル企業と早い段階で協力関係を持てれば、より多くの患者さんにより素早く薬を届けることができるのではと考えています。

海外進出によって見えてきた展望

ーー今回の「Hiroshima Global Connection」についてもお聞かせください。

横崎さん:

英語の先生にWebでマンツーマンでついてもらって、何度かレッスンをしてもらっています。実は英語でのコミュニケーションに自信を無くしていたときに、海外の方と一度面談をしたのですが質問になかなか答えられなくて、大失敗したんです。だから僕自身、今回のプログラムを活用して成長したいという気持ちが強くありました。今回のプログラムを通して英語への不安を払拭できたので、海外展開に向けて外国の製薬関係者とも話をしていきたいと思い始めました。

ーー海外渡航プログラムの意義はどんなところでしょうか。

横崎さん:

海外を訪れることで、意識が国外にも向くことだと思います。私もコロナの前までは年に2回ほど学会に参加して英語を忘れないようにしていましたが、新型コロナウイルスによる渡航制限で、英語でのコミュニケーションに自信を無くしてしまっていました。そんな中、プログラムで海外に行ってアメリカの投資家の前で英語で話すことができたことで、自信にもなったし自分の一部はアメリカにあるんだという気持ちになりました。それから実際に海外展開をしている日本の企業と知り合えたことで、自分たちも海外展開をしていこうという意識を持てるようにもなりました。

ーー現在はどんなビジョンを持っていますか。

横崎さん:

私達は線維化を抑える薬をメインで扱っていますが、その他にも2つほど大学で作ったシーズを持っているので、それらのパイプラインを生かして、グローバル企業に共同研究のアプローチをしていきたいです。ただし契約に至るには企業側のニーズと私達の売り込みたい事業が合致し、気に入ってもらうことが必要です。また国内外のVCからの資金調達も必要になると思います。できるだけ早期にM&Aや株式公開はしていきたいと考えていて、今は2026年から2028年ぐらいを想定しています。M&Aしてまだまだやりたいシーズが残っていたら、新しくベンチャーを作ってもいいわけですし、事業売却したら終わりではなくて、あくまでジャンプ台と捉えて柔軟に考えていきたいです。

ーー線維症の薬が患者さんの元へ届くのはいつ頃になりそうでしょうか。

横崎さん:

2035年より早くなる可能性はあると思っています。本当に良いものであれば、早期に承認できるシステムがあるのでそこに適合すれば、短くなる可能性はあります。私たちの会社は特許を持っており、大学が特許を持っている場合よりも積極的だと企業やVC側も認識しておられるので、スムーズに話が進むのではないかと思います。

ーー最後に創薬への思いもお聞かせください。

横崎さん: 

大学の医学部/歯学部の授業の中で、たまに、世で誰も知らぬ現象を発見した経験を話してきました。皆にそのチャンスはあると話すと、一部の学生は真剣に聞いてくれます。でも一部です。「せっかく医者になったのに研究者に戻るなんて」という思いがあるようで、熱量があまりないことを残念に思っています。医師の中には研究が好きな方も多く、米国留学中には臨床と研究を行き来するポスドクを普通に見かけ、ラボの教授はほぼ研究者でありながら、医師として実習の担当をしていました。日本ではそのキャリアパスも環境もほぼないので、臨床医に大発見が可能な事実を、自分の力でもう一度示せないかとよく考えます。学生の心に眠る研究魂を呼び起こす一つのわかりやすい方法は経済的に豊かになることです。赤いフェラーリでキャンパスを走り、講義室の近くでエンジンを蒸したいですね。背中を見せ、車を見せ、音を聞かせる。これで目を覚ましてほしいです(笑)。


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