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日本とインドから院内感染症予防のデバイスを世界へ。【採択企業紹介/Hiroshima Global Connection】

貿易・投資促進と開発途上国研究を通じ、日本の経済・社会の更なる発展に貢献することを目指している「JETRO」。70カ所を超える海外事務所のほか、東京本部を始めとする国内50の事務所が設置されています。そのネットワークをフルに活用し、対日投資の促進や農林水産物の輸出、中堅・中小企業等の海外展開支援や調査・研究を通じて日本の企業活動や通商政策に貢献しています。ジェトロ広島では広島県内でイノベーションエコシステムを創出するために、海外展開を目指すスタートアップに向けて、成果の創出や事業の発展を目的とした支援プログラム「Hiroshima Global Connection」を県と協力のうえ実施しています。

今回は「Hiroshima Global Connection」採択企業である「Medlarks」にインタビューを行いました。企業の事業内容や海外展開への取り組みについてお聞きしています。

Medlarks
世界で毎年1,000万件以上感染が発生し24万人が亡くなるカテーテル関連尿路感染症(CAUTI)を予防するため、既存の尿道カテーテル(尿を排出するために、膀胱内に挿入する細い管)に接続することで、原因菌の体内への侵入を防ぐデバイスを開発。世界中でCAUTIにより亡くなっている多くの命を救う。

<会社概要>
HP:https://www.medlarks.com/ja_jp
本社:広島県東広島市鏡山3丁目13番60号クリエイトコア18号室
設立:2022年5月 
資本金:200万円

松浦 康之(まつうら やすゆき)
広島県出身。広島大学総合科学部と大学院工学研究科で情報工学を専攻したのち、パナソニックグループ企業に入社。退職後はベンチャー企業設立に参加しつつ、起業や新事業創出に挑戦する人材の育成を目指す「グローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGEプログラム)」などに参加。2018年には広島県の支援を受けて広島大学からインドに派遣され、全インド医科大学のSchool of International Biodesignフェローシップに参加。帰国後は、広島大学にてひろしまバイオデザインプログラムの運営に参画。2022年にインド人研究者と共同で、日本とインドで現在の会社を創業。2023年から、広島県公立大学法人 叡啓大学に勤務し、課題解決演習等を担当。

日本・インドでの出発から海外へ

ーーまずはMedlarksの事業について教えて下さい。

松浦さん:

今取り組んでいるのがカテーテル関連尿路感染症(CAUTI)という院内感染症を予防するためのデバイスの開発です。既存の尿道カテーテルに接続し、原因となる細菌が体内に侵入することを防ぎます。CAUTIに感染してしまうと治療のために入院が伸びたり、CAUTIからさらに敗血症などの病気になってしまったりする恐れがあります。アメリカ疾病予防管理センター(CDC)等がCAUTI予防のためのガイドラインを公開していて、医師や看護師もその存在を知っているのですが、忙しい臨床現場ではガイドラインで推奨される対策を徹底することは難しいのが現状です。そこで私達はCAUTIを防ぐためのデバイスを開発しようとしています。

ーー製品を作ろうと思ったきっかけはなんですか。

松浦さん:

大学を卒業して十数年パナソニックでソフトエンジニア業務をしていた頃は、医療とは全く無関係なことをずっとやっていました。会社を辞めてから知り合いと何か面白いことをやろうという話で1回会社を作ってみたのですが、スタートアップや起業に関して細かいことを理解しないままやっていたので全く上手くいかなくて。その後、紆余曲折あって事業を辞めようとしていた頃に、インドでバイオデザインに参加しないかという話をもらって、2018年の1月から約1年間、デザイン思考のプロセスをもとにして臨床現場の未解決の課題を探し事業化に取組む「バイオデザイン」プログラムに、インド人のメンバーと一緒に取り組みました。当時現場観察を通じて発見した様々な課題から選んで解決に取り組んだもののひとつがカテーテル関連尿路感染症(CAUTI)で、インド人の共同創業者はインドに住んでいるので、現在は日本とインドで事業をやっています。

ーーインド以外の海外にも目を向けていらっしゃるそうですね。

松浦さん:

カテーテル関連尿路感染症(CAUTI)は世界中で共通する問題なので、日本やインドに固執せず世界中の臨床現場に届けることができたらと思っています。もちろん、課題もあります。日本やアメリカなど多くの国では、尿道カテーテルだけではなく排尿バックと接続した状態で挿入に必要な潤滑剤や手袋、シリンジ等が全部セットになったキットとして売られているケースが多く、スムーズな普及のためには今作っているデバイスの一部をそれらのキットに含めて売ってもらうのが良いと思っています。そのため、今すでに尿道カテーテル等を製造、販売していて、協業してくれる戦略的なパートナー企業を世界中で探しています。

Hiroshima Global Connectionによる海外進出のサポート

ーー「Hiroshima Global Connection」からは具体的にどのような支援を受けているのでしょうか?

松浦さん:

「英語のピッチとは」「海外展開に必要なマインドセットとは」といったことを座学で教えてもらったり、実際に作成した英語のピッチを見てもらったりと、会社ごとの状況やステージにあわせた必要なサポートやアドバイスを提供して頂いて、とても満足しています。今回のプログラム以外でもJETROの方に相談すると「既存の支援メニューやプログラムの中から、こんなものが使える可能性がありますよ」と紹介してもらえるので、私達が必要としている部分の多くをカバーできているかと思います。

ーー今回の「Hiroshima Global Connection」に参加した経緯も教えて下さい。

松浦さん:

今開発しているデバイスは医療機器なので、実際に販売するにはそれぞれの国や地域ごとに承認や認証を取得する必要があります。その具体的な方法がアメリカ、欧州、インドといった海外の場合だと詳細が分かりづらいので、経験とノウハウを持った専門家を紹介頂いて話を聞いたり相談したりするのにちょうどいいなと思いました。それから今後海外展開をするにあたり、英語のピッチを改めてちゃんと準備し練習しておきたいという思いもありました。

必要なものを必要な人へ、手の届く形で

ーー今後はどんなビジョンを描いていますか。

松浦さん:

現在、プロトタイプデバイスを作っているところで、1年後をめどに医療機器として必要とされる品質や有効性・安全性等を検証し、医療機器としての承認や認証を取得するプロセスを日本とインドで開始することを目指しています。そして、承認、認承が取得でき次第それぞれの国で順次販売していきたいと考えています。一緒にやっているメンバーがインドに住んでいるので、まずは日本とインドでの活動を中心に進めようと思っていますが、アメリカや欧州の市場も大きいので、将来的にはぜひ進出したいと思っています。資金調達に関しては「例えば、アメリカに進出するからアメリカのVCさんからしか調達しない」というつもりはなく、ご協力頂けるならアメリカでもインドでも欧州でも日本でも全然気にしません。今は日本で主に活動しているため日本のVCからの資金調達が現実的だと思うので、まずは日本のVCさんから支援をいただき、次に海外からの支援を考えたいと思っています。

ーーその先で目指すのは、やはりIPOでしょうか?

松浦さん:

IPOまで持っていくのが一番利益は大きいのかもしれないですが、それよりも尿道カテーテルを作っているメーカー等と組んで、たくさんの患者さんにリーチするほうが早く臨床現場の問題を解決できると思っています。そういうところに事業を売却するというのもあり得る選択肢ですね。いずれにしても最終的には患者さんなり臨床現場に届かないと意味がないので、現場に使ってもらうために一番近い選択肢が優先です。

ーー最後に事業を行う上で松浦さんが大切にしていることを教えてください。

松浦さん:

インドのバイオデザインのコンセプトのひとつに「フルーガル・イノベーション(Frugal Innovation)」があります。簡単にいうと「できるだけ低コストで現場の人たちに必要なものを届ける」「無駄なところを削ぎおとして本当に必要なものを安く届ける」という考え方で、個人的に良い言葉だなと思っています。私達は医療機器を取り扱う以上、必要な機能と質を保ったデバイスを、本当に必要とする人に、手の届く価格で提供することが最も重要だと考えています。それで人の命を救えるなら十分ではないでしょうか。


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