その花嫁様は、ヴァージンロードをお父様と歩くことを拒まれました。
ご家庭の事情で、父娘の関係がうまくいっていないご様子でした。
一生に一度のこと。私たちは懸命に説得しましたが、花嫁様の心は閉ざされたままでした。
不安を抱えたまま迎えた当日、初めてお父様とお会いしました。
難しい方なのだろうかと思っていましたが、
穏やかな顔をされた、とても優しそうな紳士でした。
そして私に「これを娘に渡してください」と
家庭円満を祈る櫛田神社のお守りを差し出されました。
お客様のご要望をお断りしてはいけないのが私たちの仕事ですが、
「ぜひ、ご自身の手で」とお断りいたしました。
挙式直前の控室。お父様は無言で花嫁様に近づき、
不器用な手つきでお守りを渡されました。
手にした花嫁様は、その瞬間、大粒の涙を流されました。
ずっと胸の奥にしまいこんでいたものがあふれだしたように。
そして、挙式本番。腕をしっかりと組んで
ヴァージンロードを歩かれるおふたりの姿がありました。
長い年月覆っていた雲を消し去った。晴れやかな笑顔で。