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第8話 成長と多角化と組織崩壊と

2010年代に入り、進出企業のメインだった製造業に加え、ITやベンチャー企業のベトナムへの進出が目立つようになってきた。
慢性的に続くITエンジニア不足から、若く優秀なプログラマーの多いベトナムに白羽の矢がたったのだ。オフショア開発とよばれ、ソフトウェアやWEB・アプリの開発を受託する企業から自社のITサービスの開発する企業・大中小問わず様々な企業がこぞって進出してきた。
30歳になりようやく右左がわかってきた頃だった。
ITベチャー企業の経営者の多くも30代前後の同年代で熱量を持った優秀な経営者との知り合いが加速的に増えていった。
ベトナムに進出する際に、ベトナムや人材、そしてマネジメントのことを聞きたいと様々な企業の経営者が自分のもとに訪れてくれるようになったのだ。
これまで1人で経営の悩みを抱えていた自分が、同じ様な苦しみ・悩みを抱え頑張っている同年代の経営者仲間が増えていく喜びは言葉にすることが出来ない程嬉しかった。
孤独を受け入れ自分の道を進んでいくことの大事さと同時に、人生には仲間がいることで得られる幸福があると痛感した。

ハノイへの事業展開を皮切りに、インドネシア・日本・マレーシア・シンガポールへ年を追うごとに進出を果たしていった。
人材サービスは情報産業のため自社事業のIT企業化を推進するべくWEB開発もはじめ求人メディアを立ち上げ、社内システムも整備していった。
自社でエンジニアをゼロから採用しチームを組成し内製化も進め、IT企業としても立ち上がった。
人材紹介事業の一本のみが収益構造だった所から、人事課題をトータルで解決できるために事業の深堀りも決めた。

それが組織人事コンサル事業だった。
組織人事コンサル事業は、評価・報酬の仕組みといった人事制度づくりからスタートし、育成などの組織開発そして労務問題の解決等、トータルで人事課題をサポートできる体制へと整えていった。
エリアもベトナムで出来る体制から現在では東南アジア全体でプロジェクトを推進している。
今では唯一、採用から組織課題までトータルかつASEAN全体を面で対応できる唯一の会社になれたという自負がある。
同時に新規事業への挑戦と撤退などもいくつも繰り返してきている。
多くの仲間と資金も失ったが、得られた経験や気づきも同時に多くあったのだった。
一気にかきあげたが、この一つ一つでドラマは当然あった(笑)
時間が許せばまた別の機会に、一つ一つの事業の成長と失敗に関しては譲りたいと思う。
順調に組織も30名、50名、100名と増えていく中で、組織の問題は限界を迎えていくのであった。

それは組織崩壊という形で音を立てるように壊れていく事になった。
問題が起きるまでは、何の仕組みもない中で自分の想いと最低限のバックオフィスのみで複数カ国での事業展開してきた。
つまり、しっかりとメンバーに目を向けたマネジメントや仕組みが出来ていない中で、先を急いできたのだった。
ベンチャーはそういうものだと自分へ言い訳していた。
役員も自分ひとりで、中間管理職も限定的。
自分が夢や希望を持ち前に進んでいく背中を見せる事のみでメンバーについてもらってきた。
恐らくだが、メンバーはその事を受け入れ、ある種の諦めを持って接してくれていたのだと思う。

しかし物事には臨界点といものがある。

様々なメンバーから不満がどんどん上がってくるのだった。
その一つ一つの内容も自分としては非常に憤るばかりで、あまり自分に矢印を向けられていなかったと思う。
至るところで組織崩壊につながる不満が勃発し組織コンディションは最悪になっていった。

例を上げると、以下のような声が上がってきた。

「自分たちのサービスは売上を追うばかりではないのか?」
「報酬面や福利面が不満」
「社員に対して還元しようとしていない。」
「自己中心的な社長が独善的に事業を行っている。」

非常に辛かった。

社内の声が聞こえてくる度に不満が上がってくるのではないかと恐れた。
それらの声の多くはあたっている部分も有り、改善をしなければならないと急いだ。
改善しようにもこういった声を上げてくるメンバーの多くが、改善する側に回ってくれるわけではない。
役員1人+メンバーと言う構造ではやはり限界だったのだ。
指摘される問題の矢印は全て自分に向かい改善を求められるのも主体者も自分のみと思い込んでしまっていた。
自分には、解決するための意思決定やエネルギーを注ぐことは出来るものの全部の実務に対応することは現実的に不可能。

改善を求めるメンバーも、結果としてその多くは組織を壊す方向に動いていった。

大量に退職してしまうこともあった。
在職中に裏で競合ビジネスをすすめるものもいた。
反体制派が薄っすらと組織内にでできることもあった。

多くの問題の発端が自分であることは疑いようのない事実だったが、非常に辛かった。
しかし幸いなことに組織がすべて崩壊したわけではなく一定の人数で問題はストップした。
その頃から在籍して、現在でも弊社の重要な役割をになってくれているメンバーも少ないことが物語っている。
以降、採用の基準をより一層厳しくし、コンピテンシーを明確にし、能力やスキルがマッチしてもカルチャーマッチしないメンバーの採用を止めることにした。
報酬体系や評価制度も見直し、まだまだ十分とは言えないものの当時に比べればアップデートし改善を続けている。

組織崩壊で学んだことは、全ての問題が自分に起因していることだった。
ビジョンやミッションはただ掲げるだけでなく、組織の仕組みに落とし込めなければならない。
理想を掲げるということはその分、責任や重荷を負うことになる。
より一層コストも掛かる。
生き抜くために費用を抑えることだけで組織はイキイキとしない。
事業と組織は両輪で、どれだけ必要な事業(サービス)を行っていても、実行してくれるメンバーが理念に共感すると同時に気持ちよく取り組めるためのインフラ(仕組み)を整えることがとても重要なのだ。

組織の崩壊を経験し、人材会社としてより人事に力を入れる事を決意したのだった。

<次回、最終話へ続く>

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