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『はじめの一歩を踏み出せれば人生はボーナスステージ』

前回「会社で協力者を増やすための“バックパック理論”」にて、株式会社グラフィコ通販・カスタマーサービス部門を統括する熊澤さんに、行動を起こすこと、場数を踏むことの大切さについて話を聞きました。

今回はその「場数」というものを
もう少し深掘りしてみたいと思います。

場数を踏むための「はじめの一歩」。最初は小さな一歩かもしれませんが、それが今後、仕事の価値観を変える大きな一歩になるかもしれません。そんな一歩を踏み出すための心構えとは・・・・

それは意外と自分の身近にあるかもしれません。
では話の続きを。

■やりたいことをやるだけで希少性が生まれる

-前回「会社で協力者を増やすための
“バックパック理論」で、人と信頼を築いて
人間関係を豊かにするために、
人の荷物を適切に持てるようになることを
おすすめしていましたよね。

(熊澤)
はい。

-そのなかで、適切に荷物を持つためには
まず「場数」が必要だというお話がありました。
質のためにはまず量が必要だと。
今回はそのあたりをもっと詳しく
お聞きしたいと思います。

(熊澤)
場数を踏む、
もっとシンプルな初期動作でいうと、
はじめの一歩を踏み出せるようになると、
人生はボーナスステージに入ると
思っているんです。

-はじめの一歩でボーナスステージですか?

(熊澤)
ええ、少なくともいまの日本では。
やりたいと思ったことをやらない人が
ほとんどなので。

やりたいと思ったことをやる人というだけで
希少性を持つことができ、チャンスが集中化し、
機会が増えることで必然的に成長し、
周囲との差が開いていく。
だから、ボーナスステージに入れますよ。

-なぜほとんどの人はやりたいことを
 やらないのだと思いますか?

(熊澤)
失敗を過剰に恐れすぎている。
失敗したら悪いと思っている。
失敗したら何かを失うと思っている。
「失敗」を悲観的にとらえる認識のしかたが
大きな要因のひとつだと思います。

■間違えてダメージはある?

-失敗をダメだと思ってしまうのがいけない、と。

(熊澤)
ええ。前回も話しましたけど、普通に考えて、
失敗ってものごとを習得したりスキルアップ
したりするには必要なプロセスですよね。
失敗することで修正がおこなわれ、
やがて失敗しないようになり、
スキルが上がっていくわけなので。
たとえば、ピアノでショパンの楽曲を
いきなり華麗に弾ける人っていないですよね。

-それはそうですね。

(熊澤)
『バイエル』→『ブルグミュラー』→『ツェルニー』→『ソナチネ』と練習曲のレベルが上がっていって、徐々に上達していく。その過程で、とうぜんミスタッチをくりかえす。
音符は追えてもリズムがとれなかったり、強弱がつけられなかったり、いろんなミスをする。間違えて、くりかえしくりかえし練習しながら、だんだん上手になっていく。どんな達人でもそのプロセスは同じです。そう考えると、ミス自体が問題でしょうかね?

-違いますね。

(熊澤)
練習中に間違えて、ダメージがありますかね?

-ないですね。

(熊澤)
むしろ、ミスを避けたり、ミスをいやがって止めてしまったりすることが問題ですよね。避けたらそのミスを克服できるレベルにならないし、止めたら成長はそこで終わり。
ミスを肯定的に受け止め、ミスに対して今はまだスキルが足りないサインだと認識して、できるようになるために続ける。

そうやって継続している人が達人になっていく。だから、スキルの高い人は、スキルが低い人よりもはるかにたくさんチャレンジし、はるかにたくさん失敗しているんですよね。量が圧倒的に違う。

-たしかに。

(熊澤)
イチローが日米通算4,000本安打を達成したときに
「自分の数字だとここに来るまでに8,000回凡退し
ている」というような発言をしていましたが、
超一流は、それだけの量のミスに向き合い、
成長のために継続していることを学びたいですよね。

-イチローのその言葉は、
 聞いたことがあります。

(熊澤)
ショパン・コンクールに出場しているピアニストに、いきなり「いや~、そんなに上手にピアノ弾けていいですよね~。うらやましいな~。どうやったらそんな上手に弾けようになりますかね? ぼく才能ないからムリだな~」とか軽薄に聞いたら怒られますよね(笑)。

「いやいや、弾けるようになりたきゃ私と同じように1日8時間練習しろ。10年以上。それだけだ」っていう回答に尽きるわけなので。

-いますね、そういう聞き方しちゃう人(笑)。
 でも、言われてみれば仕事も一緒ですね。 
 失敗のリカバリーが逆に相手との
 信頼関係を育むこともあります。

(熊澤)
そうですよね。
仕事もまったく同じ。
やらなきゃできるようにならないのに、
できないからといってやらないのは順番が違う。
最初から失敗もしないで上手にできることはない
と子どものころから学んでいるはずなのに、
仕事となると失敗を避け続け、
チャレンジをしない。リスクを避け続けると
結果的に最大のリスクをとることになるので、
リスクマネジメントという観点でも、
失敗を恐れてはじめの一歩を踏み出さないのは
マズい。

-仕事だと失敗したくない。
 他人に自分が失敗したと思われたくない。
 ぼくもそんな気持ちはあります。

(熊澤)
ぼくもそうでした。
仕事で課題に直面した時に、
失敗を恐れるあまり、
どうしても受け身になっていました。
嫌な予感がするけど、しばらく放置する…
手を出すのはやめよう、みたいな。
結果として、自分だけではどうにもならない状況に追い込まれ、大きな損害が発生するわけです。
周囲に迷惑をかけましたね、ずいぶん。

-ちなみに、考え方を変えたきっかけは
 あったのでしょうか?

(熊澤)
きっかけ…ぼくの場合はですね、
自分が大きく変わるタイミングがありまして。
仕事とかではなくて…
女性と別れたときですね(笑)。
離婚したときとか。
すいません(笑)。

-そうなんですか(笑)。
 本能的に?

(熊澤)
たぶん本能的に(笑)。
このままじゃマズい、
同じことをくりかえすわけにはいかない、
自分を変えないとって…。気づくのが遅いんですよね(笑)。

■失敗の回数よりも立ち上がった回数

-気をとりなおして(笑)、失敗だと認識したことで、そのあと受身になることもあるかと思いますが、その辺はどんな風に考えられていますか。

(熊澤)
失敗のとらえ方ですね。
失敗の回数よりも、失敗した後に立ち上がった
回数を数えたほうがいいと思います。

-七転び八起きという考え方でしょうか?

(熊澤)
そうですね。失敗したら、なぜ失敗したのかを分析し、そして行動を修正する。
それがセットです。
「アクションなき分析には意味がない」と言われますが、それと同じです。立ち上がるからこそ失敗が学びとなるわけです。失敗のあとに行動が修正されなければ、それはただの失敗、悪い失敗になります。反省がない。同じ失敗をくりかえしてしまいます。さきほども言ったように失敗自体が問題なのではなく、失敗を成長のプロセスにしないことが問題なんです。

-失敗からの分析、そして行動の修正ですね。
 ただ、失敗すること自体が恐い、
 という場合もあると思うのですが。

(熊澤)
デール・カーネギー『道は開ける』という本に
悩みを克服する方法が書いてあって、
簡単にいえばその状況で起こる最悪の事態を
想定してしまうんですね。
最悪で線を引くと、
それより悪くなることはないと思えて
不安がなくなるという理屈です。

人間、わからないことに不安や恐怖を感じるので、わかってしまえば「なんだ、そんなものか」ってなる。失敗に対しても同じ考え方をすれば適切に対処できると思います。小さいものを過剰に大きくとらえたり、逆に大きいものを過小評価したりすることがなくなりますから。

-一度失敗するとどうしても人は
 不安になりますよね。
 それでも、最悪の場面を想像して
 みれば気持ちが落ちつく、と。

■不安はゴーサインにする

(熊澤)
不安という言葉で思いついたのですが、失敗のほかに、はじめの一歩を踏み出せない大きな要因があると思うんです。それは、人は変化によって自分が未来に得る利益は想像しにくい一方で、現在持っているものを失うことには過敏であること。変化するからには、かならず何かが変わる。何かを失う実感はヒリヒリするほどあるけど、何かを得ることにはリアリティを感じられない。
だから、変わることに対して不安を感じてしまう。

-変わることに対する不安、そうですね。

(熊澤)
最近なるほどなって思ったのが、
「人は不安と不満があったとき、不満を選択しやすい」って言葉です。現状に不満があっても、変わることには不安があるから、不満を選択して現状を維持してしまう、と。
現状を変えてもかならずうまくいくとは限らない。もっと悪くなるかもしれない。自分の手に負えない状況になるかもしれない。そんな不安があるから、はじめの一歩を踏み出せない。不満を感じながらも現状にとどまろうとしてしまう。

-そうですよね。変えることは様々なリスクが想像できます。

(熊澤)
ええ。現状のままだとより状況が悪くなるなら、リスクをとって変えにいかないといけない。
はじめの一歩を踏み出さないといけない。そういうときに不安を感じるように人間はできている。

さくらももこのエッセイのタイトルじゃないですけど『そういうふうにできている』ので、
変化に対して不安を感じたら一種のサインだと思って、踏み出してみたほうがいい。
不安をゴーサインにして、失敗を成長のためのプロセスと認識できれば、はじめの一歩を躊躇なく踏み出せるようになります。何も考えずにまず踏み出しちゃう、という経験は多くの人がしていますよね。それでいい。踏み出したら、それを正解にしちゃえばいいんです。失敗で行動を修正しながら。

-まず踏み出してしまう。

(熊澤)
いま各地をすごい勢いでにぎわせている映画『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督は、
むかしmixiで有名な“痛い人”だったらしいんですね。岡本太郎コミュニティに「自分、太郎超えるっす!」というコメントでとつぜん現れた、と。そして、「まずはカフェバー事業を立ち上げて成功させて会社化し、そこで映像事業部を作って映画を作って世界中を震撼させる」みたいな「?」な志を述べ、さらには「とにかくまず、自分は行動しなきゃいけないっていうことでヒッチハイクをがんばってるっす!」っていう、岡本太郎とも映画ともぜんぜん関係ない展開で「だったらさっさと映画つくれよ!」とツッコミをうけるという。

-ははは(笑)!

(熊澤)
つまり、“行動するバカ”だったわけです。
それでも、借金苦やホームレスを経験しながらも映画への志を捨てず、目的と行動のチャンネルがついに合った先で、歴史に名を残すであろうとんでもない傑作映画をつくりあげた。はじめの一歩を踏み出し、失敗しても立ち上がり続けた結果、偉業を成し遂げた。傍観者にはできないことです。

-すごいエネルギーですね(笑)。
 たしかに、何かを変えることはエネルギーも
 必要ですし、そのために、もしかすると大切
 だと感じている何かを捨てることが必要なの
 かもしれませんね。

(熊澤)
そのとおりですよね。新しく行動するためには、何かを捨てないといけない。だからこそ、行動を起こすときはあらためて自分のことを丁寧に考えるチャンスだと思います。自分にとって大切なことはどんなことか、好きなことはどんなことか。自分が捨てるのに抵抗があるものは、本当に自分にとって価値のあるものなのか。

-捨てる、か…。

(熊澤)
そして、捨てるためにはかならず、何を捨てるかの「判断」が必要になる。
そこで、「判断」に対するアプローチが、とても重要になってくるんです。

-判断、たしかに重要なポイントですね。次回、また詳しく聞かせてください。

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