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【家入一真氏×山田寛仁対談】“境目”は曖昧になる時代。foriioはポートフォリオで、表現する「個」を支える

家入一真氏の顧問就任にあたり、代表取締役 山田寛仁と対談を実施しました。「クリエイターが幸せに働く、大切さと難しさ」を感じてきた山田がforiioにかける想いや、今後のforiioの可能性について語っています。(この記事は2019年7月31日にforiioのnoteで掲載されたものを再掲したものです)

「クリエイターが幸せに働く、大切さと難しさを感じてきました」

foriio」を展開する、1ne studio代表取締役 山田寛仁は、こう語ります。foriioは、広告・クリエイティブ業界で一人のクリエイターとして生きてきた山田の「個のクリエイターをエンパワメントしたい」という想いのもと、スタートしました。

2019年7月には、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」やネットショップ作成サービス「BASE」など数々のサービスを立ち上げてきたことで知られる、家入一真氏の顧問就任を発表。今回は、家入氏の顧問就任にあたって、クリエイターが幸せに働くためには何が必要か、クリエイターを取り巻く環境の変化について、そして今後のforiioの可能性について、対談を実施しました。


クリエイターが幸せに働き、生きていくために

—— 今日はよろしくお願いします。はじめにおうかがいしたいのですが、二人の最初の接点って、何だったのでしょうか?

山田:僕はforiioを立ち上げる前、フリーランスのデザイナー・アートディレクターとしてアイドルのディレクションや企業のブランディング、広告制作などの仕事をしていました。その頃、僕がディレクションを担当していたアイドルグループ「ヤなことそっとミュート」について、家入さんがTwitterで呟いてくれているのを見つけたんです。

家入:そうでしたね。あの時は偶然、妻とライブハウスの前を通りかかったんです。僕はよく妻と、ライブハウスに並んでいる人たちの属性・格好などを見て、どういった人のライブなのかを当てるってことをしているんですが、その時は「アイドルかな…でもちょっと違うかも?」と思い気になったんです。それでライブの情報を見にいくと「ヤなことそっとミュート」って書いてあって、それをツイートしました。


山田:そのツイートを僕が見かけていたんです。1回目の時コメントはしなかったのですが、知っていただいているんだ!と嬉しくなりました。

—— 顧問のお話が実際に進んだのは、どのようなきっかけがありましたか?

家入:AngelBaseのインタビュー記事を読んでくれたんですよね。

山田:そうですね。「物語を綴るように起業しよう」という記事を読んで、家入さんのエンジェル投資家としての姿勢を知ったんです。ベンチャーキャピタル「NOW」を設立されるにあたっても、エンジェル投資のスタンスを貫いていますし、僕はその記事の内容に感銘を受けました。Twitterで記事を引用して「家入さんに出資してもらいたい」と呟き、そこに反応をいただいて、対面でお話することが決まったんです。

家入:その後も何度かお会いして、結局NOWとして投資するには至らなかったのですが、僕の方からも引き続き関わりたいと考えていて、今回の顧問就任を決めました。僕は、「ヤなことそっとミュート」で山田さんを知ったので、ずっと“ヤなことそっとミュートの人”だと思っていて、最初連絡をもらったときは驚きました。ちなみにグループ名は誰が考えたんですか?

山田:僕含め、運営陣みんなで考えましたね。この仕事は、自分にとって、象徴的な仕事だったんです。オーディションやグループ名を決めるところから、クリエイティブをつくるところまで。プロデュースの全般に携わらせていただき、クリエイターとして幸せな仕事でした。

—— クリエイターとして幸せな仕事?

山田:はい、僕は広告制作会社やフリーランスを含め、10年ほどクリエイティブ業界で働いています。そこでさまざまな案件を経験する中で、「クリエイターが幸せに働く」大切さと難しさを感じてきました。

そこに必要なのは、対等にリスペクトしてくれるクライアントや制作チームとの出会い。そして、自分の志向性と案件がどれだけマッチするかです。そういった意味で「ヤなことそっとミュート」のクリエイティブ制作は、自分の「アイドル好き」という点も活きたし、リスペクトしてくれるプロデューサーやクライアントと一緒につくりあげることができたなと考えています。

foriioを展開する中でも、クリエイターがより幸せに働き、生きやすくなるためには、どんな選択肢を提供できれば良いかを考え、サービスと向き合っています。

—— foriioのβ版リリース時のブログ「クリエイティブ業界に恩返しがしたい 〜foriio β版リリースに寄せて〜」では、クリエイターを取り巻く課題や、それに対する想いを綴られていましたよね。クリエイターとしての経験を背景とした想いが山田さんにはある一方、家入さんはなぜ、顧問としてforiioに関わることを決めたのでしょうか?

家入:ひとつは山田さんと近いところで、「表現する人たちのサポート」をしたいという想いががあること。CAMPFIREやBASEをつくる中でも、これは一貫している想いです。

もともと僕は油絵をやっていて、東京藝大に入って作家として生きていくことを夢見ていました。でも結果的に、家庭のいろいろな事情もあり、それは叶わなかった。作家として生きていくことはできなかったけれど、表現をしたい人たちのプラットフォームや場を提供することならできるのではないかと考え、さまざまなサービスをつくってきました。

僕はインターネット黎明期に初めてネットに触れて、「個人で表現する場を、こんな風に持てるんだ」と感動したんです。

絵を描いている学生は、個展をするにしても、ギャラリーを借りるのにはお金がかかります。そこで、みんなでバイトをしてお金を貯めて、グループ展をやったりするんですよね。でもネットを使えば、基本的にコストはタダみたいなもの。自分の作品を自由に掲載できるし、それを見た他県に住んでいる人や海外の人からもコメントをもらえます。ネットを介した表現やコミュニケーションの可能性を知って、「これはやばい」と思いました。

こういった体験が原体験となって、僕は“表現する人”や“声をあげる人”に対してプラットフォームを通じて支えていくことをミッションとしています。

もうひとつの理由は、ポートフォリオ的なサービスはたくさん手がけてきたものの、ポートフォリオサービス自体には携わってこなかったことです。この20年間、「できていないな…」と気がかりに思っていました。

ポートフォリオサービスは海外サービスも含めて、さまざまなものがあります。しかし、生まれては消えていっている。そのような状況の中「ポートフォリオサービスの“決定版”をつくりたい」という想いがありました。その中で山田さんと出会い、何かお手伝いできることがあるのではないかと考え、顧問のお話を受けることにしたんです。

「境目」は曖昧になり、人としてのリスペクトがコラボレーションを生む

——「クリエイターや表現者を何らかの形で支えたい」という想いは、お二人に共通しているのですね。クリエイターと向き合うには、そのクライアントとなる企業側との向き合い方も考える必要があると思います。クライアント視点でforiioを見た場合、どのようなサービスになっていくと考えていますか?

家入:そもそも、「クライアント」と「クリエイター」、「企業」と「個人」といった境目自体が、曖昧になってきていると思うんです。

山田:クライアントとクリエイター、発注者と受注者の関係性も、不可分になってきているということですか?

家入:そうですね、それもあると思います。CAMPFIREやBASEをやっていると特に実感しますが、BASEでは「売る人」と「買う人」は全くの別人ではなく、一人のユーザーが「売る人」でもあり「買う人」でもある。CAMPFIREでは「プロジェクトをやる人」と「応援する人」という分かれ方ではなく、「応援することでプロジェクトを”やる”側になる」、という関わり方が生まれています。

企業と個人、個人と個人などにおいても、関わり方は一方向ではなく、より双方向的、多元的になっていくと思うんです。

加えて、「企業」というものの存在感が、薄れていくと考えています。もちろん、完全に法人や大企業がなくなるわけではないし、受発注の関係がなくなるわけではない。ただ、「企業」と「個人」の関係性以上に、「人」と「人」の関係性が重要になってくると思うんです。

たとえば大企業が新規事業を生み出したい時に、外部のスタートアップやベンチャー企業などと組んで、新規事業を立ち上げることがあります。

—— いわゆる「オープンイノベーション」ですね。

家入:スタートアップやベンチャー企業がもつ柔軟な発想や少人数ゆえのスピード感などと、大企業がもつリソースやネットワークを組み合わせることで、新しい何かをつくる。
考え方は素晴らしいのですが、事例としては上手くいかないことも少なくありません。それは、担当の人が「大企業の看板を背負った自分」で出てきてしまうからです。しかし、僕らのような人間はそれだけでは動かない。「大手の●●の人だから一緒に仕事をしたい」ではなく、目の前の人が「一人の人間としてリスペクトできる人だから、一緒に仕事をしたい」と、考えられることが重要なわけです。

それが、人と人がコラボレーションする上での肝になる。foriioが提供するのは「人と人がリスペクトをし合いながらコラボレーションする機会」みたいなものではないかなと思います。
foriioを介すことで、従来の「発注者」と「受注者」の関係性に変化が生まれていくのではないかという、興味がありますね。

山田:そうですね。両者の関係性に変化を生むには、二者の間にあるハードルを、少しずつ下げていく必要があると考えています。最近、企業さんに話をしにいったり、クリエイターさんと企業さんをお繋ぎする中で、まだ両者の間には壁があるなと感じるんです。発注者と受注者、企業とクリエイターなどにおける境目がなくなることで、さまざまな化学反応が生まれていく。foriioはそういう世界をつくりたいと考えています。


クリエイターの定義をアップデートし、すべてのクリエイターにポートフォリオを

——今後のforiioの可能性については、どのようなことを考えていますか?

家入:本来の使い方として合っているのかわかりませんが、僕は手がけてきたサービスをforiio上にポートフォリオとしてアップしているんです。そういう使い方もあると思います。

たとえば転職が多い人が転職歴を「履歴書」にまとめると、ネガティブに捉えられがちです。でも「ポートフォリオ」という切り口でいけば、転職歴でも、これまで立ち上げてきたスタートアップでも、個人のさまざまな側面をポジティブに表すことができるのではないでしょうか。

小説家の平野啓一郎さんが提唱している「分人主義」という言葉があります。人間は、いくつもの顔をもっていて、たとえば親や友達、上司など、それぞれの人に見せる顔は、異なっているでしょう。嘘をついている訳ではなく、どれもが「本当の自分」。分人主義は、一人の人間が持つ、いろいろな人格一つひとつを「分人」として捉え、それらの総体が一人の人間だ、という考え方なんです。

複数のコミュニティに属したり、いろいろな仕事に挑戦することで、本当の自分をたくさんつくる。それをポートフォリオという考え方でまとめることができれば、あらゆる人が「ポートフォリオ」をつくれるような気がします。

山田:それはとてもヒントになるお話ですね。foriioはポートフォリオ作成の敷居を下げたことで、「作品をどうまとめていいのか分からない」とか「自分はクリエイターなのか…?」といった人たちの作品もあがってきています。これまであまりネット上にあがっていなかったり、フォーカスされにくかった職種の人たちも、ポートフォリオをつくることで可視化されていくんです。

たとえば、店舗で商品を着せてディスプレイする際に使う「トルソー」をつくっている方だったり、コーヒーショップのメニューのデザインをしている方だったり。運営する中で、「こんな人がいたんだ」という出会いがあるのも、すごく面白い部分ですね。

家入:インターネットの本質って、そこだと思うんです。小さいけど声をあげたい人たちが、声をあげるハードルを下げられる。foriioは間違いなく、その領域にあるサービスだと思っています。もちろん、これからもっともっと、っていうところですが。

foriioは「すべてのクリエイターにポートフォリオを」とコンセプトを掲げていますが、クリエイターの定義も、アップデートしていきたいところですね。

山田:そうですね。今までスポットライトが当たらなかったような職種の方々も含め、定義をアップデートしていけると良いのではと思います。

——最後に、山田さんから今後のforiioにかける想いや展開について、伺いたいです。

山田:今回の顧問就任で、僕は家入さんから”バトンを受け取った”と思っています。
インターネットを通じて表現する人のサポートをしたい。これが家入さんと共通する、強い想いです。

その源泉をたどると、僕は学生時代ニュージーランドに留学していました。国際電話はお金がかかるため、親からもらったPCでEメールのやり取りをしたり、ネットサーフィンであらゆるホームページに出会ったり。そんな入り口からインターネットの世界を知り、自分もホームページを作ろうと考えました。

しかし当時個人のホームページを作ることは、今よりハードルが高かったんです。そこへ、月額数百円と安価に借りられるレンタルサーバー「ロリポップ!」(家入氏が創業した株式会社paperboy&co.[ 現:GMOペパボ株式会社 ]のサービス)が登場。僕は自分のホームページを作ることができました。それがきっかけとなって、ホームページやロゴのデザインに興味を持っていくことになり、まさに「インターネットを通じた表現者のサポート」を受けてきた側でもあるんです。だからこそ、家入さんに顧問になっていただくことは僕にとって大きな意味がありますし、“バトン”を受け取りたい、と考えました。

今後、foriioはポートフォリオサービスとしてだけではなく、依頼側と作り手をつなぐ、クリエイティブプラットフォームとしての成長も目指します。依頼側と作り手の接続を支援することは、クリエイターが自身のクリエイティブに集中すると言う意味でも欠かせません。

”バトン”をしっかり握り、クリエイティブにおける依頼側と作り手、個と個の関係性の最適化を図っていきたいです。

Text: Yuka Sato / Photograph: Shunsuke Imai


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