リクルートグループの従業員を対象にした新規事業提案制度「Ring」は、1982年にスタートし、「ゼクシィ」「R25」「スタディサプリ」など数多くの事業を生み出しています。今回は「Ring」で展開される「先輩に聞くシリーズ」に、エニトグループ 代表取締役グループCEOの小野澤が登壇。リクルート出身である小野澤が当時の新規事業起案を経てどのような志で事業に挑戦し続けてきたのか、当日の対談の一部を抜粋してお届けします。
▼プロフィール
株式会社リクルート RING事務局 渋谷 昭範氏(所属は対談当時)
株式会社エニトグループ 代表取締役グループCEO 小野澤 香澄
自らのマッチング体験が起点となり今に至る
─ 渋谷 昭範氏(以下、渋谷):リクルート在籍時、「Ring」でWEB婚活サービスを起案し準グランプリを受賞した小野澤さんに、新規事業提案に至った当時の背景や、代表取締役グループCEOを務められているエニトグループでの現在のお仕事について伺っていきたいと思います。
─ 小野澤 香澄(以下、小野澤):よろしくお願いします。私は2022年にwithの代表取締役CEOに就任した後、翌年のエニトグループ誕生に伴い現職に就任しました。1年以内に結婚した人の4人に1人がマッチングアプリ経由である今、『with』と『Omiai』を通じて年間約15万人のカップルが誕生しており、より多くのユーザーへ幸せをお届けするために、私たちは懸命に頑張っています。
─ 渋谷:エニトグループに参画するまでのキャリアはどういったものでしたか?
─ 小野澤:新卒でリクルートに入社し10年務めた後、グリー株式会社と、シアトルを拠点にした株式会社ポケモンの子会社での事業開発を担いました。2019年にTinder Japan & Taiwanのカントリーマネージャーを務めた後に帰国して、良いタイミングでお声がけいただいたのが今のエニトグループでした。良いプロダクトを作る人たちと良い経営陣が理由で参画を決め、今は恵まれた環境で働いています。
自分は運が良いと思っていますし、トントンと進んできたようにも見えますが、20代の頃は自分が何者かもわからず、仕事観も恋愛観もぐらぐらした中で生きていました。だからこそ、価値観を見える化して恋愛をお手伝いできたらいいなという想いが、マッチングサービスに携わり始めた原点にあります。私自身マッチングサービスがとても好きですし、プロダクトを通じてユーザーに幸せを届けられると心から信じています。
─ 渋谷:小野澤さんがリクルート時代に「Ring」で起案した事業も、『ゼクシィ縁結び』の前身となるサービス、WEB婚活サービス『TwinCue(ツインキュ)』でした。実際のご自身の恋愛にもマッチングサービスを活用していましたか?
─ 小野澤:はい。私の恋愛ソースについて話しますと(笑)小学校では同じクラス、中高ではゲーセン、大学では同じサークル、社会人になってからは職場と、オフラインで偶然同じ場所にいた方と繋がっていました。ところが、最も長い期間を過ごすことになる人生の伴侶とはマッチングサービスで出会うという、当時からすると珍しいほうだったと思います。
33歳でアメリカに仕事で移住をした際、既婚者の多い職場と自宅を車で往復する毎日で、出会いのなさに危機感を感じ、真剣にマッチングサービスで婚活を始めました。
マッチングサービスが優れているところは、①既存の人間関係を超え、圧倒的な人数と知り合えること、②マッチングサービスにいる方は「独身で相手を探している」とわかること、です。マッチングサービスを利用しなかったら、1年間で新しく知り合える独身男性は2桁程度でした。そして、そのうちの「いま彼女がいなくて、相手を真剣に探しているか?」を探るのに数か月の時間がかかることも多くありました。1年弱という短い期間で、納得感を持って結婚したいと思える相手がみつかったのは一重にマッチングサービスのおかげです。
その上、マッチングサービスは私の意識をも変えてくれました。当初はお相手に日本人男性を探していたのですが、実際に出会い付き合い、夫となったのは日系3世のアメリカ人の方。マッチングサービスだからこそ、人間のバイアスや意識のフィルターを超えた相手と出会うことができるんだと、自分が経験したことからも、このサービスに携わり続けたいと思うようになりました。
仲間の助けを借りてマッチングサービスを起案
─ 渋谷:少しさかのぼりますが、リクルートにはどういった想いで入社しましたか?
─ 小野澤:「十人十色」という、当時コーポレートHPに書かれていたメッセージに惹かれて入社しました。学生時代は文系でしたが、入社後は技術担当(システムエンジニア)として、住宅事業でWEBサービス構築などをしていました。その後、メディアテクノロジーラボ(MTL)に異動したところ、前部署とは違った発想の人が多く、事業を創るとはこういうことかと多くの刺激を受けたんです。自分も何かをやらないとという気持ちで、2011年に「Ring」に応募しました。
─ 渋谷:「Ring」で事業提案を行ったのは、入社6〜7年目の頃でしたよね。応募から事業化まで、何が小野澤さんの挑戦を押し進めてきたんでしょうか。
─ 小野澤:ちょうど30歳の時、「ゼクシィ」の事業責任者が出したテーマ「婚活」の下で、マッチングサービスの起案をしました。当時大きかったのは仲間の存在です。MTLには得意分野を異にしながら事業計画を描ける仲間がたくさんいて、彼らに相談しながら事業構想をブラッシュアップさせていきました。
仕事終わりに皆でコンビニ弁当を食べながら、ホワイトボードの前でああだこうだと話し合い、描き合ったものを組み合わせていくのは、仕事というよりも遊びの延長のようでワクワクしていました。若い時にはなかなか巡り会えなかった仲間との組み合わせの妙が、良い方向に転んだと思っています。
書類選考に通過した後は、プレゼンするためのプロトタイプを作ったりイベントを開催したりして、準グランプリをいただいた後は「ゼクシィ」がある事業に異動し、サービス事業化のプロジェクトを進めてきました。
運を呼び寄せるための行動量
─ 渋谷:多くの人は目の前の仕事だけに夢中になってしまうけれど、小野澤さんの場合は、仕事を通じて違う領域の仲間と出会ったことをきっかけに、ご自身の価値観を広げながら挑戦を続けてきたように感じます。今いる世界で何ができるかと考えることが、チャンスをつかむきっかけになっていますか?
─ 小野澤:そうですね。「Ring」の募集を見たときは、とりあえずは自分のできる範囲で、2、3行でもいいから事業構想を描いてみて、それを周りの人に見せたら何かが生まれるかもしれない、くらいの気持ちでした。
私は、仕事の中ではビジョンを描きながら旗振りをするタイプです。だからこそ、事業を形作るには、私とは異なる能力を持つ仲間がいることがとても重要です。ありがたいことに、リクルートには私よりも賢く、バラエティに富んだ才能を持つ方がいたため、実際に事業を開始することができましたし、現在まで「ゼクシィ縁結び」を運営し続けてくださっている方がいるのだと思っています。
─ 渋谷:先ほどおっしゃっていたように、「小野澤さんは運が良い」とすると、小野澤さんが運を引きつけるために大切にしていること、もしくは何が運を引き寄せていると思うかを教えてください。
─ 小野澤:運が来た時に乗っかる力や、運を呼び寄せるための行動量はある気がします。目の前に運やチャンスがきたときに乗っかるためには、自分は何が好きで、何にワクワクするのかを一定量は言語化しておくのがいいと思います。また、ワクワクすることが自分の周りに来るような行動も大切だと考えています。
─ 渋谷:例えば、運をつかんだ行動にはどのようなものがありましたか?
─ 小野澤:ゼクシィでマッチングサービスを立ち上げていた時、別プロジェクトである海外事業検討チームが海外調査に1ヶ月ほど行くことになりました。自分にあたえられたミッションには関係ないプロジェクトでしたがどうしても一緒に行きたかった私は、頼み込んでチームに参加して現地で仕事をさせてもらい、そこでの新たな出会いや次に繋がるチャンスを得ました。当時のリクルートは、そんなむちゃを許してくれる環境で、いまでもとても感謝しています。現在のリクルートの環境はわかりませんが、意思がある人の声を聞くという環境は変わっていないのでは?リクルートに限らず、行動をすると、それに伴いチャンスの量が増えます。やりたいと思ったことを行動し続けると、これはというチャンスが来ると思います。もちろん同時にリスクも増えますので、折れない心は必要ですが…(笑)
─ 渋谷:ルールはルールだけど、言ってみたら、やってみたらできることがあるかもしれない。そういうチャンスを作るべく、行動することが大事で、そこに運があるということですね。
─ 小野澤:今リクルートにいてあと2〜3年後には起業を目指している方にも、「Ring」はいい勉強になると思います。事業計画を書く勉強にもなりますし、選考に通ればリクルート役員という聡明で先見性がある方々から、事業計画に対し直接指摘をいただくチャンスを得ることができます。お金を払ってでも得たい機会を、給与をいただきながら経験できるなんて、なかなかありません。その経験は、起業後の資金調達などをはじめ、リクルートを卒業した際に絶対に役立ちますし、リクルートという会社の中で新規事業に挑戦できるので、撤退という判断になったとしても、0からビジネスを創る経験や、経営者目線・カスタマー目線など得た知見・経験を、自分の糧として、また進んでいける。。だから、とにかくやればいいじゃんと思っています。
─ 渋谷:小野澤さん、本日はありがとうございました!