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「ものづくり×AI」の起業家が歯科業界で創業した理由とは。

起業家から投資家へ。そして起業家へ。

– これまでのご経験について教えてください

元々は大学院で人工知能を研究していました。所属していた研究室は金融、アート、マーケティング、バイオ、ロボットなど、ありとあらゆる業界をテーマに研究をしていました。当時、面白いと感じていたのは、AIの種となるデータを取ってくるために、あらゆる業界に入り込み、深く掘り下げて分析していくことでした。当時の教授から「その業界の専門家になるために、論文100本読んで本を20冊読んで分析すれば良い。そうすれば道は開ける。」と叩きこまれていたので、新しい業界に対してあまり恐怖感がなく、色々な業界に突っ込んでいくことができました。今振り返ると起業家も多く、ロックなベンチャーっぽいカルチャーの研究室だったと思います。

当時、大学院卒業後は研究所、金融広告マーケティングの世界に行くかの選択肢があり当時GoogleやFacebookなどのITプレイヤーが広告業界をデジタルで変革していくぞという機運があり、博報堂という広告会社に入社することを決めました。

入社後はデジタル系のクリエイティブ企画や事業開発をやりながら、社内ベンチャーを立ち上げる支援もやっていました。支援をやっているうちに、自分でも新規事業開発への熱意が込み上げてきたため、社内ベンチャー制度の中でビジネスプランを企画しました。運良く会社から事業化へのサポートを得られる道筋が見えたのですが、ビジネスプランの内容が製造業分野だったので、社内でやるか社外でやるかの選択に立たされました。熟考の末、2013年に株式会社カブクというスタートアップを立ち上げて、独立したというのが1回目の起業です。

カブクでは、「ものづくりの民主化」をビジョンに掲げて、3Dプリンティングによるデジタル製造プラットフォームを立ち上げました。ものづくりが専門ではない企業に、自前で工場、生産機械などの初期投資をせずに必要な分だけ製造能力を使ってもらう、製品の企画から量産製造までをサポートする一気通貫型の開発総合支援サービスです。例えば、自動車業界では電気自動車(EV)を3〜6ヶ月で早く製造するということをトヨタさんやホンダさんと一緒に取り組んでいました。2018年に大手老舗の東証一部上場のメーカーさんからM&Aを受けて売却し、業務引継をして最終的に会長職を退任しました。

その後は老舗メーカーのデジタル化を支援していましたが、ここ3年はベンチャーやスタートアップを支援する投資家側のベンチャーキャピタリスト(VC)になり、シリコンバレーや日本のスタートアップを支援していました。



– 社会人5年目でカブクを創業されてますよね?不安ではなかったのですか?

私は東大阪出身なのですが、地元の工場がここ20年で30%程度減っており、町工場が衰退していく様子を目の当たりにしていました。大学院や博報堂時代の知見を活かすのであれば、マーケティングやIT領域で起業するのが良いと思うのですが、挑戦して失敗しても学びは大いにあると思い、。私の社会テーマに沿った領域、かつ、地元にも貢献できるものづくりの領域で創業することにしました。自分が最も素人なところでやってみて、ここで成功したら何でもできるなと思いもありつつ、自分としてビジョンやミッションを一番大事にした結果、この選択肢を選びました。



– ご自身の社会テーマというのはどのようなものですか?

「三方よし」という言葉を大事にしています。もともと近江商人の哲学からきています。三方というのは「自分よし」「相手よし」「社会よし」を指しています。

自分がよくて相手もよい、ということは当たり前で、その先に「世間(社会)」もよくないといけない。三方よしを体現することで、中長期的に繁栄する事業ができるという関西商人の教えがあり、この哲学が自身の根底にあります。



20代の8割が辞めてしまう業界に「笑み」を。

– エミウム創業のきっかけを教えてください。(歯科業界に興味を持ったきっかけ)

歯科業界に興味を持ったきっかけは、カブク時代に歯科業界でも3Dスキャナー、3Dプリンターやミリングマシンがよく使われているということを知り、カブク時代に培ったものづくりのデジタル化の知見や技術が歯科業界にも応用できると感じたことです。また昨今、心身の健康だけでなく社会環境の健康も大切にして豊かな人生をデザインしていこうとするウェルネスやウェルビーイングの潮流もあり、メタボリック・ドミノという概念も注目されていますが、歯科領域というのは全身疾病に影響する重要な入り口なので、これまで培ってきたデジタル製造技術が人々や社会の健康問題の改善にも貢献できると思ったことも背景にはあります。

そして、新型コロナウイルスによって歯科業界でもデジタル化が進んでいることがエミウム創業の契機にもなっています。以前はオンライン会議が歯科業界にはそれほど見られなかったのですが、コロナ禍にあって各所でZoomやスカイプなどを使い始めておりコミュニケーションのデジタル化が進みつつあります。同時に、例えば修復物の設計・製造プロセスでもデジタル化の動き(CAD/CAM)が広がり始めており、より深く歯科業界での知見を身につけるべく、以前から繋がりのある歯科大学の研究生になりました。それから約1年程かけて、歯科大学の研究生として臨床現場での研修も積み、また、歯科技工所や歯科医院など業界関係者にも数多くヒアリングした結果、歯科医療業界における大きな課題を見つけるに至りました。



– 歯科業界にはどのような課題があるのでしょうか

歯科業界の中でもとくに歯科技工領域は、長時間労働、高離職率といった問題を抱えている技工所が非常に多く、新卒で歯科技工士になっても20代の内に約8割が辞めてしまうといった状況です。歯科技工士という職業は「社会貢献にも繋がる責任ある職業」とする人も多く、未来を見据えた学習意欲も高い傾向にあります。歯科技工所の中には、若手人材の育成やデジタル化をより推進するなど、独自に取り組む事例も徐々に増加しています。しかし、小規模の歯科技工所の方が多いため、最新のデジタル機器を導入したくても投資余力が不足していたり、デジタル人材が足りていなかったり、現状を変えたくても変えることができないという構造的な課題を抱えています。

こうした背景も相まって、居ても立っても居られなくなり、ここで起業しないといつどこで起業するのだとの不退転の覚悟でエミウムを創業したのもあります。他の業界であればその業界に精通している人は沢山いますし、自分じゃなくて大丈夫かもなという部分もありますが、自身が得意とするデジタル製造技術・AI技術でもって歯科医療・技工業界の三方よしに貢献できると考えています。



– 東京医科歯科大学社会人大学院生や研究生になったり、会社を創業したり、もの凄い行動力ですね。その原動力はどこから来るのでしょうか?

いかに現場に深く入り、課題の解像度を高められるかが何よりも大事だと思っています。現場には課題や解決策へのヒントの全てがあります。逆に、現場に出て行かないと三方良しのサービスは作れないですし、裸の王様になってしまいます。現場が最も大事です。

現場に深く入り込むと、人のエゴや感情に少なからず出くわします。私はそこに興味があります。、自分が現場で感じ取った「負」の部分や構造的な課題を解決して、人々をハッピーにしたいという強い想いが常にあります。それが私の行動を促す原動力になっていると思います。


「笑み」を「生む」事業

– 改めてエミウムの事業内容を教えてください。

私たちエミウムは、製造業で培ったデジタル化を活用して、日々の歯科技工業務の効率化と技工技術の高度化をサポートしています。まずはじめに、オンラインCAD/CAMセンター (エミウム デンタル・ラボ)を立ち上げました。。電話やFAXでの注文を受けて製作をしていたのが今までの歯科技工サービスの典型例です。私たちは製造業のデジタル化の知見を使って、修復物をネットで簡単に発注できるサービスの提供を開始しました。

口腔内スキャナー(3Dスキャナー)のデータをアップロードするだけで、日本全国どこからでも修復物を適正価格でオンラインで発注できます。発注方法を従来の紙ベースの煩雑な歯科技工指示書から刷新して、分かりやすいオンライン発注画面にしています。

エミウム デンタル・ラボは、主要エリアに点在する歯科技工所と連携することによって、高価なデジタル機器やツールを購入せずとも、デジタル設計・製造サービスを利用いただける外部委託インフラのようなものです。私たちのサービスを活用することで、歯科技工所、歯科技工士の皆様の業務効率・生産性が上がり、自由に使える時間が増えることによって、繊細な審美性や高精度な技工技術力を追求したり、残業時間の短縮といった働き方の改善、ひいてはウェルビーイングの向上に繋がったりすると良いなと考えています。

他にも歯科業界を下支えしていくインフラとなるサービスをこれからいくつか出していく予定です。



– エミウムにはどのようなメンバーいらっしゃるのですか?

今のエミウムには各分野の超一流のプロフェショナルが集まっています。

歯科医療の著名な先生、歯科技工のデジタル化を行っていた役員の方々、グローバルメガベンチャーの立ち上げをしていたメンバー、マーケティングのプロフェッショナル、製造業 CAD/CAMの日本有数の開発者、世界大手の半導体メーカーのファクトリーサイエンティスト、クリエイティブブティックの有名クリエイター、上場ベンチャーのCTO、大手研究所出身のエンジニアがいます。超一流のプロフェッショナルが集まって、歯科業界のインフラになり得るプロダクトを作っています。



– なぜこのような名だたるメンバーが集ったのでしょうか

業界課題や社会課題を解決していく、より本質的に「三方よし」の事業だからじゃないかなと思います。歯科業界が抱える積年の課題を根本から解決するくらいの「強烈な三方よしをつくろう」という部分は全メンバーが共感してくれています。

人のウェルネスやウェルビーイングの実現につながる歯科業界のデジタル化を推進していきたいと思う方は、どんな業界の方でもウェルカムですので、是非お声がけください。



– 今後の展望を教えて下さい

「健全な人と社会へ」というミッションを掲げています。その理由は、今これだけモノに溢れていて、マテリアリズム(物質主義)の側面からは人は幸せになっているはずなのに、実は世の中の構造としては幾重にも分断されていて、各人は幸せを感じづらい状況になりつつあるからです。人として、社会として、何が健康と幸せに結びつくのか、ウェルビーイングをどう実現すべきなのか、私たちとして真剣に向き合いたいと思っています。

ビジョンは「歯科医療・歯科技工の原動力を生み出すインフラをつくる。」です。歯科業界に携わる方ひとり一人が活躍できる場面を拡張(エンパワーメント)していき、働き方改革だけでなく、業界の方々のウェルビーイングが向上し、ひいては生活者全体としてのウェルビーイングが向上していくことに繋がればいいなと思っています。日本の歯科医療・歯科技工が抱える構造的な課題をデジタル化と新たなインフラによって打開できると信じています。

エミウム は「笑み」を「生む」の造語です。我々の提供するサービスによって、「口腔内の環境が良くなり、最終的に人の笑みを生んでいければ」という思いで社名をつけました。我々が歯科業界の新しいインフラをつくり、みんながより切磋琢磨して新しいことができる環境を作っていければと思います。そして、業界全体が盛り上がって、みんなで一緒に笑みを生んでいく未来を作っていきたいです。





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