ISURUを立ち上げたサンデシカの想い - ISURU(日本製ベビーブランド)| 選ぶことは、愛すること。
「わたしたちにしかできないことをする。嘘偽りのない商品をつくる」。それが、中川運河のほとりで会社を創業以来、大切にしてきたことです。「ママコエ会」を開き、子育て中のママたちの声をかたちに。日本全国の信頼のおける工場といっしょに商品を生み出してきました。 ...
https://www.isuru-baby.com/story/sandesica/
本記事はnoteからの転載となります。
スタジオディテイルズ(以下、ディテイルズ)という名前は「神は細部に宿る」に由来します。私たちがものづくりの現場で向き合うディテイルや、クオリティの基準、それを実現するまでの葛藤などを実際の事例で紐解くシリーズ【God is in the details】。
第3回目にご紹介するのは、ベビー用品の企画・製造・販売を行う株式会社サンデシカ(以下、サンデシカ)様が日本の職人とつくりあげた新ブランド「ISURU(イスル)」。ディテイルズがパートナーとして、ブランドの立ち上げから製品プロデュース、販促物、Webデザインにわたる広領域を手がけたプロジェクトであり、異なる専門性をもつメンバーが時に衝突しながらも真摯に「本当に良いもの」をつくるため3年以上かけて取り組んだ一大プロジェクトでもあります。ここまでに至る道のりについて、ディテイルズのクリエイティブディレクター 服部友厚を含む主要メンバー3名に伺いました。
お話を聞いた方 ※敬称略
丹羽 拓也
ふとん職人
1978年生まれ。丹羽ふとん店五代目。https://niwafuton.com/
国家検定寝具製作技能士一級。大学卒業後、一部上場電器メーカーに就職後、2004年丹羽ふとん店に従事する。2011年、職人歴7年目にして寝具業界最速の技能グランプリ総合優勝、厚生労働大臣賞受賞、2013年愛知県優秀技能者表彰(あいちの名工)受賞。
一つ一つ求められた質のふとんをお客に合わせてオーダーメイドしている。
近藤 高央
株式会社サンデシカ 取締役COO
1982年生まれ。
2008年、株式会社サンデシカに入社。
2019年、取締役に就任。法人営業、ECを統括。
2022年にリリースされた新ブランド「ISURU」のProject Owner / Brand Director / Marketing Managerを担当する。
https://www.sandesica.co.jp/
ベビー布団にも選ぶ喜びを。ISURU立ち上げのきっかけ
――「ISURU」はどんな背景からはじまったブランドなのですか?
近藤高央(以下、近藤):サンデシカではこれまで安全性や清潔さ、手入れのしやすさなどに特に気を配ったベビー寝具をつくってきましたが、ずっと気になっていることがありました。
子どもを授かり、親になる準備をしていく段階で、ベビーカーや抱っこ紐など家の外でつかうベビー用品に関してはお客様自身が熱心に比較検討されたうえで気に入ったものを購入されることが多い一方で、家の中でつかうベビー布団は選択肢に乏しく、選ぶワクワクが足りていません。そこを解決したいという思いがこのブランドを立ち上げにつながりました。
僕自身の実体験とも重なりますが、赤ちゃんが生まれると日常的に大人が我慢しなければいけないことはたくさん出てきます。そういったなかで、これまで描いていたライフスタイルから遠ざかるような消極的な選択をお客様にさせてしまっているんじゃないか。そうではなく、親が「これが良い!」と思えるようなものを赤ちゃんのいるライフスタイルに取り揃えていけるためのポジティブな選択肢を提供したいという思いがこのブランドに詰まっています。
株式会社サンデシカ 近藤高央さん
――今回、製品の具体的な企画以前のブランド立ち上げからディテイルズに依頼いただきました。決め手はなんだったのですか?
近藤:もともと、ディテイルズさんにはこのプロジェクト以前にサンデシカのオフィシャルサイトをつくってもらったことがありました。制作のなかでサンデシカのものづくりや企業姿勢を表す「このこえをこの子へ」という重要なキーワードをディテイルズさんから提案いただき、まったく僕が思い描いていなかったような切り口だったのですごく印象的で。そのキーワードをWebデザインへと展開していく過程が本当に素晴らしかった。オフィシャルサイトは満足のいくものになったし、スタジオディテイルズという名前の通り細部にこだわる徹底的な仕事ぶりにすごく共感しました。その時に築かれたディテイルズのメンバーや服部さんへの信頼感が決め手になり、今回ブランド立ち上げを任せるならディテイルズさんにお願いしたいと思っていました。
当初はベビー布団のみを製品としてイメージしていましたが、話を進めていく過程で服部さんから「もうすこしアイコニックな製品も必要では?」とご提案いただいてベビーベッドも開発することを決めました。
ISURU ココン ベビーベッド
――さらに寝具トータルプロデューサーとして同じく名古屋を拠点にされている丹羽ふとん店五代目の丹羽拓也さんをメンバーに招いています。どういった経緯で声を掛けられたのですか?
服部友厚(以下、服部):丹羽さんとは以前NPOで知り合って以来、年に数回お会いしてお酒を飲む仲でした。当初から丹羽さんが手づくりするお布団は1、2年待ちという状況で今では物によって5年待ちとも言われますが、その好評ぶりも当然知っていました。
クリエイティブディレクターとしてまず考えたのは、自分の持っているスキルだけでは届かない到達点を設定しなければいけないということです。そうでなければ、既存のベビー布団を越えることができないですし、自分自身も心から面白がれないですし、近藤さんの期待にきちんと応えられないと思いました。そこで最も依頼の難易度が高い人に声を掛けようと考えたとき、真っ先に浮かんだのが丹羽さん。
(左から)近藤さん、服部、丹羽さん
丹羽さんとは10年以上前から知り合いで、これまでに丹羽さんが外部の企業と仕事をしたことがないことは承知の上でした。でも、丹羽さんがOKしてくれたら製品のクオリティは安心してお任せできますし、そのぶん近藤さんや僕らは「どういうものをつくるべきか」というテーマに集中することができます。経験上、リアルな製品の制作にすごく時間が掛かることも、プロジェクトの難易度の高さも理解していました。
丹羽さんがこのプロジェクトを終えたときに「この仕事をやってよかった」「サンデシカさんとやってよかった」と言ってもらえたなら、この製品は日本一と胸を張って言うことができますし、ディテイルズの仕事スタイルは間違っていないと今後も自信を持って進んでいけると信じて踏み切りました。
丹羽拓也(以下、丹羽):さきほどの話にもありましたが、僕も今までの服部さんの仕事をずっと見てきていて、服部さんが持ってくる話なら絶対に面白いだろうな、という予感があった。そこにサンデシカさんの話も聞いてウェブサイトも拝見して、今までやったことはないけれど何か自分にとっても楽しい仕事ができるんじゃないかと直感しました。
また、ふとん職人としては、量産のベビー布団は「親御さんがいかに扱いやすいか」という視点に寄っており、「寝心地」などの心地よさにおいて実は赤ちゃんに寄り添っていないものがあることもずっと気になっていました。うちでもベビー布団をつくりますが、量販店で売っているものと視点が真逆なんですよね。だからこそ、僕が量産の布団をつくるならどういうものがいいだろう?という課題に挑戦できる機会が与えられたと思いました。
丹羽ふとん店 五代目 丹羽拓也さん
――リアル製品まで手がけるという本プロジェクトに、ディテイルズはどんな目標を掲げて挑んだのですか?
服部:近年ディテイルズではWebサイト制作のみのプロジェクトだけではなく、バーミキュラさんやリンナイさんをはじめ、ユーザーが実際に触れる機会のあるリアルな製品のブランディングから携わるプロジェクトが増えてきています。それでも、ある程度のブランドの構想があるところに入っていくので、今回のように「これから新しいブランドをつくりたいんだけど」という段階から携わる機会はまだ多くはありません。
「新しいブランドをつくりたい」という段階でお話をいただくのは、やり甲斐とリスクのどちらもが大きくすごくプレッシャーのある仕事。でも、誰のせいにもできない仕事をやることが最も成長につながるので、これはやってやろうじゃないか!と思いました。
スタジオディテイルズ 服部
――プロジェクトにおいてディテイルズが注力したのはどんな点でしたか?
服部:製品の方向性にズレがないかに細心の注意を払ってプロジェクトを進めるということですね。プロジェクト初期は、これからつくる製品のブランドイメージを共通認識として持てるよう話し合いを重ねますが、実際に製品の開発が進んでいくと、課題が本当にいろいろと出てくる。そのなかで「何を諦めて、何を残すのか」ということを近藤さんと丹羽さんととことん話し合う番人のような役割を担いました。
ディテイルズが制作したWebサイト、ハンドブックなどのクリエイティブにおいても、自分たちが思い描いたブランドに近づいているか?ユーザーがそれをどう受け取るか?ということを徹底的に追求しました。プロジェクトに関わったディテイルズのメンバーには若手もいて、子育て世代のひとつ前の世代の人が多いんですよね。なので、自分が将来子育てと向き合ったときにどういう製品を選ぶのか?と自分に引き寄せて考えてもらえるような投げかけを常にしてきました。
プロジェクトメンバーは今回の仕事を進めていくなかで、自分の子育てやライフスタイルに対するイメージが日々変わっていったのではと思います。社内のほかのメンバーからも「この布団で自分の赤ちゃんを寝かせたい」「こういうベッドを置きたい」と言ってくれたのでよかったなと思います。
――3年以上に及ぶ開発期間のなかで意見がぶつかりあった瞬間はありましたか?
近藤:素敵なブランドにしたいという思いはひとつだったけれど、価値観の違いで結構ぶつかりましたね(笑)丹羽さんはふとん職人として大事にしていることがあるし、服部さんはこれまでさまざまなプロジェクトを見てきたうえでの考えがある。サンデシカはずっとベビー業界でやってきたということもあって安全性は譲れないポイントです。もうひとつ、僕らはあくまでベビー布団を赤ちゃんを寝かせるための実用品と捉えているのと、商品を売り届ける責任もあるので「作品をつくらない」ということも大事でした。
振り返ってみると当初はコミュニケーションが全然足りてなかったなと思いますね。ブランドのイメージを擦り合わせられたのは、とにかく丹羽さんのところに何度も足を運んで、会話し続けた、というところに尽きるかなと思います。会話を重ねるなかで丹羽さんと僕の価値観や好みの共通点をたくさん見つけることもできました。そこから方向性がグッと定まっていった感じがありますが、そこに至るまでには結構時間が掛かりました。
丹羽:最初にサンデシカさんに問いかけたのは「この布団で寝れますか?」ということ。自社の製品で自分が寝たときに気持ちよく眠れるかというのはすごく大事だと思います。僕が譲れなかったのは寝心地の良さ。自分がこれで寝たいなと思う寝心地を実現したかった。それがひいては赤ちゃんにとって良いお布団になるのでとにかくこだわりました。
お互いにとにかく言いたいことを言わなくちゃいけないですよね。プロジェクトメンバー同士なのに何かを隠しながら話したり気を遣いながらでは良いものは何も生まれてこないと改めて思います。
――完成に至るまでの試作の過程について教えてください。
丹羽:印象的だったのはプロジェクトの初期の打ち合わせ前日に服部さんから打ち合わせのレジュメが送られてきた日のことです。その時点で実際のプロダクトがまだない状態でしたがレジュメの内容を受けて「それなら明日までになんとかしてやろう!」という気持ちが僕にはあった。翌日の午前中の打ち合わせにひと晩でつくった試作品を持参したんです。プロジェクトに対する思いの強さを試作品にのせて見せれば、ほかの人たちもそれに乗ってきてくれるだろうという自信と信頼がありました。
そのうえで僕自身も言いたいことを言うため衝突もありましたが、近藤さん服部さんをはじめ、プロジェクトメンバーは受け止めてくれた。逆に試作品に納得いかないところがあれば、それをぶつけられることもありました。手づくりに縛られず工場で心地よい布団をつくるためのアイデアが必要で、アイデアだけでも技術だけでも実現しない。近藤さんたちと話し合いを重ね、課題を乗り越えながら一緒につくり上げていくことができてよかったと思います。
服部:それに関しては本当に丹羽さんに感謝しています。頭の中のイメージと実際につくるものとを一致させるのはものすごく難しいうえに、誰かがリスクを取らなきゃいけない。丹羽さんはそのリスクを負いながら、本採用される手前の段階のバージョンをたくさんつくってくれました。
丹羽:数を思い出せないほどつくりましたね(笑)ベッドフレームの制作を担当された高橋さんのベッドのカーブが前と後ろで角度が異なっていて、その部分のサンプルづくりは本当に大変だったことは覚えています。
ベッドのカーブに合わせて引かれた型紙
近藤:試作過程でサンデシカにとって最も難しかったのは、コットンやカシミヤなどの天然繊維といかに向き合うかということでした。化学繊維は安定しているので扱いやすいことがメリットですが、天然繊維はさまざまな特性がメリットにもデメリットにもなる素材なので、それをサンデシカの技術をもってどう商品に昇華させられるかという点が今振り返っても非常に難しかったですね。社内で何度も試作を繰り返しました。寝心地はもちろん大事なのですが、布団を清潔に保てることも大切なので、洗濯の問題をクリアできるかも重要な課題でした。
ISURUは赤ちゃんの寝心地にとことん向き合ったブランドです。これまではお世話するひとの負担を軽減するという視点から製品開発をすることが多かったサンデシカですが、今回のプロジェクトを通して良いベビー寝具の新たな視点を得ることができました。
――ディテイルズとの協働で近藤さんと丹羽さんにとって特に印象的だったのはどんなところでしょうか。
近藤:ディテイルズの皆さんには「ま、いっか」という妥協が全然ないところですね。あらゆる場面において徹底的に考え抜く姿を見ていて、それがすごく刺激になりました。
丹羽:服部さんはつくったものに対していつも「いいですね!」と言ってくれるけど「でもこれもうちょっとこうなりませんか?」というフィードバックも必ずある。さらに今回は布団の生地の話だったり、本来知っているはずのない専門領域に及ぶ内容だったにも関わらず、よくしようとコメントをくれました。ご自分でもかなり調べてきてくれているのだろうなと思いました。
服部さんだけではなくディテイルズさんのほかのメンバーの方たちもすごく勉強熱心。何をするにしても事細かくみんなで意見を言い合ってチームで協力してつくり上げていくことを実践していて、本当に良いものをつくろうという気概を感じましたね。僕にとっては初めての外部との協働だったけれど、ディテイルズさんとできて良かったと思っています。
――お客さまのISURUに対する反応はいかがですか?
近藤:製品をより多くの人に実際に見てもらえる機会は現在企画しているところですが、資料請求の数がだいぶ増えてきています。出産前の妊娠中の疑問や睡眠に関する豆知識を詰め込んだ「おやすみなさいのハンドブック」という冊子をディテイルズさんに制作いただいたのですが、それがすごく好評なんです。カタログはどこのメーカーもつくるものですが、自社の商品紹介に終始してしまう一方で、購入を検討される前の段階でユーザーとコミュニケーションをとれるようなツールをご提案いただけたことはすごく良かったと思います。
お客さまとISURUがどういった関係を築けたら良いかと考えたとき、商品紹介を重視するよりも、妊娠中の不安に寄り添い出産後の準備に向けて役立つ情報を発信することでISURUとの関係性が育つと実感しています。
「おやすみなさいのハンドブック」はISURU Webサイトから資料請求が可能。
――このプロジェクトを経てディテイルズがさらに挑戦したいと思うことを教えてください。
服部:ディテイルズは特にデジタル領域のデザインに強いというイメージが先行しがちですが、今回のプロジェクトを通して社内のメンバーに伝えたいことは、これまでのディテイルズでの経験を活かせばリアルなプロダクトをつくることも可能だということです。僕だからできたということでは決してない。今回のように丹羽さんのようなプロフェッショナルを外部パートナーに招き入れ、足りない専門性を補ってもらいながら協力して本当に良いものをつくっていくやり方もあります。
積極的にこういった難易度の高いプロジェクトをやっていかなければ新しい知識を得ることもないんですよね。僕は人生において働ける期間は短いと日頃から思っています。あと何年自分が前線にいられるだろうと思うと諦めるという言葉は絶対に言えない。例え自分が極限まで布団の生地について調べたとしても丹羽さんの足元にも及ばないわけです。そこまでの努力は必要ですね。ディテイルズのメンバーそれぞれがその姿勢でプロジェクト上の課題に挑戦しつづけてくれたら嬉しいです。
――最後に、ISURUの製品を手に取る方に向けて、それぞれメッセージをお願いします。
近藤:赤ちゃんが幸せになるためには親が幸せでなければいけないし、親が幸せになるためには赤ちゃんがよく寝りよく育ってくれることが大事。そこで、ISURUという選択肢を世の中にご提案できたらなと思っています。
丹羽:プロジェクトの過程で僕らのあいだで共通言語になっていた「心地よさ」を感じていただけたらなと思う。既存のものとは違う寝心地、触り心地、つかい心地を親御さんにも感じ取ってもらえれば嬉しいですね。我が家の子どもも赤ちゃんのときにはうちの布団で本当によく寝てくれました。夜泣きもほとんどない(笑)それが家族全員の幸せにつながります。
服部:細部にわたってこだわりを込めたブランドで、日本で一番良いベビー布団をつくり出せたと心から思っています。この良さを知っていただけたら親も子も見守る人たちも含め、全員がハッピーになること間違いなしなのでまずはぜひWebサイトを見てみてください!
ISURU
https://www.isuru-baby.com/
[文]松渕 彩子 [写真]井出 裕太(スタジオディテイルズ)[聞き手]松渕 彩子
スタジオディテイルズでは、Webからリアルプロダクトまで、幅広いアウトプットでクライアントの課題解決に挑戦します。ご興味を持ってくださった方、ぜひ一度お話ししましょう!
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202211追記 STUDIO DETAILS Inc. Company Information