ヘルスビッグデータを公益活用し、創出したエビデンスを社会に還元する──。
DeSCが推進するヘルスビッグデータの利活用事業では、利用許諾を得た匿名加工情報や、それらを分析して得たエビデンスをそれぞれの利用目的に応じて活用しています。具体的には、より効果的かつ効率的な保健事業の実施に向けた取り組みをはじめ広く公益に資する活用を、自治体などの保険者や、大学などの研究・教育機関や製薬企業等と協働しながら、最終的には生活者の健康増進や社会課題の解決に貢献していくことを目指しています。
その中で、主に製薬企業向けのデータ分析や研究解析を行っているのが、DeSCヘルスケア・製品開発統括部データサイエンス部トラディショナルサイエンスグループのデータサイエンティストたち。さまざまなバックグラウンドや専門性を持つスペシャリストの集団です。
ヘルスビッグデータを扱うデータサイエンティストたちは実際にどのような業務に携わっているのか。異なるバックグラウンドを持つメンバー3名へのインタビューを通じ、掘り下げます。
INDEX
- トラディショナルサイエンスグループの成り立ちと使命
- データ分析から研究支援まで。サイエンティストたちの主な取り組み
- 新たな環境を求めたワケ。キャリアの転機とそれぞれの想い
- 異なる領域のデータサイエンティストとの交流、教育支援活動
トラディショナルサイエンスグループの成り立ちと使命
──最初に皆さんが所属されているトラディショナルサイエンスグループについて。チームの成り立ち、担う業務領域について教えてください。
中野 憲(以下、中野):トラディショナルサイエンスグループは主に製薬企業向けのデータ分析や研究・解析を推進しているチームです。分析レポートをお渡ししたり、研究にご利用いただくためのデータ、お客様向けには年間100件以上のデータソリューションを提供しています。
──グループとしてはどのようなミッションを掲げているのですか?
中野:3つあって、1つ目は今お話した「分析案件を安定的にデリバリーする」こと。2つ目は、治療効果についての洞察を得たり、サービスの有用性を検証したり、ブラッシュアップにつなげたりといった「ヘルスケアエビデンス創出による自社サービス支援」。
そして3つ目は「事業を通じて獲得した疫学の知見を活かしてさらなる提供価値創出を支援する」こと。活動の幅をさらに広げ顧客の課題解決をより推し進めていこう、社会が抱える健康課題の解消に貢献しよう、という意思表明です。
──現在、優先度高く取り組んでいるのはどういった取り組みになりますか?
中野:そうですね。製薬企業向けのデータベース(以下、DB)研究の計画や解析の役務を担えるようになっていこうという取り組みを推進しています。現状行っている分析レポート提供などの役割は引き続き担いながら、より専門性の高い領域にまで役割の幅を広げ、貢献度を上げていきたいと考えています。
データ分析から研究支援まで。サイエンティストたちの主な取り組み
──では、ここからは皆さんそれぞれについて、担っている役割や関わっているプロジェクトについてお聞かせください。
松岡 俊行(以下、松岡):私は、データサイエンティストとして製薬企業との分析や研究業務の支援の他、DBの品質や信頼性を向上していくための社内プロジェクトに携わっています。
──松岡さんは2023年の入社ですが、前職ではどのようなお仕事を?
松岡:内資系の製薬企業で医薬品の開発や医薬品を市販した後の主に安全性について、データ解析をする業務に携わっていました。
──小野さんはいかがですか。
小野 利展(以下、小野):私は、疫学領域での統計解析が主な業務です。また疫学を扱った業務の経験があるという点で、知見や経験面でチームをフォローするのも自分の役割だと思っています。
──小野さんも製薬業界のご出身なのですね。
小野:はい。2022年にDeNAに入社しました。前職はCROと呼ばれる医薬品の開発や安全性の調査を受託する企業に在籍していました。それらの調査を行うツールとしてDeSCで取り扱っているようなリアルワールドデータ(以下、RWD)を利用する立場です。前職との関係で言うと、松岡さんはお客様になりますね。
──中野さんは新卒でDeNAに入社されたのですよね?
中野:はい、2013年に新卒でDeNAに入社しました。大学では精密工学を専攻していて、入社後はWebサービスのデータ分析業務に携わっていました。2017年からDeSCに出向し、今はグループマネージャーとして主にマネジメント業務を担っています。
──エンタメからヘルスケアへと、異なる領域のデータを扱うことをどう捉えられていますか。
ヘルスケアの分析結果は人命に関わる、という点で、Webサービスの分析とは全く毛色が異なります。Webサービスのデータ分析は社内での意思決定のための分析という側面もあったのでスピード感をより重視するところがありましたが、ヘルスケアはより慎重で、サイエンスを重んじる傾向が一層強いですね。
ヘルスケアや疫学の専門知識はチームメンバーには及ばないので、私はマネジメント主体で一歩引いた目で見つつ、プロジェクトの進め方や整理など、前段の捌きを集中して行っています。
新たな環境を求めたワケ。キャリアの転機とそれぞれの想い
──ところで小野さんと松岡さんはなぜDeNAに転職されたのでしょうか?
小野:理由は2つあります。1つは、レセプトデータだけでなく多種多様なデータを扱えることで、研究テーマや調査内容の幅が広がり今までにない価値提供ができるのではと思ったこと。そしてもう1つは、分析手法のバリエーションも増やせそうだと思ったことです。
前職では顧客が取得したデータを使用し、顧客と合意した範囲で調査、分析をしていました。つまり、分析途中で仮に新しい研究テーマを考えついても、予め決められた範囲を大きく越えて調査を行うことは難しい状況にありました。
手法に関しても実際に使用するものはある程度決まってきます。製薬や医療関係の分析を行う際には、過去に蓄積されてきた知見を重んじることによって有効性や安全性が担保される場合もあり、それらを大切にする必要があるためです。新しい研究手法や分析手法とかを試したくても、前職の立場で調査をするにはハードルが高い。そういうところに不自由さを感じてしまって……。
松岡:よくわかります。私は製薬企業でしたが、その企業が販売している製品に関する解析、分析しかできないんですよね。逆にDeSCのような会社にはさまざまな企業から多様な分析依頼がある。DeSCなら「この手の薬ではこういうことが気になるだろう、だからこんな分析をしてみよう」といった感じで、自分の経験や知見を活かしつつ応用を加え、幅を広げていけるのではという期待がありました。
▲健康診断のデータやレセプトデータ、kencomのライフログやアンケートなど、利用許諾が得られたヘルスビッグデータからの健康に資するエビデンス創出を推進している
──松岡さんはなぜDeNAへ?
松岡: 前職でRWDを使った仕事をする機会があり、その時にいろんな可能性を感じたんです。これを上手く使えば、ローコストかつ短時間で必要なエビデンスがどんどん出せるんじゃないかと。
そんなことを考えていたときに、偶然DeSCが高齢者、特に後期高齢者までをカバーした、悉皆性の高いデータを提供しているのを知りました。ならば、自分でもぜひそういうデータを分析してみたいと。それまでの経験から依頼の意図や目的は汲みやすい、という点で事業に寄与できる自信はあったし、今以上に良い分析結果を提供できるのでは、という思いもありました。
小野:臨床研究は安全に行わなければならないという前提があるため、治験などの対象は健康な成人男性になりやすい傾向があります。でも実際の診療では、子どもや高齢者がいたり、いろんな既往の疾患を持っている人がいたりする。そういう人たちに薬を投与したり手術をしたりすると何が起きるのか、というデータが現実世界では蓄積されています。
実際の診療状況に関して調べたいと思われていることはまだまだ多くて、それを調査する手段の一つとしてRWDが使われています。現在のところRWDの活用先は主に製薬業界向けで、自治体向けの分析でRWDを利用するケースは民間では多くありません。実臨床で何が起きているのかをメタ的に知る手段はあまり多くないわけですが、そこに関われるのはとても価値があるし、DeSCの仕事特有のおもしろさかなと思っています。
松岡:RWDは、そもそも研究のためにつくられたデータではないんです。日常生活などから出てきたものを研究に使う、という文脈にある。自分がしたい分析を行うには、データをどのように使ったらよいかを考えるという側面があるのは、他の領域とは違うかもしれないですね。私もそこに面白さややりがいを感じています。
異なる領域のデータサイエンティストとの交流、教育支援活動
──DeNAにはヘルスケアの他にも、ゲーム、ライブストリーミング、スポーツ・まちづくり、メディカルと、異なる領域の事業に携わるデータサイエンティストがいますが、交流はありますか?
中野:事業部をまたいだ交流会や、勉強会などのイベントもあります。エンタメから社会課題領域まで、異なる領域での分析の活用事例に社内で触れることができるのはDeNAならではだと思います。統計勉強会にはいろんなチームから参加するので、「この手法はこういうケースに適用できる」というような着想が得られたり、もちろんデータサイエンティスト同士でのつながりもできます。
また前述のとおり、DeSCは専門性の異なるユニークなスペシャリストで構成される組織です。いろんなメンバーがいることで、それぞれ自由な観点で質問したり、議論したり、個々で持っている知識も違うため「こんなこと聞いてもいいのかな…」といった遠慮は不要(笑)。フラットでコミュニケーションしやすい環境だと思います。
小野:確かに、バックグラウンドを見ても、疫学、CRO、機械学習、別領域含めたPhDホルダーなど、データや分析結果の考察観点も異なり、気づきを得られることも多いですね。PhDの方は特に、原点に立ち戻って課題を解釈するスキルが高く、そういった方と共に働けるのも魅力的だと感じます。
──交流会や勉強会の他に、自己研鑽を積める制度などはありますか?
中野:社会貢献の一環としてアカデミアと連携し、データサイエンティスト教育支援の取り組みを推進しています。また個人向けには、オンライン学習サイトや書籍の購入などで資金援助の制度を設けています。その他にも個人の目標としてこういうスキルや知識を身につけたい、といったものについては、半期に1回の目標設定に組み込み評価に反映させるなどといった対応をしていますね。
松岡:自分の業務分野に関連する学会に行って勉強してくる、といったことへの支援もあります。時間とお金が許す限りですが、何度か参加させていただいてます。
小野:私は有志で定期的に集まって数学の勉強をしています。大学でやるようなレベルのものです。数学って医療統計や疫学でも使うのですが、独りで黙々と勉強するのは根気もいるしちょっと大変だと思っています。いろんな背景を理解するのに大切だけど、すぐに使える場面に遭遇するわけでもないので勉強のモチベーションがなかなか湧かない(笑)。そういった話題について勉強会を開催し、お互いに教えあうようなことを通じて得たものが、回り回ってですけど、分析手法を解像度高く理解したりといった形で業務に活きていると思います。
──前職での経験なども踏まえ、DeSCのデータサイエンティストの魅力とは何だと思われますか?
小野:DeSCのデータサイエンティストは、「自分たちでデータサイエンティストとしての道を切り開いていく必要がある」と思います。成熟した業界で分析の役割が明確化されていることだけに取り組んでいるのではないため、「データサイエンティストの価値/役割とは?」を自ら定義しアップデートし続ける必要があります。
またエンジニアチームにデータを分析できるまでのクレンジング工程や分析環境の整備を担ってもらえることで、データ分析自体に集中できる。これもDeSCで働く魅力のひとつだと思います。
──面白いですね。そんなDeSCのデータサイエンティストに向いているのはどんな方なのでしょう?
中野:製薬業界は歴史があり、付加価値の提供手法は全体的に成熟している印象のある業界です。その中に我々のような新しい企業が入っていくからには、今までに無かったような価値を出したい。そういった新しいことに挑戦しようとすると、いろんな壁にぶち当たると思います。なので、そういった混沌とした状況に突入していける、そういったシチュエーションを楽しむことができる、そんな方が望ましいのかなと思っています。
──では最後に、皆さんの今後のキャリア展望、もしくは目標をお聞かせください。
中野:最初にお話した、より専門性の高い研究の一端を担っていくにあたり、おそらく違う種類の仕事を2つやるグループになっていくだろうと想定しています。
すでに回っている分析レポートのデリバリーと、研究領域の2種類ですね。これらは同じような業務内容に見えますが、実際には求められるスキルや仕事のリズムが結構異なります。これらを両立してこなすのはかなりハードルが高いことだと感じているので、これらをどうマネジメントし、どんなチームづくりをしていくか。グループマネージャーとして考えていかないといけない重要事項で、それを明らかにすることが当面の目標です。
松岡:製薬に限らず、世の中全体がデータをいかに使ってエビデンスをもとに意思決定をしていくか、ということの重要度が加速度的に増しているのを感じています。
僕らの分野で言うと、DBを通じてさまざまなエビデンスを製薬企業やアカデミアなどと協力し、創出していくことが今以上に大切になってくる。そこに対し、いかによい支援ができるか、それが可能な体制をつくれるか。世の中にエビデンスを出していくことに対し、自分が貢献できる幅をどんどん広げていきたいです。
小野:私は、RWDを社会インフラ的なものにできたらいいなと考えています。
RWDのみで解決できることばかりではありませんが、得意とする領域も広がってきています。社会や生活者への還元の視点を大切に、健康に資するエビデンス創出に広く使っていただけるようになればと思っています。
製薬企業はもちろん、もっと多様な企業に使ってもらい、保健事業へ還元することで、今よりももっと世の中に貢献できるんじゃないかと。そのために自分の分析能力を高めて今よりも精度の高い結果を出せるようになるのがまず1つ。あと、今後いろんな専門性を持った方が入社してきた時に、各々の専門性を十分に発揮できるようなコラボレーション的な施策を促せるような役割が担えたらと思っています。
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