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人と人とのつながりを科学する──『IRIAM』データアナリストの難しさと面白さ

「こんなにも自分が没頭できるプロダクトが、どのように生まれたのか非常に興味が湧いて、その成長に関わりたいと強く思いました」

そう話すのは、IRIAMプラットフォーム事業部アナリティクスグループでグループマネージャーを務める出口 裕己(でぐち ひろき)。データアナリストとしてさまざまなサービスに触る中で『IRIAM』と出会い、気づけば1ユーザーとして没頭していたと言います。

その熱量のままにDeNAのアナリティクス部からIRIAMのアナリティクスグループに自ら異動、現在グループマネージャーとして活動する出口に、『IRIAM』にデータアナリストとして携わるおもしろさ、難しさを聞きました。

INDEX

『IRIAM』が掲げるコア価値「コミュニティ」の素晴らしさに共鳴

──まず、出口さんの『IRIAM』における役割について簡単に教えてください。

現在は、アナリティクスグループでマネージャーをしています。組織開発をしながら、自身もプレイヤーとしてプロダクトや事業のさまざまなデータ分析に関わっています。

──もともと、DeNA本社のアナリティクス部でマネージャーをされていたと聞きました。

昨年までは、DeNA本社のアナリティクス部で、マネージャーとして各事業を支援する役割で、いろんなサービスに関わっていました。

そんな中で支援を検討していた『IRIAM』には、1ユーザーとして他アプリと比べ群を抜いて没頭してしまって。文字通り寝る間を惜しんで配信を見たり、さらにはライバーさんの気持ちを理解したいと自身で配信もしてみたんです。

こんなにも自分が没頭できるプロダクトが、どのように生まれたのか非常に興味が湧いて、その成長に関わりたいと強く思うようになりました。

ちょうど、『IRIAM』を担当するアナリストのアサイン検討をする必要もあり、ぜひやらせて欲しいと自ら手を挙げたんです。

──そこまで没頭できた、『IRIAM』の良さとは一体どういうところにあるのでしょう?

『IRIAM』がコアな価値として掲げている、「コミュニティ」の素晴らしさに尽きると思います。

私たちは、現実世界で多様なコミュニティに所属し、そこで存在を他者から承認されることで、充足感を得ています。この感覚は、もしかしたら日常では当たり前になり過ぎていて実感しづらいかもしれませんが、誰しもが、人と人との関わり合い無しには生きていけないと言ってもよいでしょう。

しかし現実世界では、誰かとコミュニケーションを取るにあたって、物理的な距離であったり、人それぞれの立場や置かれている状況によって、多くの制約が存在します。

──確かに、新たに人との出会いを探そうとしても、誰とどうつながりを持てばよいか、きっかけを探すハードルが結構高いかもしれません。

『IRIAM』の中には、バーチャルライバーさんを中心とした無数のコミュニティがすでに存在しています。そして、アプリを起動するだけで、その中に瞬時に飛び込めるんです。スマホ一つで自身を取り巻く世界が広がるこの感覚は、とても新鮮でした。

『IRIAM』って、「配信に来てくれてありがとう」「コメントをしてくれてありがとう」っていうポジティブなコミュニケーションがとても多いんですよね。他人から言葉をもらって、そのお返しに、自分が相手に言葉をかけて。もしかしたら、リアルの生活以上に、アプリ内で温かなやり取りをしたかもしれません。そうしていく内に、とてもポジティブな感情になっている自分に気づいたんです。

──アプリ内での言葉のやり取りで、ポジティブな感情が芽生えていくのはユニークな感覚ですね。

はい、温かいコミュニティ内で他者との交流を重ねるにつれ、『IRIAM』が持つ価値の大きさに気づき、世界観に深く共鳴していきました。

『IRIAM』がもつ世界観について詳しくは、プロダクトオーナーの真辺 昂(まなべ こう)のこちらの取材記事「「キャラ」になってライブ配信。自己表現を民主化する『IRIAM』の魔法の意義」を読んでもらえればと思いますが、この「コミュニティが持つ価値」に対して、真摯に向き合っていることが『IRIAM』の一番の強みです。

また、しっかりとその価値がユーザーさんに届き、事業が成長を続けていることも魅力の一つです。主なビジネスモデルは配信内のギフティングとなり、公表された決算の通り、年間の売上は約70億円となっています。

我々が位置するコンテンツ市場は、日本発のアニメカルチャーの台頭、推し活文化の広がりなどのマクロトレンドの後押しによって拡大を続けており、国内有数の成長を期待される産業です。このサービス自体が持つポテンシャルも大きく、まだまだ成長の途上だと感じています。

ライブ配信だからこそ出会える、魅力的なデータたち

──実際にチームに参加されてから、アナリストという目線では、『IRIAM』をどのように捉えているんでしょう?

それについては、サービスをどんな構成要素で捉えているか、そしてどんなデータを扱うかの順番で説明させてください。

ライブ配信は、リスナーさんが好みのライバーさんを見つけてマッチングする「ツーサイドプラットフォーム」の要素に加えて、マッチング後にアプリ内のコミュニケーションを通じて絆を深める「コミュニティ」の要素を持っています。

マッチングで提供する価値が機能的価値から情緒的価値に変化すると、対象となるものをアプリ内で探索・決定する基準が非常に曖昧になっていきます。

たとえばECやフリマで何かを買うときって、ある程度明確な目的を持って商品を探索し、値段や品質などの基準で比較しながら決定しますよね。

対して『IRIAM』では、「ライバーさんが提供する居心地のよい配信」を探すことになります。人と人の波長が合う理由は本当にさまざまで、声質、持っている雰囲気、何気ないリアクション、いろんな要素が深く絡み合います。普段の生活でも「どんな人と友達になりたいですか?」と聞かれても、実際はその通りに選んでいることなんて稀ですし、そもそもその質問に答えること自体が難しいですよね。比較する基準を統一的に持ちづらい中で、データを用いてその出会いをサポートすることが重要になります。

さらに、そこにコミュニティの要素が加わります。マッチング後に、ライバーさん・リスナーさん双方が時間をかけてコミュニケーションを重ねることで、リスナーさんはそのライバーさんを中心とするコミュニティの中に自身の居場所をつくっていくんです。これらのやり取りがデータとしてすべてサービス内に残るのは、非常にユニークです。

特定のコミュニティと絆を深めるには、ライバーさんだけでなく、その配信にいるリスナーさんとの相性も重要です。『IRIAM』の小規模な雑談配信は、その場にいるリスナーさんのコメントを軸に進むことが多いため、リスナーさん同士の関係性もコミュニティの雰囲気を決定する大きなファクターとなります。

私自身の経験でも、ライバーさんが話す内容だけでなく、周囲のリスナーさんとのコメントやり取りがおもしろくて、そのコミュニティにハマっていったことが何度もありました。

──扱うデータはどういったものになるのでしょう?

主に2つのカテゴリで捉えています。1つ目は、ユーザーさんの各種行動データを用いて、ユーザー間のインタラクションを表すネットワーク構造。2つ目は、事業のコアな価値である配信の非構造化データです。これらが相互に関係しあって『IRIAM』のデータ構造を形づくっています。

1つ目のユーザー間ネットワーク構造について、基本となるのは、ライバーさんを訪問する、視聴する、コメントをする、など一般的な行動データです。『IRIAM』は人と人がつながってコミュニティ拡大することが、そのままサービス全体の成長に直結する性質があるため、単一ユーザーの行動を追うだけでなく、ユーザー間でどのようにインタラクションが発生しているか、という切り口が重要です。

たとえば、各ライバーさんをノード、その配信に対するリスナーさんの視聴時間をエッジと捉えると、毎日配信を見にいく濃いつながりから、たまに顔出しする程度の薄いつながりまでさまざまです。また、リスナー同士でのフォロー関係なども発生します。アプリを触り始めた初心者リスナーさんを例にとると、まず誰か1人のライバーさんと仲良くなって『IRIAM』へのエンゲージメントを深め、徐々に訪問するライバーさんや交流するリスナーさんの輪を広げるなどの行動を取った場合、時系列でこのネットワークが拡大していきます。

ネットワークがどういう形状の時に、サービスへのエンゲージメントが一層高まるのか、あるいは減衰するのか。その探索を通じて、コミュニティのメカニズムを解明し、サービス成長への示唆を出すことが役割の一つです。

具体的にはリスナーさん一人ひとりの行動を時系列で把握できるダッシュボードを整備し、どんなタイミングに、どんな状況のコミュニティと出会ったかを非常に細かく追えるようにしています。この探索基盤によって、プロダクト開発チームと認識統一をしながら、ユーザー体験の深掘りができてきていると感じます。

また、各ユーザーさんが持っているネットワークの状態と、事業全体のKGIの関係性を紐解いていくことで、事業モニタリングをより深く行うことも可能になってきています。

一点補足すると、まだこれらのデータを「ネットワーク」として捉えることは概念的にしかできておらず、いわゆる「ネットワーク分析」の手法を常に用いる訳では無いのですが、考え方としては参考にしています。また『IRIAM』が所属するDeNAのライブコミュニティ事業部全体では、複数のライブ配信アプリを運営しており、その手法を用いたR&Dも進行中です。

──配信データについては、どんな切り口で見ているのでしょうか?

配信を構成する要素としては、主にライバーさんの発話(音声)、配信を知らせるサムネイル(画像)、リスナーさんのコメント(テキスト)などがあります。

この非構造化データの塊から、コミュニケーションに関する特徴量を生成し、マッチングやコミュニティの成長に効く要素を解明することに、目下では取り組んでいます。

この解析には、LLMの活用可能性を検証しており、大きなポテンシャルを感じています。

たとえば、会話内容から抽出・要約した話題と、それが扱われていた際にコメントしていたユーザーさんの属性や会話の流速などを組み合わせて「そのコミュニティでは、いつ、誰と、何で盛り上がるか」などの特徴量をつくれると考えています。

LLMは非構造化データを扱うことに非常に長けており、これまでなかなか扱いづらかった「『良い』コミュニケーションとは、何か」という、重要なテーマに踏み込んでいける可能性を感じています。

このように「ユーザーさんが置かれている、マクロなネットワーク状況」と「コミュニケーションの、ミクロな盛り上がり」の二つを統合して解釈し、サービス成長に対する示唆を出すことを目指しています。

またこの示唆がビジネスモデルと直結するため、分析によって与える事業インパクトも大きなものになります。

人と人がやり取りし合うコミュニティだからこその、面白さと難しさ

──これらのデータを実際に分析をする上で、意識していることはありますか?

ユーザー間で相互に与える影響を念頭に起きながら、ライブ配信の動的な状況を読み解いて、特徴を捉えることを意識しています。

『IRIAM』が志向するコミュニティ型の配信は、ライブ配信の話題でよく引き合いに出されるVtuberの方の大規模なそれと比較すると、案外小規模なんです。

関わる人数が多いと、ライバーさんからの一方向の発信が主となるメディア型の形をとらざるを得ません。それが規模が小さくなるにつれ、ライバーさんとリスナーさん双方向のやり取りや、リスナーさん同士の交流が活発になっていきます。

また、日中は仕事をしながら聞くだけだった人が、夜にはリラックスして沢山コメントしながら会話を楽しむ時もあり、同一人物でも状況によって視聴態度が異なります。

その場にいるライバーさん・リスナーさんが状況に応じて振る舞いを変えながら、相互に影響を与え合い、数時間に渡る各種行動の時系列データが積み上がります。とにかく変数が多く、直感的には因果関係がありそうな事象の裏側に交絡因子が潜んでいることも日常茶飯事です。

このように複雑度が高い配信をさまざまな切り口で分解し、特徴づけるシグナルを見つけて解釈性を高めることが、アナリストに期待される役割の一つですね。

──『IRIAM』にも、フォロー機能やコメント機能などがあるので、その様子をシグナルとして行動を追ったりするのでしょうか?

リスナーさんの中には、フォロー後に数回訪問して活発にコメントしたと思ったら、以降パタリと訪問が途絶える方もいたりして、「ここで仲良くなった」と明確に言えるタイミングが存在しないんですよね。分かりやすいシグナルが無い中で、体験をかなり具体的に想像しながら、ユーザーさんのエンゲージメントの高まりを捉える必要があります。

もちろん、訪問数や滞在時間の分布で状況をマクロに捉えることはできるのですが、人によってコミュニケーションスタイルは千差万別なので、いろんな配信を見ながら仮説を練り上げて、検証のサイクルを回すことが重要になります。

──人と人とがやりとりし合うコミュニティだからこその、複雑さがある訳ですね。

そうですね、時にはそのあまりの複雑さに頭を抱えることも多いです(笑)。

ただ幸いなことに、この複雑な系を読み解く手がかりとなるデータの蓄積や、基盤の構築は着々と進んできています。

私たちアナリティクスグループの役割は、目の前のN=1の事象に対して想像力を膨らませながら、理想的なマッチング・成長しているコミュニティのメカニズムを解き明かすことです。

これは、「他者との関わり合い」という、ある意味、人間が持つ根源的欲求を読み解くことに他なりません。

さまざまなデータを駆使し、プロダクトドリブンのモノづくりを支援

──そのメカニズムの解明は、『IRIAM』の事業においても相当中心的な領域になりそうです。

だからこそ、大きなやりがいを感じています。

アナリティクスグループは今年4月から編成されました。その理由は、『IRIAM』の成長を支える「マッチング・コミュニティのメカニズム解明」に対して、本格的に着手する準備が整ったからだと言えます。

これまでも、サーバーエンジニアを中心として分析基盤を構築し、データの見える化などは行っていたのですが、更なるサービスの成長に向けて、データの利活用を加速する意志の表れです。

IRIAMチームでは、年間で200件を超える活発なユーザーインタビューが行われており、組織全体としてユーザー体験の理解を非常に重視しています。

定性的な深いユーザー理解がすでにチームに備わっているからこそ、定量的な裏付けが加われば、事業を飛躍的に成長させることができるはずです。

アナリストも自らアプリを積極的に触って、コミュニティで起きていることを肌で捉える。ユーザーインタビューを組み合わせて仮説を練り上げ、さらにデータによって定量的に事象を把握する。この、コミュニティに潜ったミクロな視点と、データによる俯瞰した状況把握というマクロな視点の行き来が鍵となります。

──言わばファン視点と事業視点、一見対極的な2つの視点が『IRIAM』のデータ分析には不可欠ということでしょうか。

まさにその通りです。また事業全体を見渡すと、データ分析で価値を出せる箇所が多いことも魅力です。

プロダクト開発の他にも、アプリ内で開催するイベントの検証、ライバーさんのマネジメントを行う事務所とのtoBコミュニケーション支援、サービス内の各種報酬設計など、関わりは多岐に渡ります。

取り組むテーマの選定は、グループに裁量を持って任されているため、動き方の自由度はかなり高いです。

自由度が高いということは、裏返すと、自ら強い意志と責任を持って物事に取り組む必要があるということです。ライブ配信という事業ドメインはまだ黎明期で、世の中を見渡しても定石がほとんどありません。そんな中で、事業を構成する変数を広く把握し、データ分析が介在することで意味のある打ち手につなげられそうな箇所を選定する。自ら能動的に問いを設定して、積極的に事業を牽引する。そんな気概が求められます。

──事業部が持つ戦略・戦術に厚みを持たせる、さらにはそれを超えて、戦略自体に大きなアップデートをもたらす役割を担えるということですね。最後に、アナリティクスグループにフィットしそうな人物像があれば、教えてください。

想像力を働かせて、人と人との関わりを読み解くことに興味がある方でしょうか。

『IRIAM』では、ライバーさんのアバター化や、音声・テキストが交差するインタラクションなど、技術の進化によって、過去には想像がつかなかった新たなコミュニケーションの形を提供しています。一方で体験の豊かさのコアにあるのは、間違いなく人間の感情です。

アプリ内で生み出される、一見すると無機質なデータの羅列の裏側には、人と人の交流から生まれるユーザーさんの豊かな感情が潜んでいます。その機微の読み解きに、おもしろさを感じられる人であれば、間違いなくフィットすると思います。

また、近年では「機械やAIで代替できる場所」と「代替不可能な人間ならではの価値」の境界を注意深く見極めようという風潮を感じます。『IRIAM』におけるデータ分析は、技術と人間の感情が交差する場所に位置する、他では得難い経験ができるポジションです。

ここまでの話に少しでもピンと来た方は、まずはカジュアル面談からでもよいので、ぜひお話させてください!


※本記事掲載の情報は、公開日時点のものです。

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