企業で働いていると、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」という言葉をよく耳にします。
総務省の『通信白書』においても、DXの現状や課題が述べられており、日本はDXの推進を国の方針として掲げていることがわかります。
しかし、DXという言葉を知らない人や、DXの意味を正しく理解せずに「IT化」や「デジタル化」と同じ意味で使っている人も多いのが現状です。
IT業界で働く人やIT業界を目指す人だけでなく、すべてのビジネスパーソンにとって必要な教養となるため、この機会に正しく理解していきましょう。
今回はあえて、「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」、そして「デジタル・ディスラプション」という言葉も取り上げ、それらと比較することで、DXという言葉の意味をより明確にお伝えします。
具体例を交えながら、わかりやすく解説していきますので、是非参考にして下さい。
「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」と合わせて理解するDX
「デジタル・トランスフォーメーション」を覚える際に、「デジタイゼーション」と「デジタライゼーション」も合わせて理解し、違いを把握することで、よりわかりやすくなります。。
「デジタイゼーション」
デジタイゼーションとは、「データをデジタル化すること」を指します。
たとえば、紙に書かれた書類をスキャナーで読み取り、PDFに変換することで情報をデジタル形式にします。
「デジタライゼーション」
デジタイゼーションされたデータを活用して、業務を効率化することです。
たとえば、書類をスキャンして保存したPDFを利用して、手作業で行っていた書類整理を自動化したり、電子メールで簡単に送信できるようにすることで、仕事の効率が向上します。
「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」
デジタル・トランスフォーメーションは、デジタイゼーションやデジタライゼーションを活用して、ビジネスモデルやサービスそのものを大きく変革することです。
たとえば、レストランがオンラインで注文を受け、AIで配達時間を予測し、データを基に人気メニューを調整するなど、ビジネスのあり方自体が変わることを指します。
つまり、デジタル化によって業務が効率化され、省人化された段階はデジタライゼーションにすぎず、DXとは言えません。
DXは業態や商売の方法が、従来とはまったく別の形に変革することを指します。
業界ごとにみるDXの具体的な事例
今までの具体的なDXの事例を見ることで、より理解が深まるかもしれません。
・音楽業界のDX
1990年代までは、個人で音楽を楽しむにはCDを購入したり、レンタルするのが一般的でした。
しかし、次第に音楽がMP3のようなデジタルデータ(CDもデジタル音源ですが)として扱われるようになりました。これが音楽のデジタイゼーションと言えます。
その結果、パソコンなどで音楽をダウンロードしたり、メールに添付して送信したり、小型端末に大量の音楽を保存できるようになりました。これがデジタライゼーションです。
さらにデジタライゼーションが進むと、SpotifyやApple Musicのようなサブスクリプション形式(定額制)で音楽を楽しむビジネスモデルが誕生し、業界の主流となりました。
このような音楽業界の変革こそがDXの例です。
電子書籍でも同様の流れが見られます。
・小売業界のDX
デジタイゼーションの例として、レジで手動で行っていた在庫管理を、バーコードによるデジタル化で、売れた商品の情報を自動で記録するようになりました。
次に、デジタライゼーションでは、そのデータを基にして自動的に在庫を補充したり、売れ筋を分析して販売戦略を立てたりすることが可能になりました。
DXの例としては、Amazon Goのように、商品を手に取って店を出るだけで自動的に会計ができる無人店舗があります。
買い物客はレジに並ぶ必要がなく、スムーズな買い物体験ができ、企業側も効率的に店舗運営ができるというメリットがあり、デジタル化が進んだからこそ生まれた新しいビジネスモデルです。
・医療業界のDX
医療業界では、患者の紙のカルテを電子カルテに変え、情報をデジタル形式で管理することがデジタイゼーションです。
さらに、電子カルテを使って異なる病院や診療科間で患者情報を共有し、治療方針をスムーズに決定できるようになったのがデジタライゼーションです。
診断や治療のスピードアップや誤診リスクの減少も期待できます。
また、蓄積された大量の患者データをAIが解析し、画像診断や病気の予測を行えるようになってきました。
これにより、医師が見落とす可能性のある異常を検出したり、最適な治療法を提案し、医療の質向上と患者ケアの精度が向上しています。
これが医療業界のDXの事例です。
DXの結果起きる「デジタル・ディスラプション」の脅威
DXについて、おおむね理解できたのではないでしょうか。
ここでさらにもう一つ、「デジタル・ディスラプション」という言葉についてもご紹介します。
「デジタル・ディスラプション」
デジタル・ディスラプションとは、新しいデジタル技術の登場によって、既存の商品やサービスの価値、従来のビジネスモデルや業界のルールが大きく変わり、市場が破壊される現象を指します。
たとえば、音楽業界ではサブスクリプション配信サービスの登場により、CDの販売やレンタルといったビジネスモデルが衰退しました。
また、書籍がネットショッピングで手軽に購入できるようになったことで、街の書店の経営が厳しくなったという話も耳にするかもしれません。
このように、従来主流だったビジネスモデルが破壊されてしまう状況こそが、デジタル・ディスラプションです。
新しいデジタル技術の進化は、どの業界にも大きなインパクトを与える可能性があり、企業は柔軟に対応する必要があります。
今後、デジタル技術はさらに発展していくことが予想され、これまでの常識が書き換えられる可能性も高まるでしょう。
「今まではこれでうまくいっていたから……」という考え方は、もはやリスクでしかありません。
なぜDXが求められるのか。日本政府の狙いとは?
DXという言葉が使われるようになった背景には、日本政府がDX推進を進めていることが挙げられます。
経済産業省のガイドラインには、次のように記載されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
つまり、デジタル技術を活用して新しいサービスやビジネスの収益を生み出し、日本経済を活性化させることを目指しているわけです。
国内のGDPが上がり経済が発展すれば、国際競争でも優位に立てるほか、エネルギー問題や少子高齢化問題、環境問題、食糧問題などの社会課題解決にもつながる可能性があります。
IT後進国と言われている日本は、DX化を早急に進めることでIT先進国へと成長したいと考えています。
国がIT強化を政策として推進している以上、今後もIT業界の成長と発展が期待されます。
今回は「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」について、具体的な事例や関連用語と共にわかりやすく解説しました。
身の回りのDXにもぜひ興味を持っていただき、ITの可能性をさらに感じていただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。