【前編】調査はアパレルのものづくりに有効なのか TSIホールディングスのマーケティング室の挑戦
2019 / 09 / 27 #ファッション,#市場調査 ...
https://www.cross-m.co.jp/column/Future_Marketing/future017/
ー本日はよろしくお願いいたします!まずは、高木さんのお仕事内容を教えてください。
現在はリサーチコンサルタントをしています。新卒でリサーチャーという職種の部署に配属されてからずっとリサーチをやっており、リサーチコンサルタントもその延長線上となります。
リサーチャーは、どちらかというとクライアントの持っている課題を調査で検証し、その結果を報告する業務です。一方、リサーチコンサルタントはその課題をクライアントと一緒に整理したり、検証結果や仮説をアクションとしてどのように落とし込んでいけばよいかを一緒に考えていく、プラスアルファの業務となります。
ー現在はどのようなクライアントが多いのでしょうか?
業界は特に偏りはないです。複数のクライアントを担当しており、定期的なディスカッションを行って一緒に課題解決のお手伝いをしています。
現在はそれに加え、アパレル業界のクライアントに週2日ほど常駐をして、マーケティングのセクションメンバーとして働いています。そこで、彼らの保有するアパレルブランドに対して、マーケティング活動の支援を行っています。
▼取り組みの詳細を知りたい方はこちら!
ー常駐先では、どのようなことをされていらっしゃるんですか?
マーケティングセクションのメンバーとして、日々50~60あるブランドの状態を管理しています。
具体的にはブランド全体や個店別の売り上げ数字を追うなどして、優先的にどのブランドに対してフォローをし、サポートしていくかということをセクション内で決めています。それらの整理をした後に、ブランドの責任者とお話しをして状況をヒアリングし、内容を僕たちの方で改めて整理します。
多くの企業が売り上げ数字の改善策を検討する際、商品の構成やデザインに視点がいきがちなのですが、僕らはお客様がそのブランドの価値を体験できているかどうかを大切にしています。そのため、「生活者が洋服を着るときの体験、買うときの体験」という広い視野から、そのブランドではどのようなことがうまくいっていて、どのようなことに課題があるのか、などをクライアントにお伝えするようにしています。
ブランドの価値をお客様に正確に伝えるには、どのようにお客様に体験していただくと伝わるかを事前にクライアントと話し合っていきながら、なおかつブランドの思いも汲み取り、それらを調査で明らかにしていきましょう、というような流れを取っています。
ー高木さんが実際に取り組まれた、事例を教えていただけますか?
例えば、今取り組んでいるのは30年ほど続いているアパレルブランドです。10年ほど前にかわいい系統の服が流行った時期に、かわいい系統の服とスーツラインのようなものが両立していたMD(マーチャンダイジング)の構成を、スーツラインをなくしてかわいい系統の服を全面押しにしたことがありました。
当時OLの方々には、そのようなきちんとしたかわいい清楚な恰好が流行っていたのですが、世の中の流れが徐々に変わっていき、仕事着でも少しカジュアルラインにしていく傾向へ変化していきました。「時代のニーズにマッチしない」というブランドの危機感と、一方その中でもこのような系統の服を着たい人もまだいるよね、という難しいバランスの課題感を持っていらっしゃいました。
その後リブランディングの方向性に悩まれていたので、お客様の生の声をヒアリングしたり、お客様がブランドを通じてどのような体験をしているのかということを改めて整理し、クライアントと一緒にブランドの価値を再確認することで、そのブランドが伝えたいメッセージを伝えられるような商品構成やデザインバランスの調整をお手伝いすることができました。
ーブランドの価値観を再認識するために、具体的にどのようにお客様のヒアリングされたのでしょうか?
例えばアパレルの分野の場合、競合も含めてブランド調査をする時にインターネットのアンケートなどを実施して、自分たちのブランドの立ち位置を俯瞰してみるなどしています。
そして、実際に購入してくれるお客様をお呼びし、インタビューなどで日頃どのような生活されているのか、どのような価値観を持っているのかみたいなことを理解することをします。
ほかには、お客様に洋服のアイデアを発想していただく場を設けることもあります。その際にブランドの価値をお客様自身に整理していただけるので、出てきた価値観やブランドへの想いをクライアントに伝え、お客様の潜在的なニーズを汲み取ったものをコミュニケーションや商品に落とし込んでもらうように工夫しています。
ーコミュニケーションとはどのようなことでしょうか?
例えばものづくりなどの分野ですと、より新しいものを作ろうとした時に「新しい機能を追加する」というような方向で日本は進む傾向が強いです。
カメラを例にすると、「こういう新しい機能が搭載されました」ということを売り出そうとしても、受け手側のお客様は新しい機能よりも、「自分が撮りたい写真が撮れるのか」「写真を撮ること自体をどう楽しめるのか」が重要になります。そこのコミュニケーションをうまく生活者ととれないと、「カメラはスマホで充分だよね」という結果になりかねません。
このようなことをクライアントにご理解していただけるように、商品であっても機能的な良さを明らかにするだけでなく、生活者がその商品を使って楽しんでいることの“意味”まで、改めてクライアントと一緒に解釈することを大切にしています。
その理解の先にあるクライアントと生活者のコミュニケーションは、互いに共感しあえるものになっていると考えています。
ーリサーチコンサルタントのやりがいは何でしょう?
入社してからリサーチャーをやっていく中で、調査の結果を報告するだけではクライアントの価値になっているのか、と疑問に思う時期がありました。
リサーチ業務の中では、いくつかの質問やインタビューをする中で出てくる気づきを簡単にまとめ、ファインディングスと呼ばれる解釈を付けます。さらにいくつかのファインディングスをつなぎ合わせて、クライアントに示唆提案することもあります。
しかしながら、その示唆提案させていただくご担当者の方と、報告調査の結果を実際に使う部署が違うことも多くありました。そのため、商品開発を行っている部署の方々と僕たちがご提案した調査結果や解釈の認識が合っているのかまで追うことができず、ジレンマがありました。
また、調査結果を扱い方自体で悩まれているというクライアントの声も頂いていましたので、そこをご担当者の方と一緒に解決していくことが必要だと思いました。
調査の価値がクライアント社内で認めてもらえないのであれば、調査会社として意味はありません。課題をきちんと整理するところから調査の結果に応じたご提案、そのご担当者が社内で提案に対する合意をとるところまでサポートを僕たちがすることで、お手伝いできる領域の幅が広がったことが一番のやりがいです。
ークライアントとの関係で大切にされていらっしゃることはありますか?
クライアントが何をしたいのか、どういう想いを持っているのかということを大事にしています。目線をクライアントと共有した上で、生活者を観察した時に「今はこういうことが足りていない」ということを汲み取る作業がマーケティングリサーチだと思います。
クライアントが持っている想いと、生活者が潜在的持ち合わせている想いをどのようにつなげるか、そしてどのように生活者が眠らせていた想いを呼び起こすことができるかを、クライアントと一緒に発見する、あくまでクライアントファーストであることを心がけています。
ー今後の高木さんの目標は何でしょうか?
調査を始める前の課題の共有や整理から、調査、課題解決までの一連の流れをご一緒できるようなクライアントを増やしていきたいと思います。今までリサーチャーとしてやってきた調査の前後に自分がいないと成り立たないと思ってくださるクライアントを増やしたいです。
ー高木さん、本日はありがとうございました!