「第4次ベンチャーブーム」と呼ばれるほど、昨今のベンチャー企業は盛り上がりを見せています。国内でも資金調達ニュースを連日見かけ、政府からは「J-Startup」などの取り組みも発表されています。あらゆる分野でベンチャー企業が成長する様子が見られる、稀有な機会だといえるでしょう。
そんな今注目しておきたいのが、中国・深セン。ベンチャーといえば、これまでアメリカ・シリコンバレーのイメージが先行していましたが、最近では世界各国でベンチャーの波が広がっています。そして現在、その盛り上がりの中心にいるのが深センなのです。
そこで11月30日、日本最大級の事業承継M&Aプラットフォームであるビズリーチ・サクシードは「未来都市・深センの現状から考えるM&Aによる中国進出の必勝法」と題し、世界中の起業家が注目する深センの現状を語るトークイベントを開催しました。
登壇者は、日中M&A専門弁護士である浅田大氏、「ビズリーチ・サクシード」担当マネージャーの竹内健太氏、そして財務戦略専門家の姥貝賢次です。リアルな深センの話題が飛び交った本イベント。さっそく、イベントの様子を振り返っていきましょう。
写真で見る、深センの現状
まずは、深センの現場を写真を通して見ていくことに。これまで深センに訪れた経験を持つ浅田氏と姥貝が街中の様子を例に出し、現在の深センを解説しました。
姥貝:深センを訪れると、数多くの自転車が並んでいる光景があちこちで目に入ります。シェアサイクルの文化が非常に盛んで、自由に乗り降りできるようにあちこちに置かれていますよね。
浅田:深センでシェアサイクルが流行りだしたのは昨年くらいからですね。その後、一気に市場が広がって、今では十数社が手がけるまでに成長しました。現在では、シェアを獲得した2社が市場のほとんどを独占していますね。
日本と比べて電車やバスなどの交通網が未発達の地域だったため、このような急拡大を遂げました。シェアサイクルは日本にもいくつか例がありますが、道路交通法などの規制が厳しく、あまり結果は残せていません。
ただ、深センでも課題はまだまだあり、最近はシェアサイクルの乗り捨てが社会問題になっているそうです。自転車そのものの管理やケアが、今後の課題でしょうね。
そのほかにも、非常に美しい街並みを持つ深セン。何気ないビルの写真をスライドに投影し、姥貝が言葉を続けます。
姥貝:深センには、美しいビルが乱立しています。道路も非常に美しいですね。一方で、ビルの多さに似合わず自然が豊かなのも特徴的です。ビルと自然が調和した景観がとても美しいですね。ちなみに、僕は海外の食べ物があまり得意なほうではないのですが、深センの食べ物はお腹を壊さずに頂けました。そのくらい、環境が整備されています。
データで見る、深センの現状
中国・深センは香港側、つまり南に位置する地域です。政治の中心として栄える北京が北に位置するのに対し、ベンチャー企業はそこから離れた深センの地で栄えたのです。非常に暖かな地域であるため、過ごしやすいのだそう。
浅田:深センにもいくつかの区があり、それぞれで特徴があります。たとえば、福田区は政府の役所、裁判事務所、法律事務所、会計事務所などの立ち並ぶ地域です。南山区には、世界中を賑わせるテンセントの本社があります。そしてテンセントに追随するように、数多くのベンチャー企業が立ち並びます。おしゃれなカフェなんかも最近は増えましたね。
しかし、生活をするための地域としては非常に便利ですが、日本に住む私たちにとっては欠点もあります。それは、日本からの直行便が少ないこと。日本人にとっては気軽に訪れにくいのが難点です。香港からは地続きなので、新幹線に乗れば最短20〜30分程度でアクセスできますが、やはり北京や上海を訪れるよりは不便なのが本音ですね。
とはいえ、今は人口1,300万人を誇るITの聖地となった深センですが、かつては漁師が多い田舎の漁村でした。ひと昔前の深センから考えると、現在の環境はとてつもない進化を遂げています。政府の誘致政策によって若者が集まり、一気にIT企業の栄える今の深センへと移り変わりました。昔から日本企業が進出している上海や北京と比較しても、深センのここ最近の成長率はダントツでトップですね。GDPすら、ふたつの地域の数値に迫っています。たった35年間で、世界を牽引する最新都市へと変化する姿は凄まじいです。
深センで発達する事業や企業
現在深センでは、安価で高品質なスマートロックシステムや、光学技術を応用したハイクオリティな映像投影システムなど、世界トップレベルの技術を持つベンチャー企業がさまざまな分野で乱立しています。そのような深センのベンチャー企業に、日本を含む世界中の企業や投資家が熱視線を送っています。
最近では日本企業との提携の話題がのぼる深セン企業もありますが、そこで注意しておきたいことがあります。それは、ビジネスパーソンとしてのスタンスの違いです。
浅田:日本人と中国人とでは、そもそも文化も考え方も異なります。日本だと、交渉を行うときは会社全体の利益を考えます。一方、中国は自分の利益が最優先です。どちらが良いかは置いておいて、根本的にスタンスが異なるということを理解しておくべきでしょう。お互いの言葉を理解しながら、少しずつ歩み寄ることが必要です。
姥貝:スタートアップ企業の育て方からして、日本と中国は大きく異なります。日本はIPOを目指してじっくり企業を大きくしていくことが多いですが、中国企業は研究開発に対してかけるコストが半端じゃない。政府が、研究に対する投資を惜しみません。イグジットを目指すかどうかの話でもありますが、世界最高峰の技術者を増やす育成を行うのが中国・深センの方針です。そのためか、深センの研究者たちはすごくハングリーで次々に起業して行きますね。自分たちの研究に誇りを持って、積極的にどんどん取り組む印象がありますね。
日中M&Aには、まだまだ課題も残されている
イベントの後半、話題は日中M&Aへと移ります。まだまだ国境を超えてのM&Aは一般的ではありませんが、国の枠を超えた「出資」の例はいくつかあるようです。
浅田:ソフトバンクの孫さんがアリババに出資をしたことで事業成長が加速したように、国を超えた出資がこれから風潮としてアリだと思っています。実際に中国のベンチャー企業が国外企業からの投資によって成長し、キャピタルゲインを取得した例もあります。現在のマーケットでは、M&Aではなく資本提携を行なっていくほうが良いのかなと。日本では発達していないビジネスを持つ企業と資本提携することで、技術力を担保するのが正攻法ではないでしょうか。
実際に、深センの遺伝子解析技術を持つ企業と日本のベンチャー企業が資本提携を行なった例もあります。遺伝子解析キットを深センで製造し、流通やデータ解析の側面で日本と事業提携を進めているようです。お互いの技術力を高め合う上でも、またグローバルを視野に入れたビジネスを展開する上でも有効的な方法だと考えられるでしょう。
ただし、規制の面でなかなか苦労が多いのもまた事実。ひとつの国のみで事業を行う企業が、突然海外に資金を送金するといった行為は、役所の承認を得るまでに時間がかかります。そのため、まずは自社で海外拠点を作り資金をプールすることで、送金リスクを低減する方法もあるようです。
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メインコンテンツであった姥貝、浅田弁護士による最新の深セン事情に関するトークイベントの後、中国を含む海外市場へのM&Aを通じた進出手段として、竹内氏より事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」のご紹介もありました。
まとめ
今回は「未来都市・深センの現状から考えるM&Aによる中国進出の必勝法」をレポートしていきました。まだまだ課題は山積みですが、魅力的な市場であることは間違いない深セン。今後の展開によっては、日本のさまざまな企業との事業・資本提携していくかもしれません。しっかりと動向は把握しておくと良いでしょう。
イベント中は熱心にメモを取る参加者の姿や、イベント終了後も積極的に登壇者とディスカッションを繰り広げる姿が見え、イベント全体の熱量がたっぷりと感じられました。
イベント後には、彩り豊かなケータリングも用意され、華やかな雰囲気のなかでイベントは終了。本イベントを通して、少しでも深センの現状や、日中M&Aについてのリアルな情報をお届けできていましたら幸いです。それでは、最後までご覧いただきありがとうございました!
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【登壇者】
姥貝 賢次(うばがい けんじ)
ー 公認会計士
2002年よりプログラマーとしてシステム開発事業を経営する。その後、早稲田大学大学院会計研究科を修了し公認会計士となる。2008年に監査法人トーマツに入所して上場企業の会計監査やシステム監査に従事する。2014年に公認会計士事務所を開業し財務戦略を専門に取り扱う。2015年にフィンテック専門のカウンティア株式会社を設立し先端技術とセキュリティの研究開発を開始。2017年より東証1部上場企業と合弁会社を設立し経営している。現在、ITと財務戦略の専門家として、深セン・日本間の事業開発も手がけている。
浅田 大(あさだ だい)
ー 浅田法律事務所 弁護士
浅田弁護士事務所代表弁護士。浅田(上海)企業管理有限公司執行董事。弁護士登録後中国現地コンサルティング会社勤務を経て帰国。中国では、上海市、東北地方に約3年の駐在経験が有り、特に中国沿岸部に幅広いネットワークを有する。中国駐在時は、中国に進出した日系企業の経営に関する法的サポートや、紛争対応に多く携わった。近年は、中国系の企業や個人富裕層の日本での法人設立や、不動産取得サポート、経営管理・高度人材などの在留資格取得案件といったインバウンド案件の対応が増加している。2018年5月、浅田(上海)企業管理有限公司を開設。
竹内 健太(たけうち けんた)
ー 株式会社ビズリーチ 事業承継M&A事業部 マネージャー
早稲田大学政治経済学部、ペンシルバニア大学ウォートンMBA卒業(北京大学交換留学)。新卒で外資系投資銀行へ入行し、M&Aアドバイザリー、資金調達、アライアンス推進業務に従事。その後、株式会社ミクシィの経営企画室長として同社のターンアラウンドを推進。事業売却、公募増資、クロスボーダーVC投資等を主導。 2015年、株式会社ビズリーチに参画。管理本部本部長を経た後、事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」の事業開発を行う。
田原 彩香(たはら あやか)
ー 司会進行 ビジネスタレント、アナウンサー
大手人材会社で広報と営業の経験を積んだ後にタレントへ転身し、テレビやラジオのリポーターとして活動。現在は、カウンティア株式会社へ参画しながら、ビジネスメディアのMCを中心とした活動を「ビジネスタレント協会」の事務局長として続けている。
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