「負けれるなら負けてみてくれ!」世界最弱のオセロAIを開発
強化学習を使って極限まで弱くしたゲームAI「最弱オセロAI」をリリース。
人気YouTuberのはじめしゃちょーさんが動画で紹介したこともあり、リリースから2週間で約100万回プレイされました。オセロのプロや多くの一般人に遊んでいただきましたが、はネット上では「あまりにも弱い」「わざと負けようとしても無理」と話題になりました。今回は開発者であるAVILENのCTO、吉田拓真に話を聞いてみます。
最弱オセロAIゲームプレイはこちらから
はじめしゃちょーさんの動画はこちらから
開発者プロフィール
株式会社AVILEN CTO 吉田拓真
東京大学工学部を卒業し、大学院時代に株式会社AVILENを創業。深層学習を専門とする。CTOとしてAIを用いた図面読み取り・異常検知・Webアプリなど数々の開発プロジェクトをリードしてきた。同時に日本ディープラーニング協会認定E資格対応講座代表講師を務め、開発・教育・企画に及ぶ全事業の技術的支柱を成す。最弱オセロAIの開発者。
「少なく取れば勝ち」という逆のルールを教え込む
--1.なぜ、最強ではなく、最弱のオセロAIを開発しようと思ったのですか?
このオセロAIは2016年、私が東大在学時に個人で開発しました。
Googleが開発した囲碁のAI「AlphaGo」に影響され、興味本位・勉強も兼ねて開発をしました。C++で一から深層強化学習を実装し、日本発祥のオセロに応用したのでした。
初期はとにかく強さを求めていましたが、たまたまYouTubeの動画で負けに来るオセロAIを知りました。私はコードを1行変えれば、その動画とは比較にならないくらいとことん弱いAIを学習できることにひらめいて、弱いAIの開発に取り組みました。
4ヶ月ほどで完成ししばらく寝かして置きましたが、友人などから反響を受けたので、AVILENのメンバーの力を少し借りてwebに公開することに至りました。
写真.最弱オセロのプレイ画面(2019年11月現在 4026勝/129万323回敗)
--2.このAIの仕組みについて解説をお願いします。
私が使ったのは「深層強化学習」と呼ばれる最近注目のAIの開発手法です。
この手法は、AIにゲームのルールを教えてあげるだけで、AIは自分との対戦のなかで学習して、時間をかけて強くなっていきます。
「弱い」AIになるのは、「少なく取れば勝ち」と逆のルールを教えたからです。AIは自己対戦のなかでいかに少なく取るか(負けるか)を学んで、”弱く”なっていきます。
また、AIの計算の手助けに、数万個の盤面を探索で先読みして、それぞれの盤面の良さをニューラルネットワークで予測させています。これらのさまざまな工夫があって、最弱のオセロAIが誕生しました。
写真.AIについて解説する吉田
日本人のオセロ愛と人工知能への好奇心に驚いた
--3.きっかけとなったツイートからわずか2週間で100万回プレイされたわけですが、どんな気持ちですか?
ツイート公開数時間の間にオセロマニアの間で広まって、有段者の方々が勢揃って攻略に取り組んでいたときにはすでに胸踊る思いでした。その後予想を上回り百万人以上の人にプレイされて、日本人のオセロ愛と人工知能への好奇心に驚かされました。
また、新しいエンターテインメントとしてAIに大きな可能性を感じ、これから到来するAI時代の楽しいイメージを膨らませています。
--4.これからこの最弱オセロAIはどう使っていく予定ですか?
正直なところ、あまり考えていません。
あくまでも会社全体での遊び、エンタメです。しかし、「最弱オセロ」によって感じられた「AI時代」の可能性にブレーキをかけるつもりはありません。
今回の反響を糧に、世界を驚かすようなAIを開発することにご期待を乞いたい。
写真.AVILENメンバーと話す吉田
到来する「AI時代」を作るのは本当に楽しい
--5.現在、取り組んでいるお仕事について教えてください。
現在は、会社プロジェクトの1つである汎用的で高精度なOCR文書認識AIの研究開発をメインで進めています。同時に、教育事業ではディープラーニングを学ぶプログラムのカリキュラム構築や販売の拡張や、法人のお客様に対して実用的なAI人材を育てる研修を行っています。
--6.今後、チャレンジしてみたいことはありますか?
日本のAIテクノロジーをリードしたいですね。最新技術を実用化し、社会にインパクトを与え続けることがなによりも楽しいです。
--7.これからAIエンジニアを目指す人に一言
到来する「AI時代」を作るのは本当に楽しい。AI業界は新しい研究・アイディアに溢れているので、イベントや学会などではいつも白熱した議論が交わされます。これを読んでいただいた人と一緒に働ける機会があったら、いつか夢を語り合い、実現のために没頭できたらいいですね。
写真.技術について楽しそうに語る吉田