こんにちは、CEOの塩原です。
2023年7月7日、AGE technologiesは、ミッションのリニューアルを行いました。
プレスリリースはこちら:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000033.000080229.html
旧ミッションを掲げた時は「未来永劫このミッションを貫くんだ!」と決めていたのですが、時を経て「ミッションには耐用年数があるらしい」という新しい考え方を知ったこと、今のミッションだと「自分たちが目指す方向性を正しく表現できていない」という気付きを経て、改定に至りました。
企業におけるミッションとは「会社が目指す方向そのもの」だと思っており、その重要なミッションを改定したことについて、背景やプロセスを簡単に書き残したいと思います。
まずは結論ファーストということで、弊社の新ミッションを発表します。
1.旧ミッションについて
弊社は2018年3月に創業しましたが、実は創業から3年間、2021年6月までは「ミッションが無い会社」でした。「なぜ作らなかったのか?」については、以下の記事に書いていますのでご参考までに。
2021/8/18 「高齢社会にテクノロジー革命を起こす」というミッションについて、CEOに色々聞いてみた
2021年6月、SeriesAの資金調達発表と同時に、旧社名からAGE technologiesへと社名変更することが決まりました。
これまで自分たちの事業領域を、
Fintech(金融×テック)とRetech(不動産×テック)とGovtech(行政×テック)のちょうど真ん中にある領域です
とボヤッとした説明をしていたなか、米国で“高齢社会×テクノロジー”を指す分野のことを “Agetech(エイジテック) ”と呼ぶと知り、「これだ!」と思い、業界のど真ん中を歩んでいくという想いも込めて、“そのまま “AGE technologies (エイジテクノロジーズ)" と名付けました。
また同時に「この事業ドメインは会社が存続している限り変わらない」また「20年、30年かけてやっていくぞ」という覚悟も込めて、ミッションも同時に定めました。
創業メンバーと、当時業務委託で手伝ってもらっていたメンバー数名で合宿を実施し、
高齢社会にテクノロジー革命を起こす
というミッションを策定しました。
2.なぜミッションを変えるのか?
策定から約2年、「高齢社会にテクノロジー革命を起こす」というミッションのもと走ってきましたが、今回リニューアルすることを決めました。
そもそも数年前までは「ミッションを変えることは、会社を変えることと同じだ」くらいに思っていましたが、「そうではない」と思うようになったことが背景としてあります。ここ数年、著名なスタートアップ企業でもミッションの変更を見ることも増え、「ミッションには耐用年数があり、必要に応じてアップデートされていくもの」と考えを改めることができました。
その上で「高齢社会にテクノロジー革命を起こす」のままではなぜダメだったのか、いくつか理由を説明します。
理由1:“高齢社会“というキーワードが、微妙なズレや誤解を生む
弊社の主力サービスである「そうぞくドットコム」は、人が亡くなった時に起こる相続手続きをDXするサービスです。つまり、顧客は「故人の家族」であり、「相続される側」の方々です。平均年齢は58歳で、50代をメインとし、40〜60代に幅広く利用されるサービスです。
しかし「高齢社会」というキーワードをパッと聞いた時、人は何をイメージするでしょうか。どちらかというとターゲットとして後期高齢者(75歳以上)の方々が連想されることが多い気がします(あくまでも弊社内での主観であり感覚です)。
この点において、弊社が現在提供しているサービスとの紐付きや、対象としているターゲット市場などにおいて、微妙なズレを感じることが多くなったのが、改定1つ目の理由です。
投資家や採用候補者、また広報文脈での外部向けメッセージの発信機会が多い私や岡本(COO)が、このように感じ始めたのがきっかけとなりました。
もちろん、エイジテックを主戦場としている以上、「高齢社会」というキーワードは重要な言葉であることには変わりないのですが、ミッションに入れてしまうことで、今の自分たちの事業領域や、将来的な発展ストーリーも含めて「正しく説明できていないよね」と感じることが多かったです。
またそもそも社名が AGE technologies なので「高齢社会が主戦場であることは、社名で十分に説明できるよね」という整理もしました。
理由2:“テクノロジー革命”とは?を説明できない
2つ目にミッションの後半部分、「テクノロジー革命」についてです。
そもそもこれを決めた当事者も含めて、社内で「テクノロジー革命」について説明できる人間が居ない事に気が付いたのです。笑
確かにそうぞくドットコムは相続手続きを”DX”するサービスであり、デジタルやテックという言葉は重要な意味を持ちます。一方で40〜60代が対象となるサービスを提供する上で、プロダクトやマーケティングなど、社内のあらゆる会議の場では「デジタルが全てではない」という考え方が主流であり、「アナログなアプローチも重要」という言葉が飛び交うことも増え、結論「ユーザーが求めている体験は何か」という本質に返って議論が進みます。
こういった実情を踏まえて、「テクノロジー革命」とミッションに大きく記載してしまうことは、社内の意思決定と矛盾する機会を増やし、ミスリードを招くきっかけとなっていました。
また先ほどと同じく、社名に Technology と入っているので、それで事足りると。笑
理由3:僕らは“革命”を起こしたい訳ではない
3つ目に「革命」という言葉が引っかかってしまったことです。
弊社が取り組む領域は、2018年には40年ぶりに「相続法」が改正したり、来年遂に「相続登記の義務化法案」が試行されたり、またデジタル庁の設立以降「死亡・相続ワンストップサービス」の構築に向けた議論が進んだり、国や行政、また金融機関や専門家、そして民間企業など様々なステークホルダーが共創して、未来に向けた解決に取り組むべき領域です。
実際に弊社でも、ここ数年は金融機関や専門家(士業等)を中心としたパートナーとの取り組みや、空き家対策文脈での全国の自治体との連携を強化しています。
- 参考1 パートナー掲載ページ
- 参考2 自治体支援サービス
そうした中で「革命」という言葉が一人歩きすることは、弊社の望む未来に対して“誤解”を与えてしまうのではないか、と論点になりました。
業界内外に向けて AGE technologies のスタンスを正しく伝えるためにも、「革命」という言葉を落とすということを決めました。
以上の3点が、旧ミッションを変えようと思った理由です。
3.新ミッション策定に向けた取り組み
写真は”準備運動”として実施した昨年夏のオフサイトMTGの様子
新ミッションの策定に向けたプロジェクトは、22年9月〜23年5月まで、約9ヶ月かけて行われました。基本リソース不足のスタートアップ企業なので、本業とは別のサイドプロジェクトとして終業後や、週末の時間を使って進めていきました。
旧ミッションを決めた時は「一泊二日の合宿で”決めてしまった”」ということもあり、今回は「期限を決めず、腹落ちするまでやり切る」という形でプロジェクトをスタートしました。
プロジェクト期間を大きく分けると、
- 役員ディスカッション
- 社内有志メンバーディスカッション
- 専門家(制作プロダクション)とのディスカッション
という3つのフェーズで進みました。
フェーズ1:役員ディスカッション
まずはあまりこれまでにディスカッションをしてこなかった、以下のようなテーマについて議論するところから始まりました。
- そもそもミッションってなんだっけ?
- 日本の高齢社会ってどうなると思う?
- エイジテックの本質ってなに?
- 家族の在り方はどう変わっていく?
- 最終的にどんな社会になればOK?
普段、事業だけを見ていると改めて話すことは無かったのですが、互いの「エイジテック」に対する想いや、「家族」に対する価値観(どんな育ちで、どんな教育を受けてきたのか、また未来についてどんな家族像を描いているのか)など、高齢社会というキーワードに囚われず、多様な価値観の擦り合わせを行いました(互いの家族構成くらいは知っていましたが、両親や兄弟姉妹、また親戚との関係などまで、改めて知ることができ良い機会となりました。)。
9月中旬からスタートし、ほぼ週1ペースで週末に集まって、計10回ほど実施しました。すると以下のようなキーワードが出てくるようになりました。
- 財産が個人を超えて(家族という単位で)代々受け継がれていくことが大事
- 「つなぐ」は良いキーワード、 ex) 資産をつなぐ、会話をつなぐ、情報をつなぐ
- ”ファミリーアカウント”という視点を事業に取り込みたい
- つなげて終わりではなく、その先にどんな世界を実現したいのか?
- 資産をつなぐことは、経済の活性化につながるよね
- 当事者同士で、話し合って決めることが大事で、全てが”合理”では決まらない
- 高齢社会におけるQOL(クオリティオブライフ)は、高齢者だけの問題ではないという認識が重要
- 個人ではなく「家族のライフプラン」が当たり前に存在する社会を創りたい
- 遺す人も、遺された人も、納得して意思決定できる社会を実現したい
高齢社会、相続、家族といったキーワードは定義が曖昧で、具現化もしづらく、抽象度の高いもの。故に、言語化する作業は本当に苦労しました。時には発散し過ぎて、収拾が付かないみたいな会もありました。
ただ、この領域をやっていくにあたって、ボードメンバーが本音で価値観の共有をできたことは、取り組んだ甲斐があったし、自分たちの腹落ち感という意味でも、重要なプロセスだったと感じています。
フェーズ2:社内有志メンバーディスカッション
4ヶ月をかけて役員陣でディスカッションを続けたことによって、「新ミッションの土台」が出来上がりました。が、そんな頃に「この深い議論を経た僕らと、参加していないメンバーで温度差が出る気がするんだけど大丈夫?」という声が上がりました。また「ミッションは策定して終わりではなく、特に社内に浸透させることが重要」という話しになり、「社内メンバーを巻き込もう」と決めました。
現在弊社はフルタイムメンバー25〜30名程度の組織ですが、正社員を対象に「公募制度」をかけてみることにしました。本業とは別の仕事になるため、営業時間外での活動が多くなること、またPJメンバーにはPJ後も社内のエヴァンジェリストとしてミッション普及に能動的なアクションを取ってほしいことから、公募制としました。
ここで有志で手を挙げてくれたメンバーと、役員陣で、新ミッション策定に向けたフェーズ2が行われました。2023年1〜3月の3ヶ月間をかけて、主に平日の終業後に集まって、ディスカッションを開始しました。
初めは役員陣がこれまで話してきたことをインストールしながら、新メンバーを含めて”もう一度”同じような議論を続けました。やはりメンバーが増えると、人によって価値観が異なる部分が出てくるため、意見を出しては、自分たちで否定し、それを繰り返し、土台を徐々にブラッシュアップしてきました。
フェーズ3:専門家(制作プロダクション)とのディスカッション
3月の段階で、ミッションを構成する重要な要素の吐き出しは全て完了していましたが、ミッション策定の最後の”言語化”の部分はまだでした。ここは社内外に向けた重要なメッセージの発信という点で「1人歩きしても大丈夫なワーディング」を選ぶ必要があり、「専門家に頼んだ方が良いよね」と決め、外部の制作プロダクションの方々にお手伝いをいただきました。
約2ヶ月間で、数回のセッションを経て、最終的にミッションと、それを補足する説明文をFixさせることができました。
これがざっくりとした策定までのプロセスで、全9ヶ月の長期PJとなりました。
単純に「時間をかけたから良かったよね」ということではなく、まずは役員陣、そしてメンバー、そして最後にプロの方と、関係者を徐々に増やしながら、自分たちの価値観を一本化していく作業手順だったからこそ、最終的にとても腹落ち感のあるミッションへと、辿り着けたなと感じています。
4.新ミッションについて
説明に入るまでに非常に長くなってしまいましたが、最後にミッションについての重要なポイントをいくつか解説します。
資産と想いを次世代につなぎ、日本の可能性をひらいていく。
これが弊社の新ミッションです。
現在メインで提供している「そうぞくドットコム」や、今後展開していく「周辺領域事業(不動産/保険/金融等)」を通じて、次の世代につないでいくことが弊社の使命です。いわゆる”資産”として扱われるものだけでなく、故人や家族の”想い”をつないでいくことも重視しており、ポイントは「最適な意思決定」のサポートです。
そしてこの弊社の事業活動が、年間50兆円とされている相続財産の移転に「次のアクション」という新しい価値を生むことに繋がり、それが経済の活性化につながると考えています。これは一見ネガティブに捉えられがちな「超高齢社会」というテーマを、”経済循環のきっかけ”と再定義する活動になり、その意味で「日本の可能性をひらく」と表現しています。
以下、説明文を引用して、それぞれ解説していきます。
世代を越えた最適な意思決定をサポートし、資産と想いを次世代に引き継いでいく。それが、AGE technologies の使命です。
9ヶ月間のディスカッションを経て、「どんな社会が理想か?」という問いに対する議論の中心は、常に「最適な意思決定」でした。
これはもはや高齢社会に関わらず、人生を通して「最適な意思決定ができる人が増えることは、豊かな社会へと繋がるよね」という話しですが、特に我々が取り組む事業領域は、
- 機会の少なさ(人生で1,2回)から情報の非対称性が非常に大きい
- 遺す人と遺される人、当事者が複数いることで共同での意思決定が必要になる
- ”死”は前提としてネガティブなことなので、会話することすらハードルが高い
などの特徴があり、最適な意思決定を行うことは、容易ではありません。ここにエイジテックの本質課題を感じました。
また、弊社では「最適の定義は、人によって変わる」という価値観を重要視しており、例えば、いま不動産を売却することが「金銭的メリットを考えて最適だ」と考える家族がいれば、「祖父が大事にしていた家なので売らずに別の形で活用することが最適だ」と考える家族もいても良い。弊社は両者をサポート(尊重)する、ということを決めています。
継承と向き合い、本来の意義と主体性を取りもどすために。私たちは「つなぐ」にまつわる情報の非対称性を均し、煩雑なプロセスの一元化に取り組んでいます。
最適な意思決定のサポートに向かうためには、まずテックを通じて、情報の均一化、コミュニケーションの橋渡し、手間を減らし負のイメージを変える、などのアプローチが必要でした。
それが3年前にリリースした主力事業である「そうぞくドットコム」です。本事業を通じて相続手続きのデジタル化を行うことが、最終的な本質課題の解決に向けた最初のステップになると捉えています。
ちなみに、今回のミッション及び説明文では「相続」という言葉を一切用いていません。
これは
- 「相続」はその言葉から連想されるキーワードの裾野が広く、人によって捉え方が変わる
- AGE technologies の事業領域は、”既に”相続だけに留まるものではない
という背景があります。この点は、最後の言語化の際に、制作プロダクションの方にも強い希望として依頼しました。
「つなぐことで広がる未来」についてもっとオープンに、前向きに、みんなで語り合える社会へ。この国の可能性を、私たちはひらいていきます。
そして「最適な意思決定」で終わらず、その先まで事業として設計していくのが、我々の目指すストーリーです。相続手続きのデジタル化から入り、資産と想いの最適な意思決定を支援していくことが、最終的には「経済の活性化(≒循環)」につながると考えています。
資産の利活用の文脈で言えば、例えば「不動産を売る」という選択肢をした場合はもちろんのこと、「売らない」という選択肢をした場合でも、「じゃあ空き家にならないように別の活用方法を考える」や「手入れは必要だから管理業者を探そう」など、何かしらのアクションが起きるようなサポートを実施します。最も”悪”なのは、当事者同士が「何も話さない(話せない)状態」だと考えており、これを無くします。
そしてこのミッション達成に向けた働きが、超高齢社会に突入した日本社会を、ネガティブではなく、オープンで明るい社会に変えていく1つの道筋だと捉えており、AGE technologies はその社会実現に向けて突き進みます。
以上が、新ミッションの解説になります。
AGE technologies は、今年の3月で創業から丸5年が経過し、まさにいま”第二創業フェーズ”に差し掛かっております。各種リリースの通り、事業も既存事業だけでなく、新規事業の展開も既に始まっており、勘の鋭い方なら非常に”ワクワクするフェーズ”と気付いていただけるかなと思います。
本稿ではミッションの解説が中心でしたが、「具体的にどうやって実現していくのか?」という成長戦略については、カジュアル面談等で是非お話しさせてください。
マーケットインパクトと社会的意義の両方を達成できるこの領域で、共に山の頂上を目指せる仲間を探しています。