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日本の製造業を元気にする ― O2創業者の想いは、インド・ニューデリーで生まれた

製造業の設計に特化したコンサルティング会社である株式会社O2(以下、O2)は、「日本の製造業を元気にする」という合言葉を掲げ、事業を運営してきました。

当社のこのビジョンには、O2の創業者である代表取締役会長CEO 松本 晋一の想いが影響しています。松本はかつて、自身の価値観が大きく変わるような経験をしました。その出来事をきっかけに「日本の製造業を良くしたい」ひいては「日本という国の将来を支えたい」と考えるようになったのです。

なぜ松本はO2を立ち上げたのでしょうか。そして、経営において重視していることや目指すビジョンとは。前編・後編に分けて松本にインタビューしました。前編では創業の経緯について解説します。

バックパッカーとしてインドへ。旅で得た気づきがO2創業の原点に

――松本さんの大学時代の経験が、O2創業に深く関係していると伺っています。

大学時代にバックパッカーとして、世界中を旅しました。いろいろな国や地域に行き、たくさんの人と出会ったのですが、そのなかでもインドのニューデリーでの経験は私の価値観を大きく変えたのです。

3つのことに気づきました。1つ目は日本が豊かであることです。ニューデリーで出会った10歳にも満たない女の子は、サンダルとうちわを売って、たった1人で15人ほどの家族の生計を支えていました。他の家族はさまざまな事情があり、働いていないのだといいます。日本円に換算すると、1か月あたり何円とか何十円という売上で一家全員が生活している。これが当時のインドの実態でした。


インド・ニューデリーにて、その女の子と一緒に撮影した写真

日本とは次元の違う貧しさに触れたことは、衝撃的でしたね。そのとき初めて、日本が豊かだと気づきました。その豊かさを生み出してきたのは、戦後にひたすら努力を続けてきた先人たちです。特にものづくり大国である日本においては、製造業に携わる方々の功績は大きいでしょう。私は日本人として、この豊かさを後世に残さなければならないと感じました。

――2つ目の気づきもお聞かせください。

他の国から来たバックパッカーから、よく冗談で「日本人はバカだよな。お前たちのつくった製品は壊れないから」と言われました。つまり、品質が良く長持ちする日本製品は、買い替える必要がないためメーカーが儲からないだろうと、軽口を叩きつつ褒めているわけです。

海外に行くまでは、アメリカやヨーロッパがあらゆる面で日本よりも先進的だと思っていました。ですが、海外の方々と話すことで、日本のものづくりの品質は世界でもトップレベルにあることを教えてもらったのです。

――3つ目の気づきは何でしょうか?

日本国民としての自覚です。旅を続けるなかで、他のバックパッカーや地元の人々から「生まれて初めて日本人に会った」と言われることがよくありました。言うなれば、彼らにとっては「日本人の印象=松本の印象」です。仮に私が良くない態度や行動をとれば、彼らは「日本人はとんでもない人間だ」というイメージを抱くでしょう。もしかしたら、私の一挙一動が日本の将来を左右するかもしれないという緊張感が芽生えました。

こうした複数の気づきがあったことで、私の価値観は大きく変わりました。社会人になり責任のある立場に就いたとき、日本という良い国を次の世代につながなければという使命感が生まれたのです。日本のためになるような仕事をしたい。そのためには、日本の強みであるものづくりを、つまり製造業を元気にすることが効果的だろうと考えました。この志が、30歳を過ぎた頃にO2の創業に結びついたのです。

会社員時代の経験は、全てO2の事業に生きている

――松本さんは大学を卒業後、会社員として2社で勤務した後、O2を立ち上げたと伺っています。会社員時代の経験についてお聞かせください。

1社目は旭化成に入社して住宅事業部門に配属されました。住宅事業部門の営業をしていたのですが、やるからには成果を出そうと、ひたむきに取り組みましたね。その結果、なんと1年目で全国トップクラスの営業成績を達成。同僚や上司たちも驚いていました。

――素晴らしい成果を残せた要因は何だと思いますか?

意思決定におけるキーマンにアプローチしていたことが大きいです。住宅関係の営業は多くの場合、家主である父親に向けて商品の説明をします。父親が金銭面での決定権を持っているという思い込みが強いからです。

しかし、考えてみてください。たとえば一般家庭において、どんな種類のシステムキッチンを導入するかを検討するとき、最終的な決断を父親がするかといえば、実際は違いますよね。よく料理をする母親が「こんなキッチンがほしい」と決めるケースの方が多いです。つまり、特定の集団において意思決定権を持っている人物を見極めることが、ビジネス成功の鍵になる。当時の私はそのことに気づいていました。


その頃私が担当した、あるご家庭の例がわかりやすいかもしれません。そのご家庭は、どの住宅メーカーで家を買うかを決めるため、複数の住宅展示場を巡っていました。ご家族が自宅へ戻られた後、他社の住宅営業たちは当日のお昼から夕方ごろの時間帯に、粗品を持ってそのお宅へお礼のご挨拶に訪れるのが通例です。

お礼の挨拶は早いほど印象が良いのですが、私は新入社員だったため先輩から多くの用事を頼まれており、終わらせた頃には21時くらいになっていました。「失敗したな」と思いつつも、そのお宅へ向かいました。その道中でふと、住宅見学のときに父親が赤ちゃんを抱いていたのを思い出し、コンビニで紙おむつを買って自宅訪問でお渡ししたのです。

事務所に帰ると、そのご家庭の方が私宛に「設計担当者と一緒に来てほしい」と連絡をくださっていました。もう22時を回っていたと思いますが、その日にご訪問したところ、なんと「松本さんが担当になって家を建ててほしい」とご指名をいただきました。理由を伺うと「我が家で誰が一番大切なのかをわかってくれたのが松本さんだったから」とのこと。つまり、そのご家庭が家を建てるのは赤ちゃんのため。だからこそ、紙おむつを持って行った私を信頼してくださったのです。

――意思決定権を持つ人物を見極めることの重要性がわかりますね。2社目ではどのような経験をされたのでしょうか?

2社目は外資系IT企業で、非常に教育がしっかりしていました。強く印象に残っているのは、入社して間もない頃に上司からエレベーターピッチを教え込まれた経験です。上司から「仮に企業の社長とエレベーターで乗り合わせた際、どんな話をするかシミュレーションしてみなさい」と課題を出されました。何を話すべきかわからず自己紹介から入ったところ、上司から「全くダメだ」と指摘されました。今思えば当たり前ですよね。

要するに、企業の社長は会社の業績を良くするために、事業を改善できるようなノウハウやサービスに興味がある。私が何者であるかなどには興味はありません。まずは、相手にとって有益な情報を伝えるべきなのです。これを意識するようになってから、プレゼンテーションの成功率は非常に高まりました。

O2の業務でコンサルタントに指導するときも、相手が何に興味を持つのかを意識するようにと教えています。相手が一番知りたいことを最初に伝えることで、興味を持って話を聞いてもらえますし、成約できる可能性も高くなるのです。会社員時代に学んだことは、全てO2の経営に生かされています。

製造業の知見とコンサルティングスキルの融合が強みになる

――O2の業態としてコンサルティングを選んだ理由を教えてください。

外資系IT企業での経験が影響しています。当時、私が在職していた外資系の企業は製造業の設計部門で使われるITを販売していました。大手コンサルティングファームと協業し、クライアントへ共同の提案をするプロジェクトがありました。

大手ファームの方々は頭の回転が速くコンサルティングスキルも優れている。私たちの企業のコンサルタントよりも、大手ファームのコンサルタントの方がクライアントからの評価は高いと思っていました。しかし、結果はその逆。「松本さんの会社のコンサルタントは、ものづくりを理解している」と褒めていただいたのです。

その言葉を聞いて、現場を知る製造業出身の人がコンサルティングスキルを身につければ、優秀なコンサルタントになれるのではないかという仮説を立てました。そこで、付き合いのあった大手ファームの人々にこの仮説を話したところ「発想は面白いが、技術者はボトムアップ思考が身についているから、コンサルティングで必要なトップダウン思考にはなれない」と言われたのです。


事業会社で働く技術者は、現場で手を動かして事実を積み上げて結論を出す。それに対して、コンサルタントはビジョンを打ち立ててそれを業務に落とし込む。アプローチが逆なのです。ボトムアップ思考からトップダウン思考に切り替えることは困難だというのが彼らの意見でした。しかし、それを聞いて私は、大手ファームの人々ができないと考えているならば、もし実現できた場合は圧倒的な優位性になると考えたのです。

この考えと、学生時代に抱いた「日本の製造業を元気にしたい」というマインドが結びつきました。創業するならば、自分自身が正しいと思えることを経営方針にして、社員と顧客が幸せになれるような会社をつくりたい。ものづくりを理解した人間がコンサルティングに携われば、現場の人々が抱える課題を深く理解し、効果的な業務改善を行えるでしょう。これがO2の事業につながっています。

地域格差の解消と、製造業の収益改善

――O2のグループの事業を通じて解決したい日本の課題をお聞かせください。

地域格差の解消と製造業の収益改善ですね。まず前者から説明しますと、地方で働く方々は、自分が属する組織のトップになれないことが多いのです。たとえば、地方には大手企業の子会社が多いです。社長や役員は、本社から送られてきます。地方の銀行では、系列の大手都市銀行から出向してきた人が頭取になる場合もあります。県庁などで霞ヶ関の若手が要職に就き、ベテランの職員が彼らの指示を受けて仕事をするといったケースはよくあります。

地方でエリートと呼ばれる人々が所属する組織に、東京から人が降りてくる。そして、経営層には東京から来た人間ばかりが就任する。明確な序列がついている状態が続いています。地方に住む人たちは「頑張って働いても要職には就けない」と、頂点を目指すことを諦めているのが現状です。子どもたちはそんな大人の姿を見て育つので、「日本一になりたい」という思いをなかなか持てません。

私が地方の方々と関わるなかで出した結論は、経済格差や医療格差、教育格差といったさまざまな地方格差は、実は“志の格差”が根本にあるということです。本当に地域格差を解消したいならば、志の格差をなくすべきだと考えています。

このビジョンを実現するには、地方に本社を構える会社がグローバル企業になり、世界の企業と対等に渡り合うことが必要です。そうすれば、「自分たちも頑張ればトップになれる」と、地方を拠点にする方々も思うでしょう。O2が、山形県に拠点を持つIBUKIをグループに招き入れたり、各種の地方創生プロジェクトに携わっていたりするのは、その想いの表れです。

――製造業の収益改善についても詳しくお聞かせください。

日本における製造業の利益率は、6%あればかなり優秀だと言われています。誰もが知っている大手企業でも、4~5%ほどのケースが多いですね。一方、インターネットビジネスなどでは利益率が30%と非常に高いケースもあります。

同じ60億円を手元に残すのに、製造業では1,000億円の売上が、インターネットビジネスでは200億円の売上が必要というわけです。1,000億の売上を出している会社の方が、雇用している人数は明らかに多いでしょう。製造業は、多くの雇用が生まれるものの、1人あたりの利益額が少ない薄利多売型のビジネスと言えます。

雇用を多く生む会社と利益率が高い会社とで、一概にどちらがいいとは言えません。しかし、日本人の所得を上げるためには、製造業の利益率を向上させる必要があると考えています。日本は製造業で働く人の割合が高いので、製造業の給料と国の平均所得は連動して増減するからです。

我々が製造業のコンサルティングを行うことで、生産性を上げて利益率を改善すれば、従業員の給料も上がる。そうなれば、多くの人が豊かに暮らせる。O2の事業は特定企業の成長だけではなく、日本全体にとってもプラスになるものだと考えています。


――O2の事業の意義が非常によくわかりました。どうもありがとうございます。後編ではグループの経営方針や今後の目標などをお聞かせください。

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