なにをやっているのか
こども園での陶芸家による粘土造形プログラム
1994年4月、堺の文化的伝統を基盤としつつ、多彩な文化事業を展開し、広く文化交流を行う文化創造の推進母体として、私たち公益財団法人堺市文化振興財団が立ち上がりました。
2024年現在は、2000席の大ホールを擁する劇場、堺市民芸術文化ホール(フェニーチェ堺)をはじめ5施設を指定管理しており、様々な主催公演・展示事業、普及教育事業、そして市民による文化芸術活動のサポートを行っています。
その指定管理業務を行う部署に加えて、本部事業課では、市内小学校・中学校・子ども食堂・福祉施設等に芸術家を派遣して、多様な地域の人々と一緒にワークショップやコンサートを実施しています。扱うジャンルは音楽・美術・演劇・ダンス・能楽など様々で、子ども・高齢者・外国語話者・障害者をはじめ、あらゆる人々と協働した取り組みを続けています。
このWantedlyでは、そうした「ホールの中」ではなく「外」に出ていき、地域とつながりながら多彩なアートプログラムを企画実施する、私たち事業課のことをご紹介します。
なぜやるのか
車いすバスケットボールチーム〈SAKAISuns〉と取り組んだコンテンポラリーダンス
2021年に施行された「第2期堺文化芸術推進計画」では、文化芸術が子どもや高齢者、障害者等にも社会参加の機会をひらく機能を持つという《社会包摂》の理念に基づいて文化事業を行うことが明記されました。
そして具体的な施策には、「文化芸術を通じた社会的課題の解決」「未来の文化芸術を担う子どもたちへの文化芸術に触れる場の提供」等が掲げられました。
現在の事業課は、堺市から補助金の交付を受け、この推進計画を実際に達成するために、堺市と一体になって文化事業を企画・実施しています。
どうやっているのか
子ども食堂での音楽ワークショップ
例えば、年間20校程度を対象として、小学校や中学校に芸術家を派遣する「さかいミーツアート」という事業があります。
芸術家の視点から音楽やダンス作品を届ける「芸術教育コース」、国語や社会などの授業における学びを芸術で深める「授業サポートコース」、子どもたちの人間関係や自己肯定感等にアプローチする「コミュニケーションコース」の3つを設けて、オペラ・バレエ・能楽・立体造形など、様々なジャンルの芸術家と協働して実施しています。
また2021年から始まった、子ども食堂に向けた芸術家派遣事業では、堺市社会福祉協議会と連携して、堺市内にある子ども食堂( 2023年12月末で100団体になりました)のうち、モデル事業として年間3団体の子ども食堂でアートワークショップを実施しています。
それぞれの子ども食堂に同じ芸術家が1年間継続して通う中で関係性を築きながら、食堂の人たちと一緒になって、その場に集まる子どもや大人に向けたプログラム、どういった内容がいいのかを考え、ワークショップを実施します。これまで、音楽家が子どもたちと一緒に「子ども食堂の歌」をつくったり、美術作家が廃材で造形作品をつくるワークショップを開き、完成した作品を地域の各施設に展示する芸術祭を開催したりしました。
実施後には関係者全員で振り返りを行い、また、専門家による事業成果も調査を入れるなどして、この事業が社会的にどのような効果を持つかについて検証しています。
一般に学校やこども園での「アウトリーチ」という時、「よい芸術を届けたい」とか「ベートーヴェンの音楽をもっと好きになってほしい」とか、芸術自体の普及啓発が趣旨として前面化されがちです。
もちろんそれも大切なのですが、言ってみれば届けるべき芸術が先にあるのではなく、芸術家がその場で何ができるか、その人たちと何ができるかを考え抜いた先に新しい芸術体験があり、新しい芸術と社会との関わり方があります。
私たちはそういうアウトリーチを目指していて、それは人や地域に寄り添う芸術活動だと思っています。
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最近はよく、「新しいことに取り組んでいる財団ですね」と言ってもらえる機会が増えました。先ほどの子ども食堂事業は全国にも仲間が広がってきましたし、その他にも財団では近年、若手芸術家の育成支援に一層力を入れるようになりました。
財団には「堺市新進アーティストバンク」という事業があります。この事業は元々、コンクールや美術公募展で入賞した人に対して副賞として、「登録者には、堺市民からの出演・講師依頼があればご紹介します」という、言わば仕事の機会を提供する制度でした。
ただ財団内部で議論を重ね、「 仕事を紹介するだけが支援ではない。知識や技術を身に着ける研修をしたり、様々な実践の機会を提供したりして体系的に支援することが、若手芸術家のキャリア形成にとって重要ではないか」という結論になりました。現在事業課が運営する「実践研修プログラム」は、そうして立ち上がった事業です。
芸術の社会における役割を考え発信してきたこと、これから長く一緒に仕事をする仲間としての若手芸術家を本気で育成しようとしてきたことなどが、少しずつ認知してもらえるようになってきたのではないかと感じています。