全20回シリーズでお伝えしています「教えて吉田先生!これからの健康経営を考える」。前回は「新しいテクノロジー」でした。今回は「パルスサーベイ」をお送りします。
インタビューは2020年4月6日に都内にて行われました。
―――これまで17回の連載の中で、健康や幸福の概念から、近い未来の働き方の在り方、各種の健康経営支援サービスまで語ってもらいましたが、連載も終盤になってきました。改めて、貴社が注力されているパルスサーベイについて教えてください。
従業員サーベイのうち、小規模で高頻度な調査を「パルスサーベイ」と呼び、情報通信技術やの進化やスマホの普及にともない、人材の流動性が高い欧米を中心に発展してきました。週1回や月1回といった高頻度で調査を実施し、社員や担当者への負担が少なくて済むよう、設問数も5~10問程度に抑えられていることが一般的となっています。
パルスサーベイでは、従業員の意識や心身の状態と業務アウトプットとの関連を、リアルタイムに近い状態で定点観測でき、個人から組織の健康状態までをカバーするサーベイとして、近年多くの企業に注目されています。
―――これまでの従業員満足度(ES)調査や、法定ストレスチェックとは何が違うんでしょうか?「パルスサーベイだからできること」は何ですか?
スマホやクラウドなどの情報通信の発達に伴い、従業員にとっては比較的少ない負担感で、直属の上長とは異なる報告ライン、具体的には人事総務担当者や健康相談業務担当者へ、業務や人間関係・体調に関する状況を伝えられる点が、各種サービスに共通する利点かと思います。
従業員満足度調査や法定ストレスチェックだけだと実施頻度が下がってしまいますし、そもそも紙文化の時代から連綿と続く大がかりな社内調査では、特に若年世代の職場に対する意識変動のスピード感をキャッチアップすることが難しくなってきています。
企業側にとっても、法定ストレスチェックやパルスサーベイなど、専門性が高く社員のメンタル状況など機微情報を扱うサービスは、内製化せず外注する傾向にあります。
これからの人事担当者には、モチベーションやエンゲージメントといった社員の心理面への配慮や支援から、健康状態に紐付いた業務アウトプットへの意識付けが求められるでしょう。
―――貴社で採用されている「東大1項目版」とはどんなものですか?
連載の中で何度か触れてきたプレゼンティーズム(Presenteeism)とは、何らかの不調のせいで頭や体が思うように働かず、本来発揮されるべきパフォーマンス(職務遂行能力)が低下している状態のことを言います。
これを「見える化」しよう、損失額を経営層に提示しよう、という試みは何十年も前からあり、各国で様々な評価方法が開発されてきました。しかし基本的には労働者本人へのアンケートをもとに計測するため、特に国際比較した場合は国民性や本人の性格傾向に左右され、自覚的な健康度や自己申告による業務アウトプットへのバイアスは排除できません。
例えば、WHOとハーバード大学が作成した指標を日本人労働者にそのまま採用した研究では、おそらくは業務アウトプットのアピールが控えめで中庸な回答を好む、などの国民性から、なんと職務遂行能力の低下は平均42%、という結果でした。これだと完全な健康状態で働いた場合と比べて、6割未満のアウトプットしか発揮できていない、ということになります。
―――驚愕の数値ですね。
東大1項目版はその名の通り、東京大学にて開発された指標ですが、日本の労働者の性格傾向に合わせて、プレゼンティーズムの意味をそのまま問いかけるもので、具体的には「病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として、過去4週間の自身の仕事を評価してください」との質問1問から成るものです。
これだとプレゼンティーズム損失割合の平均は15%、例えば総額人件費が10億円の企業では1.5億円が「従業員の心身不調によるパフォーマンス低下の総額」と推測されますので、人事部や健康管理部門は経営トップにその金額を提示し、経営層は損失改善のための健康投資プランを練ることが可能となります。
東大1項目版の場合は、アンケートで「過去4週間の自身の仕事」を評価してもらうものですので、月に1回のパルスサーベイとは非常に相性が良い、と言うことになりますね。
(聞き手:株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介)