前編では、岡崎慎司選手が監督業を始めた頃の苦労や、ドイツ下部リーグの充実した環境から見える若手育成のリアルについて語っていただきました。後編では、“サッカーと仕事”の両立を支えるバサラ兵庫×スポエンの取り組み、日本スポーツ業界が抱える課題と海外への挑戦、さらにはビジネスマンとして若手へのメッセージもいただきました。
日本がスポーツを“文化”として根づかせるために必要なこと、そして“開拓者”としてスポーツ業界で道を切り拓くためのヒントをぜひご覧ください。
▼前編はこちらから!
テーマ3:バサラ兵庫 × スポエンが生む“サッカーと仕事”の両立
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中川:今回、バサラ兵庫さんと我々スポエンのプロジェクト第一弾として、西神中央駅近くにオフィスを構え、選手が働ける場を用意する運びになりました。サッカーだけじゃなくて仕事も全力で取り組むことで、人間的な成長にもつながると考えているんです。金銭的な支援だけではなく、いろんな形でサポートしていきたいのですが、岡崎さんから見てこの取り組みに期待することはありますか?
岡崎:僕自身、高校を卒業してすぐプロになったので、働いた経験ってほとんどないんですよ。だからもしアルバイトや何か仕事をしながらサッカーをやっていたらどうだっただろう、って考えることもあります。もちろんサッカー一本でいけるのが理想かもしれませんが、最初の数年は『クビになるかもしれない』というプレッシャーと戦わなきゃいけない。そこで働く場があると、精神的にも違うと思いますし、『まだプロ契約を勝ち取れていない』という現実を逆手に取って、“もっと頑張って上に行くんだ”っていうモチベーションにできるんじゃないかと思うんです。
それに、仕事をするなかで得られる経験や人間的な成長は、結局サッカーにも影響するんですよ。たとえば周囲とのコミュニケーション力とか、自分をしっかりアピールする力とか、そういうのってピッチ外でも培えます。僕が見てきたトップクラスの選手って、やっぱり人間性がしっかりしていることが多いんです。上に行けば行くほど、周りへの気遣いとか礼儀とか、社会人として当然の部分も身につけている。そういう意味で、サッカーに打ち込むだけじゃなく、“社会で働く”という経験を積むことは、本人の内面を強くするのにすごく大きな意味があると思います。
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中川:“サッカーだけで食べていく”というのがベストだと考える選手も多いでしょうが、もしそれが叶わなかったらどうするか、という不安は常にありますよね。そこで、“セカンドキャリア”ではなく“同時進行の二足のわらじ”を用意することで、一度に両方の道を探れるんじゃないかと。スポエンのコールセンター事業なら、社会人としての基礎を学べる部分も多いですし。
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岡崎:そうですね。人と接して仕事をするからこそ、相手の立場を考えたり、自分がどう見られているかを意識したりする機会が増えますよね。日本人選手は真面目ではあるけど、時々遠慮しすぎて意思表示が弱いというか、“自分を出し切れない”タイプも多いと思います。仕事を通じて社会の厳しさや自分のアピールの仕方を知るのは、ピッチ上でも役に立つはずです。
中川:“仕事を通じていろんな経験を積みながらサッカーを続けられるように”したい。プロ契約という明確な目標を持ちながら働ける環境があれば、選手自身も“妥協せず頑張ろう”と思えるはず。新しい形かもしれませんが、これが選手にとっても業界にとってもメリットになると信じています。
テーマ4:日本のスポーツ業界が抱える課題と、海外へ繋げる“挑戦者”
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中川:海外、特にアメリカなんかではスポーツビジネスが“ドリームジョブ”と呼ばれるほど人気ですよね。でも日本だと“低賃金”“ハードワーク”というイメージが先に立っていて、なかなか人材が集まらない。そこにギャップを感じるんですが、岡崎さんはどう見られていますか?
岡崎:まず、日本ではスポーツがまだ“文化”としてしっかり根づいていないのが大きいと思います。たとえばワールドカップとか大きな大会があると盛り上がりますけど、終わると一気に落ち着いてしまいますよね。海外クラブとのパイプがあったり、現地で経験を積んだスタッフが評価されてキャリアアップできるような流れもまだ弱い。そこが明確に見えてくれば、“スポーツ業界で働く”こと自体がもっと魅力的に映るんじゃないかと思います。
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中川:なるほど。選手の海外挑戦はずいぶん増えたけれど、ビジネスの面まではまだ広がっていないという印象ですよね。
岡崎:そうですね。だからこそ、僕は今ヨーロッパでクラブを立ち上げて、監督までやってみているんです。お金の面ですごく楽かといえば、決してそうじゃないです。でもそれでもここに残るのは、ドイツで何か新しいものを作りたかったから。シントトロイデンみたいに日本人オーナーが入って成功例を作れれば、現地でも日本人スタッフや選手が“こんなに活躍できるんだ”と認められるじゃないですか。そういう事例が増えれば、“スポーツビジネスで海外に行く”っていう道が、もっと当たり前になってくると思うんですよ。
中川:たしかに、日本国内だけで完結しない流れができると、人材の選択肢も広がりますよね。
岡崎:ええ。やっぱり最初はリスクもあるんですけど、僕のようにヨーロッパでクラブを運営する人が増えたり、他の人も海外に出て挑戦するのが当たり前になっていけば、日本のスポーツ業界も変わっていくんじゃないかと考えています。
テーマ5:ビジネスマンとして印象に残るエピソード/若手へのメッセージ
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中川:監督業と並行して営業活動もされていると伺いました。そこまで幅広く動かれるのは珍しいと思うんですが、これまでに印象に残ったスポーツ業界のビジネスマンはいますか?
岡崎:シントトロイデン(STVV)時代に出会った立石さんや、フィジカルトレーナーの加藤さんですね。立石さんはクラブの経営面やスポンサーとの折衝など、いわば“ビジネスの要”を担っていて、スタッフや選手を束ねながらクラブ全体の価値を高める力が凄かった。加藤さんからはフィジカルだけじゃなくて、物事の考え方やセルフマネジメントの大切さを学んだんです。要は“基礎をきちんと積み重ねることが成功への近道”という考え方ですね。営業活動もまさに同じで、たとえばスポンサー獲得ひとつ取っても、日々のコミュニケーションや信頼関係の積み重ねがすごく大事。監督としてチームが勝てば営業の説得力が増すし、スポンサーが増えればクラブの価値も上がる。そういうふうにすべてが繋がっているんですよ。
中川:営業活動まで自ら先頭に立っているって、相当エネルギッシュですよね。
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岡崎:いや、本当に楽しいですよ。選手の勧誘や育成だけじゃなくて、スポンサーとの交渉や資金面のやりくりも全部“クラブを強くする要素”なんです。チームが勝てばファンが増え、スポンサーも喜んでくれて、さらに運営体制が良くなる。すると今度はもっといい選手が来るようになって、チーム力が上がるっていう好循環を作れるんですよね。選手のときよりも、人と人との繋がりを強く感じられるのが新鮮で面白いです。
中川:なるほど。では最後に、スポーツ業界を目指す若手、あるいはスポエンで働きたい新卒の学生さんに向けて、何かメッセージをお願いします。
岡崎:僕が一番大事だと思っているのは“夢や目標を具体的に持つこと”ですね。大きさは関係なくて、まずビジョンがないと動き出せない。今の時代、“失敗するかもしれないからやめよう”ってなる人も多いと思うんですけど、失敗を恐れていたら新しいことはできないし、チャレンジしないと何も始まらない。実は僕も最初の3年なんか毎日「明日クビかも」って思っていたし、実はユーキャンで資格を取ろうかと悩んだこともあります(笑)。でもそこで踏みとどまって、“もっと上へ行きたい”と思い続けたから海外でも頑張れた。もしチャレンジして失敗しても、そこで得たものは必ず次に繋がります。スポエンやバサラ兵庫みたいに“失敗を許容できる環境”があるのはすごく貴重なので、あとは自分がどんな夢を描くかですね。
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中川:ありがとうございます。私たちとしても、そんなチャレンジャーを応援していくのが使命だと考えています。今後、バサラ兵庫やバサラマインツが海外と繋がっていく中で、スポエンが実務経験の受け皿になっていければ、もっと面白い化学反応が起きそうです。そうした新しいモデルを、これからどんどん拡大させたいですね。
「サッカーと仕事の両立」という新たなスタイルから始まり、日本のスポーツ業界を変える“開拓者マインド”の必要性まで、多岐にわたって語っていただいた今回の対談。プロ契約だけがゴールではない、海外とも連携できる――そんな新しい可能性を感じられたのではないでしょうか。今後も、バサラ兵庫やバサラマインツ、そしてスポエンが描く“選手と社会を繋ぐモデル”の進化に注目です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。