レッドハットは、世界をリードするオープンソース・ソリューション・プロバイダー。アメリカに本社を構え、40カ国以上でRed Hat Enterprise Linux、ハイブリッドクラウド・インフラストラクチャ、ミドルウェア、アジャイル・インテグレーション、クラウドネイティブ・アプリケーション開発、運用管理および自動化などのソリューションを提供してきました。
2018年より日本法人では「クライアントの満足度や収益性、事業の継続性の向上を目的とするコンサルティングサービス『Open Innovation Labs』が新たにスタート。当社のコンサルティングチームがクライアントの組織内に入り込み、アジャイルやスクラムなどの文化・技術を直接指導することで組織のパフォーマンスやビジネスアジリティ(機敏性)を高めています。
今回は、Open Innovation Labsにてアジャイルコーチとして活躍するKoki.Sさんを取材。レッドハットに入社した経緯や、アジャイルコーチの役割、魅力、そして求める人物像など詳しく語ってもらいました。
<プロフィール>
Koki.S
シニアアーキテクト ・エンゲージメントリード・アジャイルコーチ
新卒で大手医療機器メーカーのソフトウェア子会社に入社。プログラマ・システムエンジニアとして、内視鏡業務を支援するシステムなどを開発。数年後にはスクラムマスターも経験する。2社目ではロボットベンチャーに入社し、スクラムマスターとして2年間従事。現在はレッドハットにて、プロダクトオーナーやスクラムマスターに対する指導、また組織全体に向けたアジャイル文化の浸透・構築などを手がけるアジャイルコーチとして活躍。
自由な環境でアジャイル開発支援を行うべく、レッドハットへ
──まず最初に、Koki.Sさんのこれまでのキャリア遍歴について教えてください。
新卒で大手医療機器メーカーのソフトウェア子会社に入社し、プログラマとして内視鏡業務を支援するシステムなどを開発しました。最初の3〜4年は国内向けに開発していたのですが、その後に「国内外のシステムを統一して、世界規模の内視鏡業務支援システムを作る」というプロジェクトが立ち上がり、私が開発リーダーに就任しました。そしてこのプロジェクトが、私がアジャイルの重要性を痛感するきっかけになったのです。
というのも、そのプロジェクト期間は “暗黒時代” と呼べるほど大変な思いをしたんです(笑)。その案件の開発は典型的なウォーターフォール型。コンサルタントも外部パートナーもかなりの人数が参画していましたが、チーム間や企業間の連携は取れておらず、良好な関係が築けませんでした。結果、プロジェクトは頓挫したのですが「当初の契約があるから」と、不完全なままで納品はしたんですね。もちろん納品後しばらくは、トラブルシュートで毎日のように徹夜することになりました。
そこまでの苦い経験を経て自分なりに勉強した末、辿り着いたのがアジャイルやスクラムという考え方だったのです。そこから紆余曲折を経てスクラムマスターとなり、頓挫したシステムを立て直すプロジェクトを発足させました。結果は、見事大成功。お客様にも大変喜んでいただけました。そこでの仕事はやりきったと感じ、次はロボットベンチャーにスクラムマスターとして入社しました。
その会社は「全社スクラム体制」で、まさにアジャイルを体現しているような魅力的な会社でした。その一方、また別の問題に悩まされることになります。入社してみるとマネージャーが不在で、社長以外は全員現場スタッフというフラットな組織体制だったんです。従業員は社長が追い求めるプロダクトを期日内に完成させるため連日ハードな働き方をしていました。
マネージャー不在のフラットな組織において、スクラムマスターには高度なヒューマンスキルが求められます。各メンバーへの個別なメンタリング・コーチングから個性のあるメンバーをまとめてリードするチーミングはもちろん、ミーティングのファシリテーションやトラブルへの臨機応変な対応、また組織のミッションをどのようにメンバーに浸透させていくかを考えるのもスクラムマスターの役割です。
社長と従業員とのあいだでそんな役割を全うしようと模索しているうちに、私の中でそのような総合的なヒューマンスキルをより最適な環境で伸ばし続けたいというモチベーションが強くなっていきました。そうしてその会社はプロダクトがリリースできたタイミングで退職し、その後レッドハットに入社して現在に至ります。
──さまざまな選択肢があったかと思いますが、なぜレッドハットへ入社したのですか?
前職では自社内から自社を見なければならず、状況を俯瞰できないために、スクラムマスターとしての本来の任務が果たせなかったと感じています。その点、レッドハットは「コンサルタント」という立ち位置でクライアントを見ることができるため、公正な仕事ができそうだと感じました。面接で今の上司であるエンゲージメントリードのYoshikazu.Yと話し、その人柄に惹かれたことも入社理由の1つ。また自由度の高い外資系企業で一度働いてみたいという思いもあり、そういったさまざまな思いから入社を決めました。
実際に入ってみて、やはり外資ならではの自由さをひしひしと実感しています。個人の裁量が非常に大きく、長大な承認フローを待つようなことはほとんどありません。リモートワークがメインになり時間に余裕ができたのも、嬉しいポイントです。
現場支援だけに留まらず、経営層まで巻き込んだ組織改革に挑む
──Open Innovation Labsとはどんなサービスなのですか?
クライアントに対して、アジャイルやスクラムでの仕事の仕方をコーチングし、お客様がうまく自走できるようになるまでを伴走支援するサービスです。日本には昔のやり方に固執していて、無駄なコストがかかっていたり無駄なプロダクトを作っていたりする日系企業がまだまだあります。ここ数年で、世代交代などでトップ層が若返るケースが増え、アジャイルの必要性が少しずつ認知されるようになってきました。
──Open Innovation Labsにおける、アジャイルコーチの役割とは?
まずプロジェクトが発足したら、クライアントに向けて「スクラムとは」「プロダクトオーナーとは」といった基礎研修を行います。その後、クライアント側でプロダクトオーナーやスクラムマスターといった役割を立てていただき、その役割の方々の仕事を横で見ながら、良かった点や改善点を指南していきます。加えて、現場だけでなくマネジメント層や経営層にもアジャイル文化の必要性を訴えかけ、組織全体を変革させることまでが私の役割です。
──レッドハットのアジャイルコーチならではの独自性や特徴があれば教えてください。
今話したような「経営層も巻き込んで組織を変えていく」というコンサルティングを行っていることは、当社独自の強みだと思います。Open Innovation Labsではアジャイルコーチ1人だけでクライアント支援を行うことはなく、エンゲージメントリードやアジャイルデベロップメントコーチ、プロダクトデザインコーチなどさまざまな役割の人間がチームになって参画します。必要であれば、依頼された現場以外の部署や経営層にも手を伸ばして、変革を促していくんです。結局のところ、1つの現場を変えたところで、会社全体が変わらなければ新しい文化や開発手法は根付かないんですよね。クライアントの将来を本気で考えて、根本から課題解決を行っているのがレッドハットの特徴です。
国内2人目のCTC取得者になれたのは、当社での経験があったから
──これまでのプロジェクトの中で、印象に残っていることはありますか?
とある大手クライアントとの案件で、はじめはアジャイル懐疑派だったお客様と対峙したことがありました。その方は品質保証の部署にいる、いわゆる“最後の番人”。そのため、アジャイルで本当に大丈夫なのか?品質は損なわれないのか?という不安を抱えていらっしゃったんです。私は1年半ほどかけて、その会社のルールに則ったアジャイルの開発プロセスを一緒に作っていきました。その結果きちんと社内展開ができ、品質保証の方にも納得していただけたんです。さらに、それがきっかけでそのお客様の考え方が変わり、より効率的な体制を作っていくこともできました。
またある時は、スクラムマスターが1人もいない現場に入り、0からスクラムマスターを育成したこともありました。おこがましいですが「私の背中を見てもらおう」と思い、4つのチームにスクラムマスターとして入り、業務を実践してみせたんです。だんだんとメンバーが仕事を理解してくれて、結果的には外部パートナーの方を含めた20〜30名がスクラムマスターになりました。恐らく彼ら・彼女らは、今でもどこかの現場でスクラムマスターとして働いているはず。日本ではまだスクラムマスターの認知度が低いですが、このような芽が草の根的に各地に広まっていると思うと、嬉しい気持ちになります。
──Koki.Sさんは、日本人で2人目となるCTC(グローバルレベルのアジャイルコーチであることを認定する資格)を取得したんですよね。認定を受けたのはレッドハット入社後ですか?
そうですね。1番ベーシックな認定は前々職時代に取得したのですが、もっと極めていきたいと思い、レッドハット入社後によりハイレベルな認定にチャレンジしました。
CTCは世界でも230名程度しか取得者がいない狭き門の認定で、パスするには小論文を12本ほど書かなければいけないんです。この難関を突破できたのは、他でもなくレッドハットの自由な環境があったからです。取得するために努力したというよりは、「クライアントの現場をより良くしていきたい」と考えては実践し、トライアンドエラーを繰り返した結果、論文に書くデータが自然と蓄積されていったといった感覚でした。
論文を提出したところ、実はレビューではかなり厳しい指摘をされて「こんな風に書かれているけど、なぜこうしたの?」「それによってまわりはどうなったの?」と、審査員から根掘り葉掘り質問されました。その質問に答えることで、自分を見つめ直すいい機会にもなりましたね。
レッドハットのアジャイルコーチに求められる6つの能力とは?
──レッドハットのアジャイルコーチは、どんなバックボーンを持つ方が多いですか?
バックボーンはさまざまです。私のようにスクラムマスターをやっていた方もいますし、デザイナー出身という方もいます。皆に共通しているのは、プロ意識が高いという点でしょうか。「その道を極めたい」という思いを強く持っている方が多い印象です。
──アジャイルコーチにはどんな能力やスキルが求められるのでしょうか?
意外かもしれませんが、技術面の知識は必須ではありません。もちろん、アジャイルは元々ソフトウェア開発の文脈から生まれた概念なので、勉強する必要がないわけではないのですが、はじめから開発技術や知識を持っている必要はありません。
では何が必要かというと、主にヒューマンスキルです。具体的に言うと、「コーチング」「ティーチング」「ファシリテーション」「メンタリング」「シチュエーショナリング」といった5つの能力が求められます。
シチュエーショナリングとは、状況に応じて自らのリーダーシップスタイルを変えること。たとえばチームが下級の問題で引っかかっているときは、リーダーが積極的に出ていって正しい方に誘導したほうがいいですよね。反対にチームがうまく回り始めたときには、1歩引いて見守ることも大切になります。このような判断を臨機応変にできるかどうかが、アジャイルコーチには重要なのです。
──では、特にレッドハットのアジャイルコーチに求めたい能力やスキルはありますか?
今挙げた5つの能力に付け加えるとしたら、「コンサルティング力」が6つ目の能力として求められてくると思います。要は能動的に問題を見つけて、解決に導く力ですね。
「現場ができることが全て」と思考停止するのではなく、問題の原因から解決策を考えて実践まで持っていく力がある方は、これからの当社に必要な存在です。というのも、レッドハットはコンサル事業者としての歴史がまだ浅いため、育成プログラムなどは今確立している最中なのです。今当社で活躍しているメンバーも、コンサルティングを得意としている人は多くありません。そこを体系的に行える方と一緒に働けると、とても嬉しいですね。
とはいえ、コンサル経験者か否かは問いません。「何らかの課題を自らで見つけて解決していく」という経験やスキルをお持ちの方、欲を言えば、中長期的な目線を持って優先順位をつけながら課題解決にあたれる方を歓迎します。コンサルティング能力がある方であれば、コーチングやティーチングの能力は入社後でも身につけられると思います。
──最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。
これは持論かもしれないですが、アジャイルコーチという仕事は「ヒューマンスキルの集大成」と言えるほどあらゆるスキルが求められ、そして身につく仕事だと考えています。今はまだあまり知られていませんが、この先かなり必要になってくる注目の職種なんです。今後のキャリアを考えている皆さんに、アジャイルコーチという仕事を知ってもらいたいなと思います。
また特にレッドハットは、個人にさまざまな判断を委ねてくれる自由度の高い会社です。その一方で、コンサルティングファームと聞いてよくイメージされるような冷淡さはなく、チームで助け合う精神が根付いています。「温かく、かつ自由な環境でコンサルティング経験を活かしたい」「これまで培ったヒューマンスキルを活かして、日本企業を大きく変革させたい」といった方は、ぜひレッドハットで一緒に働きましょう!