※こちらの記事はセガ エックスディー公式noteより転載しております。
1回目の記事ではサウナブーム発生のメカニズムについて行動経済学を用いて解説しました。
最終回となる本記事ではサウナに熱狂する3つの理由をテーマに、サウナに仕込まれた“熱狂エンジン”について解説したいと思います。
またサウナ×ビジネス活用の事例として、観光領域におけるサウナの活用事例についてもご紹介したいと思います。
サウナに熱狂する3つの理由
Twitterのトレンド調査における2018年から2020年まで3年間の「サウナ」「サ活」(サウナ活動の略称)に関連するツイート数を追ってみました。
「サウナ」のオーガニックツイート数
2018→2019年:107万→118万
2019→2020年:118万→218万
伸び率:3年間で2.03倍
「サ活」のオーガニックツイート数
2018→2019年:710→7,670
2019→2020年:7,670→33,310
伸び率:3年間で46.9倍
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このように加速度的に増えてきていることがわかります。
なぜサウナはここまで盛り上がるのか。
それには3つの熱狂を生む理由(エンジン)があると考えています。
①儀礼的価値としての共通言語
1つはサウナー同士で使うディープな「共通言語」の存在です。
【サウナ用語の一部をご紹介】
・シングル/グルシン:水風呂の温度が9度以下を指す用語。シングルの水風呂を導入しているサウナ施設は非常に少ない。
使用例「グルシンの水風呂はクセになる気持ちよさだ」
・あまみ:休憩中に皮膚表面に赤い斑点が出る現象(ととのいが最高潮に達している時に発現することが多い)。
使用例「バキバキにととのって大量のあまみが出たわ〜」
・セッティング :サウナ室および水風呂の温度/湿度など、環境設定のバランスを指す言葉。サウナにハマると、自身が最もととのう最高のセッティングのサウナを開拓したくなる。
使用例「METOSのストーブで93度発汗セッティング、最高だ」
共通言語とはあるコミュニティにおいて、同じ認識・理解で用いることのできる言葉と定義されています。これは特定のコミュニティにだけ通じるものであり、その言語に関して説明不要であるという点が特徴です。
コミュニティにおける共通言語の必要性について『SHOWROOM』代表の前田裕二氏はこう話します。
ファンじゃないと知らない世界。だけど、それを知っていることで、自分もファンの一員になったと強く自覚することができる共通言語をコミュニティ内でつくり、それを共有することが大事なのです。
『人生の勝算』前田裕二 著
共通言語には全く素性の知らない他人同士が1つのコミュニティを形成するための儀礼的価値としての機能があると考えます。これは新しいサウナーを自然と狂乱の輪の中に取り込む作用としても機能するのです。
②変化を攻略する達成感
筋トレ・ゴルフ・釣り・キャンプなどの趣味と違ってサウナには特別なスキルや練習が不要で、道具に投資する必要もなく人数の制約もありません。
サウナは誰でも手軽に健康な身体さえあればいつでもクイックに体験できる体験ハードルの低さが魅力です。そのうえ温泉や銭湯と違って独特のやりこみ要素があります。
それは「ととのう」という体験が、施設・時間帯・混雑状況・体調など様々な要因によって微妙に変化するからです。
そのため『究極のととのい』を目指して同じ施設に何度も通ったり、全国各地のサウナを巡ったり、果ては自宅にサウナを作る猛者も現れました。
都度変化するダンジョンを攻略してレアアイテムをGETするワクワクのようなローグライクゲーム的価値がサウナにもあると考えます。変化する環境(緊張感)から解放された瞬間に「今日もととのった~!」と達成感を得る。やればやるほどハマってしまうのです。
③プレミアム化による自己優越感
現在“ある問題”によりサウナーの郊外化が加速していると考えます。実はこれが後述する“サウナのプレミアム化”を生んでいます。
その問題とは
首都圏のサウナ激混み問題
首都圏の施設では浴室内にサウナ待ちの行列ができるほど。首都圏のサウナーにとって辟易するような状況が起きています。そこで注目されているのが地方サウナ。
静岡県の「サウナしきじ」はサウナの聖地と呼ばれ、サウナーの間ではあまりにも有名です。水風呂は安倍川水系の天然地下水をぜいたくにもかけ流しで使い、飲むこともできます。天然水の水温は約17度。「ミネラル豊富な軟水で水道水とは違った入り心地になる。やさしく包み込まれるような感覚がある」といいます。
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しかし全国各地の人気サウナは首都圏サウナーにとって、アクセスしづらい場所にあり簡単には手が届かない存在。ここで心理学における「希少性の法則」が働きます。
なかなか手に入らないものに人は価値を感じる心理効果があります。サウナ-にとって人気のサウナに行くことは距離というハードルを超える必要があるため「希少価値の高い特別な体験」となりました。
これにより全国各地のサウナを求めて旅行するサ旅が定着し、サウナに入ることで「優越感」に浸れる付加価値が生まれました。この優越感を利用して様々なアパレルグッズも登場しています。
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※好きなキャラクターを愛でたり応援する「推し」と同じ概念がサウナにも存在。自身の推しサウナ(=ホームサウナ)を持つことがサウナーの最初のステップになる。ちなみに、初めてととのったサウナ施設を|産湯《うぶゆ》といったりする。
ビジネス活用事例:サウナ×観光
サウナの熱狂の仕組みを観光領域で活用する事例が近年増加しています。その取り組みを一部ご紹介したいと思います。
JAL「サ旅」は航空券とサウナ付き宿泊施設を自由に組み合わせられる個人型パッケージツアーです。2021年4月に販売を開始され、好評とのこと。
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サウナ×旅行の相性は凄まじく良いです。ととのった後は五感が敏感になり発汗して喉も渇き、味覚は特に研ぎ澄まされます。そこに冷たいビールと美味しい食事(サウナ飯、通称サ飯)。何を食べても悪魔的に美味しく感じてしまうのです。
極上!サウナめし / alu.jp
発起人はJALグループ社内の「サウナ部」。社内の|衝動《しょうどう》を起点とした新規サービスだったこともサウナーに広く受け入れられ、共感を持たれた要因だと考えます。
また鳥取県はサウナを活用した活性化に乗り出した県のひとつ。
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「アウトドアサウナ」と呼ばれる野外キャンプとテントサウナを組み合わせたイベントが人気です。
地方の天然資源と組み合わせたサウナもまた「特別な体験」として希少性が高く、多くのサウナーを地方に招く決め手となります。
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ほかにも富山市にある創業33年のサウナ施設「スパ・アルプス」は、週末の利用客が以前よりも3割ほど増加。若者を中心に多くの県外客が訪れているそうです。
サウナを軸に、地方の観光資源を組み合わせることで、食・歴史・人・観光地など、点と点であった観光資源が『面』でつながります。ある人は「サウナによって街の解像度が劇的に上がる」と表現していました。
おわりに
サウナに熱狂する3つの理由を解説しました。
①仲良くなれる(儀礼的価値)
多種多様なサウナー独自の共通言語によって、サウナを語りたくなる存在へと昇華させた。サウナが人づてに語られていくことで、コミュニティに人が集まる流れが熱狂を生む
②緊張から解放による達成感(ローグライク的価値)
「次はどんなととのいが待っているのか…」という緊張感から解放された瞬間の達成感にハマる。全国各地のサウナ施設の聖地巡礼(サ旅)など新たな楽しみ方が誕生
③優越感に浸れる(情緒的価値)
首都圏のサウナー人口が爆増したことで需要と供給のバランスが崩壊。人気サウナのプレミアム化により希少価値が上がったことで優越感を感じやすくなる
1人1人のユーザーが次の仕掛け人として新たな熱狂を生むサウナは、コア体験(ととのう)の価値を向上し続けるサイクルに入ったとも言えます。背景にあるのは、大人が真剣に新しい遊び方をアレンジできる“余白”にあるともいえます。サービス開発の現場では“完成した最高の一品”をユーザーに届けたくなります。しかし一歩引いた視点で、ユーザー自身が自分なりの味付けやアレンジができる「ぼくのかんがえたさいきょうの○○」と言えるような余白を与えることも重要ではないでしょうか。
というわけで、全2回に渡りサウナをテーマに記事を書かせて頂きました。
ぜひ皆さんのお仕事に少しでもお役に立てば幸いです。
ありがとうございました!
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