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金沢茶寮 ”漆芸”を再解釈し、金沢塗としてリデザインする。 漆芸作家・松浦悠子インタビュー

体験型アートカフェ、金沢茶寮(https://www.kanazawasaryo.jp/)。「伝統工芸を現代風にアレンジし、新たなアート体験を提供する」というコンセプトのもと、九谷焼作家の吉岡 正義氏と、U.Sの共同事業として2022年3月に立ち上がった。この金沢茶寮で提供されるオリジナルの”金沢塗”を考案したのが、漆芸作家の松浦悠子。自身も漆芸作家として活動する松浦に、作家活動と金沢塗を生み出した背景について聞いた。

漆という素材との出会い。

高校生の頃から、美術の時間が好きでした。大学に入るなら、美術系がいいかなと思っていたのですが、当時は油画や彫刻ではなく、工芸を専攻したいと考えていました。理由は意外と単純で、ものづくりが好きだったから。工芸については、いろいろな定義がありますが、当時の私は「日常生活で活用できるもの」という捉え方をしていました。
日常で使うものを、自分が美しいと思う形で作ることができる。そこに身近な感覚を覚えたからというところが理由だったと思います。とにかく”作る”ということが好きでした。単にこれを続けたかったんですね。

それから、美大受験をして、金沢美術工芸大学工芸科に入学しました。金沢美術工芸大学では、工芸科の中で、工芸にまつわるいろいろな技法を最初に学んで、そこから自分が研究したい専攻を選びます。陶磁、漆・木工、金工、染織などを体験させてもらいました。
ただ、正直にいうと、工芸、そこまで面白くなくて(笑)もちろん、工芸がつまらないというよりは勘違いに気づいたんだと思います。そもそも、工芸を「日常生活で活用できるものを作る」と捉えるところから間違っていたのもありますが、なによりも、用途性のあるものを作り続ける難しさが、楽しさに勝ってしまいました。そして、自分の本当の作りたい感覚と、「日常で利用されるもの」という機能性のようなものを必要とする表現方法は、少し離れているような気がしました。使うものを作り続けるためには、使い手を想像する必要がありましたが、私は自分自身のために作りたいという感覚が強かったんです。それらのことを、勉強してみて初めて理解したんですね。

でも、その中で、すごく興味をひいたのが「漆芸」、もっというと「漆」という素材でした。

漆器。日本人なら一度は見かけたことがある、有名なものですよね。けれど、漆という天然の素材を「何度も何度も塗り重ね、硬化させ、削って磨きあげる」という工程によって、あの艶と色を生み出すことはほとんどの人が知らない気がします。そんな過程が面白かったのと、何よりもこの「漆」という素材に興味を持ち、これを専攻しようと決めました。



”かぶれる”漆と身体の感覚。

漆に興味を持ったのは、その素材によって「肌がかぶれる」から。

私はこの身体感覚に影響をもたらす素材にすごく惹かれたんです。伝統工芸で、古くから使われる器に使われる素材なのに、人間が触れるとかぶれる。身体を侵食する素材なんですよね。そんな危険にも思えるような素材が、現代までずっと使われ続けていることが不思議でした。それが面白くて、そこから、身体と漆、人間と漆というものをテーマにした作品を作ろうと思うようになりました。

自分の身体感覚を、どう表現するかということで、身体の石膏型を用いた乾漆技法と、独自の変わり塗りによって作品を制作しています。自分の体そのもので、型をとったり、自分の伸ばした髪の毛と漆を組み合わせた作品を作ってみたり。自分の感覚をそのまま作品に投影しています。

用途性や伝統、また、素材のもつ特有の質感を無視しているという点で、わたしは、だいぶ、工芸の枠組み、漆芸作家の枠組みを外れてしまっているなと思います。けれど、そういったところを面白いと思ってくださる方がいたのは、ありがたいと思っています。金沢だけではなく、東京やパリで個展の機会もいただいて、これからも、自分の作家としての幅を広げていきたいと思っています。



漆芸作家が生み出した、伝統文化のリデザイン”金沢塗”

今回、金沢茶寮という新しい場所を生み出すにあたって、吉岡先生からお声がけいただきました。コンセプトとして、新しくアートや伝統工芸に触れる機会を増やすというテーマをもらい、どんな体験にすればいいか考えました。

いち作家として、アートって、言葉にできない感覚を、視覚的に物体として表現することだと感じていて。私はそれを常に考えているからこそ、自ずと作品になるのですが、その表現するという行為を、誰もができるようにするにはどうしたらいいんだろうと必死に考えました。そんな試行錯誤の末に、みなさんの議論の中で、生まれたのが金沢茶寮オリジナルの”金沢塗”です。
漆塗り自体は、塗りと硬化を繰り返し、削るという工程から成り立ちます。金沢茶寮の”金沢塗”は、この伝統的な塗りの過程自体はそのまま踏襲して、塗る素材や色にバリエーションを持たせることで「言葉にできない感覚を表現しやすくする」ことにチャレンジしています。

色って、不思議なもので、自分の感覚や感性を無意識に反映するんですよね。だから、その色を1つ1つ選んでもらうこと自体も楽しんでもらいたかった。うまくやろうとか、バランスがいい色にしよう、とか理論的なことよりも、自分の気持ちとか感覚を赴くままに表現してもらうのを、アート体験にしたいなと思いました。
ただ色を並べるだけではなくて、20種類以上ある色に、私は名前をつけて置いてみることにしました。例えば、黄色は「希望」。金色は「絢爛」。赤色は「灼熱」。白は「まどろみ」。エメラルドグリーンは「幻の海」。ラメの入った青色は「バカンス」のように。視覚的に好きな色を選んでもいいし、言葉から選んでもいい。「自分の感覚を研ぎ澄ませて、自分の内面を見つめて、目の前に表現する」ということがアートだと思うから、私は、訪れたみなさん全員がそれを体験できるよう、その手助けをしたいなと思ったんです。

自分で選んだ色を、塗って、削って。それで世界に1つだけのオリジナルな器ができていく。この過程を2時間で体験してもらい、アートって楽しくて自由なものだと感じてもらえる瞬間が増えたら、私も芸術に関わるひとりとして、とても、嬉しいなと思っています。


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