現在、room705のプロダクトは12点。
金沢茶寮でも提供している「shu ha ri」は、room705立ち上げ後、架空のホテルの一室で振る舞われるウェルカムドリンクをイメージし、誕生しました。シングルオリジンが流行りの昨今、あえて古典的なブレンド製法でつくりあげ、これまでにない日本茶として注目されています。
今回の記事では、shu ha riのブレンドを担当した「茶通仙 多田製茶」の7代目、多田雅典氏とブランドオーナーのU.S Inc. CCO 朝本ブランドディレクターの朝本に開発の背景を聞きました。
Made in Japanへのこだわり
- room705のプロダクトは全てmade in Japanにこだわっていますね。
ウェルカムドリンクもアルコールやコーヒーではなく、日本茶にした理由は?
朝本康嵩(以下、朝本)
『理由は2つあります。まずわたしたちU.S Inc.は“原石を磨く”というミッションを掲げ、日本生まれのプロダクトを世界に広めていきたいという想いがあります。もう一つは、room705のコンセプトは架空のホテル。まだ実在しないホテルだからこそ、世の中に無いものを作りたいと考えました。検討を進めていく中で、日本茶が候補にあがりました。
日本茶といえば、静岡や京都、福岡が有名な産地のイメージですが、大阪に拠点を構える多田製茶さんにお声かけしました。多田さん、大阪で茶業って意外なイメージを持たれませんか?』
多田雅典(以下、多田)
「そうですね。大阪には、茶畑がないんです。古い歴史を辿れば、茶畑があった時代もあるんですが、高度経済成長期には、大阪は経済の発展とともに、茶畑をとじて、住宅を建てるようになった。それで茶畑がなくなってしまったんですよね。
弊社は明治初期からあるので、そのときは茶畑を持っていたし、茶を栽培して製造するための研究所も持っていました。けれど時代の流れで、“製茶”、つまり問屋に特化することになったんです。
流通している日本茶の形になるまでには、複数の工程があります。まず、生の茶葉を蒸したり、揉んだり、乾燥させたりして「荒茶」という状態にするまでが第一段階。そこからこの「荒茶」を選別、火入れ、合組(ブレンド)するまでが第二段階。この後半を行うのがわたしたち「製茶」屋の仕事です。 」
朝本:
『なるほど。最近は、単一茶葉のシングルオリジンを楽しむものも増えてきましたが、一般的に流通している日本茶や、昔から親しまれている日本茶の飲み方の大半は合組(ブレンド)だと聞きます。味は「製茶」の過程によって左右されるということですね。」
多田:
「そうです。ほとんどの製茶問屋さんは、その地域、土地の荒茶を扱いますので種類は限られます。しかし、我々多田製茶が扱うのは全国の茶葉で、その種類は200を超えます。正直これらを扱うのはめちゃくちゃ大変。笑
でも、茶畑がない大阪だからこそ、全国のいい荒茶を取り扱うことができるんだ、とも思っていて。これまでにない組み合わせを提供できるのが、うちの強みだと思います。」
shu ha ri 開発背景
ー開発はどのような形で進めていったのでしょうか。
朝本:
『私たちはコンセプトだけ持ち込みました。シーンによって飲み分けられるように、3つのコンセプトを考えていて。
1つ目は、ホテルにチェックインした時、日常から非日常へと気持ちが切り替わる瞬間に飲んでいただくもの。2つ目は、寝る前にリラックスしながらベッドやソファでゆっくりと読書とともに飲むもの。3つ目は、太陽の光を浴びながら目が覚めた時の一杯。』
多田:
『打ち合わせの時、開口一番「コンセプトは宇宙です」と言われましたね。』
朝本:
『そうでしたっけ?笑ウェルカムドリンクの前に開発したプロダクトが、無重力をテーマにした“mujuu”というルームミストなんです。ホテルでリラックスした状態、つまり宙に浮いたような力が抜けてふわふわしている状態なのではと。ウェルカムドリンクでも、五感を刺激した先に宇宙とか無重力のような状態を作りたいなって。でも宇宙にたどり着くには、大気圏を超えないといけないし、越えた先にはなんというか生命の始まりを感じるというか…』
多田:
『打ち合わせで出てたワードは、大気圏を越えるほどの衝撃、いのちの始まりを感じる衝撃。最後は、野生を呼び覚ます衝撃でした。通常、ブレンドでは目指す味、香り、色などがあって、それにむけて様々な産地の茶を織り交ぜていく。つまり、これは具体的な「ほしい日本茶」を更に茶葉に分解していく作業です。
一方、今回のお題は「イメージ」「シーン」という抽象的なお題から、日本茶をつくること。
そもそも、抽象的なお題から合組を作るという依頼は初めてで、非常に面白いなと感じました。ブランドコンセプトやroom705のターゲットなどを聞きながら、1人になれる時間、自分と向き合う時間とはなにか、を考えることから始めました。
それは、日常を忙しく生きる大人が、お茶を飲みながらある種の瞑想状態や自分の内側への探求をする時間を提供することではないかと。
もともと、日本茶は戦国武将が戦の前に飲む高級品だったこともあって、戦という生と死の境に飛び込む前に、きっと自分と向き合う大切な時間を、日本茶とともに過ごしたんだと思います。自分の中に無限に広がる時間や空間、静かで音のない世界での永遠の旅。それをイメージして、生命の誕生や自然そのものを感じるブレンドを生み出していくことにしました。』
朝本:
『実際にわたしたちが飲んだのは30パターンでしたが、打ち合わせの時からすでに組み合わせる茶葉は決まっていたとおっしゃってましたよね。それは、全国から選りすぐりの大量の茶葉がある多田製茶だからこそでしょうか。』
多田:
『はい、自社で取り扱う茶葉の特徴は全て頭に入っていましたから、300種くらい試しながらあとは茶葉量の比率や抽出時間や温度をどうしていくのがいいか、確認作業をしていきました。
20代後半の時に金谷茶業試験場という、お茶の研究所で修行を始めたんですがそこにはお茶を科学する人たちがたくさんいました。いままで味をニュアンスでしか捉えていないものを、数値化したり言語化したりすることが多かったんですね。結構、それが刺激的で。そのおかげもあると思います。30パータン試飲してみて、どう感じましたか?』
朝本:
『流石に30パターン全ての違いを理解するのは難しかったです。ただ、茶葉それぞれにしっかりとした香りの特徴があったり、抽出時間や抽出温度でこんなにも味の変化があるんだと驚きましたね。急須のサイズや注ぐ際の手首の返し方ひとつで味に変化が生まれる。シンプルなものほど、扱いが難しいというか上品な繊細さがあると思いました。』
なぜ“shu ha ri”なのか?
ーroom705のプロダクトは特徴的な名前がついています。
このウェルカムドリンクはなぜ“shu ha ri”になったのでしょうか。
朝本:
『茶道でいう守破離の考え方は、守は基本を忠実に守り、身につける段階。破は基本をベースにアレンジを加えていく。離は基本から離れ自分の型ができ新たな流派が生まれる状態を指します。完成した3種類それぞれが、守・破・離ではなく、つくりあげたプロセスが守・破・離の三段階になっていると思います。創業160年以上続く多田製茶が作ることが守。そこに、U.S Inc.が加わることで、基本を守りながらもアレンジを加えていくことになる。完成したのは、コンセプトやシーンからイメージして生み出された新しい商品です。』
多田:
「shu ha riの3つのお茶は、内なる宇宙というテーマで自分と向き合う感覚が表現されています。一、目覚め。二、瞑想。三、覚醒。
その3つは、全く異なる味わい、香りがします。一は旨味が強く、二は香りから豊かな自然を感じる。三は、濃厚で複雑な味と強烈なカフェインを感じます。想像力やイメージという右脳で着想しながらも、それを構造的に分解し実現させていく。これは、アートとサイエンスが入り混じった作品と言えますね』
■Creator Profile
茶通仙 多田製茶
大阪に160年以上続く製茶問屋。消費地にある製茶問屋として、全国の生産者から荒茶を仕入れ、自社工場で仕上げ・火入れ加工を行う。「お茶本来の風味を活かした浅い火入れ」と「商品バリエーションの豊かさ」が特徴。
〒573-0163 大阪府枚方市長尾元町1-40-1
TEL:072-857-6056
Web:https://www.tsusen.net/
■shu ha ri
“shu ha ri” は、日本の芸事の思想のベースである守破離の考え方で生まれた型破りな日本茶。日本古来の製法である茶葉のブレンド製法を用い、飲んだときに感情を刺激されるような、個性的な味の日本茶を開発。お茶は一、二、三の3種類。あなたの気分で選んで、お楽しみください。
room705 BRANDSITE:https://room705.jp
room705 ONLINE SHOP:https://room705.store